http://mainichi.jp/select/news/20141103k0000m040048000c.htmlより転載
村上春樹さん:楽観を目指す姿勢「若者に伝えたい」
毎日新聞 2014年11月02日 21時58分(最終更新 11月03日 03時42分)
作家、村上春樹さん(65)が東京都内で本紙の単独インタビューに応じ、国際的な評価や最新作について語った。本紙の取材に応えるのは2009年以来、5年ぶり。
デビューから35年を迎えた今年、自作が初めて米紙でベストセラー1位になった。1990年代初め、米国へ渡り独力で読者を開拓した苦労に触れ、「だんだん実績を積み重ねてきた」と振り返った。
村上さんは60年代後半に大学紛争を経験した世代に当たる。当時あった理想主義を今の若い人々へ、フィクションを通し「新しい形に変換して引き渡していく」重要さに言及。「ある程度、人は楽観的になろうという姿勢を持たなくてはいけない」と自身の考えを述べ、先行きを悲観しがちな「若い世代に向けても小説を書きたい」と話した。
また、来年で70年となる「戦後」に関連し、慎重な表現ながらも、戦争と原発事故に共通する日本の問題として「自己責任の回避」を指摘した。【大井浩一】
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◇日本の問題は責任回避 ●終戦も原発事故も
−−来年は戦後70年。作中で近代日本の戦争を描くこともあった作家は何を思うか。
直接的な意見を述べるとステートメント(声明)になってしまいます。小説家はステートメントを出すのではなくて、フィクションという形に思いを昇華させ、立ち上げていくものだと思います。ただ、僕は日本の抱える問題に、共通して「自己責任の回避」があると感じます。45年の終戦に関しても2011年の福島第1原発事故に関しても、誰も本当には責任を取っていない。そういう気がするんです。
例えば、終戦後は結局、誰も悪くないということになってしまった。悪かったのは軍閥で、天皇もいいように利用され、国民もみんなだまされて、ひどい目に遭ったと。犠牲者に、被害者になってしまっています。それでは中国の人も、韓国・朝鮮の人も怒りますよね。日本人には自分たちが加害者でもあったという発想が基本的に希薄だし、その傾向はますます強くなっているように思います。
原発の問題にしても、誰が加害者であるかということが真剣には追及されていない。もちろん加害者と被害者が入り乱れているということはあるんだけど、このままでいけば「地震と津波が最大の加害者で、あとはみんな被害者だった」みたいなことで収まってしまいかねない。戦争の時と同じように。それが一番心配なことです。