気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

軍需企業から報酬を得ながら評論家として活躍する人々

2020年06月09日 | メディア、ジャーナリズム

今回もごく短いコラムです。

内容は、米国における軍の役割の拡大とそれを問題として取り上げないメディアに対する警鐘です。

あつかわれているもう一つのテーマは、本ブログの以前の回
(主戦派のコメンテーターを財政的に支える軍需産業
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/d7293b6e6bf27ba4df795a95684f01e7
と同趣旨。

軍需企業から報酬を得たり、その一役員の身分でいながら、何食わぬ顔をし、軍事関連の問題を客観的な視点から論評している体を保つ人々と、そういった企業とのつながりの事実を視聴者に伝えない大手メディアに対する批判です。

上の、以前のブログの文章から引用すると、
「要するに、一般国民に向けて合法的な大量殺人が売り込まれている-----巨大軍需企業から莫大な富を得ている一群のサクラたちによって。」。

この以前のブログはもう数年前の文章ですが、今回のコラムを読むかぎりでは、状況はまったく変わっていないようです。


原題は
The Media and the Military Mindset
(メディアとその軍寄りの視点)

書き手は、Melvin Goodman(メルヴィン・グッドマン)氏。
以前にCIAのソ連問題局の局長をつとめたこともある人物(くわしくは末尾の「その他の訳注・補足など」を参照)


文章の初出は『カウンター・パンチ』誌。

原文サイトはこちら↓
https://www.counterpunch.org/2020/01/22/the-media-and-the-military-mindset/


(例によって、訳出は読みやすさを心がけ、同じ理由で、頻繁に改行をおこなった)


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2020年1月22日


The Media and the Military Mindset
メディアとその軍寄りの視点


by Melvin Goodman
メルヴィン・グッドマン




わが国のメディアは米軍のあつかいに寛容である。軍自身にへつらうとともに、「軍産複合体」とのつながりを有する退職した将校その他をコメンテーターなどに採用する。
米国は米国自身と軍拡競争をしていると言ってもよい。が、メディアはふくれ上がった国防支出の問題を大きく取り上げることはほとんどない。
国内の慢性的な貧困と米軍の冒険主義を関連づけた、キング牧師による1967年のリバーサイド教会での演説を、われわれはあらためて心に強く刻むべきである。

1991年のソ連崩壊以来、米国防総省は、わが国の外交政策に大きすぎる役割を演じてきたし、諜報活動による情報の解析に過剰な影響力をふるってきた。
クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプと続く各政権は、国防総省にこれまでに例のないほど強い権勢をゆるしてきた。国防支出は大幅に増え、安全保障政策の策定におけるその発言力は他を圧した。
そして、メディアは、退職した将校などに情報の多くを頼っているため、このような軍事化の潮流に異をとなえることはまずなかった。

米国の軍事行動を解析、評価するにあたって、米ケーブルテレビ各局のニュース番組が頼りにしているのは、このような退職した軍将官たちである。
これらの将官たちのほぼ全員が、いろいろな兵器製造企業でトップの役職についている。しかし、この事実が明かされることはほとんどない。
元陸軍副参謀総長のジャック・キーン氏と言えば、トランプ大統領のお気に入りの将官の一人であり、フォックス・ニュースでたびたびコメンテーターとして発言する。が、同氏が、著名な防衛関連企業AMジェネラル社の経営幹部であることは決して言及されない。同社は、「ハンヴィー」その他の戦略的な軍用車両の製造企業としてよく知られている。キーン氏は、だから、軍事力の行使に関し、明らかにまっこうから財政的利害関係を有する。

米ケーブルテレビ界ではリベラルと称されるNBCニュースとMSNBCは、米国防大学で私の教え子だった、ジェイムズ・スタヴリディス元海軍大将を頼りとしている。番組では「国際安全保障主席アナリスト」と紹介される。だが、彼はかつてNATO欧州連合軍最高司令官であったし、現在は世界的な投資会社カーライル・グループで働き、防衛関連企業に対する巨額の投資に関し、その戦略、管理等の助言を同社に提供している。これらの事実を上記のテレビ局は決して伝えない。

また、ワシントン・ポスト紙の最近の記事によれば、CBS専属の軍事専門家となっているジェイムズ・ウィニフェルド元海軍大将・統合参謀本部副議長は、代表的な軍需企業レイセオン社の取締役の一人である。
CNNも例外ではない。同局は、イラク戦争の初期の段階の頃、ジェイムズ・マークス元陸軍大将を重用していた-----同氏が当時、マクニール・テクノロジーズ社の軍事・諜報関連の契約獲得に関与していたことには一言もふれずに。マークス氏は現在、再びCNNに登場するようになっている。しかし、同氏が目下、軍需企業に投資するある会社の事業パートナーで、助言もおこなっているという事実は、やはり伏せられたままである。

ワシントン・ポスト紙自身も、このような「軍に対する権能付与」と呼べるふるまいと無縁であったわけではない。
イランのカセム・ソレイマニ司令官の殺害に関し、ブッシュ政権下で国家安全保障問題担当補佐官をつとめたスティーブン・ハドレー氏は、トランプ政権のこの軍事作戦を擁護した。この殺害が外交交渉への端緒となるととなえて。
ポスト紙は、報道の際、ハドレー氏がレイセオン社の取締役の一人であることを伝えるべきであった。同社は、ソレイマニ司令官殺害で使われたドローン攻撃機の部品製造にたずさわっている。言い換えれば、戦争に関してハドレー氏が財政上の既得権益を持つことが明らかにされるべきであった。ポスト紙の読者投稿欄で指摘されていたように、ドローン攻撃システムの値段は決して安価なものではない。

MSNBCは、諜報関連の報道に関して、元CIA長官ジョン・ブレナン氏と元次官ジョン・マクラフリン氏の2人の見解にほぼ全面的に頼っている。
が、ブレナン氏の重用は穏当とは言いがたい。
同氏はCIAの幹部であった頃、拷問や虐待を容認する施策を支持していた。また、麻薬取引の撲滅をめざす作戦(結局失敗に終わったが)の展開中に、ペルー上空でキリスト教宣教師の乗った民間セスナ機があやまって撃墜されるという事件があったが、この件でのCIAの関与を隠蔽する工作にも同氏は手を貸していた。
さらに、CIA職員の浅ましい行為を証する機密文書を削除するため、上院諜報委員会のコンピューターに不正侵入することを同機関の法律家や技術者に指示した件でも、同氏は責任を負う。

マクラフリン氏を諜報関係のアナリストとして重用するのも、決して妥当な話ではない。
米国がイラクに侵攻するわずか6週間前に国連でパウエル国務長官がおこなったまやかしの演説の草稿を作成するにあたり、主導的役割をになったのはほかならぬ同氏だった。
演説の企図は、国内国外双方の一般市民に(実際は存在しなかった)大量破壊兵器をイラクが保有していると信じさせることであった。ワシントン・ポスト紙の社説や論説の書き手をたらし込むのに、この演説はとりわけ力を発揮した。彼らは、ブッシュの武力侵攻はイラクの大量破壊兵器の存在により正当と見なせることを「確信している」と高らかに宣言した。

世界全体が深刻な景気後退の可能性に直面しているこの時、軍事力への米国の依存度の高さは、自身の国益にとってマイナスに働いている。
イラクやアフガニスタンでの戦いは莫大な費用がかかりながら、それによってアメリカがより安全な状況になったとは言いがたい。テロに対する戦いは、テロリストを根絶するよりむしろ、差し引きで、数を増やす結果となっている。また、近年の国務長官たちは、西南アジアにおける戦争の拡大がいかなる戦略的・地政学的影響をもたらすかについて深く検討することを怠っている。
にもかかわらず、国防総省の予算は、冷戦たけなわの頃に記録した額を超え、民主・共和両党の圧倒的な支持を勝ち得ている。

これらの政策は、いわゆるリベラルと呼ばれる組織でさえ惹きつけている。
ブルッキングス研究所、カーネギー国際平和財団、そしてそれに所属する研究者たち、たとえば、マイケル・ オハンロン氏、ロバート・ケーガン氏などは、イラクやアフガニスタンにおける軍事力の行使を支持する側に属する。
そして、大手メディアの大方は、それにともなう民間人の犠牲をかえりみない。病院や学校、道路や橋などのインフラをふくむ、民間経済の破壊も、同様に等閑に付する。

アイゼンハワー大統領がいわゆる「軍産複合体」について警鐘を鳴らしてからもう60年近く経つというのに、われわれ米国民は、軍の役割の拡大、神聖不可侵の領域となった軍事支出への熱狂的礼賛、世界中に米軍基地を置くに至る軍国主義の思考様式、等々を甘んじて受け入れる仕儀に立ち至っている。
われわれ米国民が直面する危険は、政府がわれわれに知ってもらいたいと思う軍事政策や軍事行動しかわれわれが知らないことである。そして、メディアも、世界をおおうアメリカの軍国主義の内実を明らかにすることに果敢に取り組んでいるとはとても言えない。


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[その他の訳注・補足など]

■書き手のメルヴィン・グッドマン氏について。

原文サイトの末尾にある筆者紹介文を参考までに訳しておきます。

「メルヴィン・A・グッドマンは国際政策センターの上席研究員であり、ジョンズ・ホプキンズ大学で政治学を講ずる教授。元CIAの分析官。著書に『諜報の失敗: CIA衰亡史』、『国家安全保障の危機: アメリカ軍国主義の代価』、『CIAの内部告発者』があり、最新作は『米国の大量殺戮: ドナルド・トランプの戦争』(オウパス出版)。近々、新著の『危険な治安国家』が刊行される予定(2020年)。『カウンター・パンチ』誌では、国家安全保障問題をあつかうコラムニスト。」

上記の著書のタイトル名は私の仮の訳であって、残念ながら、グッドマン氏の著書の邦訳はまだ一冊も出ていないようです。