http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201610/CK2016102502000132.htmlより転載
<核ごみの後始末 日仏のギャップ>(上) 最終処分場、1億6500万年前の粘土層に
政府は、廃炉方針を打ち出した高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)に代わり、フランスと高速炉を共同開発することで、核燃料サイクルを維持しようとする。両国ともエネルギー資源に乏しく、使用済み核燃料を再処理する方針は共通する。だが、十月中旬に参加した日本記者クラブのフランス取材団で痛感したのは、地震など自然リスクの大きさや、安全性に対する哲学に、日本とは大きなギャップがあることだった。三回に分けてリポートする。 (山川剛史、写真も)
原発を有するどの国も、十万年は人間から隔離する必要がある高レベル放射性廃棄物が悩みの種。その最終処分場といえば、フィンランド西岸のオルキルオト島に建設中の「オンカロ」が有名だ。実はフランスも、パリ東部約二百三十キロの穀倉地帯で処分場建設のめどをつけつつある。早ければ二〇一八年には処分場の設置許可申請、二〇年には建設が始まる見通しだ。
見渡す限りの農地が広がるムーズ県ビュール村。九十人ほどが暮らす。国内で出る放射性廃棄物の管理・処分を担うANDRA(放射性廃棄物管理機構)の地下研究所がある。
研究所は候補地の一角にあり、地下は四百二十メートルの石灰岩層の下に、厚さ百五十メートルの粘土層、その下は再び石灰岩層という構造。高レベル廃棄物を処分する場所とされるのは、真ん中の粘土層。一億六千五百万年前にできた。
「粘土層は水を通さず、放射性物質が漏れ出るリスクが極めて小さい。粘土層は(英国との境の)ドーバー海峡付近まで広がっているが、地震や火山の心配がなく地盤が安定し、粘土層が厚いことを考え、この地を選んだ。研究所の設置には、二十八地域から応募があった」。ANDRA国際部長のジェラルド・ウズニアンが語った。
研究施設は地下約五百メートルの粘土層をくりぬく形で広がる。作業用エレベーターで立て坑を降りること五分。現場に着いた。
外気を循環させているため、気温は地上と同じく十五度ほど。降りてすぐ感じたのは、空気が乾いていることだった。トンネルの壁も地面もからからに乾いていた。
日本にも北海道幌延(ほろのべ)町と岐阜県瑞浪(みずなみ)市に似た研究所があるが、どちらもポンプが二日間止まれば水没するほど水が出る。これほど状況が違うとは想像していなかった。
日本では、地盤が古いといってもせいぜい幌延町の七千万年前。フランスやスイスは二倍以上古い。フィンランドのオンカロは十九億年も前にできた岩盤だ。安定度が違う。
そのギャップを縮めようと、日本では廃棄物が入った容器の周りを人工粘土で固め、乗り切ろうとする。ただ、各国ともいかに水を近づけないようにするか知恵を絞っている。水の問題が解消されても、地盤が超長期にわたり安定しているかどうかの問題が残る。
果たして日本に全ての問題をクリアする地が見つかるのか。ウズニアンに問うと、「可能性はある。断層の間にも、動かない場所はあるはず。諦めないことだ」と慰められた。 (敬称略)