ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

ノーベル賞は、こういう人が受賞したら嬉しい・・・

2020年10月04日 14時08分32秒 | Weblog

「医者だからやるしかない」エイズ治療薬開発の先陣切る

(2019年10月4日 20時23分 朝日新聞DIGITAL)

 

 かつては「死の病」と恐れられたエイズ。この三十数年の間に治療薬の開発が進み、感染をしても発症を防ぎ、日常生活を送れるようになった。その治療薬開発の先陣を切ったのが、国立国際医療研究センター研究所長の満屋裕明さん(69)だった。
 米国で初めてエイズの患者が報告されたのは1981年。エイズウイルス(HIV)に感染すると、免疫力が徐々に低下、感染症や肺炎、脳症など様々な病気を次々と発症し、死につながった。
 米国の国立衛生研究所(NIH)がん研究所に所属していた満屋さんは84年ごろ、上司の勧めでHIVの研究を始めた。HIVは当時、医療機関でさえ、感染を恐れて治療や遺体の解剖を断るところがあるほど、恐れられていた。研究室の同僚からも猛反対を受け「君がここで研究するなら、私が研究所をやめる」とさえ言われた。
 そのため、すでにNIHでHIVの研究をしていた博士の部屋を間借りし、博士が使っていない夜と早朝を使って取り組むしかなかった。満屋さんは「誰かがやらなければならない。医者として当然のことだ」と実験を重ねた。

■「自分しかできない」 ウイルス増殖の抑制、世界初の成功

 HIVは、「ヘルパーT細胞」という特定の免疫細胞に感染した後、自らのRNA(リボ核酸)を逆転写反応させDNAに転換し、ヒトの染色体に組み込むことで増殖を繰り返していく。
 ヘルパーT細胞は、満屋さんが研究していた白血病ウイルスが感染するカギとなる存在。この細胞を培養する技術は当時、世界で数人しか持っておらず、満屋さんもその一人だった。「自分ならできる。自分しかできない」
 研究では、試験管に免疫細胞とHIVを入れ、治療薬の候補となる化合物を振りかけることを繰り返した。HIVのRNAの逆転写を阻害することで増殖を止めることを目指した。化合物に効果があるなら、試験管に免疫細胞の塊が残る。見れば結果が分かった。
 85年2月、ある製薬会社から届いた化合物を免疫細胞とウイルスが入った試験管に入れた。元々は抗がん剤として60年代に開発されていたが効果がなく、そのままになっていた。
 6日後、試験管の免疫細胞が増えていた。化合物がHIVの増殖を抑えた証拠だった。これが世界初のエイズ治療薬「AZT(アジトチミジン)」となった。87年には米国で承認され、ロナルド・レーガン大統領(当時)も研究室に訪れた。日本でも半年後に承認された。

■特許を無償譲渡、途上国に貢献

 ただ、製薬企業は、治療薬を1錠1ドル88セントで販売。当時は、毎日、しかも日に何度も薬を飲み続ける必要があったため、患者の薬代は年1万ドル以上かかる計算になる。多くの患者に薬を届けたい満屋さんの思いとは異なり、当時、米国で最も高価な薬とされた。
 「これでは普通の人の手に入らない」。満屋さんは早々に、新たな薬の開発に取りかかった。HIVは自分の遺伝情報の部品をつなぎ合わせてヒトの遺伝情報に組み込ませる。部品によく似た物質を潜り込ませ、つなぐ作業を止めれば、HIVは増えないはず――。そう考え、当たりをつけていた試薬を試すと、効果があった。「次々に狙い通りの結果でドキドキした」。
 副作用や効果を踏まえて2種類に絞り込み、「ddI(ジダノシン)」「ddC(ザルシタビン)」という治療薬を開発し、90年代に世に送り出した。これらの薬は、NIHが特許をとり、企業にライセンスを与える際には、適切な価格での販売を条件にした。このため、安く供給することができ、AZTの価格も3分の1に下がった。
 さらに、2006年、満屋さんとNIHは、プロテアーゼ阻害剤に分類される治療薬「ダルナビル」を開発。4年後、特許が世界保健機関に無償譲渡され、途上国に対して安く提供されるようになり、エイズ治療に貢献することになった。
 作用の仕方が異なるAZTやダルナビルといった治療薬を組み合わせて使う「多剤併用療法」で、HIV感染者は、薬を飲み続けることで発病せず、普通に生活できるようになった。エイズによる死亡者は、最も多かった04年と比べて55%減少している。
 しかし、今なお、世界には約3790万人のHIV感染者がいる。より副作用が少なく、使いやすくて安価な薬を求めて、満屋さんは、日本の国立国際医療研究センター長と米国国立がん研究所のレトロウイルス感染症部部長として日米両国で研究を続けている。

 

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