毎日新聞(1月11日付)舞鶴支局版
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北近畿タンゴ鉄道 サービス拡充でばん回へ 追跡京都2009
◇企画切符や特急回数券など発行 快適さ、速達性へ設備投資
日本三景の天橋立やカニの名産地を行く北近畿タンゴ鉄道(本社:福知山市)。地元丹後と南米音楽のタンゴを掛け合わせたポップな名称が全国の鉄道の中でも異彩を放つ。しかし少子化や自動車の普及による鉄道離れで、その経営はラテン的な陽気さとはほど遠く、列車が行く冬の日本海の波のごとく厳しい。浮揚はあるのか。それとも荒波の中にのまれてしまうのか。岐路に立つ鉄道の今と未来を探った。
「経常赤字は全国の第三セクター鉄道の中でも断トツの1位です」。始発駅の福知山駅を見下ろせる社長室のソファに、がっちりとした体を沈めながら辻本泰弘社長(61)は打ち明ける。
07年度の経常赤字は5億6,500万円。第三セクター鉄道等協議会(東京都)のまとめによると、赤字額2位となった秋田内陸縦貫鉄道(秋田県)の2億6,200万円を大きく引き離している。
車両の老朽化や燃料費の高騰により経費は膨らんでいる。しかも、利用者の減少は深刻だ。93年度のピークに303万人だった輸送人員は、07年度には197万人にまで落ち込んだ。背景には、少子化と地域の道路環境の改善によるモータリゼーションの進展があるという。辻本社長は説明する。
「我が社の鉄道の特徴として沿線に高校が多いことが挙げられます。お客様の4割を占める定期券利用者のほとんどが高校生ですが、少子化でその数が毎年5~7%ずつ減っている。高齢化も大変ですが、少子化が経営に与える影響の方が深刻です」
また、舞鶴若狭自動車道や京都縦貫自動車道の延伸により、車やバスによる大阪や神戸から丹後地域へのアクセスが飛躍的に向上した。辻本社長は「うちは『自動車道並行地方鉄道』になってしまいました」と自虐的に例える。
もちろん経営陣もこの難局に手をこまねいているわけではない。07年から08年にかけ、矢継ぎ早に企画切符や定期券などを発行し、利用者の減少に歯止めをかけようと必死だ。
例えば、定期券を持っている利用者が使える特急回数券。1冊が6枚つづりで価格は1,000円と1枚あたりわずか約160円だ。ペットボトルのジュース1本の値段で、特急に乗ることができる。仮に福知山から天橋立まで特急を利用したとすると、特急料金は通常の630円より7割以上もお得になる。
観光地へのバスの利用者の増加も逆手に取る。京阪神地域から天橋立までバスに乗り、車窓から日本海の絶景が楽しめる西舞鶴まで鉄道を使ってもらう団体バスツアーも、旅行会社と提携して企画している。「絶景ポイント」の一つである由良川河口の由良川橋りょう(長さ551メートル)で徐行したり、奈具海岸に打ち寄せる波が見下ろせる地点で一時停止するなどのサービスも拡充させている。
これらの企画が当たって08年度上半期の輸送人員数は3%増加した。「当たる企画もあるが、その効果が3年も5年も続くとは限らない。やはり鉄道本来の姿に戻って、快適な乗り心地や速達性を高めなければ。そのためには車両の更新や信号のシステムの改善が必要で、新たな設備投資をしなければいけなくなってしまう」。辻本社長はあくまでも慎重だ。
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