天台寺門修験

修験道の教義は如何に

修験第九十三号 霊峰大峰の神秘を語る(座談会)① ―週刊朝日より転載―

2012年09月05日 09時07分50秒 | 座談会

群山の特色

週刊朝日編集長 大道広弘雄 氏

一寸御挨拶申し上げます。精神総動員体位向上の叫ばれてをります際に山登りなどは一番いゝかと思ひますがこのごろ山登りといへば遠い日本アルプスとかさういふところへばかり行く人が多いやうで、幸ひ近畿には近い大峰、吉野郡山といふ立派な山があるのを忘れられてゐるやうに思ひます。ところが、その山々は歴史の方から見ても宗教の方から見ても植物の方から見ても、いろゝ学問上から見て材料も豊富であります。それを今日あらゆる方面から研鑽して頂くべくお集まりをお願ひしましたところ、中には御病気で御欠席の方が二、三あり誠に残念でありますが、御多忙中にも拘りませずお集まり下すつたことは大変有難うございます。どうぞよろしく。一番初めに坂田さんから一つ国立公園としての吉野群山の特色についてお話をして頂きたいと思ひます。

 奈良県観光課長 坂田静夫 氏

国立公園としての吉野群山の特色はいろゝあるでせうが、特に他の国立公園より勝れてゐると思はれる点を三つほど挙げたいと思ひます。第一は史跡に富んでいる点でありまして神武天皇御東征の御遺跡、吉野朝に関する幾多の史跡など至るところ歴史の香り豊かで、風景的要素を度外視しても都人に強い魅惑を投げかけるのであります。ただ単に風景を楽むといふだけでなしに美しい自然の陰に古い社寺を見たり昔の歴史的事実を追想したりすることは情趣豊かなものですが、それを味はひ得る吉野群山は独特の味を持つて居るものといへます。史跡に富んだ吉野群山が国体観念滋養の修養場であることは今改めていふ必要はないと思ひます。

第二は他の国立公園と異なり当国立公園だけが水成岩から成りそのために谷が非常に美しいことであります。吉野群山の各渓谷の河床が白色の石灰岩で木や水の青と岩石の白が映じ合つて目覚むるばかりの美を創造するのであります。そしてこれはより一層谷を清く見せるのです。他の国立公園の警告は岩石が黒ずんで幽邃味はあるにしても、この明快で清澄な色彩美といふものはありません。吉野群山を考へると先づ私の頭にこの美しい谷が浮かんで来ます。そしてこの谷のためだけに吉野群山に登りたくなるのです。殊に水の恋しい夏が来るとこの谷を恋ひ慕ふ気持ちが狂的にまで募つて来るのです。

第三には大都市を近方に控へて居ることです。これもまた他の国立公園には類を見ない所でありまして、十二国立公園中最も大きな利用価値を持つてゐるわけです。ことに京阪神からは僅か数時間内で達せられるのですから、将来交通機関が改善されたならば国立公園中最大の利用者数を示すやうになることを疑ひません。なほ植物の豊富なことも見落とすことの出来ない特色でありますが、これは江崎先生からお話して頂く方が適切だと思ひますので私はこのくらいにして置きます。