気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

チョムスキー氏語る・8-----ロシア・ウクライナ紛争について(2021年12月23日)

2022年04月22日 | 国際政治

チョムスキー氏のブログ https://chomsky.info/ は長い間変化がなかったので油断して
いました。最近、大幅に更新されていました。
その中から、ロシア・ウクライナ紛争についてのインタビュー記事を今回は選びました。

ただし、昨年の12月23日に公開されたもの、つまり、ロシアが侵攻する前であり、ロシア
がウクライナとの国境に軍を集結させて緊張が高まっていた頃のものです。

また、この紛争の現実的な解決策については、チョムスキー氏は、英国の著作家で政策
アナリストでもあるアナトール・リーヴェン氏の意見に同意していて、特に独自の解決策
を提示しているわけではありません。


タイトルは
Chomsky: Outdated US Cold War Policy Worsens Ongoing Russia-Ukraine Conflict
(チョムスキー: 米国政府の時代遅れの冷戦政策が目下のロシア・ウクライナ紛争の悪化を
もたらす)

インタビューの聞き手は C.J. Polychroniou(C・J・ポリクロニオ)氏。


原文はこちら
https://chomsky.info/20211223/


(ネットでの可読性の低さを考慮し、訳出は読みやすさを心がけ、同じ理由で、頻繁に
改行をおこなった)


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Chomsky: Outdated US Cold War Policy Worsens Ongoing Russia-Ukraine Conflict
チョムスキー: 米国政府の時代遅れの冷戦政策が目下のロシア・ウクライナ紛争の悪化をもたらす



Noam Chomsky Interviewed by C.J. Polychroniou
C・J・ポリクロニオによるインタビュー

2021年12月23日 『トゥルースアウト』誌


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(『トゥルースアウト』誌による前文)

ロシア・ウクライナ間の国境をめぐる緊張は、多くの文化的共通点を有したこの2国の目下
進行中の係争を象徴しているだけではない。それは、一方に米国と欧州、もう一方にロシア
を置いた、ずっと大きな角逐の一部でもある。
本誌による、以下のチョムスキー氏への独占インタビューの中で、同氏が読者に思い出させ
ているように、ウクライナは、2014年に、親ロ派の政府が米国の支援を受けたクーデター
によって打倒され、米国と欧州の支持する政府が政権を掌握した。
この展開は、冷戦時代の2つの超大国を戦争の淵に近づけるものであった。ロシアは、米国と
欧州によるウクライナへの干渉、および、北大西洋条約機構(NATO)の執拗な東方拡大の
2つを、ロシアの「封じ込め」をねらった狡猾な戦略と見なしたのである。
この「封じ込め」という戦略は、まさしくNATOと同じぐらいの歴史を持っている。かくして、
プーチン大統領はつい先頃、ウクライナ、そしてさらに、旧ソ連の勢力圏にあった地域まで
をもふくむ領域でのロシアの行動に関して、一連の要求事項を米国とNATOに示したのであった。
また、同時に、ロシアの上級官吏は、もっと大胆に、もしNATOがロシアの国家安全保障上の
懸念を無視し続けるなら軍事的対応もあり得ると警告した。

チョムスキー氏が以下に述べているように、ロシア・ウクライナ間の紛争は解決可能である。
だが、巷間では、アメリカがずっと「ゾンビ政策(死んでも動き続けるゾンビのように、
古くさいが消滅しない政策)」のとりこであり続けるのではないかという懸念がささやかれて
いる。そのゾンビ政策の帰結は、外交が失敗した場合、恐るべき破局をもたらす可能性を
はらんでいる。

ノーム・チョムスキー氏は、今存命の知識人のうちでもっとも重要な人々の一人であると
世界的に認められている。
知の世界における同氏の偉大さはガリレオやニュートン、デカルトのそれになぞらえられて
きた。その業績が学問的探求、科学的探求の幅広い分野にわたって、甚大な影響をおよぼした
からである。その分野には言語学、論理学、数学、コンピューター・サイエンス、心理学、
メディア研究、哲学、政治学、国際関係論、等々がふくまれる。
その著作はおよそ150冊にもおよぶとともに、同氏はきわめて権威の高い賞を数々授けられ
てきた。たとえば、シドニー平和賞、京都賞(日本におけるノーベル賞と言ってよい)など
である。また、世界的に著名な大学からあまたの名誉博士号を得ている。
マサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授であり、現在はアリゾナ大学言語学栄誉教授と
して同大学で教鞭をとっている。

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C・J・ポリクロニオ:
1980年から1991年にかけてのソビエト連邦の瓦解を受けて、ウクライナの人々は、1991年に
圧倒的多数の支持の下、この共産主義帝国からの独立を宣言しました。
ウクライナはそれ以来、欧州連合(EU)と NATO との密接な関係構築に努めてきました。が、
このような動きにロシアは反対をとなえています。ウクライナはロシアの一部であると長年
見なしてき、それゆえ、同国の内政に干渉し続けてきました。
それどころか、2014年には同国を戦場と化さしめました。プーチン大統領がクリミアを併合
すると決めたからです。同大統領はクリミアをロシアの「魂の源」と表現しました。そして、
以来、この2国の間の緊張は解消しがたいものとなっています。
このロシア・ウクライナ間の紛争の背後には何があるとお考えでしょうか。

ノーム・チョムスキー:
もちろん、付言しておくべきことはあります。
2014年に起こったことは、いずれにせよ、米国の支援を受けてのクーデターであり、それに
よってロシア寄りの政府が米国・EU寄りの政府に変わったのです。
それがクリミアの併合につながりました。ロシアにとって唯一の不凍港とその海軍基地を
維持掌握することが、その主なねらいでした。そしてまた、クリミアの人々のかなりの
割合がそれをうべなったと見られます。
これらの複雑な事情については、さまざまな学術的文献が存在します。代表的なものは、
リチャード・サクワ氏の『前線のウクライナ』や氏の最近の述作です。

また、現在の状況についての秀抜な議論が最近の『ネーション』誌に掲載されました。
アナトール・リーヴェン氏の書かれたものです。
同氏は、現実的な論の中で、ウクライナは「世界でもっとも剣呑な[喫緊の]問題である」と
ともに、「原理的にはもっとも解決の容易な問題でもある」と述べています。
その解決方法はすでに提示され受け入れられています-----原則的には。すなわち、「第2次
ミンスク合意」です。2015年にフランス、ドイツ、ロシア、ウクライナ間で採択され、
国連安全保障理事会が満場一致で支持した取り決めです。
その取り決めでは、ウクライナにNATO加入を勧めたブッシュ大統領の提言を引っ込める
ことが暗黙の前提となっていました。そして、オバマ大統領もまたこれを支持しました。
ところが、フランスとドイツは拒否しました。ロシアの指導者であれば誰であれ、こういう
展開は甘受しないでしょう。
この「ミンスク合意」が求めるのは、ロシア寄りで分離派の地域(ドンバス)の武装解除、
および、ロシア軍(義勇軍)の撤退です。そしてまた、和平に向けての中核的条件を細かく
規定しています。つまり、「3つの根本的で相互依存的な要素、すなわち、非武装化、
ウクライナの主権回復(対ロシア国境の管理をふくむ)、ウクライナにおける全般的な権力
分散化を背景にしてのドンバスの完全自治」です。
このような展開の最終形態は、アメリカを初めとする他の連邦制国家とそれほどかけ離れた
ものではないでしょう、こうリーヴェン氏は述べています。

「第2次ミンスク合意」は、そのさまざまな措置の実施期日について意見がまとまらなかった
ために宙ぶらりんとなっています。
この問題は、リーヴェン氏の言葉を借りると、米国の政界とメディアの間では「埋められて」
います。「ウクライナ政府がこの合意事項の履行を拒んでいること、および、米国政府が
その履行に向けて圧力をかけることを拒んでいること、の2つが原因です」。
同氏は、そして、こう結論づけています。米国は「ゾンビ政策」-----まだ生命をたもっている
ふりをし、全員の邪魔者となりながらさまよっている、すでに効力を失った戦略-----をずっと
維持し続けている。というのも、その政策策定者たちは、それを土に埋める勇気がないから
である、と。

現在の差し迫った危機は、この「ゾンビ政策」を埋葬し、理にかなった政策を採用すること
を至上命題とします。

目下の行き詰まりを打開するのは容易ではありません。ですが、リーヴェン氏も述べている
ように、他の選択肢は考えるだにおそろしいものです。
肝心な点は理解されています。つまり、ウクライナにはオーストリア型の中立が求められて
いるということです。それは、すなわち、軍事同盟もしくは他国の軍事基地がないこと、
そして、「第2次ミンスク合意」に大筋に沿った形で国内の不和を解消すること、を意味
します。

したがって、この「世界でもっとも剣呑な問題」は、わずかばかりの理性を働かせれば
解決が可能なのです。

より広い文脈で問題をとらえるためには、30年前のソビエト連邦の崩壊にまでさかのぼら
なければなりません。
ソ連の崩壊後に確立されるべき世界秩序のあり方をめぐり、3つの際立ったヴィジョンが
ありました。
3つが共通して受け入れたのはドイツが統一されること、そしてNATOに加盟することでした。
ロシアにとっては並々ならぬ譲歩です。なぜなら、それまでの1世紀の間に、ドイツは単独で
-----敵対的な軍事同盟の中の一国としてではなく-----ロシアを2度も壊滅状態におとしいれた
という経歴をほこっていたからです。加えて、ロシアでボルシェビキが政権を奪取した時
には、他の西側諸国(米国をふくむ)と協力して、すぐさま「介入」したという過去も
持っています。

上記の3つのヴィジョンのうちの一つは、ゴルバチョフ氏のものです。大西洋岸からウラジオ
ストクまでをカバーする、軍事同盟なしの、包括的なユーラシア大陸安全保障体制でした。
しかし、米国はこれを決して選択肢の一つとは考えませんでした。
もう一つのヴィジョンは、ジョージ・ブッシュ大統領とその大統領補佐官であるジェイムズ・
ベイカー氏が提唱し、西ドイツが賛同したものです。NATOは「東へ1インチ」たりとも-----
東とは東ベルリンを意味します-----拡大することはない。それを超えることは、少なくとも
公的には検討されていませんでした。
最後のヴィジョンは、クリントン大統領の示したものです。NATOはロシア国境にまでせまり、
その隣接諸国で軍事演習をおこなう、そして、国境地帯に兵器を配備する。この兵器は、
たとえ米国がその近隣に多少でも似たような状況を許す(考えがたいことですが)としても、
その場合、確実に攻撃用兵器と見なすであろう類いの兵器です。
採用されたのは、この最後の「クリントン・ドクトリン」でした。

かかる非対称性はかなり深く根をはっています。
それは、米国が唱道する「ルールに則った国際秩序」における中核的構成要素の一つです
(そのルールは、偶然にも、米国が定めました)。この国際秩序は、古くさいとされる国連
ベースの国際秩序に取って代わったものです。その国際秩序では、国際問題に関して「武力
による威嚇または武力の行使」を禁じていました。
この条件は、ならず者国家にとっては受け入れがたいものでした。彼らは、武力による威嚇
を用いる権利をたえず要求しましたし、思いのまま武力にうったえる権利も要求しました。
この重要な問題については、以前にも論じましたが。

このルールに則った非対称性を如実にあらわす事例で知っておくべきものは、フルシチョフが
キューバに核ミサイルを配備したことに対するケネディ大統領の対応です。
核ミサイルの配備は、そもそもケネディ政権がキューバへのテロ攻撃のクライマックスとして
侵攻する、その脅威に対抗するための手段でした。また、フルシチョフが攻撃用兵器の相互
削減を申し出たのに対してケネディ政権が大幅な兵力増強で応じたこと(攻撃用兵器に
関しては米国がはるかにリードしていたにもかかわらず)への対抗措置でもありました。
大惨事に至る戦争を招きかねなかったきわめて重大な問題は、ロシアに照準を定め、トルコ
に配備された米国の核ミサイルのあつかいでした。
キューバ危機がぶきみに戦争へと近づいていく過程で焦点となったのは、そのトルコの核
ミサイルが(フルシチョフの要請通り)おおやけに撤収されるべきか、それとも、(ケネディ
の主張通り)極秘にそれがおこなわれるべきかというものでした。
実際には、米国はすでに撤収を決定していました。代わりに、はるかに脅威的なポラリス
潜水艦を配備することになっていました。つまり、まったく撤収どころではない、事態の
深刻化に資するだけのふるまいです。

このような決定的な非対称性が思考の前提となっています。世界秩序における犯すべから
ざる原則となっています。そして、それはクリントン大統領がNATOドクトリンを推し
進める過程で、より幅広く根づきました。

ここで思い起こすべきは、このNATOドクトリンは、より広範な「クリントン・ドクトリン」
を構成するほんの一要素であるということです。
「クリントン・ドクトリン」は「重要な市場、エネルギー供給、戦略的資源への自在な
アクセスの確保」等のきわめて重要な国益を守るために、米国に「必要な際には一方的に」
軍事力を行使する権利をあたえるものです。
このような権利を主張できる国は他にありません。

ブッシュ大統領とベイカー国務長官が提唱した上記のヴィジョンのあつかいについては、
学者の間でさまざまに議論されています。
この2人の申し出は言葉の上だけのこと-----米国がすぐさま約束を反故にして東ベルリンに
軍を配備した際、その正当化のために持ち出した論がこうでした。
しかし、基本的な事実には、疑う余地はほとんどありません。

C・J・ポリクロニオ:
NATOが設立されたのは、西側民主主義諸国に対するソビエト連邦の脅威に対応するため
であると言われていました。
ところが、冷戦が終了してもNATOは姿を消すことはなく、それどころか、東方に拡大を
続け、実際上、現在のウクライナを将来の加盟国と考えています。
今日のNATOとは、いったいどんな存在なのでしょう。また、それは、ロシアとの国境に
おける緊張を高めていること、および、潜在的にあらたな冷戦を招き寄せていることに
ついて、どの程度責任があるでしょうか。

ノーム・チョムスキー:
東方への拡大-----それにともなっての定期的な軍事演習と脅威的な兵器システムの配備
-----は、明らかに緊張を助長する因子の一つです。ウクライナをNATO加盟にいざなう
ことは、これを上回る助長因子であることは言うまでもありません。すでに述べたように。

きわめて剣呑な現状況を考える上で思い起こすべきことは、NATOの創立と「脅威と
されるもの」についてです。
この話題については、言うべきことがたくさんあります。とりわけ、ロシアの脅威なる
ものが、政策策定者たちによって実際にどう受け止められていたか、について。
精査してみると、その脅威なるものは、「真実よりも判然とした」やり方で「米国民を
震え上がらせるために」用いられた激烈なレトリックとはかなり様相がちがったもの
であることがわかります(前者の表現はディーン・アチソン氏、後者のそれは上院議員の
アーサー・ヴァンデンバーグ氏のものです)。

よく知られていることですが、大きな影響力を持った政策策定者であるジョージ・ケナン
氏は、ロシアの脅威を政治的もしくはイデオロギー的なものと考えていました-----軍事的な
ものではなく。
ところが、ほぼ捏造と言ってよいパニックに同調しなかったために、同氏は早々に地位を
追われてしまいました。
ともあれ、ハト派中のハト派の側ではどのように世界がとらえられているかを知ることは、
いつもさまざまな示唆をあたえてくれます。

内務省の政策企画部のトップであったケナン氏は、第二次大戦後のロシアの脅威について、
1946年の時点で非常に懸念を抱いており、ドイツの分割が、戦時の協定に反するにも
かかわらず、必要であると感じていました。
その理由は、「東側の侵入からドイツの西側ゾーンを壁で守ることで救う」必要性でした。
これは、もちろん、軍事力による侵入ではなく「政治的な侵入」です。ソビエト側はこの点で
優位な立場にありました。
ケナン氏は、1948年に、こう助言しています。「インドネシアの問題は、われわれがソ連と
対峙する上で、目下、最重要の案件である」、と。もっとも、ソ連の影はどこにも見当たり
ませんでしたが。
それが最重要である理由は、インドネシアがもし「共産主義」の手に落ちたら、それが
「西方に吹き渡る感染症」となって、南アジア全体を席捲し、さらには中東における
米国の覇権をおびやかすおそれがあるということでした。

政府の内部文書には、同様の、漠然とした現実認識の例があちこちに散りばめられています
-----時にはきわめて明確な認識を示す例もありますが。
全般的に言って、米国の影響力のおよばないものは何であれ、それは「クレムリン」
(ソビエト政府)と結びつけられました-----1949年までは。それ以降は、時に「中ソの陰謀」が
要求を満たすべく持ち出されました。

ロシアはたしかに一つの脅威です-----東欧の一帯では。それはちょうど世界の多くの地域で
米国とその西側同盟国の脅威が認められているのと同じです。そのおぞましい歴史の具体的な
事例について今さら述べる必要はないでしょう。NATOはその中ではほとんど役割をはたして
いません。

ソビエト連邦の崩壊とともに、NATOの存在を公的に正当化する口実がなくなりました。
それで、何か新しい理由を案出しなければなりませんでした。もう少し広く言えば、
暴力と政府転覆のためのあらたな口実です。
その一つは、人々がすぐさま飛びついた、いわゆる「人道的介入」です。
この概念はほどなく「保護する責任」(Responsibility to Protect = 略称 R2P)という
教義の中に位置づけられました。
これには、2つの流儀が定式化されています。
1つの公的なそれは、2005年に国連が採用したものです。
これは、R2Pに無関係な状況を除いて国際問題における「武力による威嚇または武力の行使」
を禁じている国連憲章の厳しい枠組みに沿っており、ただ諸国家に人道法を遵守するよう
求めるだけのものでした。

これが「保護する責任」(R2P)の公式的な解釈です。
もう一つの流儀は、「保護する責任をめぐる、介入および国家主権に関する国際委員会の
報告書」(2001年)によって定式化されたものです。
元オーストラリア外相のガレス・エヴァンス氏の肝いりで発表されました。
それは、公式的な解釈とは一つの決定的な点で異なっていました。「国連安全保障理事会が
提案を拒絶するか、もしくは適当な期間内に対処しない」場合において、です。
かかる場合は、「憲章の第8章に基づき、地域のもしくは地域に準じる、組織の管轄区域内の
行動」(ただし、事後に国連安全保障理事会の承認を求めることを条件とする)に報告書は
権威をあたえています。

実際のところは、介入する権利なるものは強国の専有物、今日の世界ではNATO加盟国の
専有物となっています。これらの国々はまた一方的に自身の「管轄域」を決定することが
できます。
そして、実際にそうしてきました。
NATOはおのれの「管轄域」には、バルカン、それからアフガニスタン、そしてまたそれ
よりもっと遠方の地域がふくまれると一方的に宣言しました。
NATOの2007年6月の会合において、事務総長のヤープ・デ・ホープ・スヘッフェル氏は、
こう指示しています。
「NATO軍は、欧州に向けて石油と天然ガスを移送するパイプラインを守護しなければ
なりません」。また、より広く言って、タンカーが航行する海路やエネルギー・システム
における他の「きわめて重要なインフラ」を守らなければなりません、と。
つまり、NATOの「管轄域」は世界を覆っているのです。

もちろん、賛同しない国もあります。とりわけ、欧州とその分家のありがたい指導を長年
受けて、被害をこうむってきた国々です。
これらの国々の意見は、決まって無視されるとはいえ、はっきりと表明されました。133ヵ
国による「南サミット」の第1回会合(2000年4月)においてです。
その宣言文では、明らかに直近のセルビアに対する空爆を念頭に置いて、「人道的介入の
『権利』と称されるもの」を拒否しました。それは「国連憲章、もしくは、国際法の一般
原則に法的根拠を有していない」からです。
この宣言文の言い回しは、同様の趣旨を述べたこれまでの国連の宣言を再確認するもの
であり、「保護する責任」(R2P)の公式的な解釈にも共通してうかがえるものです。

以来、一般的な行き方は、何がなされるにしても正当化の根拠として公式的な国連の解釈に
言及しながら、具体的な行動の決定についてはエヴァンス委員会の解釈に忠実にしたがうと
いうものでした。

C・J・ポリクロニオ:
さまざまな兆候から、ロシアがウクライナを攻撃する兵力を準備しつつあると言われています。
軍事アナリストの中には、年が明けて数ヶ月のうちに攻撃が始まる可能性があると主張する
人もいます。
ロシア・ウクライナ間の紛争にNATOが軍事的に介入する見込みは小さいと思われます。
ですが、ロシアによるウクライナ侵攻が世界の地勢を劇的に変容させることはまずまちがい
ありません。
この紛争を解決するもっとも現実的な方法はいかなるものでしょうか。

ノーム・チョムスキー:
それが示唆するのは、過酷で、あまりありがたくない展開です。
厳正なアナリストの大半は、プーチン大統領が侵攻に着手するかどうかを疑っています。
侵攻すると失うものが大きいからです。すべてを失うかもしれません-----もしアメリカが
軍事力で対応しようとするならば。この可能性は十分考えられることです。
プーチン大統領にとってみれば、のぞみ得る最良の展開でも、ロシアが過酷な「終わりの
ない戦争」に突入し、きわめて厳しい制裁措置やその他の強硬な手段にうったえられる
というものでしょう。
私が思うに、プーチン大統領の意図は、自分がロシアの国益と考えるものを欧米諸国が
軽視しないよう警告を発することです。これにはもっともな点があると言えます。

現実的な解決法はあります。アナトール・リーヴェン氏が輪郭を描いたものです。
同氏が論じているように、他の解決法を思い描くことは容易ではありません。そしてまた、
今のところ、提示されてもいません。

幸いなことに、この解決法は私たちの手の届くところにあります。
ことのほか重要なのは、一般市民の意見が昔ながらの手管で燃え上がらないようにする
ことです。それは、過去に大惨事へとみちびいたわけですから。


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[補足など]

■本ブログの以前の回で、チョムスキー氏がウクライナにふれた文章もぜひ参照してください。

・チョムスキー氏のコラム-----ウクライナ情勢にからんで
(2014年07月10日)
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/a7e37143aebbdb44e97342e734ab5c09



同じく本ブログの以前の回の、ジェイソン・ハースラー氏による文章も。

・米国のメディア監視サイト・2-----ウクライナをめぐる英米メディアの偏向
(2014年05月14日)
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/e941ac532b05425af3fe8fb07e2f38ce