気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

経済の新潮流(とそれを取り上げようとしない大手メディア)

2012年12月28日 | 経済

前の、7月11日のブログ「資本主義に代わるシステム」
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-8fa6.html

の前書きで、

「現在、かなりの人々が現行の資本主義のあり方に疑問を抱いている様子。
そこで、資本主義を克服する試みがさまざまな形で現れています。」

と書きました。

今回は、その補足といえる内容です。
経済もしくはビジネスの新しい形態についてふれ、それらをあまり取り上げようとしない大手メディアの傾向が批判されています。

筆者は、Gar Alperovitz(ガー・アルペロビッツ)氏と Keane Bhatt(キーン・バット)氏。
掲載元は、例によって、オンライン・マガジンの AlterNet(オルターネット誌)です。

タイトルは
Revealed: Wall Street Journal More Interested in Caviar and Foie Gras Than Employee-owned Firms
(真実の姿があらわに:
ウォール・ストリート・ジャーナルの関心は、従業員所有会社よりもキャビアやフォイグラ)


原文はこちら↓
http://www.alternet.org/economy/revealed-wall-street-journal-more-interested-caviar-and-foie-gras-employee-owned-firms

(なお、原文の掲載期日は12月3日です。また、原文サイトに埋め込まれている図表は省略しています)


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Revealed: Wall Street Journal More Interested in Caviar and Foie Gras Than Employee-owned Firms
真実の姿があらわに:
ウォール・ストリート・ジャーナルの関心は、従業員所有会社よりもキャビアやフォイグラ

経済の既存体制に対する大胆な挑戦が報道をひるませる

2012年12月3日


国民の苦難、環境悪化に対する憤り、深刻な経済状況を打開できない旧来の政治手法の無力さ-----これらが誘因となって、とんでもなく大量の現実的で現場対応型の制度的実験や革新が続々と登場している。その担い手は、全米各地の改革運動家や経済学者、社会問題に関心がある地域社会のビジネスリーダーたちだ。

大規模で民主的な「新経済」がアメリカ全土で徐々に姿を整えつつある。が、しかし、一般国民はそれについてほとんど知らない。というのも、わが国のメディアが、成長しつつあるこれらの制度や手法を報じようとはしないからだ。

たとえば、アメリカで発行部数のもっとも多い新聞であるウォール・ストリート・ジャーナル紙を取り上げてみよう。2012年の1月から11月の同紙の記事を精査してみると、キャビアについて言及した回数が、従業員所有会社(employee-owned firms)についてふれた回数の10倍にのぼった。この従業員所有会社というのは、成長しつつあるビジネス形態で、8000億ドル超の資産と1000万人の従業員オーナーを擁する。1000万といえば、民間部門の組合メンバーよりおよそ300万多い数字だ。

(図表は省略)

また、労働者所有(Worker ownership)という形態(もっとも一般的なものは従業員持ち株制度)については、ほんの5つの記事で登場したにすぎない。これと対照的に、競馬など、馬に関する話は60以上の記事で取り上げられた。ゴルフ・クラブについては132の記事にのぼる。

国連は2012年を「国際協同組合年」と定めた。協同組合(co-operatives)は今日、世界で10億人以上のメンバーをほこる組織である。ところが、これについてもやはりウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道はわずかだ。アメリカでは1億2000万人を超える人々が生活協同組合(コープ)や協同信用金庫に参加している。これはミューチュアル・ファンドの保有者より約3000万人多い勘定だ。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、1月から11月までの間、ミューチュアル・ファンドには約700の記事を割り当てたが、コープという言葉が出る記事はたった183だけであった。しかも、これらの記事のうち、大半はニューヨークの高級不動産をめぐるものであった。つまり、見出しが「高額の共同住宅(コープ・マンション)にひきあいが殺到」といったものだ。

全米各地の膨大な数の協同事業については、70の記事で論じられている。しかし、協同組合に関する実質的な内容の記事は14しかない。全部で14ということは、同じ期間に登場したシャンペン・ブランドのドンペリニヨンにふれた記事の13回をどうやらしのぐだけである。フランス料理の華であるフォイグラに言及した記事は40であって、こちらは大差だ。

(図表は省略)

協同組合のほかに、民主化されたた経済組織としては非営利団体である地域社会開発法人(Community Development Corporation、略称CDC)があげられる。その数は全米で約4500にのぼり、あらゆる地域で活動している。このような地域社会と密着した近隣法人(neighborhood corporations)が、低価格の住宅を供給したり、年間数十万平方メートルもの商業用地や工業用地の開発にたずさわったりしている。ところが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙がCDCに言及した記事は2012年にはまったく見当たらない。過去28年のうちでも43回しかない。1年に2回以下の頻度である。一方、chateau(大邸宅)という単語はその30倍の頻度で現れ、luxury apartments(高級マンション)という語になると300倍の頻度で登場した。

(図表は省略)

予想されるように、経済の民主化を後押しする、この拡大しつつある「新しい経済の潮流」自体、ニュースとして報道されることがきわめて少ない。一般市民の参画がさまざまなレベルで増大しているにもかかわらず、である。昨年一年をふり返っても、労働者所有会社や協同組合、公共銀行(public banking)、非営利・公的土地信託制度、近隣法人などをテーマとした集会が、全米レベルや州レベルで開かれ、参加希望者が定員を超す人気ぶりであった。これらの事業形態や制度に対する関心の高まりが示された形である。けれども、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はこれらの動向にほとんど紙面を割かない。

そのほかにも、何千と創意に富んだ試み-----環境関連ビジネス、地域福祉にたずさわる人々の協働的取り組み、等々-----が国内の至るところで実践されている。が、ニュースに取り上げられることはほとんどない。それらの試みのいくつかは、州や地域という「民主主義の実験室」において現実的な叩き台を構築するものと理解されている。そして、政治的な機が熟したとき、地域レベルもしくは全米レベルで採用されることになるかもしれない。例をあげると、オハイオ州のクリーブランドでは、きわめて貧しい、黒人が大勢を占める地域に、先端的な労働者所有会社が共同事業体を形成し、発展している。このスタイルは、モンドラゴン協同組合企業の枠組みにならったものだ。モンドラゴン協同組合企業とは、スペイン北部に本拠を置き、労働者がオーナーである協同組合の躍動的なネットワークである。8万人超のメンバーと何十億ドルという歳入をほこっている。

また、長い歴史を有するノースダコタ州立銀行の例にならって公共銀行を創設しようとする法案が、2010年以来、20の州で提出されている。ロサンゼルスやカンザスシティ等のいくつかの都市では、「責任を果たす銀行」令("responsible banking" ordinances)を可決した。これは、地域社会に対する影響をあきらかにするよう銀行に求めたり、地域社会の要求に応えようとする銀行だけと取引することを地方当局に義務づけるものだ。しかし、これら銀行に道義的責任を負わせようとする地方の取り組みも、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はなんら関心がないように思われる。一方で、同紙は、オバマ大統領の出生証明書をめぐるやくたいもない記事を今年7つも掲載したが。

(図表は省略)

報道の少なさは、個別のビジネスに関しても同様だ。レクリエーショナル・イクイップメント・インク(Recreational Equipment, Inc.、略称REI)といえば、2011年には18億ドルの売上げを計上した、きわめて好調な消費者協同組合である。1億6500万ドルの利益をあげ、470万人の有効会員と1万1000人の従業員に恩恵をもたらしている。また、オーガニックバレー(Organic Valley)は、ウィスコンシン州に本拠をかまえる、酪農家による協同組合で、約1700人の農業者オーナーを擁し、7億ドル超の売上げをほこる。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が今年1月から10月までの間で、ほんのちょっとでもREIにふれた記事を掲載したのは、たった3度にすぎない。オーガニックバレーの方はわずか1度である。REIとオーガニックバレーの登場回数をあわせても、愛玩犬のキャバリア・キングチャールズ・スパニエルと同じ頻度-----つまり、年に4度-----になるにすぎない。

報道に関する姿勢をより鮮明に示してくれるのは、いわゆる「ホットな話題」のあつかい方、および、経済的重要性はより高いが「ホットな話題」に属さないものの冷遇である。米国の協同組合は5000億ドル超の年間売上げを計上する。一方、スマートフォンの世界市場は、ブルームバーグ・インダストリーズの試算によれば、2190億ドルと、その半分以下の規模である。おまけに、協同組合のメンバーはスマートフォン・ユーザーより2000万人も多い。ところが、今年1月から10月までの間に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で「スマートフォン」という語をふくむ記事は1000以上にのぼった。協同組合に言及した記事の5倍以上である(その記事の多くは、実際は、すでに述べたように、マンハッタンの高級マンションをめぐるものだ)。

これらウォール・ストリート・ジャーナル紙の紙版の記事の分析は、メリーランド大学の『デモクラシー・コラボレーティブ』が、オンライン・データベースの『プロクエスト』を利用しておこなったものである。本文章では、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に焦点をしぼった。経済とビジネスにかかわるニュースを提供する米国の代表的な報道機関だからである。しかし、暫定的な検討においても、他の米国メディアが、この急拡大している「新経済」に同じくわずかの報道スペースしか当てていないことが示された。これによって、メディアにおける報道の機会拡大の必要性があらためて浮き彫りになった。なぜそれが必要かといえば、これらの新潮流が、より民主化された、持続可能で、地域社会に根ざした経済を構築するのにカギとなるからである。


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[訳注と補足と余談など]

■最初に述べましたが、今回の内容については、以前のブログ「資本主義に代わるシステム」とその「続き」もぜひご覧ください。
(筆者のガー・アルペロビッツ氏と『デモクラシー・コラボレーティブ』についても簡単な説明があります)

http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-8fa6.html

http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-2aca.html


■用語と訳語について。
原文中のいくつかの単語は、新しい現象を扱っていますからまだ日本語の定訳はないようです。
そのいくつかについて、補足しておきます。

・Employee-owned Firms
「従業員所有会社」としましたが、「従業員所有企業」とするサイトもあります。どちらでもかまわないでしょう。


・Community Development Corporation (略称CDC)
「地域社会開発法人」としましたが、「地域開発組合」、「コミュニティ開発法人」、「地域共同開発組合」という表現もありました。

その活動内容については、こちらのサイトが参考になります↓

CDC地域開発
http://www5d.biglobe.ne.jp/~okabe/kiji/cdc.html

アメリカにおける非営利ビジネスの展開
http://staff.aichi-toho.ac.jp/okabe/ronbun/usnpbus.html


・neighborhood corporation
検索すると「近隣住区法人」としているサイトがありました。が、「近隣住区」はあまり聞き慣れない日本語のように感じます。音韻的にも耳障りのような気がします。それで、私の訳文では「近隣法人」としました。「地域社会法人」という訳でもいいかもしれません。


・public banking や nonprofit and public land trusts、“responsible banking” ordinances などについては、ネットでざっと検索したところ、わかりやすく説明してくれているサイトは見当たりませんでした。それぞれ、「公共銀行」、「非営利・公的土地信託制度」、「「責任を果たす銀行」令」と暫定的な訳をあたえておきました。


■Mondragon Corporation(モンドラゴン協同組合企業)については、ウィキペディアのほかに以下のサイトが参考になります↓

モンドラゴン協同組合企業体――アリスメンディアリエタの思想を中心に――
http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/8kisei/yamamoto.pdf


■Recreational Equipment, Inc. (REI)(レクリエーショナル・イクイップメント・インク)については、以下のサイトが参考になります↓

REI(Recreational Equipment Inc.)の研究
http://www.urban.ne.jp/home/take/rei.htm


■今回の文章から浮かび上がってくるウォール・ストリート・ジャーナル紙の想定する主要読者は、

・マンハッタンの高級マンションへの投資またはその購入を考えている
・ミューチュアル・ファンドなどの投資信託の保有者
・趣味は乗馬か競馬、ゴルフなど
・キャビアやフォイグラ、高級ワインなどに関心のあるグルメである
・ペットにキャバリア・キングチャールズ・スパニエルを飼っている
・もちろん、スマートフォンを活用

という感じですかね(笑)
会社経営者や幹部、銀行家、資産家ですね。

訴求対象となる想定購読者や広告主のために記事傾向がゆがむ点については、それにふれた文章を以前のブログでも訳出しました↓

忘れられた労働者階級と現代ジャーナリズムの変質
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-54eb.html


米国保守系メディアの信用失墜

2012年12月10日 | メディア、ジャーナリズム

今回の大統領選挙で、米国の保守系メディアは、客観的データを無視し?、最後までロムニーの勝利を喧伝し続けたようです。
その現実無視の態度、頑迷固陋さは、リベラル派や中道派によって格好のからかいのネタとなりました。また、保守派の一部からは強い非難の言葉が向けられました。
これを話題とするたくさんのコラムその他の中から、代表的なものを選んで訳出してみました。軽いコラムですが。

筆者は『アメリカン・プロスペクト誌』の常連寄稿者、Paul Waldman(ポール・ウォルドマン)氏。
オンライン・マガジンの Salon.com(サロン誌)に掲載されたものです。

タイトルは
Is the conservative media killing conservatives?
(保守系メディアは保守派にとってマイナスとなりつつあるのか?)


原文はこちら↓
http://www.salon.com/2012/11/10/is_the_conservative_media_killing_conservatives/

(なお、原文の掲載期日は11月11日です)


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2012年11月11日(日)

Is the conservative media killing conservatives?
保守系メディアは保守派にとってマイナスとなりつつあるのか?

共和党支持者は、今回の大統領選挙を詳細にふり返れば、だまされたのは自業自得だとわかるだろう

ポール・ウォルドマン (『アメリカン・プロスペクト誌』)
本文章の初出は『アメリカン・プロスペクト誌』である


ここ何年か、私をはじめとするリベラル派は、保守系メディアの愚かしさをネタにして保守派をおおいにからかってきた。保守系メディアの世界ではスティーブ・ドゥーシーがスターであり、シーン・ハニティは洞察力をそなえた批評家、ラッシュ・リンボーは真実を追求する勇敢な戦士である。われわれはまた、それをからかいのネタにするだけでなく、これら保守系メディアの広める自己増強的世界観から生じるゆがみについてもおおいに話題にした。これらメディアのきわだった特徴のひとつ-----また、彼らを党派的左翼メディアと区別するもの-----は、自分以外のメディアのあつかい方である。リベラル派はMSNBCを好んで視聴するかもしれない。しかし、かりにMSNBCを視聴したところで、「新聞が掲載するもの、MSNBC以外のテレビ局が報道するもの一切は、保守派のでっち上げた悪意に満ちた嘘であり、わがアメリカを破壊せんとする彼らの陰謀の一環として米国民をだますために仕組まれたものだ」などと、1時間に10回ほども耳に吹き込まれたりすることはあるまい。

しかし、こんな調子がまさしくフォックス・ニュースにチャンネルをあわせたとき、ラッシュ・リンボーのラジオに耳を傾けたとき、その他たくさんの保守系メディアに接したときに得られるものだ。これらは自分の思想や信条にしっくりくる情報をあたえてくれるだけではない。はっきりと保守を打ち出さない他の報道機関は信用するなとささやく。こんな次第であるから、火曜日の大統領選挙の結果が多くの保守派にとって青天の霹靂であったのはいささかも驚きではない。もし人が保守系メディアのレトリックにどっぷり浸かっていたとしたら、米国民の大多数がみずからの意思でバラク・オバマ-----社会主義者であり、本当の米国民ではなく、弁解がましい人間で、黒人民族主義者!-----にもう1期をまかせるなどという考えは、かけらも意味をなさない。どう転んでもあり得ない話である。

(訳注: オバマが「本当の米国民ではない」とする主張については以下のサイトなどを参照。
http://www.newslogusa.com/?p=662


選挙日がせまった頃、保守派はロムニーが劣勢であることにショックを受けた。彼らは、ディック・モリスやカール・ローブ、マイケル・バロンなど、いわゆる権威ある識者らによって、ロムニーの勝利は間違いないと日々吹き込まれていたからである。そこで、彼らは、自分たち以外の人間の予想がなぜ間違っているのかについて、いよいよ馬鹿げた理屈をひねり出すようになった。そして、選挙日当日、ロムニーの地滑り的大勝という真実を隠蔽しようとする世論調査や報道機関の陰謀などはまったく存在しなかったことがあきらかとなった。
『アトランティック誌』のコナー・フリーダースドルフはこう書いている。
「今年の政治的話題の一番は、保守系メディアが主流メディアにこてんぱんにやられたことだ。そして、ゴリゴリの保守派の面々-----これらの人々は、保守系メディアに比べ主流メディアは偏向がはなはだしく、厳正さに欠けると考えている-----は、ニューヨーク・タイムズ紙が正しかったのに対して、自分たちの信頼する保守系メディアがなぜ予測を間違ったのかに関してなんらの説明もできないでいる」。

(訳注: この段落の「主流メディア(mainstream media)」とは、このコラム中の例から言えば、ニューヨーク・タイムズ紙やMSNBCなどを指す。保守派は、主流メディアはすべてリベラルに偏向していると考えているので、彼らにとっては「主流メディア=リベラル派メディア」である。逆に、リベラル派や中道派からすれば、主流メディアはおおむね客観報道をしており、フォックスなどの方が保守寄り・右寄りで、悪い意味での愛国主義をあおっているということになる)


長い間リベラル派は保守系メディアが存在することで保守派をうらやましく思ってきた。この「増幅装置」は、火のないところに煙を立たせ、無理やり主流メディアの関心をひきつけることができた。信奉者たちを整列させ、その士気を鼓舞することができた。保守派の託宣を迅速に広め、あらたなスターを創出し、規律を守らせることができた。しかし、おそらくは、保守系メディアをマイナス要因と-----右派のアキレス腱とさえ-----見なすべきときが到来したのかもしれない。

保守系メディアは保守派を誤らせただけではない。その影響はときに保守派の思いもかけないところまで達する。今回の選挙でミット・ロムニーにとってもっとも打撃となった一幕を思い出していただきたい。あの「47%」発言である。まっとうで勤勉な雇用創出者側の奮闘努力にぶら下がる人間が国内に驚くほど大量に存在することを論じる中で飛び出した数字だ。この数字をロムニーは一体どこから得たのか。まず間違いなくフォックス・ニュースか保守系トーク・ラジオからである。これらのメディアで、この数字はしばらくの間さかんに使われていた。たとえリンボーかハニティの発言から直接聞き知ったのではないとしても、彼らの言説を伝えた人間がいたに違いない。

(訳注: 上の「47%」発言については以下のサイトなどを参照。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2012/09/47.php


これからの4年間は、保守系メディアに活気をもたらすだろう。自分の敵が権力の座についていることは、商売に都合がいいのがお決まりである。今後も保守系メディアはあいかわらずリベラル派を逆上させることだろう。けれども、今度フォックス・ニュースが「オバマ大統領の背信」と称する馬鹿げた主張を持ち出したとき、あるいは、リンボーやカールソンが人種攻撃をあおるような発言をしたときは、こう心に言い聞かせるべきだ、彼らはおそらく味方の側に一番ダメージをあたえているのだ、と。

(訳注: 上の「カールソン」は、保守派のコメンテーター、タッカー・カールソン氏のこと)


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[補足と余談など]

全体的に例によって訳が冗長です。
誤訳や不適切な表現等の指摘を歓迎します。
原文や訳文に関する疑問、質問などもコメント欄からどうぞ。


■第1段落の「リベラル派はMSNBCを~」以下の文章から推測すると、フォックス・ニュースの報道の仕方がわかります。
すなわち、フォックス・ニュースは、1時間に10回ほども、

「新聞が掲載するもの、フォックス・ニュース以外のテレビ局が報道するもの一切は、リベラル派のでっち上げた悪意に満ちた嘘であり、わがアメリカを破壊せんとする彼らの陰謀の一環として米国民をだますために仕組まれたものだ」

と主張している、ということですね。

これと似たような物言いは、日本でも目にします。いわゆる「ネット右翼」と呼ばれる人たちの主張です。ネットの掲示板などで、次のような趣旨の書き込みを見かけます。

「朝日新聞などが掲載するものは、左翼のでっち上げた悪意に満ちた嘘であり、わが日本を破壊せんとする彼らの陰謀の一環として日本国民をだますために仕組まれたものだ」。


さて、そうすると、フォックス・ニュースは、日本で多くの人から馬鹿にされ、アキレられている「ネット右翼」と同じレベルということになります。
(あるいは、ネット右翼は、フォックス・ニュースやラッシュ・リンボーのラジオ番組などからこの手の主張を学んだのでしょうか)


■訳文中の訳注にも書いたように、保守派にとっては「主流メディア=リベラル派メディア」です。大手メディアの大半はリベラルに偏向していると彼らは主張しています。
一方、リベラル派からすると、近年の米国メディアは著しく右に傾いており、リベラル派は劣勢であると感じています。

主にリベラル派の観点による、米国メディアの地勢図については、以前のブログで訳出、紹介しました。

米国メディアの現状・その2(リベラル派の苦境)
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/2-3ff0.html


保守派、リベラル派いずれも、自分たちの側が少数派であり、自分たちはまわりを敵に囲まれているといったイメージを抱いているらしいのがおもしろい。
どちらが真実に近いのかはっきり断言するのはちょっとむずかしいようです。

このブログで何度も紹介したグレン・グリーンウォルド氏からすれば、リベラル派メディアとされる主流メディアも、往々にして政府の御用機関、プロパガンダ機関に堕している、リベラル派の偽善がはなはだしい、ということですが、この点については、具体例をあげて批判しており、否定しようがないでしょう。


■今回の訳文で紹介したように、米国の保守系メディアは大統領選挙結果について大恥をかきました。この結果、保守系メディアの人気が長期的に下がるかどうかはまだわかりません。
一応、最近の調査では、フォックス・ニュースの視聴率が若干下がり、MSNBCのそれは逆にやや上昇しているとのことです。

しかし、保守系メディアの視聴者はそもそも自分の好みのニュースしか視聴しない、それが正確かどうかにはほとんど関心を払わない、したがって、今後も特に視聴率が下がることはない、との見方もあります。

また、実際の投票行動は、フォックス・ニュースやラッシュ・リンボーなどが推奨する通りにはなっていない、現実の投票ということになると、国民は慎重だ、とするニューヨーク・タイムズ氏のある著名コラムニストの見方もありました。つまり、米国民はそれほど馬鹿ではない。ラッシュ・リンボーなどの乱暴な、歯切れのよい右派的言説にはストレス解消の意味もあって耳を傾けるけれども、その主張を100%その通り受け取る人間はいない、ということです。
もし、これが本当なら、「成熟した民主主義」と言えなくもありません。そして、保守系メディアが人気があろうがなかろうがたいした問題ではないということになるかもしれません。