【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

ねじれ国会のお手本 鉢呂吉雄委員長が名裁き

2010年08月03日 23時59分59秒 | 第175臨時国会(2010年7月)ねじれ

[画像]衆院厚生労働委員長の鉢呂吉雄さん、衆院TVからキャプチャ

【2010-8-3 衆院厚生労働委員会】

 午前中は、TVで衆院予算委を見て、午後から新しい議員会館に行ってみました。

 衆院厚労委はたまたま友人・知人が多いのですが、今回は静岡8区の斉藤進さんの事務所に傍聴券の手配の労をいただきました。ありがとうございました。新しい衆院議員会館は快適ですね~。たまたまなんですが、傍聴券をもらった後に談笑した代表経験者周辺が、召集前日の両院議員総会で、特定のグループと関係なく持論を述べたと思われる、近藤和也さんと斉藤進さんの2人の新人議員を評価していて、たまたまとは言えうれしく感じました。スタンディングオベーション事件に続いて、斉藤さんのまっすぐであり、また、ひたむきに政治に打ち込む姿勢が必ず日本を前に進めると信じています。

 衆議院分館の第16委員室で、午後3時半ごろから審議スタート。

 きょうの質問のトップバッターは福田衣里子さん。彼女は第174通常国会の衆院本会議で、「子ども手当法案」の賛成討論に登壇しましたが、質問はきょうがはじめてとか。

 
[画像]福田衣里子さん、衆院TVからキャプチャ

 「本日が人生で初めての質問です」と切り出した福田さん。

 私が衆院厚労委に直接出向いたのは、2007年12月12日の第168臨時国会以来です。そのとき、野党・民主党の山井和則さんの質問を聞きに、薬害肝炎原告団のみなさんが一般傍聴席に詰めかけていました。私はこの時点では、福田衣里子さんだけTVで名前を知っていたのですが、

 私の真横に黒縁メガネの福田衣里子さんが座っておられました。背筋をピンと伸ばし、膝を直角に折り、当時の舛添要一厚労相(自民党)と山井さんの激しいバトルを食い入るように見つめる姿が大変印象に残りました。

 福田委員は、同じ第16委員室で、「人生のふしぎさと感動を覚えております」と述べ、私も同じことを感しました。

[関連エントリー]
2007年12月12日の衆院厚労委傍聴記。(長妻昭さんの「消えた年金」追及の部分だけ記事にしており、福田衣里子さんの記述ありません。
【長妻質問】国税庁、社保庁に職員派遣 「消えた年金」照合作業

 さて。

 このところ、ご無沙汰だった厚労委になぜやってきたか。それは今日の審議で、ねじれ国会の一つの手本になるかもしれない議員立法があると聞きつけてきたからです。

 にわか勉強なのですが、社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院というのがあって、全国で60カ所以上あるそうです。これらは保険料を集めた特別会計から作ったんですが、特別会計から切り離して、独立行政法人の「年金・健康保険福祉施設整理機構」が持っています。以後、「RFO」と呼びますが、「RFO法」は、この9月末で期限切れを迎えます。

 で、昨年秋の第173臨時国会に、厚労大臣の長妻昭さんら内閣が、「地域医療機能推進機構法案」を出しました。「第173臨時国会閣法第8号」です。以後、「閣法」と呼びます。「閣法」は、新しい独法をつくって、それを60病院の新しい受け皿にするというもの。「事業仕分けの例外」です。私も、ちょっとこれはどうかな、と思う法案でした。

 これまでの審議の経過。

 2009年10月27日に内閣が衆議院に提出し、11月20日、厚労委に付託されましたが、第173国会は12月4日に閉会し、審議未了で廃案。

 仕切り直して、第174通常国会の2010年1月18日に再び委員会で審議入り。5月28日に、公明党の修正が入り、民主党・公明党・共産党・社民党の賛成多数で可決しました。5月31日の衆院本会議を経て、参院に。6月1日に参院厚労委で審議入りしましたが、6月16日に第174国会は閉幕しましたので、審議未了で廃案となりました。

 そして、期限切れの9月30日を間近に控えて、第175臨時国会は、わずか8日間の予定で、8月6日(金)が会期末です。

 そこで、
 「閣法」 ではなく、

 「RFO延長法案」=RFO法を2年間延長する

 このRFO延長法案で、とりあえず2年間は病院が存続できるという議員立法をする運びになりました。

 質疑を聞いていて、「ねじれ国会のお手本になる法案」だと思っていたのですが、各党毎に言っていることが違って、なんだか「藪の中」になりそうでした。

 同委員会の野党側筆頭理事の自民党の大村秀章は、

 「RFOは2002年ごろから自民党で議論してきた。健康保健・厚生年金の保険料でつくったもの(病院・ホール)は一定の役割を果たしたので、地域に移管していこうというのがRFOです。この考え方は残っているので、閣法ではなく、RFO延長法案に賛成します」

 自民党の加藤勝信さんは、

 「民主党(の厚労委理事)が『9月末の設置期限がきてしまう』というので、『たしかにそうだな』と思い、鉢呂委員長のおまとめをいただいて、委員長発案の議員立法となりました。が、本来は閣法でやるべきでした。民主党厚労委員と長妻大臣の方向性が違うのはおかしい」

 公明党の古屋範子さんは、

 「第174通常国会が突然閉会されるという前代未聞の事態で、(衆院を通過した)閣法が(参院で)廃案となり、参院選に突入してしまった。しびれを切らして、公明党は自民党に相談した。RFO延長法案はあくまでも緊急的な法案であり、暫定的な措置である。閣法が廃案になった時点で、政府与党が動くべきだったと思います。無責任だ」

 共産党の高橋千鶴子さんは、

 「第174通常国会で閣法が参院で審議未了で成立せず残念だ。RFO延長法案には本来反対なのだが、期限切れが迫っているので、やむを得ず、賛成します。ただ、RFOは元々整理・売却が目的で(賛同できず)、そこにもう2年(延長するだけ)だから、閣法を早く出し直して欲しい」

 社民党の阿部知子さんは、

 「私としては、2年延長のRFO法案には賛同しますけど、内閣はどうしたいのか、みえてこない。RFOのように経営者が変わるか分からないようでは、人材が流出してしまう。特に(病院の将来性を担保にしている)看護師の研修ができなくなる。

 みんなの党の柿沢未途さんは、

 「法案に反対する。RFOをこのまま存続しても、2年間単純延長で、今後の展望は何も示されず、今より2年後にはもっと劣化する。せっかくの委員長提案だが、反対することを宣言します」

 また、各党が、公務員労組、各種団体、支持の厚い地域の事情を抱えているんだろう、ということが垣間見えた気がしました。

 さて、最後に鉢呂委員長が発言します。
 これに先立ち、衆院事務局職員が全委員の机上にA4判の5枚のペーパーを配りました。採決の前に、政務三役席から衆院議員の細川律夫・厚労副大臣、山井和則厚労政務官が、厚労委員としての自席にあわてて向かいます。

 「独立行政法人年金・健康保健福祉施設整理機構法の一部を改正する法律案起草の件について、おはかりします」。

 「本案は」RFOの「存続期間を2年間延長し、平成24年9月30日までとしようとするものであります」。

 として、鉢呂さんが委員長提案として「RFO延長法案」を起草し、すみやかに採決されました。

 民主党、自民党、公明党、共産党、社民党が賛成し、みんなの党が反対しました。
国民新党は厚労委に議席がありません。

 「賛成44対反対1」の起立多数で、可決されました。

 鉢呂さんは審議中、1回も席を外さず、質問者・答弁者双方に顔を向けてていねいに話を聞いていました。女性も男性も「さん」付け。さらに質問が終わっているのに、大臣の長妻さんが挙手をして発言を求めたことが2回あったのですが、これは時間切れと言うことで、指名しませんでした。

 全般的に、重厚で、信頼感が持て、理事会は非公開で分かりませんが、自民党・加藤さんの発言からすると、リーダシップを持った名裁きで、懸案を処理したようです。鉢呂さんは野党時代から「宰相の器」を見抜く力があるとされ、卓越したリーダーから国会対策委員長に抜擢された経験もあります。鉢呂さんは怪しげな会合の呼び掛け人になったりせずに、もう少しだけ我慢して実績を高めて欲しいです。

 しかし、長妻さんの答弁には苦言を呈したい。

 加藤勝信さんが、「前国会で廃案になったあと、長妻大臣はどう対応しようとしたのか」と質問したところ、長妻さんは「参院選の後に臨時国会で再度閣法として出そうとしていたが、非常に会期が(6日間と)短いということで、各議員がご議論いただいて、これは宙に浮きかねない事態でしたが、議員立法になって、これは大変ありがたい」。

 加藤さんは「だったら閣法を再提出すればよかったのではないか」と畳みかけると、「ねじれ国会になって参院選の前とは違った風景になってしまった」と語りました。

 すなわち、長妻さんは、
①参院選後にねじれ国会になると思わなかった。
②参院選後の臨時国会が8日間という短い会期になると思わなかった。

 という2つの見通しの甘さがあったことにあります。これはちょっと、ひどすぎやしないか。

 この法案は翌日であるきょう4日の衆院本会議で可決され、参院に送られ、5日の参院厚労委で可決、6日の参院本会議で成立する見通しです。

 ねじれ国会の一つのお手本となる法案だと思いますが、各党の賛成理由はそれぞれ違い、共産党、社民党、みんなの党は1人ずつしか委員がいないので、党よりも議員個人のキャラクターが審議に影響しているように感じました。

 ですから、「ねじれ国会を仕切れる人物はだれか?」という議題がマスコミでなされますが、衆参の常任・特別で、合計47委員会もあるのですから、それは「いない」というのが答えでしょう。それぞれの現場での信頼関係がイチバンです。

 提案としては、共産党のように議員の所属委員会を固定してしまう。通例なら、民主党も自民党も、秋の第176臨時国会で委員会メンバーの配置換えがあると思われますが、党役員・内閣改造での入れ替えや、なんらかの特別な事情がない限りは入れ替えない。

 そうやって、現場に思いきっり任せてみて、みっちり法案をこねることで、良い法律をつくる。その作業から、未来のリーダーも出てくるから、一石二鳥なのではないでしょうか。とにかく衆参とも3年間選挙がないのは、これは日本の政治にとって、チャンスです。


公明党が「クリーン攻め」

2010年08月03日 11時53分22秒 | 第175臨時国会(2010年7月)ねじれ
【2010年8月3日 衆院予算委員会】

 2日目のきょうは、午前中に、公明党幹事長の井上義久さん、政調会長の斉藤鉄夫さんが登場しました。公明党代表の山口那津男さんは参院議員ですので、衆院予算委には立てません。ちなみに、各党幹部は、ふだんは予算委員ではありませんが、質問に立つ時だけ、委員をさしかえて登板するのがフツーです。

 ねじれ国会で、私は民主党は公明党に協力を要請すべきだと考えています。今すぐというわけには行きませんが、参院議長選挙では、自民党が白票を投じる中、公明党は西岡武夫さん(民主党)に投票しています。

 で、きょうの公明党の質問はどうなるのかな、と思いましたが、公明党の十八番といえる「クリーン攻め」という印象でした。

 井上さんは、まずは、

 ①第22回参院選で落選しながら法相を続けている千葉景子さんんに関する人事の正統性について

 ②小鳩(鳩山由紀夫さん、小沢一郎さん)らの「政治とカネ」の問題についての国会での説明

 ③政治資金規正法を改正して、代表者(国会議員)と会計責任者(秘書など)の連帯責任を持たせるべきだ。

 斉藤さんは、
 ①国会議員の歳費日割り法案
 ②天下りについて、「菅内閣の退職に関する基本方針」

 とまさに「クリーン公明党」をアピール。

 しかし、菅首相の答弁は納得できるものではなく、「菅さんが代表になってクリーン民主党になったんでしょう」、「総理のそのような答弁なら、民主党は自浄能力がないと言わざるを得ない」と井上さんは厳しく指摘しました。

 また温厚な斉藤さんも、声を荒げることが見られ、公明党と菅内閣の蜜月関係が始まるのかと思いきや、

 「斉藤さんともあろう方がお調べもしないで質問して、ビックリしています」との答弁が防災担当相の中井洽さんや、総務相の原口一博さんから出ました。

 なんで、こんなに雰囲気が悪かったんでしょうか。参院公明党は違うのでしょうか。

 ひょっとすると、10年間政権を担った、井上さんと斉藤さん(前環境相)、なにか呆れているのでしょうか。

 民公連携は、基本的に現時点では、私が勝手に主張している状態ですが、まだまだ時間がかかりそうです。

 ◇

 これに先立ち、自民党の質問では、国会運営の2番打者ともいえる、田村憲久さんが質問。

 田村さんの質問には、「健全野党・自民党」「二大政党デモクラシーの確立」の兆しを感じられ、うれしく思いました。

 田村さんは、「参院選の(民主党の)敗因は、消費税でなく、鳩山さんと小沢さんの問題もありますよ」として、民主党執行部の総括案は間違っていると主張しました。これを「余計なお世話」と受け取ってはいけませんよね。おそらく3年間解散がないんですから、健全野党・自民党が、今まさに政権を担っている民主党を批判してくれることはありがたいことと受け止めましょう。

 そして、「菅さん大丈夫ですよ。あなたは9月の代表選で(総理の座から)引きずり降ろすことはないんですから。あなたを引きずり降ろすのは私たち(自民党)です」として、周りの民主党の予算委員を見渡しながら、「だって、この間(2ヶ月前)に選んだ総理なんでしょう」と述べました。

 自民党が引きずり降ろすというのは、第46回衆院選で自民党が政権交代するという意味もあるでしょうし、自民党の支持率が上がれば菅総理は任期満了まで解散できない状態になりますから、2012年9月の代表選で、「選挙に勝てる代表」を民主党が選ばざるを得なくなるという意味合いもあるかもしれません。

 そして、田村さんは「かなり余裕のない状態で、(菅内閣は2011年度当初)予算案を組まなければならない」、「予算が組めないんじゃないかと私は心配している」と述べました。

 ①衆参ねじれ
 ②衆参とも次の選挙は3年後

 この2つを与野党とも、衆参とも、共通の認識にしてしまうと、これからの3年間、味わいのある国会が楽しめるかもしれません。