気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

チョムスキー氏語る・4-----日本について

2014年05月29日 | 国際政治

今回もチョムスキー氏の語りです。
私の「ひとりチョムスキー翻訳プロジェクト」の一環です(笑)。

定期的にのぞいているオンライン・マガジンの『Znet(Zネット誌)』に載ったチョムスキー氏の文章はなるべくファイルに保存するようにしていますが、今回はその中から日本をめぐっての発言を取り上げてみました。
(初出はジャパン・タイムズ紙のようです)

話題は、原爆投下時の自分の行動の思い出、日本の平和憲法、中国への対応、米国の覇権、安倍政権、沖縄問題、原子力、等々さまざまです。


タイトルは
Truth to Power
(権力者に真実を)

インタビューの聞き手は David Mcneill(デビッド・マクニール)氏。

原文はこちら
http://zcomm.org/znetarticle/truth-to-power/

(なお、原文の掲載期日は2月23日でした)


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Truth to Power
権力者に真実を


By Noam Chomsky & David Mcneill
ノーム・チョムスキー、デビッド・マクニール

初出: ジャパン・タイムズ

2014年2月23日


政治理論家でもあるノーム・チョムスキー氏は、世界でも際立って物議をかもす思索家のひとりである。来月の訪日に先立ち、本紙は、近年のアジアの地政学的動向をめぐり同氏の考えをうかがった。


日本とのかかわりについてうかがいたいのですが。

日本については1930年代からずっと興味を持っていました。満州や中国における非道な犯罪行為について読んだからです。1940年代前半には、私は10代の若者でしたが、人種差別的で国粋主義的な反日プロパガンダの熱狂にまったく呆然としました。ドイツ人は悪者とされましたが、それでもいくらかの敬意を持ってあつかわれました。結局のところ、彼らは色白のアーリア人のタイプでした-----米国人の抱く自分自身のイメージにぴったりの。一方、日本人は虫けらにすぎず、アリのように踏みつぶされる存在として受け取られていました。日本の各都市に対する爆撃はくわしく報じられていました。それを読めば、重大な戦争犯罪が進行中であることは明らかでした。多くの点で原爆よりも深刻なものです。

こういう話をお聞きしました。あなたが広島への原爆投下、そしてそれをめぐる米国民の反応にあまりにショックを受け、まわりの人間から離れて、ひとりになって悲嘆にくれた、と。

そうです。1945年8月6日のことです。私は子供のためのサマー・キャンプに参加していました。拡声器を通じてヒロシマに原爆が落とされたことが伝えられました。全員が耳を澄ませて聞いていました。が、すぐに自分たちの活動に戻りました。野球やら水泳やらです。誰も何も言いませんでした。私はショックでほとんど口がきけない状態でした-----原爆投下という恐ろしい出来事とこれに対する無反応の両方のおかげで。『だから、どうしたっていうの? またジャップが大勢焼け死んだっていうだけ。それに、アメリカは原爆を持ち、よその国は持たない。すばらしいじゃないか。僕たちは世界を支配することができる。それでみんなハッピーさ』。こんな具合です。

その後の戦後処理についても、私は同様にかなりの嫌悪感を持って、注意を払ってきました。もちろん、当時は、今自分がしていることを予想してはいませんでした。けれども、十分に情報は得られたのです。「愛国的なおとぎ話」の嘘を見抜ける程度の情報は。

日本を初めて訪れた時は妻と子供が一緒でした。50年ほど前のことです。純粋に言語学をめぐるものでした。けれども、その時、自分の一存で『べ平連』(『ベトナムに平和を!市民連合』)の方々とお会いしました。それ以降、日本には何度も足を運んでいます。いつも言語学に関する用向きですが。私には非常に印象深く感じられることがあります。私が訪問したことのある国-----それはけっこうな数にのぼりますが-----、その中では日本だけなのです。「世界が燃えているさなか」(訳注1)でさえ、講演やインタビューがもっぱら言語学とそれに関連する事柄だけをあつかうという国は。

今回の訪日は日本にとって決定的な岐路となる可能性のある時期と重なりました。日本の現政権は、60年におよぶ平和主義的姿勢を転換しようとする動きを見せています。海外からの脅威に対しては「より柔軟な」対応が必要との主張です。中国や韓国との関係は険悪なものになっています。戦争の可能性さえささやかれています。懸念すべき状況でしょうか。

懸念すべきであることは非常にはっきりとしています。日本は平和主義的姿勢を捨てるのではなく、世界を勇気づけるモデルとしてそれを誇りに思うべきなのです。そしてまた、「戦争の惨害から将来の世代を救うため」という国連憲章の理念を率先して追求するべきです。この地域におけるさまざまな問題は切実なものです。しかし、必要とされる手段は、政治的な折り合い、および、平和的な関係の確立に向けた取り組みです。それほど昔ではない過去に悲惨な結果をまねいた政策へと回帰することではなく。

ですが、その政治的折り合いとは、具体的にどのように達成できるでしょうか。アジアで現在私たちが直面している状況、つまり、各国ともナショナリズムが高まっている状況。また、不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国があり、一方に、国力が衰退しつつある国があり、後者の国は、このような展開が何をもたらすかについてますます不安をつのらせているような状況です。同様の状況における歴史的な前例はかんばしいものではありませんでした。

確かに問題は切実ですが、その問いは多少違った角度からとらえるべきではないかと思います。中国の軍事支出は米国によって注意深く見張られています。なるほど、それは確かに増大していますが、米国の支出に比べればちっぽけなものにすぎません。米国のそれは、同盟国を考慮に入れれば、いよいよ途方もないスケールになります(中国にはそのような同盟国は存在しません)。また、中国は太平洋における「封じ込め」から逃れようと努めています。それは、自国の貿易と太平洋への自由なアクセスに欠かせない海域に対する支配力を削ぐからです。このような事情は明らかに紛争の種となります。それは、しかし、それぞれの自国の利害をかかえるアジアの一部の国との紛争の種となり得ますが、中心となる対立国は米国です。米国は、無論のこと、いささかでも自分と肩を並べるような存在など夢にも考えようとしないでしょう。それどころか、世界を牛耳ることを目指しています。

米国は「衰退しつつある国」であり、その衰退は1940年代後半から始まっていました。けれども、覇権国家としては依然他国を寄せつけません。その軍事支出は実質上、他国すべてを合わせたものに匹敵します。その上、技術的にははるかに進んでいます。また、世界中に何百もの軍事基地を置き、連携をとるなど、他国にとっては夢のまた夢です。世界でもっとも大規模なテロ作戦を展開している点でも同様です。この「もっとも大規模なテロ作戦」という表現は、オバマ大統領が進める無人航空機による暗殺行為にまさしく当てはまります。そして、言うまでもなく、米国は過去に侵略や体制転覆をおこなったおぞましい経歴の所有者です。

これらは、政治的な折り合いを模索する際に欠かせない背景です。具体的には、中国の利害は、アジアの他の国々の利害と並んで尊重されるべきです。しかし、世界的な覇権国家による支配を受け入れる正当な根拠は存在しません。

日本の「平和主義的」憲法をめぐる周知の問題のひとつは、それが実態とあまりに食い違っているという点です。日本は米国の「核の傘」の下に行動し、米軍基地を何十とかかえ、多数の米軍兵士を駐留させています。これは、憲法9条の平和主義的理想を体現したものと言えるでしょうか。

日本のふるまいが正当な憲法上の理念と齟齬をきたしているのであれば、変えられるべきはふるまいの方です。理念ではなく。

安倍晋三氏が首相として政界に復帰したことについてはおくわしいでしょうか。安倍首相を国粋主義者として非難する者もいます。一方で、支持派は、安倍首相はただ単に時代遅れになった日本の3つの根本的な枠組み、すなわち、教育基本法、1947年の平和憲法、日米安全保障条約を時代に即したものに変えようとしているにすぎないと主張しています。これら3つの定めはいずれもその淵源を戦後における米国の占領に求めることができます。安倍首相についてどうお考えですか。

日本が世界の中でもっと独自の役割を追求するのは理にかなっています-----南米その他の国々にならい、米国の支配から脱しようとするのは。けれども、そのやり方は、安倍首相の国粋主義とは実質的に正反対のものであるべきでしょう。安倍首相のやり方を国粋主義と形容するのは、私には妥当であるように感じられます。平和主義的な日本国憲法、それは戦後の占領の遺産のひとつですが、とりわけ、この憲法を強く擁護すべきだと思います。

ナチス・ドイツの勃興と中国の急成長を同等視する見方については、どうお考えでしょうか。このような見方は日本の国粋主義者などからしばしば提示されるのですが。また、最近ではフィリピンの大統領、ベニグノ・アキノ氏からも同様の趣旨の発言がありました。中国の急成長は、日本の譲歩的姿勢を改めよという主張の一根拠として頻繁にひき合いに出されます。

中国は確かにいちじるしく国力を増し、「屈辱の世紀」(訳注2)から抜け出して、アジアだけでなく世界におけるひとつの勢力になろうとしています。このような成長には、かんばしくない、時には他国をおびやかすような側面がともなうことが通例です。けれども、ナチス・ドイツと結びつけるのは馬鹿げています。ここで、2013年の終わりに発表された国際的な世論調査にふれた方がいいでしょう。「世界の平和に対するもっとも大きな脅威」はいずれの国であるか、という問いが提示されました。他国をひき離して米国が断然トップでした。中国の4倍の票を集めたのです。このような結果になるのは、相応の強固な理由があるからです-----それについては先ほど多少ふれました。にもかかわらず、米国をナチス・ドイツになぞらえるのはまったく馬鹿げたことでしょう。その上、中国は米国よりはるかに暴力や体制転覆、その他さまざまな介入手段に訴えることが少なかったのです。

中国をナチス・ドイツと同等視するのは、実際のところ、過剰反応と言うべきでしょう。日本の皆さんは多少でもご存知なのだろうかと私は不思議に思います-----米国が第二次世界大戦後に、世界の覇者としての役割を英国からひき継いで以後、世界中で何をしているか、何をしてきたか、また、その覇者としての役割をいかに拡大したかについて。

人によっては、アジアに地域主義が台頭している兆候を見出しています。中国や日本、韓国を軸とし、さらにアジア全域に拡大しつつある密接な貿易関係を原動力としてです。このような動向はどのような条件の下で米国の覇権とナショナリズムを押しとどめることができるでしょうか。

それは可能性にとどまりません。すでに現実の事態です。中国の近年の急成長は、周囲の工業国から供給される先進的な部品、設計、その他の高度技術の産物に相当の程度依存しています。他のアジアの国々もこの枠組みにいよいよ組み込まれつつあります。米国はこの枠組みの重要な構成要素であり、西欧も同様です。中国に向けて米国は、先端技術を含め、さまざまなものを輸出しています。そして、同時に完成品を輸入しています。いずれも途方もない規模で、です。中国による付加価値は今のところ微々たるものですが、高度な技術を習得するにつれてそれは高まらざるを得ません。これらの展開は、適切に対応されさえすれば、政治的な折り合いを手助けすることになるでしょう。深刻な衝突を避けたいのであれば、それは至上命題です。

近年、尖閣諸島をめぐる緊張によって、中国と日本が軍事的に衝突する恐れが取りざたされています。大多数のコメンテーターは、今のところ戦争に発展する可能性は低いとなお考えています。甚大な損失、この2国間の経済、貿易をめぐる深い結びつきなどを考慮してです。あなたのお考えはいかかでしょう。

目下生起している対立はきわめて危険なものです。中国が論争中の地域に防空識別圏を設定したこと、米国がその後すぐにその識別圏を侵犯したこと(訳注3)も同様にきわめて危険なふるまいです。私たちは歴史によって確かに教えられたはずです。火をもてあそぶのは賢明なふるまいではない、と。強大な軍事力を所有している国についてはとりわけそうです。ちっぽけな出来事が急速にエスカレートし、経済的なつながりをも圧倒してしまう、そういう可能性があります。

これらの事態に関して米国の役割はどんなものでしょう。米国政府が中国との紛争にひき込まれることを望んでいないのは明らかなようですが。また、安倍首相の歴史認識、そして、日本の歴史修正主義のかなめである靖国神社への参拝という行為に接して、オバマ政権は憤慨したと私たちは理解しています。もっとも、米国を「私心のない仲介者」と呼ぶことはためらわれるのですが …… 。

そうは呼べないでしょうね。米国は中国を軍事基地で取り囲みつつあります。中国はそんなことはしていません。米国の安全保障の専門家はこの地域に関して「典型的な『安全保障のジレンマ』(訳注4)」という言葉を使っています。米国と中国がお互いに相手の姿勢を自国の基本的な利害に対する脅威と感じているからです。しかし、問題の焦点は、中国に接する海域の支配力をめぐるものです。カリブ海あるいはカリフォルニア沖の海域ではありません。米国にとっては、世界を制することが「重大な国益」なのです。

ここで、鳩山由紀夫首相がどうなったかを思い起こしておきましょう。同氏は、米国政府の意向をものともせず、大多数の沖縄県民の意思に従おうとしました。結果は、ニューヨーク・タイムズ紙によるとこうです。「鳩山首相は日曜、重要な選挙公約を守れなかったことを怒りに満ちた沖縄住民に向けて陳謝し、米軍基地を米国との当初の合意通り、本島の北方に移設することを決めたと語った」。同氏の「降伏」-----これはもっともな表現です-----は、米国政府からの強い圧力によるものです。

防空識別圏にとどまらず、中国は南シナ海で日本やフィリピン、ベトナムと領土をめぐり対立しています。これらの問題すべてに米国は直接的か間接的にかかわっています。これらは中国の拡張主義の表れとしてとらえるべきでしょうか。

中国は地域的な影響力を拡張しようとしています。それは、世界の覇者として受容されることを求める米国の慣習的な意向と衝突します。アジアの国々の地域的な利害とも衝突します。「中国の拡張主義」という言葉は適切です。ですが、それはむしろ人を誤解に導くものでしょう。世界の覇者としての米国の圧倒的な力を考慮すれば。

第二次世界大戦が終了したばかりの頃をふり返ってみてください。米国の世界戦略の上では、アジアが米国の支配下にあることは当然のことと考えられていました。中国の独立は、これらの想定にとって深刻な打撃でした。米国における議論の場では、この中国の独立は「中国を失った(中国の喪失)」と表現されています。そして、この「喪失」の責任の所在は誰にあるのかが、マッカーシズム(赤狩り)の台頭とともに、大きな国内問題となりました。この言葉遣いそのものが示唆的です。私の財布を私がなくすことはあり得ます。でも、あなたの財布を私がなくすなんてことはできないでしょう。米国における議論では、中国はハナから米国のものだというのが暗黙の了解になっているのです。「拡張主義」という言葉を持ち出す場合には慎重でなければなりません。この米国の覇権的な考え方、そして、その醜悪な過去にしかるべき注意を払うべきなのです。

次は、沖縄についておうかがいしたいと思います。中央政府および沖縄の地方当局に対して地元住民が反発し、大きな対立が生み出されつつある様相です。前者は辺野古に米軍基地を移設する案を支持していますが、後者は先月、基地反対をかかげる市長に圧倒的な票差で再選を勝ち取らせました。事態がどのように収束するかについて、何かお考えはおありですか。

名護市の人々と稲嶺進市長の勇気には敬服するしかありません。住民が圧倒的に反対している基地を安倍政権は無理やり押しつけようと嘆かわしい努力をしましたが、それを拒絶したのですから。また、嘆かわしいだけでなく、恥ずべきであるのは、住民の民主的な決定を中央政府が即座に踏みにじったことです(訳注5)。どんな結末をむかえるかについては、私には確たることは言えません。しかし、民主主義の行く末、また、平和への道筋にとって、それは小さからぬ重要性を持つでしょう。

安倍政権は原子力利用をふたたび推進し、停止中の原子力発電所を再稼動させようとしています。賛成派は、原発の休眠状態が発電コストと化石燃料の使用率の大幅な上昇につながると言い、反対派はその危険性を訴えています。

原子力をめぐる問題は総じて一筋縄ではいきません。フクシマの事故のことを考えれば、それがいかに危険なものであるかはあらためて強調するまでもないでしょう。事故は収束したどころではありません。一方、化石燃料をこのまま使い続けることは世界的な災厄につながる恐れがあります。それも、遠くない将来に、です。賢明な道筋は、できるかぎり早く持続可能なエネルギーに移行することでしょう。目下ドイツが進めているように。他の選択肢はあまりに破滅的で、考慮に値しません。

ジェームズ・ラブロック、ジョージ・モンビオなど熱心な環境保護論者の活動についてはご存知のことと思います。地球が焼き焦がされるのをふせぐ唯一の方法は原子力だと彼らは主張しています。短期的には、この判断はそれなりの根拠を有しているように思われます。フクシマの事故後の直接的な影響のひとつは、石炭や天然ガス、石油などの輸入の大幅拡大でした。再生可能エネルギーの開発は、急激に進行している気候変動を食いとめるのに間に合わないと彼らは唱えています。

すでに申し上げた通り、これらの見解には多少の根拠があります。もう少し正確に言えば、原子力-----放射性廃棄物の処分を初めとする、あらゆる深刻な危険と未解決の問題をかかえたこの原子力-----に限定的、短期的に依存することが、持続可能なエネルギーの早急かつ広範な開発のための機会としてとらえられるならば、という話です。それはもっとも優先されるべき事項であり、かつ、一刻も早く取り組むべき事項です。環境が崩壊する深刻な脅威は遠い未来の話ではないからです。


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[訳注と補足と余談など]

■タイトルの Truth to Power について。

Truth to Power は、通常 speak truth to power という形で使われる表現で、「権力者に(都合の悪い)真実を突きつける」ぐらいの意味です。
今回のこのタイトルには、特に深い意味はないと思われます。「チョムスキー氏へのインタビュー」というタイトルでは芸がないので、こういう表現を選んだのでしょう。
「チョムスキー氏が権力者(特に米国もしくは米国の支配者層)にとって不都合な真実を語る」というほどの意味と解されます。


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■訳注1
「世界が燃えているさなか」は、英語の慣用表現

fiddle while Rome is burning
(大事をよそに安逸にふける、一大事に無関心でいる)

の while Rome is burning(ローマが燃えているさなか)をもじったもの。
この慣用表現は、ローマ皇帝のネロがローマ大火災の際にその炎上を塔の上から眺めながらリラを弾いていたという伝説に由来します。


■訳注2
「屈辱の世紀」とは、
中国が外国から帝国主義的侵略その他の屈辱を経験した、アヘン戦争(1839~42年)から1945年の日中戦争の終結までの期間を指す中国の表現です。


■訳注3
「米国がその後すぐにその識別圏を侵犯したこと」
については下記の記事を参照。

米軍爆撃機が防空識別圏を飛行、中国に事前通報せず
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9AP07U20131126


■訳注4
「安全保障のジレンマ」とは、

自国の安全保障の追求が他国には脅威と映り、結果的に緊張を高めてしまう(軍拡競争をもたらしてしまうなど)こと

です。


■訳注5
「 ~ 住民の民主的な決定を中央政府が即座に踏みにじったこと」
とは、おそらく下記に引用する事実を指しています。

主権在民原理に立つ民主主義の国であれば、政府はこの名護市民の意思を尊重し基地建設計画を取りやめるはずです。ところが、安倍政権は市長選のわずか2日後、埋め立てを進める手続きを開始したのです。埋め立てをおこなうには諸工事が自然環境に及ぼす影響を調査しなければなりませんが、防衛省はその調査を請け負う民間企業を募集する入札の公告を強行しました。この政府の姿勢は名護市民をはじめとする沖縄県民の「新基地建設 NO!」の意思を正面から踏みにじるものであり、県民から激しい怒りが湧き起こっています。

この引用は、

Stop!辺野古埋め立て
http://stop-henoko-umetate.blogspot.jp/

からです。検索すれば、そのほかにもこれについての報道が見つけられます。


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■文中の次の言葉、

「私が訪問したことのある国-----それはけっこうな数にのぼりますが-----、その中では日本だけなのです。「世界が燃えているさなか」でさえ、講演やインタビューがもっぱら言語学とそれに関連する事柄だけをあつかうという国は。」

は、耳の痛い話ですが、なぜ日本では「言語学とそれに関連する事柄」しか取り上げられないかに関しては、複数の原因が考えられます。
すなわち、

1.学者は知識人であり、知識人は国政その他の重大なテーマに関して発言すべきであるという観念(文化)の伝統が日本にはないこと。
(より正確には(西欧的な意味での)「知識人」という観念がない?)

チョムスキー氏を初めとし、欧米の人々の間では「知識人の責任」というものが非常に重要視されています。
ところが、日本では、学問も求道の形式のひとつととらえられ、学者は自分の分野の研究に専心するのが尊いとされ、他の分野に口を出すのはきらわれる傾向があります。

2.日本のメディア、日本人が権威主義的で、おかみ(政府当局)のやることに口を出すのをはばかる心的傾向があること。そのため、批判を自主規制してしまう。

3.日本政府(または米国政府)を批判し、目をつけられ、具体的な不利益をこうむることになる(政府はさまざまな許認可権などを武器に圧力をかけます)のを避けようとすること。これも批判の自粛につながります。

などです。


■文中の

「また、不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国があり、一方に、国力が衰退しつつある国があり、後者の国は、このような展開が何をもたらすかについてますます不安をつのらせているような状況です。同様の状況における歴史的な前例はかんばしいものではありませんでした。」

について。

「不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国」はもちろん中国を意味し、一方、「国力が衰退しつつある国」で、「このような展開が何をもたらすかについてますます不安をつのらせている」のは日本のことでしょう。

「同様の状況における歴史的な前例」とは、上とは逆に、明治・大正・昭和初期にかけて、「不透明な軍事費、それに国力を誇示したいという欲望を持った、急成長しつつある反民主的な国」が日本であり、「国力が衰退しつつある国」が中国で、この2国がやがて太平洋戦争へとなだれ込んだことを意味していると解されます。


■文中の

「第二次世界大戦が終了したばかりの頃をふり返ってみてください。米国の世界戦略の上では、アジアが米国の支配下にあることは当然のことと考えられていました。」

の「米国の世界戦略」とは、ひとつは「重要地域計画」のことでしょう。
これについては、以前のブログ(下記)の「訳注1」でふれました。

チョムスキー氏語る-----超金持ちと超権力者たちの妄想
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/a554e4c629f391e59807ee8286fed27f


■文中の

「1940年代前半には、私は10代の若者でしたが、人種差別的で国粋主義的な反日プロパガンダの熱狂にまったく呆然としました。」

また、原爆投下が伝えられた際、
「まわりの人間から離れて、ひとりになって悲嘆にくれた」

などの事実から、チョムスキー氏が若い頃からマスコミや周囲の人間とは独立して、自分の頭で判断することのできる人間であったことがうかがわれます。非常に印象深い一節です。


■文中の

「中国の軍事支出は米国によって注意深く見張られています。なるほど、それは確かに増大していますが、米国の支出に比べればちっぽけなものにすぎません。」

「けれども、覇権国家としては依然他国を寄せつけません。その軍事支出は実質上、他国すべてを合わせたものに匹敵します。」

などにうかがえる、米国の突出した軍事力については、以前の回の文章が参考になります。

戦争を独占する国アメリカ
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/02ee03b8f33673905a769eafd0e9aed6


米国のメディア監視サイト・2-----ウクライナをめぐる英米メディアの偏向

2014年05月14日 | メディア、ジャーナリズム

前回は主にクリミアの住民投票に焦点を当てた文章でしたが、今回もクリミアを含め、ウクライナ全般に関する英米メディアの偏向がテーマです。

もっと早くアップするつもりでしたが、中途で忙しくなり、いったん訳出をやめていました。ずいぶんタイミングが遅れてしまいましたが、せっかく取りかかった作業なので、遅ればせながらも掲載することにします。

前回の英国のメディア監視サイト『Media Lens』(メディア・レンズ)さんの文章は、英国メディアが対象であると共に、イラク戦争時の報道と対比する形で、引用を多用し、細かいところに焦点が当てられていました。

それに対して、今回の米国のメディア監視サイト『The New York Times eXaminer(NYTX)』(ニューヨーク・タイムズ・エグザミナー)の文章は、もう少し総合的、一般論的な書き方をしており、よくまとまっていて、参照しやすいタイプの文章です。


書き手は Jason Hirthler(ジェイソン・ハースラー)氏。

タイトルは
Anatomy of a Perversion
(歪曲の解剖)

原文はこちら
https://www.nytexaminer.com/2014/04/anatomy-of-a-perversion/

(なお、原文の掲載期日は4月5日でした)


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Anatomy of a Perversion
歪曲の解剖


April 5, 2014
2014年4月5日

By Jason Hirthler:
ジェイソン・ハースラー


善良なイメージを身にまとうべく、帝国は事実の歪曲に懸命


ある話に含まれる事実を歪曲するには、それらを文脈から切り離すのがもっとも簡便なやり方である。そうすれば、既存のほぼどんな理念であろうと、事実をその裏づけとして利用することができる。何かを熱狂的に信じる人間たちはこの手法を実にうまく利用している。キリスト教徒やイスラム教徒はもちろん、同等の情熱を持ってこれにあらがう敵対者たちも例外ではない。しかし、理念は、世の中に登場するあらゆる言説に顔を出す。宗教はその代表的な例であるが、米国社会では、政治的理念もこれに負けていない。この政治的理念とは、民主党や共和党のそれではなく、米国自身のそれである。

この、文脈から切り離す手法は、世界有数のプロパガンダ紙である『ニューヨーク・タイムズ紙』が米国の「教義体系」に忠実であらんとして採用する代表的な手法である。この「教義体系」は基本的にこう要求する-----アメリカは世界における「善を促進する力」として描写されるべきだ、と。イスラム教や共産主義、社会主義、全体主義、等のあやまった主義・信条により正道から逸脱し、善悪の区別のつかなくなった者たちが自由や人権をおびやかす時、いつでも名乗りをあげてこれらを守ろうとする存在として。このような観念は、軍のPR放送では常に明確に打ち出されている。目のパッチリした、邪気のない、若いアメリカ兵士が、油でよごれた顔で、防水仕様の装備に身を固め、沼地を進み、見知らぬ対岸にM16ライフルの照準をあわせる。ここで、ナレーターは熱く語る、米軍兵士は平和のために戦っています、と。また、米海軍は、広報用のキャッチフレーズとして、「善を志向する世界的戦力」という言葉さえ用いている。

しかしながら、ときに、このような積極的なイメージは、ある地政学的なシナリオを再構築する際の枠組みとしては有効ではない。このような場合には焦点がずらされる。米国は今度は国際社会における善意の第三者として描かれるのだ。国際法や国際的な慣習に反する遺憾な事態にたまたま遭遇した、受身的な存在として。そして、それから、どうしてもなんらかの行動に出ざるを得ない存在として-----しばしば、憂鬱な、気の進まない態度の。それもこれも、合衆国憲法上支持することになっている高貴な価値がおびやかされているので致し方なく、という具合である。


[控えめで公平な第三者]

この後者のイメージ-----自由の控えめな擁護者-----こそ、目下のウクライナをめぐる事象において、米国を描写する際に用いられた手法であった(この文章で、私が「米国」と記す時、それは大方「合衆国政府」を意味しており、「米国民」の意ではない点に留意していただきたい)。
この典型的な例は、ニューヨーク・タイムズ紙の土曜日の記事に見出すことができる。それは、まことに巧妙な描き方であった。第一面の右側の、「米露、ウクライナ危機をめぐり協議の意向」と題する記事である。

この記事では、表向き、プーチン大統領の「予想外の手」を報じている。プーチン氏がオバマ大統領に対して、「ウクライナにからむ国際的対立を平和裡に解決する手立てについて協議する」ことを呼びかけたからである。西側のイデオローグたちにとって、これは驚くべきことであった。というのも、彼らの見方では、「欧州および世界の大方をおののかせる、激烈化した対立の淵」に臨むのがロシアのこれまでのやり方だったのだ。記事は続けて、ロシアが数週間にわたって「挑発的なふるまいを示した。たとえば、ウクライナとの国境に軍を威嚇的に増派した」ことなどを伝えている。

これらの事実はいささか芝居がかった言い方であり、議論の余地もあるものの、一応正確である。
第一に、ロシアはクリミアの併合に関して理屈の上では国連憲章にそむいている。そもそも、まず、黒海における艦隊駐留を可能にしたウクライナとの1997年の協定を破っている。ウクライナ政府の同意なしにこの協定の枠外の地域に軍を派遣することで、ロシアは国連憲章の規定する侵略行為を行ったと非難される種をまいた。第二に、クリミアの住民投票は、外国勢力の占領下における分離・独立派の決定という点で、ジュネーブ条約に違反している。ロシアはウクライナとの軍事協定を破っているため、クリミアを占領しているという解釈が成立するわけである。
一方、別の見方も存在する。ロシア側は、当時の大統領であるビクトル・ヤヌコビッチ氏からの軍事介入を要請する書簡を提示した。もしこれが事実であるならば、上の議論は無効になるかもしれない。また、一部の人間はこう示唆する。クリミアの地方政府は、ロシア軍が介入しようとしまいと、なお国連憲章における自決権を保持する、と。さらには、ロシア軍の存在は、ウクライナの非合法で暫定的なナショナリスト政権に対する、歓迎すべき抑止力であるとさえ主張するかもしれない。この新政権は、言語上の少数派にとって大切な法を撤回し、クリミアの住民を挑発するような動きをすでに見せていた(訳注1)。また、ロシア擁護派はコソボの例も引き合いに出す。コソボはセルビアから一方的に独立を宣言した。そして、これは、後に国連総会によって追認されたのである。国際法が、自治や併合をあつかう場合、きわめて曖昧な点を残すことはどうしても認めなくてはならない。これらの問題に関して、国連は論理的な一貫性を欠いているように感じられる。

けれども、米国の代表的新聞について特記すべきより重要なポイントは次の点である。わずか2段落に満たないこの文章によってニューヨーク・タイムズ紙はロシアを東欧における攻撃的で「威嚇的な」国と印象づけることに成功した。確かにロシアは一方的、かつ、ひどく攻撃的なやり方で動いた。しかし、注意していただきたいのは、これと対照的に、米国に発する動きはいっさい書かれていないことである。オバマ大統領が大統領執務室の受話器を取り上げた-----ただこれだけ。米大統領が、困っている他国の政治指導者と胸襟を開いて話し合うという、実にアメリカ的な寛容精神の発露を示す図である。「善意の第三者」という位置づけにぴったりの書き方である。

記事は、それからさらに進むと、米国を「懐疑的な第三者」として提示する。「プーチン氏が協議の内容に本当に興味があるかどうかは不透明」だとする。この評はおなじみのものだ。ロシアは信頼に値しないのである。それどころか、プーチン氏はひそかに「外交上の得点」を稼ごうとしているのかもしれない-----ロシアは目下、「国際的に孤立している」のであるから …… 。とはいえ、この最後の表現はまちがいではない。国連は、その総会において、クリミア併合を違法とする決議案を広い支持の下に採択した。100ヶ国以上が賛成し、反対票を投じたのは11ヶ国にとどまった。

しかし、ついにわれわれはより深い内容を示唆する一節に出会う。プーチン氏がウクライナの「過激派」についてオバマ大統領に不満をもらしたと伝えられるのだ。この事実は第3段落に何の説明もなく登場する。なぜかと言えば、説明することはパンドラの箱を開けることであり、それはただちに現状況に対する不都合な背景をあらわにするからである。すでに述べたように、文脈、事態の経緯、背景事情を無視することが、ロシアをならず者国家とし、米国を私心のない仲裁者とするイメージを刻印し、維持するためには不可欠なのである。

過激派の問題が詳細にふれられず、手短になにげなくあつかわれることで記事の目的は達成される。普通の読者は得心するのだ、ロシアが-----しょうこりもなく-----おかしなことをやらかし、米国は、自分の意に反して起こった出来事に関して、ただその沈静化を願っているだけなのだ、と。


[事実の半分を閑却]

黙殺されているものは何だろうか。わずかとはいえ、この記事には重要な要素が欠けている(すでに述べた法的な曖昧性に関しては言及されているが)。
以下にそれをかかげてみよう。

・米国が後押ししたクーデター
まずわれわれはこの燎原の火をもたらした最初の火花について考察しなくてはならない。つまり、米国が働きかけた、ファシストによるクーデターのことである。しかし、この点は報道から排除されている。事実として、米国は何十億ドルもの資金を拠出し、ウクライナ国内の反政府勢力を手助けした。これが、キエフでの過激なネオナチのグループによる暴動にまっすぐにつながっている。米国の支援の手口は、たとえば、米国民主主義基金やCANVAS等のにせのNGOを介して、ウクライナの自由党等の右翼勢力の支持者に資金を供与することであった。欧州議会による最近の調査報告では、この党の排外主義的、人種差別的傾向が大きく取り上げられている。党のリーダーである Oleh Tyahnybok 氏は「ユダヤ人の一派」がウクライナ政府を牛耳っていると発言した人物である。ロシアへの編入を「是」とする票がクリミアで投じられたのは、こうしたナチのシンパたちによる、米国が後押ししたクーデターであったからこそ、である。

・NATOの拡大
また、冷戦を終了させようとしたゴルバチョフ氏の報われない努力以来の、西側諸国の絶えざる軍事的挑発についても見逃すわけにはいかない。ゴルバチョフ氏は軍の縮小、兵器の削減、ドイツ統一の受け入れ等々に尽力した。これに報いる形で、同氏は当時の米ブッシュ大統領から約束を取りつけた。NATOは、ソビエト軍の撤退とワルシャワ条約の解消により東欧に生じた軍事的真空を埋めるべく、乗り出すことはない、と。ところが、NATOは、その後、果敢に東へ触手を伸ばした。ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、アルバニア-----これらを次々と傘下におさめたのである。これは、ロシアを軍事的に包囲する戦略の一環として広く認知されている。今では、NATOは、バルト海、黒海のいずれにも軍を展開する足がかりを得ている。ところが、ロシアが、完全に国際的な協定の範囲内でウクライナとの国境に軍を集結させると、それは領土拡張主義の「威嚇的な」力の誇示として非難されるのである。約束を反故にした西側の厚顔無恥も、西側メディアの偽善的なダブル・スタンダードもみじんも取り上げられない。それが常態なのだ。

・西側による過去の侵略
まさしく、それが常態なのであり、それにとどまらず、ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシアに対する西側諸国のファシスト的、帝国主義的侵攻という歴史的事実をも自分に都合よく閑却している。ロシア革命にひき続き、西側の4ヶ国がロシアに侵攻しており、その中には黒海からの進撃もあった(訳注2)。また、ナチス・ドイツはソビエトに侵攻し、このためにロシア人の犠牲者は数百万もの数字に達している。連合国が枢軸国に勝利するためにロシアは多大な犠牲をはらった。これらの歴史を無視することはできない。とりわけ、留意すべき点は、ヒトラーやムッソリーニの思想的流れをくむ、西側の支援を受けたウクライナのファシストたちが、ロシアと境を接する国で権力をにぎり、敵対的で二枚舌のNATOに加わる見込み、また、セヴァストポリからロシアの黒海艦隊を締め出す動き、を示していることである。

・黒海の宝
ニューヨーク・タイムズ紙が無視しているもうひとつの大きな事実は、ウクライナが莫大な化石燃料を秘めた、資源の豊かな黒海に接している国という点である。この地政学上の宝物は、世界の強国の多くが手に入れたがっているものだ。

・ネオリベラリズム(新自由主義)の拡大
ニューヨーク・タイムズ紙はまた、次の事実も閑却している。民主的に選ばれ、現在は失脚したウクライナの大統領ビクトル・ヤヌコビッチ氏がそもそも追放の憂き目に会ったのは、同氏が、緊縮政策の採用を条件とするIMFからの巨額の融資をことわり、ロシア政府からのよりゆるい条件の申し出を選んだのと同時期だったことである。


これら、背景事情の意図的な閑却と不都合な事実の排除は、ニューヨーク・タイムズ紙と米国の知識人たちの偏向をまざまざと示している。ところが、外交政策をめぐる中央の思考の大半は、この両者によって育まれている。また、「善意の第三者」である米国が「ならず者国家」の悪行によりやむなく行為に出でざるを得ないという教理的見方は、彼らによって一層強固なものにされている。その結果、全体像はいちじるしくゆがんでしまう。事実は、この危機において、米国が「最初の行為者」だったのであり、一連の出来事の発端となったクーデターを幇助し可能ならしめたのは米国だった。より広い文脈を知らされていれば、米国市民もロシアとロシア政府に関してかなり異なった見解を抱くようになるであろう。しかし、以上のような近視眼的、国粋主義的な見方が執拗に提供され続けるかぎり、米国市民が自分たちの上に投げられたこの網から脱することのできる見込みはほとんどない。それは、市民のうちのもっとも政治に無関心な層にさえ偏ったものの見方を植えつけているのである。


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[訳注と補足と余談など]

今回訳出した文章の掲載元である米国のメディア監視サイト『The New York Times eXaminer(NYTX)』(ニューヨーク・タイムズ・エグザミナー)については、以前の回を参考にしてください。

米国のメディア監視サイト-----(ニューヨーク・タイムズ紙と政府当局の協力関係)
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/a2b3768913ba3585c4d806cda51b8fa6

今回の書き手のハースラー氏は、ニューヨーク・タイムズ紙を「世界有数のプロパガンダ紙」と、バッサリ斬り捨ててますね。^^;


■訳注1

新政権が公式文書でウクライナ語以外の使用を禁止する法律を導入したことを指します。クリミアはロシア系住民が多く、主にロシア語が使われています。


■訳注2

おそらく、下記のウィキペディアの文章に書かれている事態を指すと思われます。

「反革命派(白衛軍)の攻勢が強まり、さらにチェコ軍団救出を口実にイギリス・フランス・アメリカそして日本の連合国が干渉軍を派遣し、ソビエト政権はしばしば危機に陥っている。」

この詳細は、

ロシア帝国の歴史 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E5%B8%9D%E5%9B%BD%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2

をご覧ください。


■文中に書かれている
「米国が後押ししたクーデター」
と言えば、悪名高い前例がありました。
南米チリのアジェンデ政権の転覆です。米CIAが大きな役割を果たしたことは常識となっています。


■文中の
「ネオリベラリズム(新自由主義)の拡大」
と関連する、経済的な観点からの分析は、
Jack Rasmus(ジャック・ラスマス)氏の以下の文章が非常にまとまっていて、参考になります。

Who Benefits From Ukraine’s Economic Crisis? (Hint: Not Average Ukrainians)
https://www.commondreams.org/view/2014/03/17-8
(ウクライナの経済危機から利を得るのは誰か?(ヒント: ウクライナの一般庶民ではない))

この文章もぜひ訳出したいものですが、ちょっと長いので時間が取れそうにありません。^^;

(そのほかにも、訳出したい文章はたまる一方です。スポンサー(翻訳料を寄付してくれるような方)を募集したいところです ^^;)