気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

圧政者を好む米国とそれを擁護する大手メディア

2017年07月28日 | 国際政治

トランプ大統領がフィリピンのドゥテルテ大統領やトルコのエルドアン大統領などの独裁的な元首を褒めたたえているのをリベラル派メディアが疑問視しています。
これらの元首は自由と民主主義を標榜する米国とは相容れないというわけです。
しかし、実際は …… 。

例によって、調査報道を得意とするネット・メディア『インターセプト』から採りました。
書き手は、おなじみのグレン・グリーンウォルド氏です。

タイトルは
Trump’s Support and Praise of Despots Is Central to the U.S. Tradition, Not a Deviation From It
(トランプ大統領の専制君主びいきは米国の伝統からの逸脱どころか伝統そのもの)

やや長いので2回に分けて掲載します。

原文サイトはこちら↓
https://theintercept.com/2017/05/02/trumps-support-and-praise-of-despots-is-central-to-the-u-s-tradition-not-a-deviation-from-it/


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Trump’s Support and Praise of Despots Is Central to the U.S. Tradition, Not a Deviation From It
トランプ大統領の専制君主びいきは米国の伝統からの逸脱どころか伝統そのもの


Glenn Greenwald
グレン・グリーンウォルド

2017年5月3日 2:13 a.m.


少なくとも第二次世界大戦以降、世界で指折りの専制君主を支持することが米外交政策の柱であった。決定的な特質と言っていいかもしれない。米国が支援してきた暴君のタイプは多岐にわたるが、その戦略的な根拠は一貫している。すなわち、反米的な感情が浸透している地域では、民主政体が採用されると、米国の国益に資するどころかそれを阻害する国家元首が登場しがちだからである。

米国の意向にしたがう独裁者を当該国に押しつけたり支援したりすることは、このような不都合な反米感情をがっちり封じ込めるために米国の為政者が昔からずっと好んで使ってき、今もなお使い続けている手口である。この事情はみじんも物議をかもさない。議論に値しない趣きさえ有する。米国の暴君支持は大方、白昼堂々とおこなわれ、一流の政策通や報道機関によって長年の間きっぱりと擁護され、うべなわれてきた。

ワシントン界隈でもっとも愛され、敬意を払われてきた外交政策の第一人者ヘンリー・キッシンジャー氏は、米国の意向に沿うという理由で極悪非道の暴君を歓迎し、下支えしたことにより名声を築いてきた。
その輝かしい経歴のいくつかを、歴史学者のグレッグ・グランディン氏はこう説明している。
キッシンジャー氏は「パキスタンのISI(パキスタン統合情報局)に力をつけさせるとともに、アフガニスタンの不安定化のためにイスラム原理主義を利用するよう彼らをそそのかした」。
「サウジアラビアおよび革命前のイランとの『兵器・オイルマネー引き換え政策』(訳注1)への依存を確立した」。
「南米中でクーデターや『暗殺部隊』を支援した」。
また、キッシンジャー氏は、大規模な民間人殺害をおこなったアルゼンチンの軍事政権を褒めたたえたし、米国の同盟国インドネシアの独裁者であり、20世紀屈指の極悪人と呼ぶべきスハルト氏による大量虐殺の遂行を積極的に幇助した。

(訳注1: 原文は arms-for-petrodollars です。取りあえず『兵器・オイルマネー引き換え政策』としておきました。これは、サウジアラビアなどがアメリカその他に原油を輸出して得た収益金(オイルマネー)を元手に、今度はその国から兵器を購入することです)

(注: 原文サイトでは、ここで、英『ガーディアン』紙の過去記事の画像が貼られています。
記事のタイトルは
「キッシンジャー氏、アルゼンチンの『汚い戦争』を是認」)

また、レーガン大統領の下で国連大使をつとめたジーン・カークパトリック女史は第一級の保守派知識人と考えられている。親欧米派、右派の独裁者をきっぱりと持ち上げたからである。イランのシャー(国王)やニカラグアの軍人独裁者アナスタシオ・ソモサ・ガルシアなど、米国が支援する非情な圧政者に賛辞を惜しまなかった。
「彼らは米国にすこぶる友好的です。子弟その他をわが国の大学に送り込んで教育を受けさせ、国連決議ではわれわれと同じ側につき、たとえ個人的なコスト、政治的なコストを払うことになろうと、つねに米国の国益と立場を支持してくれます」。
こうした次第で、レーガン政権時代の米外交政策は-----それ以前とそれ以後もずっとそうであったように-----、親米派の独裁者、「暗殺部隊」、あるいはテロリストにさえ経済的、軍事的、外交的な支援をおこなうことと了解することができる。

米国の主流派メディアは、米国政府によるこのような独裁者支持の姿勢をおおっぴらに称賛し続けてきた。
アウグスト・ピノチェトは、民主的な選挙によって就任したチリの左派系の大統領を米国が打倒して同国に押しつけた軍人独裁者であるが、その2006年の死去にあたって、ワシントン・ポスト紙は論説欄でカークパトリックとピノチェトの両人を褒めちぎった。
ピノチェト大統領は「凶悪至極で、政府当局の手によって3000を超す人々が殺害され、何万もの人々が拷問を受けた」と書く一方で、「チリに経済的奇跡をもたらしたその自由市場政策」を礼賛したのである。そして、締めくくりにこう記した。ピノチェトと同様に「カークパトリック女史もまた左派陣営から攻撃を受けた。が、今やもう明らかなはずだ。彼女は正しかった」と。

ニューヨーク・タイムズ紙も同様である。2002年に右派のクーデターによってベネズエラの左派大統領ウゴ・チャベス氏が一時的に失脚したとき、同紙の論説はそれを「民主主義の勝利」と評した。
「チャベス大統領の昨日の辞任をもって、ベネズエラの民主政はもはや未来の独裁者におびやかされる心配はなくなった。危険な民衆扇動家である同氏は、軍部が介入した後、著名なビジネス・リーダーに権力を引き渡してから職を辞した」。

[これに関して私が数年前に書いた文章を再掲しておく。

この論説の中でニューヨーク・タイムズ紙は、チャベス大統領の「排除はあくまでもベネズエラ国民が決定したこと]と述べた。ところが、ほどなく-----かつ予想されたことであったが-----、これにはブッシュ政権のネオコン(新保守派)幹部が非常に大きな役割をはたしていたことが明らかになった。
そして、11年後、チャベス大統領が逝去した際、同紙の論説員は「ブッシュ政権が南米における米国の声価をいちじるしく傷つけた」ことを認めた。「チャベス大統領に対する2002年のクーデターの試みをおろかにも称賛した」からである。
しかし、同紙は、クーデター当時、米国の威信失墜を認めなかったことはもちろん、同紙自身がクーデターを賛美したことについてもいっさい口をつぐんでいる。]

(注: 原文サイトでは、ここで、英『ガーディアン』紙の過去記事の画像が貼られています。
記事のタイトルは
「ベネズエラのクーデターにブッシュ政権幹部が関与」)

1977年にカーター大統領はテヘランで開かれたイランのパフラヴィー(パーレビ)国王との公式晩餐会に出席した。同国王は、米CIAが民主的な選挙で選ばれたモサデク首相を放逐した後、米国の支援を受けつつ何十年にもわたって同国に君臨した冷酷な独裁者である。この晩餐会の直前にはカーター政権が国王をホワイトハウスに招いていた。
席上でカーター大統領はこのイランの専制者を祝してグラスをかかげ、次のように述べた。

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両陛下ならびにイラン各界の著名なる指導者の皆様

皆様方のあたたかいもてなし、ならびに、今夕これまでに共にしました愉快な一刻について、短いながら感謝の言葉を申し述べたいと思います。私は何人かの方からたずねられました。ほんの一月かそこら前、私どもは両陛下の訪米という栄誉に浴したばかり。それなのに、なぜこれほど間を置かずに今回の訪問に至ったのか、と。先の訪米の折り、両陛下がお帰りになられました後、私は妻に聞きました。「新年を誰といっしょに過ごしたいと思う?」と。そうしますと妻は「ほかの誰よりもイラン国王、王妃ファラのお二人と」と答えました。そういう次第で、私どもは今回の旅程をととのえ、皆様方との面晤の栄を得たわけであります。
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多数の人間を殺してきたイラン国王に対するカーター大統領の賛辞は、しゃべるにつれて、いよいよきらびやかで追従的なものになった。
「イランは、国王の偉大なるリーダーシップによって、世界で問題をかかえた地域の一つに属しながら安定した孤島となっています。これはまったく陛下の、そしてまた、陛下のリーダーシップの賜物であり、イラン国民が陛下にささげる敬意と称賛と愛の所産であります」。
しかし、それから2年後、国王を崇敬しているとカーター大統領がのたまったその同じ国民は彼を追放し、この独裁者に長年支援と賛辞をささげてきた米国を今に至るも憎んでいるのである。

(注: 原文サイトでは、ここで、『アメリカン・プレジデンシー・プロジェクト』というサイトの画像の一部が貼られています。
タイトルは
「ジミー・カーター
第39代アメリカ合衆国大統領-----1977-1981
カーター大統領、テヘランでイラン国王と晩餐会
1977年12月31日)

世界指折りの悪逆な独裁者に対する米国の肩入れは、冷戦の終了とともに止んだわけではなく、それどころか弱まりさえしなかった。ブッシュ、オバマの両政権とも、これらの独裁者にあいかわらず兵器を供与し、資金を拠出して下支えし、称賛の言葉を呈し続けた。

2009年当時、国務長官であったヒラリー・クリントンは、米国の後押しするエジプトの独裁者についてこう語っている。
「ムバラク夫妻は自分の家族の朋友であると私は心の底から思っています」。
また、エジプト国防相兼軍総司令官アブデルファタフ・サイード・シシ氏が同国初の自由な選挙で成立した政権を打倒したとき、ヒラリーの後任者であるジョン・ケリー氏は、シシ氏を「民主制を回復した」と称えた。
シシ氏はその後いよいよ峻烈で圧政的な傾向を強めたが、オバマ政権はそれに兵器と資金の大盤ぶるまいで応じた。人権侵害で悪名高いバーレーン王国の独裁者に関しても同様の対応であった。

(注: 原文サイトでは、ここで、米『ABCニュース』の過去記事の画像が貼られています。
タイトルは
「国務長官クリントンの2009年の発言:『ムバラク夫妻は自分の家族の朋友であると私は心の底から思っています』
2011年1月31日 ABCニュース・コム)

選挙で民主的に成立したホンジュラスの左派政権に対する2009年の軍事クーデターにおいても、米国は、あからさまな後押しではないにしろ、少なくとも暗黙の承認をあたえた。
そしてその後、ヒラリーのひきいる国務省は、自分たちの支援するクーデター政権が批判者や反政府活動家に対する暗殺計画に従事していたあり余る証拠があるにもかかわらず、それをひたすら否定し続けた。
ワシントン・ポスト紙のカレン・アティアー記者は昨年、「今日のホンジュラスおよびハイチの騒乱と政治的不安定性に関して、[ヒラリーひきいる]米国務省が関与した反民主的な体制転換がいかなる寄与をはたしたか」を探った。記事の中では、ホンジュラスのクーデターを指揮した軍指導者たちを庇護するためにヒラリー国務長官の講じたさまざまな措置が具体的に取り上げられている。

サウジアラビアも忘れてはならない。同国は長い間、地球上で飛びぬけて圧政的な国の一つであり、米国がきわめて重要視する同盟国である。サウジの専制君主に対する米国の入れ込みぶりは、これだけでも、自由と民主主義の普及をめぐる米国の大義名分の綱領をほとんど全否定するに等しい。米歴代政権はこれまでずっとサウジの王政を維持し、強化することに倦むことなく取り組んできたからである。

オバマ大統領も、前任者のブッシュと同様、くり返しサウジの独裁者をホワイトハウスで歓待した。2015年にこの極悪な国王が亡くなったとき、オバマは急遽インド訪問を中断してリヤドに飛び、米国の親密なパートナーである国王のために弔意を表した。ほかにも米国から民主党、共和党双方の名だたる政治家が駆けつけた。
英『ガーディアン』紙は次のように書いている。
「オバマ大統領は、多数の議員をひきいてサウジの新国王との関係を深めるようとする中で、同国の専制君主に追従的な自分の姿勢を釈明せざるを得なかった。ほんの数時間前は、インドで宗教的寛容と女性の権利について講演したばかりだったが」。

国王の死去に際して、オバマ大統領は、批判者の殺害や収監をくり返したこの専制君主をこう評した。
「アブドラ国王の理念は故国では国民の教育および世界とのより深い関わりにささげられていました」。
もっとも、オバマ大統領の弔意の表し方は、英国政府のそれに比べるとまだ穏当だった。英国政府は、アブドラ国王の死を悼んで、すべての国旗を弔意を示す半旗にするよう命じたのである。
とはいえ、サウジの王政をおおっぴらに称揚するのにオバマが二の足を踏むというわけではまったくなかった。

(注: 原文サイトでは、ここで、米政治専門サイト『ポリティコ』の過去記事の画像が貼られています。
タイトルは
『オバマ、アブドラ国王を歓待する』)

要するに、第二次世界大戦以降の米外交政策は-----世界各地で何度となくくり返した膨大な人権侵害行為とは別に-----、民主的な選挙で成立した政権を打倒すること、さらには、残虐な独裁者を支持し、同盟関係を結び、力を貸すこと等、を土台としてきたのである。この行き方は世界のあらゆる地域に適用され、米歴代政権が例外なく奉じてきた行き方であった。この点を認識せずに世界における米国の役割をいささかでも理解することはまず不可能である。

(続く)


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[その他、補足など]

■本文で述べられているパフラヴィー(パーレビ)国王を含む、イランとアメリカの関係については、以下のサイトの文章が参考になります。

イランの核問題とは?  ~アメリカ・イスラエルとの関係を読み取る~
http://ocean-love.seesaa.net/article/382562077.html?seesaa_related=category


■ここでふれられているキッシンジャー氏の航跡については、このブログの以前の回でも話題になっています↓

元政府高官におもねる名門大学
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/ba9ff3f6850bb44b97779b2ca5d73252




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