前の、7月11日のブログ「資本主義に代わるシステム」
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-8fa6.html
の前書きで、
「現在、かなりの人々が現行の資本主義のあり方に疑問を抱いている様子。
そこで、資本主義を克服する試みがさまざまな形で現れています。」
と書きました。
今回は、その補足といえる内容です。
経済もしくはビジネスの新しい形態についてふれ、それらをあまり取り上げようとしない大手メディアの傾向が批判されています。
筆者は、Gar Alperovitz(ガー・アルペロビッツ)氏と Keane Bhatt(キーン・バット)氏。
掲載元は、例によって、オンライン・マガジンの AlterNet(オルターネット誌)です。
タイトルは
Revealed: Wall Street Journal More Interested in Caviar and Foie Gras Than Employee-owned Firms
(真実の姿があらわに:
ウォール・ストリート・ジャーナルの関心は、従業員所有会社よりもキャビアやフォイグラ)
原文はこちら↓
http://www.alternet.org/economy/revealed-wall-street-journal-more-interested-caviar-and-foie-gras-employee-owned-firms
(なお、原文の掲載期日は12月3日です。また、原文サイトに埋め込まれている図表は省略しています)
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Revealed: Wall Street Journal More Interested in Caviar and Foie Gras Than Employee-owned Firms
真実の姿があらわに:
ウォール・ストリート・ジャーナルの関心は、従業員所有会社よりもキャビアやフォイグラ
経済の既存体制に対する大胆な挑戦が報道をひるませる
2012年12月3日
国民の苦難、環境悪化に対する憤り、深刻な経済状況を打開できない旧来の政治手法の無力さ-----これらが誘因となって、とんでもなく大量の現実的で現場対応型の制度的実験や革新が続々と登場している。その担い手は、全米各地の改革運動家や経済学者、社会問題に関心がある地域社会のビジネスリーダーたちだ。
大規模で民主的な「新経済」がアメリカ全土で徐々に姿を整えつつある。が、しかし、一般国民はそれについてほとんど知らない。というのも、わが国のメディアが、成長しつつあるこれらの制度や手法を報じようとはしないからだ。
たとえば、アメリカで発行部数のもっとも多い新聞であるウォール・ストリート・ジャーナル紙を取り上げてみよう。2012年の1月から11月の同紙の記事を精査してみると、キャビアについて言及した回数が、従業員所有会社(employee-owned firms)についてふれた回数の10倍にのぼった。この従業員所有会社というのは、成長しつつあるビジネス形態で、8000億ドル超の資産と1000万人の従業員オーナーを擁する。1000万といえば、民間部門の組合メンバーよりおよそ300万多い数字だ。
(図表は省略)
また、労働者所有(Worker ownership)という形態(もっとも一般的なものは従業員持ち株制度)については、ほんの5つの記事で登場したにすぎない。これと対照的に、競馬など、馬に関する話は60以上の記事で取り上げられた。ゴルフ・クラブについては132の記事にのぼる。
国連は2012年を「国際協同組合年」と定めた。協同組合(co-operatives)は今日、世界で10億人以上のメンバーをほこる組織である。ところが、これについてもやはりウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道はわずかだ。アメリカでは1億2000万人を超える人々が生活協同組合(コープ)や協同信用金庫に参加している。これはミューチュアル・ファンドの保有者より約3000万人多い勘定だ。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、1月から11月までの間、ミューチュアル・ファンドには約700の記事を割り当てたが、コープという言葉が出る記事はたった183だけであった。しかも、これらの記事のうち、大半はニューヨークの高級不動産をめぐるものであった。つまり、見出しが「高額の共同住宅(コープ・マンション)にひきあいが殺到」といったものだ。
全米各地の膨大な数の協同事業については、70の記事で論じられている。しかし、協同組合に関する実質的な内容の記事は14しかない。全部で14ということは、同じ期間に登場したシャンペン・ブランドのドンペリニヨンにふれた記事の13回をどうやらしのぐだけである。フランス料理の華であるフォイグラに言及した記事は40であって、こちらは大差だ。
(図表は省略)
協同組合のほかに、民主化されたた経済組織としては非営利団体である地域社会開発法人(Community Development Corporation、略称CDC)があげられる。その数は全米で約4500にのぼり、あらゆる地域で活動している。このような地域社会と密着した近隣法人(neighborhood corporations)が、低価格の住宅を供給したり、年間数十万平方メートルもの商業用地や工業用地の開発にたずさわったりしている。ところが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙がCDCに言及した記事は2012年にはまったく見当たらない。過去28年のうちでも43回しかない。1年に2回以下の頻度である。一方、chateau(大邸宅)という単語はその30倍の頻度で現れ、luxury apartments(高級マンション)という語になると300倍の頻度で登場した。
(図表は省略)
予想されるように、経済の民主化を後押しする、この拡大しつつある「新しい経済の潮流」自体、ニュースとして報道されることがきわめて少ない。一般市民の参画がさまざまなレベルで増大しているにもかかわらず、である。昨年一年をふり返っても、労働者所有会社や協同組合、公共銀行(public banking)、非営利・公的土地信託制度、近隣法人などをテーマとした集会が、全米レベルや州レベルで開かれ、参加希望者が定員を超す人気ぶりであった。これらの事業形態や制度に対する関心の高まりが示された形である。けれども、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はこれらの動向にほとんど紙面を割かない。
そのほかにも、何千と創意に富んだ試み-----環境関連ビジネス、地域福祉にたずさわる人々の協働的取り組み、等々-----が国内の至るところで実践されている。が、ニュースに取り上げられることはほとんどない。それらの試みのいくつかは、州や地域という「民主主義の実験室」において現実的な叩き台を構築するものと理解されている。そして、政治的な機が熟したとき、地域レベルもしくは全米レベルで採用されることになるかもしれない。例をあげると、オハイオ州のクリーブランドでは、きわめて貧しい、黒人が大勢を占める地域に、先端的な労働者所有会社が共同事業体を形成し、発展している。このスタイルは、モンドラゴン協同組合企業の枠組みにならったものだ。モンドラゴン協同組合企業とは、スペイン北部に本拠を置き、労働者がオーナーである協同組合の躍動的なネットワークである。8万人超のメンバーと何十億ドルという歳入をほこっている。
また、長い歴史を有するノースダコタ州立銀行の例にならって公共銀行を創設しようとする法案が、2010年以来、20の州で提出されている。ロサンゼルスやカンザスシティ等のいくつかの都市では、「責任を果たす銀行」令("responsible banking" ordinances)を可決した。これは、地域社会に対する影響をあきらかにするよう銀行に求めたり、地域社会の要求に応えようとする銀行だけと取引することを地方当局に義務づけるものだ。しかし、これら銀行に道義的責任を負わせようとする地方の取り組みも、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はなんら関心がないように思われる。一方で、同紙は、オバマ大統領の出生証明書をめぐるやくたいもない記事を今年7つも掲載したが。
(図表は省略)
報道の少なさは、個別のビジネスに関しても同様だ。レクリエーショナル・イクイップメント・インク(Recreational Equipment, Inc.、略称REI)といえば、2011年には18億ドルの売上げを計上した、きわめて好調な消費者協同組合である。1億6500万ドルの利益をあげ、470万人の有効会員と1万1000人の従業員に恩恵をもたらしている。また、オーガニックバレー(Organic Valley)は、ウィスコンシン州に本拠をかまえる、酪農家による協同組合で、約1700人の農業者オーナーを擁し、7億ドル超の売上げをほこる。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が今年1月から10月までの間で、ほんのちょっとでもREIにふれた記事を掲載したのは、たった3度にすぎない。オーガニックバレーの方はわずか1度である。REIとオーガニックバレーの登場回数をあわせても、愛玩犬のキャバリア・キングチャールズ・スパニエルと同じ頻度-----つまり、年に4度-----になるにすぎない。
報道に関する姿勢をより鮮明に示してくれるのは、いわゆる「ホットな話題」のあつかい方、および、経済的重要性はより高いが「ホットな話題」に属さないものの冷遇である。米国の協同組合は5000億ドル超の年間売上げを計上する。一方、スマートフォンの世界市場は、ブルームバーグ・インダストリーズの試算によれば、2190億ドルと、その半分以下の規模である。おまけに、協同組合のメンバーはスマートフォン・ユーザーより2000万人も多い。ところが、今年1月から10月までの間に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で「スマートフォン」という語をふくむ記事は1000以上にのぼった。協同組合に言及した記事の5倍以上である(その記事の多くは、実際は、すでに述べたように、マンハッタンの高級マンションをめぐるものだ)。
これらウォール・ストリート・ジャーナル紙の紙版の記事の分析は、メリーランド大学の『デモクラシー・コラボレーティブ』が、オンライン・データベースの『プロクエスト』を利用しておこなったものである。本文章では、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に焦点をしぼった。経済とビジネスにかかわるニュースを提供する米国の代表的な報道機関だからである。しかし、暫定的な検討においても、他の米国メディアが、この急拡大している「新経済」に同じくわずかの報道スペースしか当てていないことが示された。これによって、メディアにおける報道の機会拡大の必要性があらためて浮き彫りになった。なぜそれが必要かといえば、これらの新潮流が、より民主化された、持続可能で、地域社会に根ざした経済を構築するのにカギとなるからである。
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[訳注と補足と余談など]
■最初に述べましたが、今回の内容については、以前のブログ「資本主義に代わるシステム」とその「続き」もぜひご覧ください。
(筆者のガー・アルペロビッツ氏と『デモクラシー・コラボレーティブ』についても簡単な説明があります)
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-8fa6.html
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-2aca.html
■用語と訳語について。
原文中のいくつかの単語は、新しい現象を扱っていますからまだ日本語の定訳はないようです。
そのいくつかについて、補足しておきます。
・Employee-owned Firms
「従業員所有会社」としましたが、「従業員所有企業」とするサイトもあります。どちらでもかまわないでしょう。
・Community Development Corporation (略称CDC)
「地域社会開発法人」としましたが、「地域開発組合」、「コミュニティ開発法人」、「地域共同開発組合」という表現もありました。
その活動内容については、こちらのサイトが参考になります↓
CDC地域開発
http://www5d.biglobe.ne.jp/~okabe/kiji/cdc.html
アメリカにおける非営利ビジネスの展開
http://staff.aichi-toho.ac.jp/okabe/ronbun/usnpbus.html
・neighborhood corporation
検索すると「近隣住区法人」としているサイトがありました。が、「近隣住区」はあまり聞き慣れない日本語のように感じます。音韻的にも耳障りのような気がします。それで、私の訳文では「近隣法人」としました。「地域社会法人」という訳でもいいかもしれません。
・public banking や nonprofit and public land trusts、“responsible banking” ordinances などについては、ネットでざっと検索したところ、わかりやすく説明してくれているサイトは見当たりませんでした。それぞれ、「公共銀行」、「非営利・公的土地信託制度」、「「責任を果たす銀行」令」と暫定的な訳をあたえておきました。
■Mondragon Corporation(モンドラゴン協同組合企業)については、ウィキペディアのほかに以下のサイトが参考になります↓
モンドラゴン協同組合企業体――アリスメンディアリエタの思想を中心に――
http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/8kisei/yamamoto.pdf
■Recreational Equipment, Inc. (REI)(レクリエーショナル・イクイップメント・インク)については、以下のサイトが参考になります↓
REI(Recreational Equipment Inc.)の研究
http://www.urban.ne.jp/home/take/rei.htm
■今回の文章から浮かび上がってくるウォール・ストリート・ジャーナル紙の想定する主要読者は、
・マンハッタンの高級マンションへの投資またはその購入を考えている
・ミューチュアル・ファンドなどの投資信託の保有者
・趣味は乗馬か競馬、ゴルフなど
・キャビアやフォイグラ、高級ワインなどに関心のあるグルメである
・ペットにキャバリア・キングチャールズ・スパニエルを飼っている
・もちろん、スマートフォンを活用
という感じですかね(笑)
会社経営者や幹部、銀行家、資産家ですね。
訴求対象となる想定購読者や広告主のために記事傾向がゆがむ点については、それにふれた文章を以前のブログでも訳出しました↓
忘れられた労働者階級と現代ジャーナリズムの変質
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-54eb.html