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気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

ユーモア・コラム一篇 ----- 2029年のアメリカ

2025年07月03日 | 国際政治

今回は、ユーモア・コラム。時事風刺コラムと言った方が適切でしょうか。
いつもの論考ではなくて、フィクションです。

書かれた時点は2029年とされています。すなわち、今から4年後の、トランプ政権
第2期も終了し、新しい大統領の下で政権が活動を開始したばかりの頃。
書き手とされる人物は、国連大使に任命され、喜びを抑え切れない様子で、新たな
任務に邁進しようとしますが …… 。

原文タイトルは
Approaching the End of Liberal Internationalism
(リベラル・インターナショナリズムの終わりに向かって)

(ちなみに、Liberal Internationalism(リベラル・インターナショナリズム)とは、
ウィキペディアによると、「国際機関、自由市場、協調的安全保障、そして自由民主
主義を支持する外交政策教義」です)

書き手は John Feffer(ジョン・フェファー)氏。

原文サイトは
https://www.counterpunch.org/2025/06/17/approaching-the-end-of-liberal-internationalism/

(なお、原文サイトに載せられている写真や文中のリンクの処置は、以下の訳文では
省略させていただきました)


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2025年6月17日

Approaching the End of Liberal Internationalism
リベラル・インターナショナリズムの終わりに向かって


John Feffer
ジョン・フェファー



「われわれは戻ってまいりました」。そう、私は部屋の人々に告げた。2029年1月21日
のことで、私は興奮をほとんど抑え切れなかった。「アメリカが帰ってきた」。

歓呼の声が返ってくるかと思っていたが、部屋は沈黙。

私はもう一度、声を高めてこう言った。「4年もの時を経て、アメリカがついに帰って
まいりました。国際的な責務をよろこんでまた引き受ける所存です」。

国連の人権理事会のメンバーたちはいろんな方角をながめやっていた ----- 私の方以外の。
と、スーツの袖を引っぱる感触がある。視線を落とすと、モロッコの代表が一片の
紙切れをわたそうとしている。

紙切れには数字が書いてあるだけ。「これは …… 請求書 ……かな?」。

彼女はうなづく。「貴君の言う『国際的な責務』です」。

「520億ドル?」。

「国連分担金の4年間の未納分です。端数は丸めています」。

「こりゃまた、大変な …… 」。

彼女はさえぎった。「貴国があたえてきた損害については、これに含まれておりません。
そちらの方の請求書は、目下、準備中です」。

「場の空気を読め」というのがいわゆる「外交のイロハ」である。しかし、国連本部の
この部屋では、そんな必要はなかった。明々白々だったからだ。場の空気は無関心か、
押し殺したクスクス笑い、まごう方なき敵意だった。

人権理事会の進行役は韓国の紳士であったが、せき払いをし、座るようしぐさで私に
合図した。そして、会議は続いた。私のこうむった屈辱も終わりまで胸中から
去らなかった。

おっと、万が一おわかりでない方がいるかもしれないので言っておくと、私はアメリカの
新しい国連大使。最初、この任務につくことにワクワクしたものだ。これまでずっと
外務職員一筋で生きてきた身としては、この地位は出世階段の頂点である。トランプ
政権の第2期が始まるまで、私は領事やマラウイ共和国の大使から始め、中南米担当国務
副次官に就任するまで、粛々と職務をはたしてきた。トランプが大統領に返り咲いた後で
さえ、私は依然として「国際社会」の断固たる信奉者であった。もっとも、それが厳密
には何を意味するのかと問われると、いささか困惑してしまうのであるが。

ずっと昔に、私は「リベラル・インターナショナリズム」に忠誠を誓ったのだった。
目下のアメリカでは、それはまるで自分がシェーカー教徒か錬金術師であると認める
ようなものだけれども。変わったやつだと言われるかもしれないが、私はこれまで
ずっと、世界はいくつかのルールや規制項目にしたがう必要があると信じてきた。
われわれは皆、交通規則にしたがうではないか。われわれは自分の個性を主張して、
自分の好きな車を選ぶ。けれどもまた、赤信号では車を止める、みだりに車線変更は
しない、あるスピードを維持する、等々の決まり事は遵守する。違反者は罰せられる。

「国際社会」も似たような指針を持ち合わせている。国家はその国固有の旗をそよがせ、
カラフルな切手を発行し、晴れやかな国歌を斉唱してみずからの国家主権を主張する
ことができる。しかし、一方でまた、われわれは ----- 少なくともわれわれの大部分は
----- ある種の行路上の規則にしたがう。すなわち、他国に侵攻しない、自国の軍に
子供を強制加入させない、自国民を殺害しない、あるいは少なくとも、その相当の
割合を国外退去させない、等々のルールである。ところが、国際的な罰則措置にも
かかわらず、あまりにたくさんの国々がみずから「ならず者」であることに固執して
いるのである。

国連大使に任命されるというのは、ルールを策定する委員会に入るようなものである。
いったい誰がワクワクせずにいられるだろうか。

そう、まさしく私はワクワクしたのだ ----- この職務についた最初の日は。

もちろん、今後、困難が増すことになるだろうとは承知していた。この4年の間、
つまり、第2期トランプ政権の間、アメリカは「インターナショナル」なる言葉が
付されたものはすべてないがしろにしてきた。この4年間は私にとって、また、他の
多くの人々にとっても、ある種の侮辱であった。イーロン・マスク氏の悪名高い
DOGE(政府効率化省)のおかげで、私はアメリカの「外交もどき」に関与しなくて
すんだ。つまり、私の同僚の多くと同様、私もまた、この「政府効率化」の期間に
追放された。早期退職を余儀なくされたのだ。ワシントンのシンクタンクにささやかな
居場所を得て、それからずっとトランプ政権のおぞましい進撃とそれに対する反動を、
恐怖とシャーデンフロイデ(他人の不幸をよろこぶ感情)の入りまじった気持ちで
ながめてきた。

この4年間、われわれ「リベラル・インターナショナリズム」の信奉者は、自分たちが
政府当局に舞い戻れたあかつきに、どうやって物事を正常に戻すかについてあれこれ
頭をひねってきた。

なんと無邪気なことであったろう。

[トランプの海外政策]

トランプの行動は当初、想定内のものに収まっていた。2025年の1月に大統領執務室に
戻ると、おなじみの聖歌集から歌い始めた。すなわち、気候変動に関するパリ協定や
国連人権理事会、世界保健機関(WHO)、UNESCO(ユネスコ)などなどから脱退した。
国連分担金の支払いを停止した(これによって、数多くの機関が経済的に困窮し、
平和維持活動が世界規模で実質的な停止状態におちいった)。ロシアのプーチン大統領
やサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン首相等の独裁的指導者と親しく交わろう
とした。大胆な約束 ----- 就任して24時間以内にウクライナの戦争を終わらせる、など
----- をして、(驚くべきことではないが)その約束を反故にした。

それから、トランプは想定外のことに着手した。

相手かまわず関税を課し始めたのだ。カナダのような同盟国、中国のような想定敵対国
から、レソト王国のような信じ難いほどの貧困国、無人の地であるハード島とマクドナルド
諸島に至るまで、である。米国のわずかばかりの産業を守るためなら、世界経済を
ズタズタにすることも辞さないと言い放った。しかし、米国経済の将来有望な部門を
奨励・刺激する産業政策は持ち合わせなかったので、結局、大統領の関税戦争は自国の
消費者と生産者のいずれにも打撃をあたえるというさんざんな結果に終わった。

むろん、わが新政権はこれらの関税のほぼすべてを撤回した。しかし、もうあまりに
手遅れだった。「ねえ、ご同僚」と、カナダの大使は私に言った。「私たちはつきあいを
多様化したのだよ。新しい取り引き相手を見つけた。また、おかしなことにつきあわされる
のはご免こうむりたい」

また、一方で、「海外援助に対する攻撃」も前代未聞のレベルだった(いやはや、この
言葉がトランプ時代に何度使われたことだろう!)。政権の最初の4ヶ月だけでも、
大人の9万7000人超、子供の20万人が、海外援助のための資金拠出の停止と米国際開発庁
(USAID)の解体のおかげで、命をおとすことになった。その後も含め、結局、4年の
任期の間に、毎時間100人を超える人間が、トランプとマスク両氏によるUSAIDその他の
破壊的な廃止によって、死亡した。とどのつまり、トランプ政権の間に世界で30万から
40万の人々が亡くなった計算になる。

この数字は、言うまでもなく、ジェノサイド(大量虐殺)の名に値する。これは、
実質上、ナチスがドイツ国民のうちから病人や老人、身体障害者などを間引きした
政策の帰結と異ならない。ただし、トランプの場合は、世界全体が対象だった。
トランプ政権によるこれらの人命の損失すべてに関して ----- 地球に対する環境面
での打撃すべてもあわせて ----- 、国連がどれほどの額の損害賠償請求書を私に手わたす
か、私にはよくわからない。ただ、額がどれほど巨大であっても、それはただ象徴的な
価値しか持ち得ないだろう。アメリカにそんな金はないからだ。いや、率直に言って、
そんな賠償金など払う意思はないからだ。

このような金銭的な計算の対象にならないものは、トランプが国際的なルールを顧慮
しないことによるデモンストレーション効果である。他の国の強権的な指導者たち
----- たとえばトルコやインド、アルゼンチンなどの ----- は、当然のことながら、
トランプのやり方にならった。ちょうどトランプがハンガリーやロシアからヒントを
得たように。プーチン大統領によるウクライナ侵攻はまちがいなく2027年のトランプ
によるグリーンランド強奪をうながした。そして、この世界最大の島の違法な獲得
----- わが新政権はこれを撤回しようと決意しているが ----- は、やはり確実にイスラエルの
ヨルダン川西岸地区とガザ地区の併合、ロシアのモルドバの吸収、中国の台湾領有の
試み、等々の推進力となったのだ。

国際機関に対するトランプの攻撃は、国際間協力の慣習をみごとになしくずしに
してしまった。各国はこぞって鉱物資源を求め、海底の探索に血まなこになって
いる。ほとんどの国が国際刑事裁判所(ICC)の発行した逮捕状に見向きもしない。
有名なセリフをもじって言えば、「大国は自分の欲することをおこない、弱小国は
自分のできることをおこなう」に至ったのである。

英国の元首相マーガレット・サッチャーの「『社会』などというものは存在しない」
というセリフはよく知られている。トランプは、「国際社会」が存在することをも
否定して、サッチャーよりさらに上をいった。みずからの行動を通じて、そしてまた、
世界中の強権的支配者と手を組むことにより、トランプは「国際社会」に引導を
わたし、ほぼそれをほうむり去ってしまった。

[トランプの国内政策]

トランプ政権が米国内でおこなったことも、むろん、国外に対しておこなったこと
よりましだったわけでは決してない ----- もし自分が裕福な白人男性でないとしたら、
いよいよそうである。たとえば、必要書面を欠いた移民への措置として始まった施策が、
外国人に対する全面的な攻撃へと変貌した。完全な市民権のない人間はすべて有罪と
見なされて、無差別に検挙され、紛争地域もしくはエルサルバドルの収容所へと送られた。
また、国境では、「密輸」あるいは似たようなナンセンスを理由として留め置かれたり、
さらには、パレスチナの人々の殺害に抗議する発言をしたことで罰せられたりする
ありさまであった。くわえて、アメリカで勉強しようとやってくる学生たち -----
中国人を筆頭として ----- の入国を禁止する政策も実施し始めた。

「ハーバードやイェール、スタンフォード、かつてはこれらが私たちの聖地メッカ
でした」。韓国の大使はつい先頃、私にこう言った。「今は、私たちは自国の学生に
米国以外の国を選ぶよう勧めています」

「でも、アメリカは帰ってまいりました」。私は弱々しく同じセリフをくり返した。

「いつまで続きますか」と彼はたずねる。「私たちにどうやってわかるでしょう、
新しい政権がふたたびトランプ政権の終了したところから着手して新たな暴虐を
ふるうなんてことはない、と」

実際のところ、多くの米国民も同じ疑問を抱いている ----- メディケア、メディケイド、
社会保障制度、退役軍人給付金、等々の削減をこうむった後では。彼らは今や、
連邦政府を疑いの目でながめている。あたかも、インチキの賭けトランプで、最初の
何回かは勝つことを許されても、結局、最後にはすっからかんにされたカモのように。

われわれは、もちろん、環境にやさしいテクノロジーを優遇するバイデン政権時代の
産業政策を復活させた。が、トランプのMAGA(「アメリカを再び偉大な国にする」)
の政策はなおも命脈をたもっている。この政策を阻止しようとする動きはまだ裁判で
争われており、裁判所の方は、連邦政府の「権限拡大」を罰することにあまりに熱心な
状態だ。依然しょうこりもなく共和党支持者の多い州 ----- 2028年の大統領選挙が
予想外に接戦であった州でさえ ----- では、知事が連邦政府に「クソッタレ」と言おうと
手ぐすねを引いている。これを書いている今、2028年の選挙をめぐり、例の「票を
盗むのをやめろ」のスローガン(訳注・1)をかかげた集会が暴力的なものに転じつつ
あるし、きわめて用心深い人々は「非常時用持ち出し袋」に手を伸ばそうとしている。
また、ある地域では、連邦政府に対し、大規模な不服従の挙に出る話が盛り上がりを
見せている。

(訳注・1: 原語は Stop the Steal。「不正選挙を阻止せよ」の意で、最初期のトランプの
敗北に納得できない一部のトランプ支持者が、票の集計で不正行為があったと主張し、
このスローガンをかかげて集会やデモを開催した)

トランプ時代の前からレッドとブルーの対立は確かにあった(訳注・2)。しかし、
最近のアメリカでは、この2色の戦いが全面的、徹底的なものになる寸前という様相を
呈している。MAGA派の言によれば、「彼らの側につくか、つかないか、2つに1つだ」
(そして、もう一方の側も、まるっきり同じことを考えている)。パープルはどうした
だって?。われわれの語彙からはその色は姿を消してしまった。

(訳注・2: 「レッド(赤)」は共和党を、「ブルー(青)」は民主党を象徴する。大統領
選挙などの報道で、テレビ局が地図で全米の州のうち、共和党支持者の多い州を赤に、
民主党支持者の多い州を青に色分けして示すことが慣習となっていることに由来する。
この後に出てくる「パープル」は、どちらとも言い難い州を示す)

[連邦政府の縮小を求める動き]

われわれは、退却する軍隊によって破壊された都市さながらの政府を引き継いだばかりだ。
政府機関はめちゃめちゃにされた ----- はらわたを抜かれた国務省、機能不全におちいった
教育省、学術分野の研究・開発向け連邦支出にかかわる骨抜きにされた機構、等々。
だが、それだけにとどまらない。政府に対するシニシズム(冷笑的態度)が全米に浸透
した。トランプ時代の前でさえ、「政治」は次第に「汚い言葉」になりつつあった。が、
それは今や「有害ゴミの投棄場」である。

わが新政権は、むろんのこと、以前よりもすばらしいアメリカを築くと約束した。
しかし、トランプのおかげで、アメリカ国民は、自分たちの生活もしくは自国の運命
に関して、政府が何らかの役割をはたすべきだとはもはや信じていないらしく思われる。
海外援助を積極的に支持する選挙民はいなくなった。海外の民主主義闘争や平和維持
活動、気候変動に取り組むための協調行動などを支援することは少なくなった。国内
では、移民がどうしても求められなければならない ----- とりわけ、農産物の収穫、
ビルその他の建設、レストラン等の給仕仕事などだが、そのほかにもいろいろある。
しかし、必要書類を持たない移民に対する態度はいよいよきびしくなっている。

アメリカ国民はあやういほど政府機関の民営化に慣れてしまった。NGO(民間非営利
団体)と裕福な財団法人がUSAID(米国際開発庁)の仕事を肩代わりした。米国郵政
公社とアムトラック(全米鉄道旅客輸送公社)の業務を運営しているのは今や私企業
である。金融サービス会社は社会保障制度をカジノに変えてしまった。連邦政府は、
かつては「小うるさい乳母」と馬鹿にされたものであるが、現在では「不法侵入」の
罪を犯していると見なされるしまつである。

選挙民は確かに政治腐敗にうんざりしている。だからこそ、今回、彼らはトランプと
その一派をホワイトハウスから追い出したのである。しかし、これまで何十年と
政府を腐敗行為に結びつけてきたおかげで、多くの米国民は今ではできるかぎり
政府を小さいものにしたがっている。

[甘言と暴力]

米国政府に対する信頼感の急落は、同様に国際レベルでもうかがえる。

「私たちは貴君をタイムアウト・コーナー(訳注・3)に座っていただくことに
しました」。こう、マレーシアの大使が私に告げた。「アメリカが適正なふるまいが
できることを証明できるまでです」。

(訳注・3: 子供などが問題行動を起こした際に、一時的に隔離して反省させるための
場所のこと。通常は部屋の隅など)

私は抗議した。「8年前のことを思い出してください。バイデン政権は国連とうまく
やったじゃないですか」。

「その後はトランプの第2期に突入しました。第1期よりもはるかにひどかった」。

「4年間も部屋の隅になんか座っていられない。世界にそんな余裕はないはずだ」。

「ラッキーだと考えていただきたいところです。一部の国はアメリカを北朝鮮と同じ
ようにあつかいたがっています。制裁を課したり、封じ込め手段に出たり、隔離措置を
採ったり、などなど。MAGAウイルスの伝染を食い止めるためです」。

「だが、諸君はそんなことはできない。われわれは …… 」。

「われわれは超大国だ、とおっしゃる。国際社会に復帰するという貴君の発言のあれこれ
の中で、貴君はまだ謝罪の言葉を述べておられません」。

「トランプはわれわれの側の人間ではなかった」と私。「われわれ新政権はまっとうな
人間たちです」。

「ドイツ人はナチスのしたことを謝罪しましたよね」。

彼女の言には一理あった。が、それを認めるわけにはいかない。「外交のイロハ」の
もう一つの教えには、こういうのもある。すなわち、「アメリカは謝罪する必要など
全然ない」だ。

われわれは今や、国連のすべての機関に再加入した。国連分担金の未納分も支払う
つもりだ(そう、少なくとも肝心の費用分は)。プーチンがもしおろかにも米国の
領土に足を踏み入れた場合は、国際刑事裁判所(ICC)に送還すべく、捕縛し、
収監するつもりである。いや、ちょっと待て。アメリカは、「国際刑事裁判所ローマ
規定」を批准する政治的意思は実際のところ持ち合わせていない。アメリカ人が
進んでやることには限度があるのだ。

「これについては、私に手を貸していただかなければ」と、私はマレーシアの大使に
言った。「貴君の国、また、同様の中所得国が、もし私の居場所を部屋の片隅から移し、
いくらかの敬意を示さないならば、あのMAGA連中が、このおおっぴらな恥辱行為を
逆手に取るでしょう。そして、次の選挙に勝利する。そうなれば、貴君のもっとも
恐れていることが現実になる。MAGA連中の3度目の治世が、まさに恐れているとの
発言通りに、形になるのです」。

「私たちも時には思い切ったことをやってみなければ」。

私は魅惑するような笑みを浮かべた。「石油と天然ガスの輸出代金を割り引くことも
できますよ」

「太陽光パネルや風力の方が安くつきます」と彼女。

戦術転換の要あり、だ。「中国について、いささかご心配なのでは?。南シナ海での
貴国の領土権を擁護するにあたって、多少の手助けがご必要なのではと推察します」。

「貴君はニコニコしていらっしゃる」と彼女。「ですが、これって、実際は脅しです
よね」。

「助力を申し出ているのです」。

「いえ、助力しないことをほのめかしておいでです。ちょうど、前の政権が台湾を
助けなかったように」。

私の笑みは、今や、歯をむき出した、敵意をまじえたものに変わった。「外交のイロハ」
の究極の一手を使わねばならない。「甘い言葉で達成できないことでも、空母を使えば
たいていは達成できる」だ。

「言いませんでしたっけ?」。私は彼女に思い出させる。今度ばかりは明るい喜びを
もってではなく、きびしい決意をにじませながら。「アメリカが帰ってきた。そう
言いましたよね?」。


本文章は『トム・ディスパッチ』からの転載。

書き手のジョン・フェファー氏は、アメリカのシンクタンク『フォリン・ポリシー・
イン・フォーカス』の所長。本文章の初出は、このシンクタンクのウェブサイトである。



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なお、ケアレス・ミスやこちらの知識不足などによる誤訳等がありましたら、
遠慮なくご指摘ください。
(今回の訳出にあたっては、機械翻訳やAIなどはいっさい使用しておりません)

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イスラエル批判を封じ込める動き

2025年06月23日 | 国際政治

(やれやれ、今回の訳出作業をだらだらやっているうちに、イスラエルとアメリカが
イランの核施設爆撃という暴挙に出てしまいました)

イスラエルへの批判を合法的に封じ込めようとする動きが世界で広がっています。
イスラエル政府といわゆる「イスラエル・ロビー」が推し進める戦略です。

日本はアメリカの「属国」であり、イスラエルはアメリカの強力な同盟国ですから、
当然、日本の大手メディアでは、イスラエル擁護の報道が幅を利かせています。
この動きを公正、客観的に伝える報道はあまり期待できません。

この動きは、現代世界における言論抑圧の典型的なパターンの一つでもあります。

原文タイトルは
From the United States to Europe, Criticizing Israel Is Becoming a Crime
(米国から欧州に至るまで、イスラエルを批判することは犯罪行為とされつつある)

書き手は Kit Klarenberg(キット・クラレンバーグ)氏。

原文サイトは
https://www.mintpressnews.com/legal-crackdown-criticism-israel-october-7/289468/

(なお、原文サイトに載せられている写真や図表、文中に埋め込まれているリンク
などの処置は、下の訳文では省略させていただきました)


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From the United States to Europe, Criticizing Israel Is Becoming a Crime
米国から欧州に至るまで、イスラエルを批判することは犯罪行為とされつつある


2025年4月29日

Kit Klarenberg(キット・クラレンバーグ)


アメリカ全土およびヨーロッパの大半で、イスラエルに対する批判とパレスチナ
との連帯は徐々に犯罪行為とされるようになりつつある。それは、イスラエル
政府とその強力なロビー活動の組織網が長年推し進めてきた取り組みであった。

2020年の2月、イスラエル首相で、国際的に指名手配された戦争犯罪人である
ベンヤミン・ネタニヤフ氏は、誇らしげに、イスラエル政府は「アメリカの大部分の
州で」イスラエルをボイコットする人々を罰する「法を推し進めてきた」と述べた。
それは、外国勢力がアメリカのど真ん中で言論の自由をなし崩しにする事態をかいま
見させるものであった。

それ以来、「反ボイコット法」が目立たない形で多数の州に広がり、公共機関や
私企業、さらには個人の請負業者でさえ、イスラエルに忠誠を誓うか、さもなければ、
仕事や契約、資金獲得の機会、等をうしなうリスクに否応なくさらされることに
なった。当初はイスラエル政府を草の根レベルの批判から守ろうとするささやかな
取り組みであったのが、急激にエスカレートして、欧米全体を覆う、言論の自由に
対する大々的な攻撃へと姿を変えたのである。

現在では、圧倒的多数の州がさまざまな法を成立させて、病院や学校などの地方の
組織が、イスラエルをボイコットする個人や会社と仕事をすることを違法としている。
2016年には、インディアナ州の上院がある法を全会一致で可決した。それは、大学
をふくむ政府機関や営利企業、非営利団体に対して、「イスラエルに対するボイコット、
ダイベストメント(投資対象からの除外・投資の停止・投資の引き揚げ、等)、制裁
措置などを推進する行為」にかかわった企業からの義務的なダイベストメントを要求
するものであった。

この法は、イスラエルに対するボイコットを「中東のすべての人々の平和、正義、
平等、民主主義、人権という大義にまっこうからそむき、それらをいちじるしく
損なうもの」と表現した。

いくつかの州が、州知事による行政命令への署名を通じて、似たような法を採用する
に至っている。その中には、州政府の請負業者が ----- 個人であれ、組織であれ -----
契約時に、BDS(訳注・1)への不支持を確約する書面に署名し、法的に反BDSの
立場を明らかにしなければならないものさえある。それは、要するに、イスラエルに
対する忠誠を宣言するものだ、との批判の声があがっている。

(訳注・1: BDS(運動)とは、「イスラエルのアパルトヘイト(人種差別政策)を
終わらせるために、同国に対するボイコット(イスラエル製品の不買その他)、
ダイベストメント(投資対象からの除外・投資の停止・投資の引き揚げ、等)、
制裁措置などを呼びかける国際キャンペーン」のこと。BDSは Boycott(ボイコット)、
Divestment(ダイベストメント)、Sanction(制裁措置)の頭文字をとったもの)

教師をふくむ複数の州政府職員がこれを拒んだために職をうしなう事態も発生した。
2021年の5月に、米連邦裁判所判事の一人は、ジョージア州のこのような法は
「反憲法的な『強制言論』」にあたると裁定した。しかし、州知事のブライアン・
ケンプ氏は、これをものともせず、ほんの数ヶ月後、わずかの修正条項を追加して、
この強制的措置の再導入を図った。

近年のアメリカの国内法におけるイスラエルの途方もない、いよいよ増大しつつある
影響力、そしてまた一方で、それが国内外のパレスチナとの連帯におよぼす破壊的な
帰結は、主流派メディアにおいて、きびしい非難はもとより、事実としてのしかる
べき報道さえ十分になされないままである。

あの10月7日以来、州レベルでの親パレスチナ的感情を犯罪化しようとする動き、
および、この不穏な動きに関するメディアの広範な「オメルタ(沈黙の掟)」の
採用はいずれも大幅に増加した。ところが、このような不穏な展開はアメリカだけ
にとどまるものではなく、ますます多くの国がそれを進んで受け入れており、
ガザの大量虐殺にひそかに手を貸す状況を生み出している。

[劇的な高まり]

アメリカに拠点を置くイスラエル支持派団体 ----- いくつかの著名なユダヤ人擁護
団体をふくむ ----- が、あの10月7日の出来事をみずからの目的のために利用しよう
とした、その驚異的なスピードを如実にあらわす事例がある。その10月7日、
パレスチナ側の戦士がガザの悪名高い「人種隔離壁」を突破したが、その約2週間半後、
共和党議員のマイク・ローラー氏は「下院提出法案第6090号」、通称「反ユダヤ主義
認知法」を提案した。

同氏はイスラエルのロビー団体から多額の金を受け取っている代表的な人物である。
その中で特に大きな影響力を持つAIPAC(米イスラエル広報委員会)は、同氏に
対して2023年と2024年だけでも39万2669ドル(約5650万円)を提供し、同氏への
最大の資金供与者となっており、2位以下のそれとは相当の差をつけている。同氏の
提案したこの法案の帰結はおそらく、米教育省が、『国際ホロコースト記憶連盟』
(IHRA)による「反ユダヤ主義」の、きわめて議論の余地のある「暫定的定義」を
考慮に入れなければならなくなる事態である(その定義は、イスラエル政府に対する
批判を「反ユダヤ主義」とほとんど同一視していると批判されている)。それは、
たとえば、ハラスメント(迷惑行為、いやがらせ)事案において、その動機が
「反ユダヤ主義」に発するものかどうかを審理する際などに問題となる。同連盟の
定義は、1964年の公民権法第6編の趣旨に反するものではないかという懸念を呼び
起こしている。

この1964年の公民権法第6編の支持者は、この法が、大学をふくむ、「連邦政府から
資金援助を受けているプログラムと活動において、人種、肌の色、国籍を根拠として
差別することを禁じる」と述べていることを引き合いに出す。一方、「下院提出
法案第6090号」は、大きな影響力を持つほぼすべてのイスラエル支持団体がおおやけに
後押ししている。その代表的なものは『アンチ・ディファメーション・リーグ
(名誉棄損防止同盟)』(略称ADL)である。

『国際ホロコースト記憶連盟』(IHRA)による「反ユダヤ主義」の定義に対しては、
多くの人々が批判を寄せている。たとえば、法律家のケネス・スターン氏だ。同氏は
そもそもその定義の起草に手を貸した人物であるが、結局、それがイスラエル政府に
対する正当な批判を「反ユダヤ主義」と不当に同一視していると難じた。また、
ACLU(米国自由人権協会)は、この「下院提出法案第6090号」が招来する明瞭な
危険性について警告を発している。すなわち、アメリカの教育機関は、「連邦政府に
よる資金援助の打ち切り」を恐れて、「イスラエル政府とその軍事行動を批判する
ような学生や教職員の言論を制限」するであろう、と。

旧来の米国法はすでに連邦政府が資金拠出する組織における「反ユダヤ主義」的な
差別やハラスメント(迷惑行為、いやがらせ)を禁じている。したがって、上記の
法案はまったく必要がない。

それは明らかに、また、はなはだしく、基本的な自由の権利に脅威をおよぼすはず
であるし、規模の大きなユダヤ人団体(『ジェイ・ストリート』、『平和を求める
ユダヤ人の声』など)からさえもきびしく批判されている。ところが、それにも
かかわらず、大手メディアはこの話題をほとんど取り上げない。さらには、連邦
議会において、この法案は圧倒的な投票差 ----- 320対91 ----- により支持されたの
である。

が、結局、上院はこの法案の検討を取りやめた。すると、民主党議員のジョシュ・
ゴットハイマー氏 ----- 上のAIPAC(米イスラエル広報委員会)から2023年と2024年
に79万7189ドル(約1億1600万円)を受け取っている ----- は、2月にこの法案を
ふたたび提出した。この間、米国議員はまたもやイスラエルに明らかに好ましい
方向で、非常に憂慮すべき一歩を踏み出した。

2023年の11月28日に共和党議員のデヴィッド・カストフ氏 ----- これまたAIPAC
(米イスラエル広報委員会)から恩恵を受けている人物の一人 ----- が下院決議案を
提出したのである。それは、10月7日以降のアメリカおよび「世界中」の「『反ユダヤ
主義』の劇的な高まりを強く非難する」ものであった。『国際ホロコースト記憶
連盟』(IHRA)による「反ユダヤ主義」の定義を引き合いにだしつつ、同決議案は、
米国憲法修正第1条で保障されているはずの、広く使われているスローガン -----
パレスチナとの連帯を呼びかける「川から海まで」、「パレスチナは自由になるだろう」、
「ガザは勝利するだろう」 ----- が、大量虐殺をあおる性格を持つと断じるとともに、
同月の民主党全国委員会の集会における夜を徹しての座り込み抗議が人の命をあやうく
する危険性があったと主張した。

決議案の締めくくりは、「『反シオニズム』は『反ユダヤ主義』であると明確かつ
断固として述べる」よう議会に要求するものであった。そして、はたして議員たちは
とびきり熱心にそうした。全体で、決議案に賛成票を投じた議員は311名、反対は
わずか14名であった。

メディア番組の司会者で、人権や反帝国主義関連の問題に注力する活動家である
ニコ・ハウス氏は、以下のように信じている。これらの試みは、市民的自由を
おびやかす法的手段の正当化を図るやけっぱちの努力であって、もし他の国 -----
アメリカ自身もふくめ ----- が標的と見なされていたら、とても考えられないもので
あろう、と。

「これらの法案は、もし実際に立法化されたならば、政府当局に広範な裁量権を
付与することになり、パレスチナの人々が現在こうむっているし、これまで75年
以上にわたりこうむってきた前例のないレベルの差別に関心を向けるよう呼びかける
人間の誰に対しても、罪を問うことができるようになります」。こう、ニコ・ハウス
氏は本『ミントプレス・ニュース』に語った。同氏はとりわけ「下院提出法案第
6090号」に対し侮蔑の念を抱いている。すなわち、

「私は、黒人として、米国議会が親パレスチナ的感情を犯罪視するとは言わない
までも、それを表現させないために公民権法を利用することを、きわめて人を
馬鹿にした話であると感じます。パレスチナの人々は、イスラエルの建国以来、
さまざまな形の差別 ----- 行動範囲の制限の点であれ、どんな教育機関でも参加
できる自由や自分で選んだどんな職業にも就くことができる自由の点であれ、
あるいは、いかなる施設も差別されずに同じように利用できること、また、食べ物
や水のような基本的に必須な物資を入手できること、等々の点であれ、いずれに
せよ、このような差別をずっとこうむり、苦しんできました。公民権法はまさに
これらの差別に抗し、人々を守るために作られたはずです。しかも、ガザでの大量
殺戮はこのような事態をよりいっそうひどいものにしています」。

[批判者を標的に]

このようなイスラエル擁護のための厚顔無恥の「法律戦」は、現代の米国政治の
長年の伝統となっている。1977年には、米国輸出管理法と米国税法に対する2つの
修正条項が可決された。言葉の上では、これらの条項はアメリカに「友好的」と
見なされているいかなる国に対するボイコットにも、米国市民と企業が参加する
ことを禁じるものであった。しかし、実際には、その特に意図するところは、
アラブ連盟によるイスラエルへの長期にわたる禁輸措置に対抗し、その影響を中和
することであった。アメリカの同盟国の大半はこの条項にしたがったが、中には
皮肉にもイスラエルとの関係をそこなう結果に帰着した例も生じた。

1987年には、レーガン大統領がパレスチナ解放機構(PLO) ----- 当時はパレスチナの
人々を正当に代表する存在と広く考えられていた ----- を「テロリスト組織」に指定
した。ただし、翌年には「適用除外」にしたおかげで、ホワイトハウス職員と
同組織との「接触」は許容された。

このあいまいな処置によって、同組織はワシントン事務所の閉鎖を余儀なくされたし、
公式的には大半の外交上または資金調達上の国際的取り組みを停止せざるを得なく
なった。が、一方で、アメリカ政府は、法的な影響を受けずに、同組織の指導者と
交渉を続けることができた。

10月7日以後の米国議会のある試みもまた、やはり長年のおぞましいイスラエル擁護の
ための「法律戦」であると人に感じさせるものだ。2023年12月12日、マリアネット・
ミラー・ミークス議員は「下院提出法案第6578号」を提案した。同議員は熱烈な
イスラエル支持者で、イスラエルのロビー団体から莫大な額の献金を受け取るとともに、
数多くのイスラエル寄りの措置を共同提案したり、それに賛成票を投じたりしている。
それらの措置は、パレスチナ人の権利を抑圧するもの、米国憲法修正第1条にそむく
ものと批判を受けている。この「下院提出法案第6578号」は、「反ユダヤ主義行動研究
委員会」の創設を公式に求めている。

この法案の条項が「反ユダヤ主義」に言及するのは、もっぱら10月7日以降のガザでの
イスラエルのふるまいを批判する文脈の中においてである。法案提出にあわせた
報道陣への発表で明らかにうかがえることは、法案が念頭に置いている標的が
パレスチナとの連帯を謳う活動家 ----- 中でもとりわけ大学の学生たち ----- である
ことだ。法案では、米国の一般市民や団体によるイスラエル批判を議会が公式に
調査することが推奨されている。また、証拠提示のために召喚されたいかなる人間も、
証言の際、憲法で保障された黙秘権を主張することが禁じられる見込みである。

『中東和平財団』の理事長であるララ・フリードマン氏は、この法案を、あの悪名
高い「非米活動調査委員会」の現代版を作ろうとする悪質な試みと一蹴した(同
委員会は、冷戦時代に、共産主義の支持者と疑われる人間を調査する組織である)。
1938年に上院議員のジョー・マッカーシー氏が創設したこの組織は、民間人や国家
公務員、公共機関、政府機関、等々の政治嗜好をくわしく探った。その過程で、
数え切れないほどの経歴や人生がめちゃくちゃにされた。フリードマン氏の非難の
言葉によれば、「下院提出法案第6578号」は意図してこの「非米活動調査委員会」と
同じことをしようとしている、「ただし、今度は、イスラエルの批判者がその標的
です」、と。

[混乱をまねく政策]

このような弾圧的な法の波がアメリカだけにかぎったことだと考えるのはまちがって
いる。また、それがガザでの大量殺戮をもっぱらの契機として生まれたと考えるのも
やはりまちがいである。ドイツ政府は長年、イスラエルの違法な核兵器開発プログラム
をひそかに支援してきた。そして、10月7日以降、パレスチナとの連帯をかかげる
活動家や活動団体に対して、前例のないきびしい締めつけを開始した。そのやり方は
さまざまで、抗議デモに参加する人間すべて ----- 年齢、性別を問わず ----- に対し、
警察当局が容赦なく暴力をふるう、あるいは、パレスチナ支持のスローガンの詠唱を
呼びかけた中心人物などに市や州の裁判所が有罪の判決をくだす、一般のデモで
外国語を話すことを制限する、等々の例があげられる。

ドイツの市や州の行政当局は、赤い逆三角形(パレスチナの抵抗運動の一部の闘士が
もちいるシンボルマーク)の公衆の場での表示を禁じたか、もしくは、禁じることを
検討中である。また、2024年6月現在の時点で、ドイツの市民権を取得しようとする
人間は、ユダヤ教とユダヤ人の生活についての知識を問われることになっている。
彼らは、「ドイツの理念」を遵奉することを明らかにするために、イスラエルが国家
として存在する権利を認める旨を宣言しなければならない。法律専門家や権利擁護
運動家の間では、市民権取得の条件として外国政府への政治的支持を要求することが
憲法にかなうかどうかあやぶむ声が幅広くあがっている。

このような法的締めつけの波はドイツだけにとどまらない。英仏海峡をわたると、
そこでもやはり似たような、異議申し立てに対する締めつけの強化が見られる。
2024年2月、英国でテロ犯罪の廉で、3人が有罪判決を受けた。彼らはパレスチナ
との連帯をかかげる抗議運動でパラグライダーの画像を使用した。それがハマスの
「ふるまいを賛美すること」にあたるという、議論の余地のある根拠に基づいての
裁決であった。その後も、英国では、ハマスを「支援」しているという申し立ての
下に、パレスチナ支持派の活動家やジャーナリストらが何人も逮捕や家宅捜索、
訴追、等々の憂き目にあっている。こうした事態をふまえて、国連は2024年12月、
英国政府の「あいまいで、過度に広範な」反テロ法の適用について、警告を発した。

これらの法は「支援」なる言葉を定義していない。それは、国連の信じるところに
よれば、異論をとなえる人間がこれらの法の広大な網にとらえられるリスクを高める
ものだ ----- 彼らは、普通ならば、 非合法の組織(その政治部門もふくめ)による
「暴力的なテロ行為」を是認しているなどと批判を受けることはないはずなのである。
国連のこの勧告をものともせず、英国政府は、以後もパレスチナとの連帯を
うったえる人々に対するハラスメント(いやがらせ・妨害行為)をつのらせる一方
であった。

ナイラ・カウサー氏は目下、テロ対策担当の英警察当局から聴取を求められている
活動家である。ソーシャル・メディアでの同氏のものとされるパレスチナ擁護の
発言が問題視された。本『ミントプレス・ニュース』に、同氏は以下のように語った。

「パレスチナの大量虐殺に抗して声をあげる活動家やジャーナリストを迫害する
ことは、ファシズムに奉仕する、法の濫用と表現するほかありません。世界の
いろいろな法、たとえばジェノサイド条約などにそむいているのは英国政府の方
であって、そういう法にそむきながら、情報の提供や兵器輸出、イスラエルの戦争
犯罪人たちへの外交的保護 ----- つい最近でも、その外相が半ば公然と英国に来て
います ----- などを通じて、イスラエルを支援し続けているのです。英国政府が
占領に抗して闘う人々を排斥することはまた、国際的に認められた、抵抗する法的
権利をなしくずしにするものです」。

オンライン・メディアの『エレクトロニック・インティファーダ』の編集者である
エイサ・ウィンスタンリー氏は、2024年の10月のある早朝、テロ対策担当の警察
部局からロンドンの自宅を急襲され、電子機器を持ち去られた。その同氏は、本
『ミントプレス・ニュース』にこう示唆する。英国政府が2016年12月に『国際
ホロコースト記憶連盟』(IHRA)によるおかしな「反ユダヤ主義」の定義を採用した
ことが、イスラエル政府の犯罪行為に対する「合法的な異議申し立て、抗議、政治
行動」を標的とする一連の弾圧において、一定の役割をはたしたかもしれません、と。
同氏はまた、次のようにも述べた。異論の多いこの定義 ----- 一部の報道では、
イスラエルの諜報機関の働きかけが指摘されている ----- は、「ユダヤ人、あるいは
他のいかなる人間であろうと、彼らを守ることとは関係がありません。そのもっぱらの
ねらいは、パレスチナ人とその支持者たちを犯罪者あつかいすることです」。

ウィンスタンリー氏は、2019年にロンドン市議会が『国際ホロコースト記憶連盟』
(IHRA)による「反ユダヤ主義」の定義をもちいた、めざましい例を引き合いに出す。
ガザの子供たちにスポーツ用品を送ろうとの趣旨の寄付金集めのために市内の公園を
バイクでめぐる催しがパレスチナ支持者らによって企画されたが、市議会はこれを
許可しなかったのである。「この催しは直接的な政治行動ではありません。ユダヤの
人々とはまったく関係がなかった。差別的行動ではなかった。純粋な連帯感情の
もっとも軽いレベルの表現です。ところが、こんな行為さえ、当局からすれば、
『国際ホロコースト記憶連盟』の見方と衝突すると見なされるのです」。

[倫理的な権威]

2023年6月、英国議会では、もったいぶった名前の「公的機関の経済活動(海外関連)
法」が検討され始めた。この法の主旨は、公的機関が「外国政府に対し、政治的
もしくは倫理的な非難を示唆する形の」投資や調達をおこなうことを禁ずるものである。

あわせておこなわれた報道向けの発表では、この法の直接的な目的はイスラエルと
関係のある「事業と組織」を守ることであるとはっきりと明かされた。法案を提出
した大臣のマイケル・ゴーヴ氏は、上記のBDS(運動)について、次のように語って
いる。

「これらの取り組みは、わが国の外交政策を弱体化するだけでなく、おぞましい
『反ユダヤ主義』の言説と濫用をまねき寄せるものです。そこで、われわれは、
かかる有害な企てを断固阻止するために、今回、きっぱりとした行動にうったえ
ました」。

この法の影響を受ける組織は多岐にわたる。地方の自治体から大学までさまざまで、
その影響はあらゆる点で深刻だ。組織はもっぱら政府職員の個人的な裁量だけで
調査され得るし、違反とされた場合は、巨額の罰金を課せられる。1980年代、
英国政府がアパルトヘイト(人種差別政策)を採る南アフリカ共和国に対する制裁
措置や非難声明に加わらなかった時、まさにこの法が標的とするような組織が、
同国をボイコットする措置に踏みきった。もしこの法が当時成立していたならば、
そのようなふるまいは完全に違法とされていたであろう。

事態をさらに深刻にすることだが、この「反BDS法」は国連の数多くの裁定に
そむくとともに、英国政府自身の公式の立場とも矛盾している。すなわち、
イスラエルの入植は「国際法の下で違法であり、平和に対する障害を構成し、
イスラエル・パレスチナ紛争に関する二国家共存案を危うくする」ものだという
のが、長年の英国政府自身の公式見解であった。したがって、英国の民間部門は、
当該入植地で事業をおこなうことを政府当局からひかえるよううながされるほど
であった。ところが、今や、公共機関は、まさにこのような助言にしたがうことを
法的に禁じられるかもしれないのだ。

とは言え、抵抗可能な法の場は依然として残されている。本『ミントプレス・
ニュース』でも以前に報じたが、多数の司法判断と前例は、ジェノサイド条約の署名国
----- 英国もそうである ----- がジェノサイドを阻止するために「合理的に利用できる
あらゆる手段を使う」ことを必須としている。さらには、ジェノサイドに関与して
いる国に対して援助を停止しないことは、ジェノサイド条約の第1条に違反していると
見なされ得る。この点が、英国政府の新「反BDS法」に対する法的な防衛策となる
かもしれない。上記のナイラ・カウサー氏 ----- 同氏自身、英国の直近の政策の標的と
なっている ----- は、以下のように結論づける。

「ジェノサイドを擁護する法は正当性を持ちません。そして、そのような法を押しつけ、
ジェノサイドを可能にする国は倫理的権威をそなえません。彼らは私たちを黙らせ
たがっています。しかし、私たちはこれらの弾圧に抵抗し続けなければなりません。
目下続いているジェノサイドについてはもちろん。私たちの持てるあらゆる手段を
使い、パレスチナが解放されるまでは」。


キット・クラレンバーグは調査報道にたずさわるジャーナリストで、本『ミント
プレス・ニュース』の寄稿者。政策と世論の形成にかかわる諜報機関の役割を追究
している。その文章はこれまで『ザ・クレイドル』、『ディクラシファイドUK』、
『グレイゾーン』などに掲載された。個人のツイッターは Twitter @KitKlarenberg



-----------------------------------------------------------------

[訳注・補足・余談など]

■[余談]

文中の、

「この法は、イスラエルに対するボイコットを「中東のすべての人々の平和、正義、
平等、民主主義、人権という大義にまっこうからそむき、それらをいちじるしく損なう
もの」と表現した。」

について。

この文言にはあきれてしまいます。
そもそも、イスラエルに対するこのようなボイコットなど(BDS運動)が始まり、
広まったのは、イスラエル政府自身がパレスチナの人々に対する「平和、正義、
平等、民主主義、人権という大義」を踏みにじってきたからです。
いったい、どんな経緯で、こんな文章が堂々と書きつけられるのか。

しかし、国際政治や外交の世界では、このような厚顔無恥が日常茶飯事なのです。


■[補足]

今回取り上げた、アメリカ政府に対するイスラエルの途方もない影響力については、
本ブログの以前の回でも何度かふれました。
その代表的なものは、

・イスラエルのスパイ活動には沈黙する米国の政治家と大手メディア
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/98e7e052d9900d90ae2355f35ea7c960

です。こちらもぜひ参照してください。

また、イスラエルに関する報道の偏向については、直近でも、以下でふれました。

・『ニューヨーク・タイムズ』紙の偏向報道 ----- 最近の事例
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/b9899f36a1fde8b5e94719e3eb73045b



なお、ケアレス・ミスやこちらの知識不足などによる誤訳等がありましたら、
遠慮なくご指摘ください。
(今回の訳出にあたっては、機械翻訳やAIなどはいっさい使用しておりません)

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前回の文章に関する「訳注・補足・余談など」・2

2025年05月09日 | 国際政治

前回の文章に関する「訳注・補足・余談など」・2

■[余談・3]

中ほどの段落の文章、

「 ~ イスラエルやウクライナへのアメリカの支援には、ユダヤ人やウクライナ
国民を手助けしようという動機がいくらかでも含まれていると考えるのは大きな
あやまりと言えよう。それはプロパガンダにすぎない。実際にはアメリカの国益の
追求なのである。それは、スエズ運河をアメリカの船舶がつねに自由に行き来できる
ようにしておくため、あるいは、ロシアを世界のビジネスの主潮流に加わらせない
ようにし、制裁措置によって惹起された農産物や鉱物の供給不足から巨額の利益を
フトコロにするため、であったりする。が、いずれにせよ、アメリカの国益の追求
であることには変わりがない。」

について。

ここでは、アメリカがイスラエルを支援する理由の一つとして、スエズ運河の確保
という要素が挙げられています。
アメリカがイスラエルを支援する理由は、石油資源の豊かな中東でアラブ諸国または
イスラム教国が一丸となってアメリカに対抗するという事態を避けるため、中東に
イスラエルというキリスト教圏に属するイスラエルをくさびとして打ち込んでおく、
イスラエルをアメリカの軍事力の前線基地としておき(アジアにおける日本の役割と
同じです)、周囲ににらみを効かせる、というのが大きなものと考えられますが、
そういう役割の中には、スエズ運河の安全確保・警固も含まれているということ
でしょう。

トランプ大統領は、グリーンランドだけではなく、パナマ運河の領有にも言及して
いました。パナマ運河にしろスエズ運河にしろ、いずれにせよ、アメリカ企業(特に
多国籍企業)にとっては、支障なくこれらの運河を自由に行き来できることが商売上
きわめて重要であることは言うまでもありません。
(もちろん、企業の商売上の話だけではなくて、アメリカが世界各地に軍隊を派遣する
場合でも、運河を支障なく通行できることが必須です)


■[余談・4]

最後から2番目の段落の文章、

「人を納得させる力をそなえるのがそもそもプロパガンダというものである。
世界の中で、19世紀中葉までに国家意識と国家体制を強固なものにし、その後、
国家としての独自の「物語」と全国メディアを成長させてきた国々は、大抵の
場合、そのために戦い、死んでもよいとさえ思わせるような国との一体感や国
としての目的意識を国民に浸透させることに成功してきた。」

について。

これはまさに日本にも当てはまることですね。
第二次大戦中、「八紘一宇」だとか「大東亜共栄圏」だとか、いろいろな美辞麗句が
用いられました。「日本は『神の国』」という言い回しは近年でも使われました。
これら国家として独自の「物語」を構築し、全国メディア(大手新聞など)で普及
させました。その結果、「そのために戦い、死んでもよいとさえ」思った多くの
青年が特攻隊などで命を落とすことになったわけです。
(もっとも、このようなプロパガンダ、美辞麗句がすべて「悪」であるとは一概には
言えないでしょう。が、ここでは、これ以上この問題に踏み込むことはやめておきます)


■全般的に訳文について。

ケアレス・ミスやこちらの知識不足などによる誤訳等がありましたら、遠慮なく
ご指摘ください。
(今回の訳出にあたっては、機械翻訳やAIなどはいっさい使用しておりません)

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前回の文章に関する「訳注・補足・余談など」・1

2025年05月08日 | 国際政治

[前回の文章に関する『訳注・補足・余談など』・1]

■[補足・1]

今回の文章の書き手である David Rovics(デヴィッド・ロヴィックス)氏は、その筋
ではよく知られている方であるらしい。

原文サイトの末尾の紹介文は、
--------------------------------------------------
デヴィッド・ロヴィックスは頻繁に世界各地に出かけているシンガーソング
ライターであり、政治評論家。オレゴン州ポートランド在住。ウェブサイトは
davidrovics.com。
--------------------------------------------------
と、短いものですが、日本語の、あるブログでは、以下のように書いてありました。

--------------------------------------------------
ニューヨーク生まれのシンガーソング・ライター。音楽を通じて「プログレッシブ・
ムーブメント」を実践し、1990年代半ばからは北米だけでなく、ヨー ロッパ・南米・
中東など各地の集会などで歌う。その歌詞はイラク戦争・パレスチナ占領・
グローバリゼーションなど様々な問題をテーマとしたもので、多くのアクティヴィズム
の場で共感を広げている。2007年6月にはドイツ・ロストックG8サミットの抗議集会で
演奏。続く今夏の日本ツアーでは、このキネマフェスタのほか、広島・長崎の反戦平和
集会や東京、宇部、京都、大阪のライブハウスなどでも公演!
--------------------------------------------------
https://irregularrhythmasylum.blogspot.com › 2007/07


■[補足・2]

中ほどの段落にある次の文章

「 ~ 彼らがしかと認識していないように思えることは、彼ら自身が目下大ハリキリで
解体しようとしている政府機関が、いくぶん間接的なやり方ながらも、やはりこれらの
利益を増進するのに役立ってきた、という事実である。」

について。

ここの「彼ら自身が目下大ハリキリで解体しようとしている政府機関」は、たとえば、
USAID(米国際開発庁)が文章の後半の方で言及されていますが、この組織がアメリカの
帝国主義的「利益を増進するのに役立ってきた」点については、本ブログの以前の回の

USAID(米国際開発庁)のダーク・サイド
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/f7aa25621c755ab2358f8d02d6a73a29

で少しくわしく取り上げました。ぜひ参照してください。


■[訳注・1]

同じく、中ほどの段落の文章

「現実には、第二次世界大戦におけるアメリカの勝利は、同国の植民地と「新植民地」
のネットワークを世界中に広げる土台を整えさせることになった。それが組織されたのは、
総じて、富と資源の収奪が目当てであった。」

について。

ここの「新植民地」の原語は neocolonies ですが、この単数形の neocolony は英和辞典には
載っていないようです。
しかし、neocolonialism は普通に「新植民地主義」または「ネオコロニアリズム」として載って
います。
おそらく、書き手は、この neocolonialism を基にして neocolony という言葉を使ったものと推測
されます。

neocolonialism(新植民地主義・ネオコロニアリズム)とは、
「政治的には独立を与えながら、経済的な支配を維持しようとする植民地主義の新しい形態」
(日本国語大辞典)
ということですから、ここから、「neocolony(新植民地)」とは、
「政治的には独立を与えられながら、経済的な支配をこうむっている国または地域」
を意味することになるでしょう。


■[余談・1]

上の箇所の

「それが組織されたのは、総じて、富と資源の収奪が目当てであった。」

について。

「資源の収奪」と言えば、トランプ大統領はグリーンランドの領有を望んでいます。これも、
グリーンランドの天然資源の収奪がねらいです(もう一つのねらいは、同地に軍事拠点
を作ること)。
ウクライナとロシアの和平交渉の仲介においても、トランプ大統領はウクライナと鉱物協定を
結び、「資源の収奪」を図っていますね。

また、イスラエルがパレスチナのガザ地区その他の領有を目指しているのも、やはり同地域の
天然資源の獲得がそのねらいの一つであることは、本ブログの以前の回の

英国のメディア監視サイト・5-----英大手新聞が不都合なブログ?を突如打ち切り
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/d714be457f4b9fe38f20fff62a6f7bdc

でも取り上げました。


■[余談・2]

中ほどの段落の文章の

「 ~ 一部のユダヤ人がシオニスト運動 ----- パレスチナ人から土地を奪取し、自分たちが
移り住むこと ----- を推進したがっていることは、アメリカの帝国主義者たちにとっては
都合がよいと考えられた。その結果、他の入植植民地主義の施策と同様、それは、多くの
点で、可能性としては一応きわめて利益の見込める投資事業と見なされ、支持された -----
少なくとも支配者層に属する少数の人間にはそうであった。」

について。

トランプ大統領は少し前に、ガザを高級リゾート地にする考えを披露し、AIを使った「未来の
ガザ」の動画をネットにかかげ、物議をかもしました。
トランプ大統領に限らず、アメリカの支配者層にとっては、ガザの問題も「利益の見込める
投資事業」、不動産その他の投資案件ということのようです。


「前回の文章に関する『訳注・補足・余談など』・1」はここまで。
2に続きます。

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トランプとその側近たちは、これまでのアメリカ政府のプロパガンダの犠牲者?

2025年05月07日 | 国際政治

今回は、トランプ大統領とその側近たちの思考回路を理解するのに参考に
なると思われる文章です。

原文タイトルは
The Stories We Believe
(われわれが信じている話)

書き手は David Rovics(デヴィッド・ロヴィックス)氏。

原文サイトは
https://www.counterpunch.org/2025/03/27/the-stories-we-believe/

なお、いつもの末尾の [訳注・補足・余談など] は長くなりそうなので、後日
あらためて書き込むことにさせていただきます。


-----------------------------------------------------------------

2025年3月27日

The Stories We Believe
(われわれが信じている話)


デヴィッド・ロヴィックス


例の「シグナル」での会話をめぐって考えたことを以下に記す。

漏洩した、例の「シグナル」での会話 ----- トランプの最側近たちが絵文字を
ふんだんに使って、イエメンの爆撃計画に関し、その手順や時間などを議論
した ----- をめぐる報道機関の焦点は、とりわけ彼らの無能ぶりに置かれて
いるように思われる。このような最高機密事項を普通のメッセージング・アプリ
を使用して論じ、さらには、あやまって『アトランティック』誌の編集長も
参加させてしまうとは、世界に冠たる軍事大国の指導者層に属する人間たち
であるはずなのに、なんたる恐るべき無能ぶりであることよ、というわけである。
そして、これはまさしくその通り。

しかし、この事件は別の側面もあらわにしており、そして、それは、報道では
それほど広く取り上げられてはいない。その側面というのは、これらトランプ
の最側近たちが一種の自己欺瞞にどっぷり浸かっているらしいことである。
そして、それは演技ではない。彼らが「たぶらかされた国粋主義者」の役を
演じているのでないことは明らかだ。彼らは実際に根っから完全に「たぶらか
されている」。たんにマスコミの言説をかつて一度うのみにしただけではない。
幼い頃からそれをずっと飲み続けて大人になったようなのだ。そして今や、
その中で泳ぎ回っている。

目下彼らが対処している地政学に関し、いかなる論が展開されているかに注目
すると、彼らは以下の点を実際に信じているように思われる。いわく、NATOは
防衛のための組織である。いわく、アメリカは何らかの形で欧州を守っている。
いわく、欧州はこれまで自分たちに都合のいいようにアメリカを利用してきた。
いわく、アメリカは「世界の警察官」の役割を引き受け、一種の自己犠牲に
ずっと身をささげてきた ----- この役割の中には、欧州のために海上交通路を
警固するという報われない仕事も含まれているらしい ----- 、等々。

今回の「シグナル」での会話は、しばしば必要不可欠と考えられるが一般国民に
知られてはならない、そういう類いの会話の一例であるにすぎない。けれども、
この会話だけをとってみても、それは、われわれの多くがずっと前に言及した、
ある見方を非常に強く裏づけるように思われる。すなわち、あらたに台頭した
これら極右の指導者たちは、以前の世代のタイプの大方とはちがっているらしい
----- 自分たちの欺瞞的な政策を国民に売り込むために、その一手段として
プロパガンダを使っているという風ではなく、彼ら自身、当該のプロパガンダ
を信じ込んでいる、という点において ----- ということである。

われわれ米国人はお金が支配する社会に生きている。アメリカで物事がいかに
動いているかをきちんと見ているまともな人間なら誰にでもそれは明らかな
ことである。しかし、一方で、われわれは、政治家たちが、民主党、共和党を
問わず、そのようなありふれた見方を言下に否定するのをしょっちゅう耳に
する。「自分たちは国民のためを思ってやっているのだ」、と。企業のお偉い
さん方のためではない、と。にもかかわらず、彼らは巨額の企業献金を受け取り、
その後、富裕層対象の税を減免したり、企業収益に足かせとなるような規制や
監視機関を撤廃したりするなどの措置を講ずるのである。

われわれは、近代民主主義の父祖の地と称されるこの国で、大して民主主義を
享受してはいない。わが国はずっと金持ち連中が支配してきた。われわれは、
憲法修正第1条を持つこの国で、言論の自由をたっぷりと謳歌しているわけでは
ない。活字の上ではいつ眺めてもうるわしいことである。しかし、実際には、
しかるべく行使されてはこなかった ----- 当該の言論が支配者層に批判的である
場合には。

これらのプロパガンダはつねにあからさまな嘘であり続けた。しかし、プロパガンダ
機構の構築者の子孫たちによって、それは次第に事実に基づくものとして内面化
され、信じられるようになったらしい。今回の「シグナル」における会話は、
ある程度の自己欺瞞、プロパガンダ機関による一種の自業自得を証するものだ。
それは、これらの側近たちが嘘をつき、嘘をついていることを自覚している
場合よりも、ある意味でずっとたちが悪いように思われる。彼らがもし自分
たちの発しているプロパガンダを信じているのならば、次にはいったいどんな
ことを信じるに至るであろうか。

これらトランプの側近たちがどっぷりと身をひたしているプロパガンダは、
「冷戦」と呼ばれる時代のそれにおおむね端を発している。その多くはこれまた、
それより前の時代のプロパガンダに由来している。とはいえ、やはり現在
われわれが冷戦時代と捉えている時期に生まれたプロパガンダが大部分を占めて
いることは確かだ。そういう次第であるから、われわれにとって有益な取り組み
と考えられるのは、冷戦の実態に対するアメリカ政府のプロパガンダの基本的
な教義をふり返り、それを、政策を形づくる実際の動機と対比させてみること
である。アメリカ政府の政策にとって、「冷戦」なるものは、そもそも正当化
することがきわめてむずかしい政策を正当化するためにひねり出された、
ほとんど理不尽な話であった。

実態に対するプロパガンダとしては、アメリカはかたじけなくも欧州その他の
同盟諸国の安泰と安全保障に長い間気をくばってきたということになっている。
巨額の金をついやして、世界のために自身が「世界の警察官」たる役割を引き
受けてきたということになっている。実際には、はるかに大きな関心が、
アメリカ自身の帝国主義的利益と企業利益の増進、および、欧州をこの企てに
加わるよう強くうながすことに向けられていた。アメリカのあらたな支配者
たちは、自分たちはもう他国に恩恵をほどこすことをやめる、今はもうアメリカ
の国益だけを気にする、と、こう、のたまう。そして、その国益とは、彼らに
とって、アメリカの企業エリートたちの利益を意味する。彼らがしかと認識
していないように思えることは、彼ら自身が目下大ハリキリで解体しようと
している政府機関が、いくぶん間接的なやり方ながらも、やはりこれらの利益
を増進するのに役立ってきた、という事実である。

ここ1世紀かそこらで、実態とそれに対するプロパガンダに関して、トランプの
側近たちの心の中で進行しているかもしれない思考をより深く理解するのに
役立つかもしれない、主な出来事のいくつかをもう一度ふり返ってみよう。

まずは第一次世界大戦から。プロパガンダが提示する解釈は、アメリカは欧州の
ある国々を他の欧州の国々から救うために介入したというものであった。という
のも、結局、戦争の一方の側がもう一方の側よりも好ましいとウィルソン政権が
判断したからである。

実際は、アメリカが戦争に加わったのは ----- それも、かなり遅い段階で、
である ----- 、後々、大国間で戦争の戦利品を分け合う際に、より有利な
ポジションを得るためであった。

また、第一次大戦の頃は、アメリカの労働運動(そしてまた、他の多くの国々
でも)は非常に規模が大きく、好戦的なものであった。労働組合に入っている
労働者は、むろん、ストライキに訴えようとしたし、街頭で一般公衆に語りかけ
ようとした。が、彼らに対する弾圧は熾烈であった。なにしろ、労働運動は、
産業界のオーナーたち ----- 政府がその代弁者である ----- の利益をおびやかす
ものだったからである。

当時さかんに吹聴されていたプロパガンダの言説は、社会の問題は、労働者の
仕事がないことや食うものがないこと、安全でない環境で働いていること、
生活費をまかなえないこと、等々ではない。問題は、移民が多すぎること、
移民は、大半が共産主義者や無政府主義者、もしくは、当時「ドイツのスパイ」
と見なされたり、後の1917年ぐらいには、「ボルシェビキ」と呼ばれた人々、
あるいは、ロシア革命の支持者と考えられた人々、であること、とされた。
彼らは、混乱状態を創出し、われわれの偉大な民主制を破壊したがっている、
とも言われたのである。

第二次世界大戦に関して言えば、アメリカ国民は大挙して自己を犠牲にしよう
とした。戦争はファシズムに抗するもの、自由な国の人々をこの悪から守る
ための戦いと説明され、人類の幸福 ----- とりわけヨーロッパに暮している
人々の幸福 ----- をめぐる懸念からそうしたのであった。

現実には、第二次世界大戦におけるアメリカの勝利は、同国の植民地と「新
植民地」のネットワークを世界中に広げる土台を整えさせることになった。
それが組織されたのは、総じて、富と資源の収奪が目当てであった。それは
おそらく金持ちをいよいよ富ませ、一方、他の大部分の人間たちを悲惨な境遇
におちいらせることになるのである。

第二次大戦後、NATOが設立され、いわゆる「冷戦」が始まるとともに、
アメリカのプロパガンダ工作者たちは、以前にドイツとの闘いの同盟国であった
ソビエト連邦に対して人々が恐れを抱くような風潮を醸成した。ふたたび1917
年当時と同じ手口である、ソビエトが西ヨーロッパやアメリカ、その他の地域
の国々を侵略する意図を有しているとの見方を喧伝したのである。NATOは
防衛を旨とする組織、主にヨーロッパをソビエトから防衛するための組織である
と唱えられた。

実際には、NATO創設の目的はソビエトを取り囲み、「封じ込める」(プロパガンダ
工作者たちの間でよく使われる婉曲語法である)ことであった。防衛を旨と
する組織であるどころか、各種のきわめて攻撃的な策謀を通じて支配力を発揮
する、そういうやり口の一形態であることを、これまでの事例は如実に示して
きた。ユーゴスラヴィア、アフガニスタン、リビアなどの事例がそうである。
また、組織拡大への強い志向性もあらわにしてきた。かつてソビエト連邦に
属していた国々を次々と取り込んできたのである。

第二次大戦後しばらくして、ソビエトとキューバの「ソフト・パワー」(外国
への文化的な影響力)が世界で存在感を示すようになった ----- 世界各地への
医療チームの派遣、食料援助、さまざまな形の開発援助のためのアドバイザー
の紹介、等々の形で。これを受けて、アメリカもまた、各種の機関を設立し、
類似の取り組みに乗り出して、ソビエトとキューバの影響力に対抗しようと
した。たとえば、USAID(米国際開発庁)、『米国民主主義基金』(NED)
などである。

食べ物や医薬品などを、それらを必要とする人々に送り届けることは、少なく
ともそれ自体は、むろん、けっこうなことである。が、USAIDや『米国民主
主義基金』等の組織を深いところで動かしている政策は、自分たちが好まない
外国政府の力を削ごうとする試みであり、欧米の実情について大概は虚偽の
言説を普及させることであった。これらの組織はさまざまな対象に巨額の資金を
提供してきた。たとえば、東欧諸国の独立系の報道メディアなどに。そのため、
人々は、アメリカでも独立系の報道メディアには政府から多額の資金が供与
されているという印象を抱くに至っている。もちろん、そんなことはないので
あるが。

上記の組織は、これらを創設したアメリカの政治エリートたちの善良なる心根に
より、餓えた人々に食べ物をあたえ、裸で暮らす人々に衣服を提供するべく、
創設されたのではない。創設された理由はアメリカの「ソフト・パワー」を
活用することにより、自身の国益を推進するためであって、その手法の一つが、
実際の物事について、さまざまな形で嘘の情報を広めることであった。

数々の証拠からうかがえるのは、イスラエルに対するアメリカの支援が、
ユダヤ人の窮状をめぐるアメリカの指導者層の懸念からでは決してないという
ことである。一部のユダヤ人がシオニスト運動 ----- パレスチナ人から土地を
奪取し、自分たちが移り住むこと ----- を推進したがっていることは、アメリカ
の帝国主義者たちにとっては都合がよいと考えられた。その結果、他の入植
植民地主義の施策と同様、それは、多くの点で、可能性としては一応きわめて
利益の見込める投資事業と見なされ、支持された ----- 少なくとも支配者層に
属する少数の人間にはそうであった。

同じように、ウクライナに対するアメリカの支援は、ウクライナの一般市民に
対するそれでは決してなく、ロシアの力を削ぐことがねらいであった。イスラエル
やウクライナへのアメリカの支援には、ユダヤ人やウクライナ国民を手助け
しようという動機がいくらかでも含まれていると考えるのは大きなあやまり
と言えよう。それはプロパガンダにすぎない。実際にはアメリカの国益の追求
なのである。それは、スエズ運河をアメリカの船舶がつねに自由に行き来できる
ようにしておくため、あるいは、ロシアを世界のビジネスの主潮流に加わらせ
ないようにし、制裁措置によって惹起された農産物や鉱物の供給不足から巨額の
利益をフトコロにするため、であったりする。が、いずれにせよ、アメリカの
国益の追求であることには変わりがない。

冷戦時代全体を通じて、アメリカが関与したすべての戦争は、共産主義に抗する
戦争、すなわち、拡張主義的な共産主義という脅威を封じ込めるため、そして、
民主主義と自由と人権を促進するため、ということであった。ソビエト連邦が
消滅してから以降は、アメリカが関与したすべての戦争は、「テロリズム」
という不合理な、人命を餌とする観念に抵抗し、民主主義と自由と人権を支援
する戦争ということであった。

現実には、何百万という民間人が朝鮮半島、ベトナム、イラク、アフガニスタン、
パレスチナ、その他さまざまな場所で殺され、殺した当の侵略者は、これらの
国の人々すべてを敵としてあつかった。これは、攻撃を受ける側の一般市民
から支持が得られるような類いの戦い方ではまったくない。要するに、ねらいは
これらの国々の発展・成長を手助けすることではなくて、アメリカの覇権に
対する反抗を鎮圧すること、そしてまた、アメリカ企業の絶対的な優位を慮って、
そのために世界をより安全にすることである。これらの戦いのいずれにおいても、
アメリカは実際に自分たちが「共産主義」もしくは「テロリズム」と戦って
いると信じていたわけではない。指導者層は、これが一般公衆向けのプロパガンダ
であることを承知していた。国内の一般公衆の心に、正当化の不可能な残虐
行為や大量殺戮を何とかのみ込ませるためのプロパガンダである。これら帝国
主義的な狼藉に慈悲的な要素はみじんもない。すべては、世界の秩序を統べる
アメリカの支配力を盤石のものにするためであり、その「世界の秩序」なる
ものはそもそも、アメリカおよび「帝国主義クラブ」に属するその他の弱小
メンバーが利益を得るために構築されたのである。

ところが、トランプ大統領の側近たちの心の中では、以下の点がはっきりして
いるように思われる。すなわち、これらの戦争すべては実際に共産主義や
テロリズムから世界を守るためであったらしいと自分たちが信じていること、
これらの悪から世界を守るためにアメリカがおこなってきたと称される活動の
いっさいを今や彼ら自身が腹立たしく思っていること、そして、欧州は、この
壮大な闘いにこれまでよりもずっと身を入れて取り組む必要があること、である。
これらすべては幻想に基づく幻想にすぎない。しかし、彼らにとっては、実際に
起こったことなのだ。それはあたかも「俺たちはそれを『ヒストリー・チャンネル』
で見た。だから、本当のことにちがいない」と言っているようなものである。

人を納得させる力をそなえるのがそもそもプロパガンダというものである。
世界の中で、19世紀中葉までに国家意識と国家体制を強固なものにし、その後、
国家としての独自の「物語」と全国メディアを成長させてきた国々は、大抵の
場合、そのために戦い、死んでもよいとさえ思わせるような国との一体感や
国としての目的意識を国民に浸透させることに成功してきた。しかし、一方で、
このような時代の大部分を通じて、一般的に感じられていたことは、おそらく
部分的には痛切であったり、そうでなかったりはしたものの、指導者層が当該
のプロパガンダは嘘であり、それはあくまで一般公衆向けの言説であること、
一般公衆をなだめ、コントロールするための一方策であることを認識している、
という点である。

このような現実はすでに十分おぞましい。しかし今や、われわれは新しい現実
の中にいるらしい。現実そのものがいっさい窓の外にうっちゃられ、冷戦
時代のプロパガンダに基づいた幻想を受け入れるという現実が。それは、本来
その地位にまるで値しない無能な側近たちの一群により、真実としてあまさず
吸収され、政策策定に積極的に利用されている。彼らが土台としているのは、
われわれが今どこにいるのか、どういう経緯でここに至ったのかに関する、
まるっきり混乱した認識なのである。


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