【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

野田内閣への各党代表質問がおもしろくなかったのはなぜか?

2011年09月19日 12時47分07秒 | 第178臨時国会(2011年9月)野田内閣

[画像]答弁に立つ中川正春・文部科学大臣、2011年9月16日、参院本会議。

 9月13日(火)召集の第178臨時国会は、野田佳彦首相の所信表明演説に対する各党代表質問が行われました。このほかの審議としては、衆参本会議で、入閣により欠けたり、横滑りなどのために辞表を出して空席となった委員長ポストの補充の選挙(全会一致により議長が指名)が行われました。特別委員長は委員会を開き、委員の互選で委員長を選びました。このほかは、災害対策特別委員会が開かれたほか、QT(党首討論)をやる衆参の国会基本政策委員会が理事を交代する手続きをしました。法案の審議はありませんでした。なお、「3党合意を白紙にする」という発言をした海江田万里(氏)があろうことか、衆・財務金融委員長になったのは、民主党国対の相変わらずの危機管理意識の低さにあぜんとします。3党合意に関係してくる、財金、厚労、文科、国交、農水の5つの委員会では、「海江田委員長」はあり得ないと考えます。

 さて質問通告日をおかずに、所信表明から各党代表質問まで4日間に圧縮して行いましたが、それによるトラブルは特段なかったように思えます。もちろん野田首相の答弁が安全運転だったこともあります。今回の異例の日程で初めて気付きましたが、衆院と違って、参院はいずれにしろ、1日以上空くわけですから、参院からみれば質問通告日はあまり関係ない。この辺が、与党第1党幹事長に初めて参議院議員の輿石東さんが就き、野党・参院自民党も含めて参議院が力を持つ時代になっていることの象徴の一つだといえるかもしれません。

 見出しにつけたように、私はこれほど各党代表質問を「つまらなかった」と感じたのは初めてです。それは「新味がない」ということです。新聞記者時代の“見出しが立たない話”という意味合いでつまらなかったという面もありますが、同じように感じた方も多かったと考えます。

 衆・自民党は2年前の秋の臨時国会(173)での鳩山由紀夫首相に対して谷垣禎一総裁・シャドウ首相と当選3回・40歳代(2年前は西村康稔(にしむら・やすとし)さん=兵庫8区、今回は古川禎久(ふるかわ・よしひさ)さん=宮崎3区)を起用しました。新首相の所信表明に対しては、総裁を立てないといけないということがあるのでしょう。2年前の西村さんは、翌日のラジオ・テレビで「緊張してガチガチでしたねえ」とずいぶん話題になりましたが、今回の古川さんもガチガチでしたが、そのことが話題になることはなかったようです。これは自民党がNHK中継入りの本会議に「ガチガチ」の若手を演壇に上げても、違和感を感じない、野党らしさ(当ブログにおいては良い意味合いの言葉)が出てきたからだと思います。自民党は政権交代に近づいています。2年前は、西村さんの「あの過酷な夏(第45回衆院選)の悔しさをバネに責任ある野党として自民党の再生を図っていきます」というシメの言葉に、私の半生をかけた政権交代ある二大政党デモクラシーが到来したんだ、と一般傍聴席で身震いしました。その後、多くの方が「事業仕分け」「日航倒産」「原発爆発」などで政権交代ある政治の必要性を理解していただいたと自負しております。ただ、今回の古川さんはタカ派色が強かったですね。政権交代に向けた自民党による民主党との差別化ということでしょうが、多少行きすぎている気がします。政権交代後に日本外交にさざ波が立たないかと懸念します。また古川さんが演説したような国家ビジョンのことを、最近の自民党は「保守」と呼んでいます。わが国では保守合同以来の半世紀、「保守」とは革新の対義語で、「自由主義」を意味し、「共産・社会主義」を敵対する機能を持った言葉だったと認識しています。ですからわが国において、「保守」とは「自由主義・反共」であって、言ってみれば、「自民党は日本を守ります」という当たり前の意味です。自民党お得意の言葉のマジックではなく、なにか言い換え語を見つけてくれることを希望したいと考えます。今月末には新しいシャドウ・キャビネットも誕生します。

 衆参とも自民党の質問は、すべて総理に答弁を求めており、再質問、再々質問がありませんでした。これは自民党が質問に立った時点では「4日間で閉会」ということになっていましたから、わざと「一問一答の退屈な質問」を演出したのだと考えます。所信表明演説原稿と違って、質問はその場のアドリブでやってもいいわけで、幹事長の石原伸晃さんが各大臣に質問させ、再質問で、嫌みたっぷりにやれば、再答弁はかなり苦しいものになったかもしれません。このほか、民主党の輿石さんが3党合意に反するようなことを言うハプニングを野田首相(民主党代表)が答弁で修正したり、公明党の井上義久幹事長が衆院では東北復興を中心に質問しながら、山口那津男代表が和歌山・奈良など紀伊半島豪雨の現地視察にもとづく質問・提案を主題にするなどの「各党らしさ」を見せる場面がありました。

 さて表題の各党代表質問がつまらなかった最大の理由は、やはり「野田内閣はあくまでも菅内閣の後継政権だ」という、いったん忘れかけていた事実に戻らざるを得ません。社会保障と税の一体改革、復興債の償還財源などすべては菅内閣の踏襲です。野田さんが野党時代から練ってきた「内閣府宇宙庁創設で日本の中小企業の技術力を底上げする」という趣旨の構想は、所信表明にはありましたが、各党代表質問では突っ込んでもらえませんでした。

 また、野田経済理論の「分厚い中間層の復活」ですが、これはよく聞くとおかしい。私は野田さんは経済オンチだと考えています。この「分厚い中間層の復活」ですが、日本社会(経済)の特徴であった「1億総中流」から小泉構造改革に前後して、ワーキングプアなど低所得層に転落してしまった人に向けたメッセージだと考えられます、現在高所得層に向かって「中間層になれ」と言うとは考えられないからです。しかし、消費税の重税感は低所得層の方が強いわけです。安定した年金、子ども手当などの現金の直接投入で、低所得層を中間層に引き上げるわけですが、その財源は消費増税というのが、税と社会保障の一体改革です。しかし、ミクロとしては、「分厚い中間層の復活」=「低所得層を中間層に戻す、引き上げる」ために、消費税を増税するというのは矛盾した財政・経済理論です。ちなみに、野田さんは、代表選(両院議員総会)の演説ではこれを「中産階級」と言い間違えていました。階層間の移動については、世界どこの国でも課題となっています。階層間の移動のある社会・経済にしなければいけません。ただ、低所得層が起業して高所得層になるということは、必ずしも難しいことでなく、例えば、地域においてオンリーワンの介護に関する会社を立ち上げれば、とくに目新しい技術を打ち出さなくても、制度融資を活用して、社長は一気に高所得層になることは、わが国ではさほど難しくありません。低所得層から高所得層になるような人材は全員が海外に流出してしまう、というようなことはありません。ただ、経済発展の理論から言って、中間層が壊れて、低所得層になったものをどうやって中間層に戻すのか? その財政理論は分からなくもないですが、成長(経済)理論は分からない。そうなると、菅直人さんが首相就任直後に「第3の道」という“遅れてきたケインジアン”小野善康さんの理論を振りかざして、参院選に負けるとヒトコトも言わなったのを思い出します。「分厚い中間層の復活」と「第3の道」は似ている面があるように感じられます。

 総理の答弁は多岐にわたるので、誰が書いているかというのはまったく問題ではなく、それをいかにして「政治家・野田佳彦」としてもっともらしく言えるかが、「代議士」であり、その頂点である総理です。ただ、早くもちょっと分かっていないのかなあという面が出てきました。これはいまさらどうにもなりません。ただ、経済失政で政権を追われた首相はいますが、経済オンチで政権を追われた首相はいないように思いますので大丈夫だと思います。いずれにしろ、社会保障と税の一体改革は待ったなし、次期通常国会に法案を提出し、審議すべきです。ただ、復興基本法に基づく復興債の償還財源に関する議論を新聞や政府外議員が「復興増税」と表現することや、第3次補正の財源確保の議論がごっちゃごちゃになっていることを危惧しています。民主党はいつもこうです。資料を読む前に、流れを読んで欲しい。それと、「民主党には綱領がある」との初めての解釈に気付いたのが誰なのか? 民主党関係者ならいいのですが、ひょっとした財務事務官がホームページを見ていて気付いた、なんてこともあるかもしれません。知りたいところですが、正直、こういうのは取材してもかなり真実は見えてきません。

 で、野田内閣が菅内閣の後継政権だという当たり前の現実に気付いたときに、なんで菅内閣は総辞職しなければいけなかったのか、いまだに納得できません。「政治は不条理なもの」。それは私は十分に分かっているつもりです。しかし、2月17日の会派離脱騒動による日本国憲法59条の3分の2ルールの空文化、6月1日の内閣不信任案提出時に小沢グループ71議員が集まってしまったこと、6月2日の代議士会をNHKが生中継した、おそらく民主党結党以来代議会がテレビ生中継になったのはあれが初めてでしょうが、代議士会や本会議をすべてNHKが生中継したこと。6月2日夕方の記者会見で菅さんが調子に乗ってはしゃいだ振る舞いを見せたことは、この人らしいし、岡田克也さんが8月になってから幹事長会見で「その後の振るまいがまずかった」と指摘していますし、私もそう思います。菅さんは野党経験が長くて、朝日新聞夕刊に「首相、辞任表明」と横見出しが立ってしまったら、内閣不信任案が否決されたり、首相続投を表明しても、官邸を訪れる人が減りレームダックになるという権力の要諦を知らなかったようです。

 総理がある一定期間辞められないルールづくりが必要です。まずは二大政党が党首の任期を「次の総選挙の結果が出るまで」に延長することが必要です。

 屋外は残暑です。でも、国会の中を見ていると、当初予算案や日切れ法案がない秋の臨時国会らしいクールで精緻な議論があり、また、傍聴する側も、来年の通常国会や当初予算、次の選挙、この国のかたちといった未来にも思いを馳せる。国会歳時記はすっかり秋めいてきました。



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