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堤未果さんインタビュー:日本社会にも忍び寄る「ファシズムの甘い香り」 〔毎日新聞2016.7.19〕

2016-07-20 12:48:04 | ネトウヨ、右翼、国家主義

 

堤未果さんインタビュー

(2)日本社会にも忍び寄る「ファシズムの甘い香り」

 
ジャーナリストの堤未果さん=東京都渋谷区で竹内幹撮影
 

5日連続集中連載

 国際ジャーナリスト、堤未果さんのロングインタビュー2回目は、国家と市民の関係性を中心に考えます。2001年9月11日、米ニューヨークで同時多発テロ事件に遭遇した堤さんは、一夜にして変容した米国社会に驚き、米国政府の推進する「テロとの戦い」に乗じた監視強化の姿勢に疑問を抱きました。同じような動きは、今の日本社会にも見え始めていると言います。【聞き手・中澤雄大/デジタル報道センター】

 

今だけ、カネだけ、自分だけ

 −−堤さんは、「強欲資本主義」に支配された米国社会が日本など他国にまで投資先を求めてきている現状に対し、「今だけ、カネだけ、自分だけでいいんですか」と繰り返し、警鐘を鳴らしていますね。

 
ジャーナリストの堤未果さん=竹内幹撮影

 今回、「政府はもう嘘をつけない」の執筆にあたって、つくづく思ったのは、人間がやることのモチベーションの元は全部、欲だということです。損得なんですね。一つの国家が全部、欲にのまれちゃったのが米国なんです。そうした国が今、ギリシャや韓国、日本にも触手を伸ばしていると……。米国の「陰謀」でも何でもなくて、人間の欲、資本主義がどんどん進化し、寡占化して新自由主義になって、ものすごく格差ができた。そうした時に、あるポイントを超えてしまったんですね。

 ここで食い止めるか、それとも「今だけ、カネだけ、自分だけ」の方へ、さらに突き進んで滅びるか、というところに来ていると思います。今世界で起きていることって、全部これにつながることなんですね。これをタイトルにしようか、と思ったぐらいです。以前、東大大学院の鈴木宣弘教授の口から初めて聞いた時、「どんぴしゃですね」と。何と見事に表現しているのだろうと思いました。そしたら元自衛官(池田整治元自衛隊陸将補)の言葉だと感心しました。すべて当てはまるんですね、まさにイグザクトリー・ワード(その通り)です。

 <9・11後の米国−−「テロを防止し、街の治安と秩序を守るためだと言って愛国者法が導入され、国民の電話やメール、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は警察に見られ放題になった。反政府デモや集会で大量の逮捕者が出るようになり、ジャーナリストの逮捕者数は史上最大になった」(米国自由人権協会 スティーブン・バリシュ氏)>

 −−本書第2章のタイトルは、「日本に忍びよる『ファシズムの甘い香り』」と刺激的な文言がならびました。その文脈から「『非常事態宣言』で、政府は巨大な権力を手に入れる」と指摘したうえで、9・11当時のブッシュ米大統領が「国家安全保障上の緊急事態」を宣言、スピード可決させた「愛国者法」に言及しています。

 
熊本県での地震を受けて首相官邸で会見する菅義偉官房長官。緊急時に政府の権限を拡大する「緊急事態条項」を憲法に加えて創設する必要性に言及し、波紋を呼んだ=東京都千代田区で2016年4月、猪飼健史撮影
 

 敵がテロリストの場合、国家間で停戦合意をするなどの明確な線引きがないんです。政府は「テロ撲滅」を錦の御旗(みはた)に、いつまでも戦争を続けることが可能になります。そうなると、ウォール街と軍需関連産業は、半永久的に利益をもたらす「打ち出の小づち」を手に入れることになる。同時にテロと戦う政府にも「別の恩恵」があるんですね。米国では、ブッシュ、オバマ両政権下で急速に大統領権限の拡大や情報の一元化、国民監視体制が進みました。「愛国者法」以外にも、「サイバー監視法」「国防授権法」「食品安全近代化法」が次々に可決されていったのです。

 −−米国に限らず、フランスでも15年1月のシャルリーエブド事件を受けた「非常事態宣言」で、一定期間警察権限などを強化したことにも言及されています。仏国内では、テロ対策としてインターネットのプロバイダーに強要できる新たなデジタル監視権限拡大法案が出されて、国民の猛反発が起きたそうですね。

 そうした声は届かず、法案は上下院をあっさりと通過してしまいましたね。

 <自民党憲法草案99条第1項 「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定められるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定できるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」>

 
自民党憲法改正推進本部での改正草案取りまとめを終え、記者会見する谷垣禎一総裁(当時)。中でも98条と99条にある「緊急事態条項」は、首相に権限が集中しているとして、憲法学者らから多くの問題点が指摘された=東京都千代田区の同党本部で2012年4月27日、藤井太郎撮影

 −−日本でも今年4月の熊本地震を受けて、菅義偉官房長官が、緊急時に政府の権限を拡大する「緊急事態条項」を憲法に加えて創設する必要性に言及しました。

 「緊急事態条項」が、あんまり国民にピンときていないようですね。憲法学者の樋口陽一東大名誉教授らがいろいろな場で問題性を指摘されましたが、ちょっと一般の人には難しいんだと思う。

 自民党の作成した憲法草案第9章、98条と99条にある「緊急事態条項」は何度も読みましたけれど、議会を介さずに通せる米大統領の「エグゼクティブ・オーダー」よりもある意味で、総理大臣に権限が集中している。予算や法律まで一人で作る立法権です。極端に言えば、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と同じぐらい、自分の言ったことができるんですね。下手をしても、解散しなくてもいいじゃないですか、ずっと緊急事態条項で。要するに、緊急事態宣言を出せる権限を得た与党は、フリーハンドになる。さっき「恩恵」と言いましたけど、監視体制もセット、言論統制もセットになる。あまりに「今だけ、カネだけ」政策をやり過ぎて、民衆がもう耐えきれない状態になって、暴動を起こした時に、すぐ止められますね。すぐ逮捕できる。こんなふうに使えます。結構“使い勝手”がいいのです。あまりにオールマイティーなものなので危ないです。

大事な問題は“静か”に進む

 −−こういう大事な問題は、災害やテロ、戦争、クーデターなどが起きて国民がぼうぜん自失状態にある時に“静か”に進むそうですね。

 そうですね、「ショック・ドクトリン(惨事便乗型政策転換)」とよく呼ばれますけれど、この「緊急事態条項」って、自然災害が含まれていることがすごく問題なんです。日本は自然災害大国ですからね。そのたびに、移動の自由、財産の自由とか全部抑えこまれたら、もう“全体主義国家”になれますから。

 −−既に日本には、五つの災害対策基本法があるにもかかわらず、「緊急事態条項」に「自然災害」を含めるのはいかがなものか、と批判されている。

 国民がなめられている、と思いましたね。災害対策基本法があって、必要もないはずなのに「必要ある」と言い張る。国民はどうせ分からないと思っている感じがする。

 
2015年夏、安保法制に反対し、国会前で大勢の国民が声を上げた。堤さんは「国民がすぐに反応する内容の法案は、“目くらまし”である可能性がある。気づかれないように地味に埋め込まれた法案こそ注意しなければ」と言う=東京都千代田区で2015年7月17日、小川昌宏撮影

 −−国民がすぐに反応する内容の法案は、修正可能な余地を残している「目くらまし」である可能性がある。むしろ気づかれないように地味に埋め込まれた法案に注意しなければ、との指摘に膝を打ちました。

 そうなんです。米国でも、すぐ食いついてワアーッとなる同性愛者の話や、妊娠中絶の件とかをニュースに出して、失言なんかを引き出して炎上させるんですね。その間に、遺伝子組み換えの健康被害が出ても、政府は規制できないといった法律をシュッと通してしまうとか。舛添(要一・前東京都知事の政治資金)問題とかで世論が一色に染まっている時、その間に何が起きているかを考える方が怖い。1冊目の「政府は必ず嘘をつく」では、出されている法案の怖さを書いたんですけど、今回は、表立って出てこない法律がいかに怖いか、というコントラストを描きました。=つづく(次回20日掲載)


つつみ・みか 国際ジャーナリスト。東京生まれ。米ニューヨーク市立大大学院で修士号取得(国際関係論)。国連、アムネスティ・インターナショナル ニューヨーク支局員、米国野村証券を経て現職。「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞、「ルポ貧困大国アメリカ」(3部作、岩波新書)で日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞受賞。「政府は必ず嘘をつく」(角川新書)で早稲田大学理事長賞受賞。近著に「沈みゆく大国アメリカ」(2部作、集英社新書)など。父はジャーナリストの故ばばこういち氏、夫は川田龍平参院議員。

 

 

 

 


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