※ファシズムはさほど遠くない。いまがファシズムの前夜であるなら、まだ間に合う。ファシズムの朝がきて、先行服従が起きると、もう引き返せない。そう歴史がおしえてくれる。
「暴政について──20世紀に学ぶ20のレッスン」
レッスン1「事前服従はしてはならない」を応用する
2018.5.29 Anno Kazuki
この国にはまだヒットラーはまだ現れていない。だが、嘘に嘘を塗り重ねることを基本方針とする総理大臣ならいる。選挙に勝利し、体制変革を図る共産党はまだない。でも、労働者の奴隷化をすすめる財界ならすでにある。
訳本では、obedience in advance, anticipatory obedience を「忖度」と訳したようだ。流行のことばだからつかいたくなったのかもしれない。しかし、財務省が虚偽を報告し、隠蔽し改竄したのは総理をたすけるためばかりではなく、省をまもるためでもあった。財務省と総理は共犯関係にある。
そして、1938年の3月にオーストリアで起きたことは忖度と表現できるような生やさしいものではなかった。
ナチスと共謀するオーストリア国家社会主義者らが権力を奪い、街のいたるところに鍵十字の紋章が飾られた。通りではユダヤ人の男女が暴行を受けた。
ユダヤ人の家や商店が襲撃され、略奪された。どのデパートもユダヤ人の従業員をすべて解雇したうえで、「アーリア人化しました」と新聞広告を出した。そして、ユダヤ人に対する暴行と侮辱が日常的にくりかえされるようになる。
アイヒマンがウィーンに設けたユダヤ人移民中央事務局はユダヤ人を国外へ追放する部局であり、生きて国を出られる代償は全財産の没収だった。しかも、法外な為替レートで外貨を買うように強制し、残された現金も奪った。つまり、ユダヤ人の追放から経済的利益を得る仕組みだった。これが虐殺収容所へとつづく。強制収容所は奴隷労働を求める企業がなければ成り立たない。
この国では、少数派や異国人や障碍者に対する集団的な襲撃や略奪はまだ起きていない。だが、鶴橋や新大久保で在日コリアンに対するヘイトデモがあり、女子中学生が「大虐殺しますよ」と脅迫したことならある。障碍者が無差別に大量虐殺されたこともある。
ファシズムはさほど遠くない。いまがファシズムの前夜であるなら、まだ間に合う。ファシズムの朝がきて、先行服従が起きると、もう引き返せない。そう歴史がおしえてくれる。
事前服従はしてはならない。ティモシー・スナイダー教授は第一のレッスンがもっとも大切だという。これが守られなければ、他の19のレッスンは意味をなさないからだ。
事前服従をしないために、わたしたちには日日できることがある。事前服従とは、新しい状況に、なにも熟慮しないまま、本能的に適応しようとすることだった。わたしたちはつねに新しい状況に出逢う。家庭で、地域社会で、職場で、学校で。熟慮して、行動しよう。新しい権威もあらわれる。盲従してはならない。熟慮して、判断しよう。権威に服従などしない。
自衛隊にも新しい状況ができているので、その状況に順応した幹部の三佐が国会議員を国会ちかくの路上で「国民の敵」とののしった。そのとき三佐はひとりだった。
つぎは30人の三佐が国会の前に立ち並ぶかもしれない。