アメリカがアフガニスタンに侵攻し、現在もなお駐留を続ける本当の動機は、同国の鉱物資源ではないか-----そう、疑問を提示する一文。
オンライン・マガジンの Alternet(オルターネット誌)に掲載された Russ Baker(ラス・ベイカー)氏の文章です。
タイトルは
Treasure Trove of Mineral Wealth: The Real Reason for the Afghan War?
(鉱物の宝の山がアフガン戦争の真の動機?)
原文はこちら↓
http://www.alternet.org/world/treasure-trove-mineral-wealth-real-reason-afghan-war
(なお、原文の掲載期日は9月10日です)
-----------------------------------------------------------------
Treasure Trove of Mineral Wealth: The Real Reason for the Afghan War?
鉱物の宝の山がアフガン戦争の真の動機?
2012年9月10日
米国はオサマ・ビン・ラディンをとらえるためにアフガニスタン侵攻を決め、当初の目的は達せられなかったが、依然「迷惑な滞在客」として同国にとどまり続けた。その際、米国は、世界でもっとも豊かな鉱物資源がそこに眠っていることを承知していたのだろうか。
われわれは、この話題を以前にも取り上げたことがある。その時は、ニューヨーク・タイムズ紙による2010年のうさんくさい文章に注目した。「アフガニスタンにおける大量の鉱物資源が[最近]米国防総省職員と米国の地質学者の小チームによって発見された」。そう、同紙は報じた。その他の証拠と論理は示唆している、欧米の一般大衆以外は誰であろうと全員が、アフガニスタンが宝の山であることをかなり昔から、そしてまた、2001年の侵攻の前から、知っていたということを。
というわけで、ニューヨーク・タイムズ紙の最近の記事には興味を惹かれる。それは、またもやこれら鉱物資源の豊かさについて言及しているが、重要な疑問をつきつけはしない。つまり、アフガン侵攻の真の動機は本当にオサマ・ビン・ラディンだったのか、それとも、鉱物資源という宝だったのかという問いである。
この疑問を提示しないのはゆゆしき問題だ。「最近の発見」という体裁はアフガニスタン駐留の正当化にしか有効ではない。米軍はすでに同地に侵攻しているのだから。帝国主義的な資源獲得競争が、世界中で実際どれほど外交政策や戦争を推し進めているかについては不問に付している。
この問題を避けて通るかぎり、われわれは財政的な窮境、人の命にかかわる窮境から今後も抜け出せないだろう。誰が真の勝者であり誰が真の敗者であるかを総体で明らかにしないかぎり、われわれは何が起こっているかを理解できないだろう。
この種の洞察に関してもっとも発言しそうにない人物の何人かが起ち上がって声をあげている。たとえば、アラン・グリーンスパンは次のように語っている。「悲しいことに、誰もが承知していること-----イラク戦争はおおむね石油をめぐる争いだということ-----を認めるのは政治的に具合が悪いのだ」。アフガニスタンとその鉱物資源をめぐって同じことを誰が口にするだろうか。ウェズリー・クラーク元陸軍大将は、あの同時多発テロの頃に合衆国政府が7つの国(イラクとアフガニスタンを含む)に侵攻する計画を準備していたと聞かされた。この証言をわれわれが信ずるならば、より大きな構図が見えてくる。
ここで、われわれは、わが WhoWhatWhy.com の独占記事をもう一度ふり返らざるを得ない。それは、あの同時多発テロのハイジャック犯を米国の主要同盟国サウジアラビアの王室一族と結びつけたものだ。サウジ王家は中東地域一帯で絶え間ない戦争、紛争を必要としている。自分たちの独裁制と途方もない腐敗に自国民が注目しないように、また、これらの戦争や紛争で自国が欧米にとって絶対欠かせない同盟国としての地位を保ち続けられるように、である。この終わりのない資源獲得戦争の表向きの理由を創り出したのは、サウジとつながりの深い同時多発テロのハイジャック犯たちと彼らを支援するオサマ・ビン・ラディンの活動であった。そういう次第で、ハイジャック犯たち自身がサウジ王室の一派から資金提供を受けていた、もしくは指示を受けていたという可能性を思い浮かべることはきわめて重大な意味を持つ。
にもかかわらず、ニューヨーク・タイムズ紙は、われわれ国民をピントのずれた方向にみちびくのに小さからぬ役割をはたす。
アフガニスタンにかりにハッピーエンドに至る道筋があり得るとすれば、その道筋の大部分は地中を通っているかもしれない-----原油、金、鉄鉱石、銅、リチウム等々の、莫大な金額に相当する天然資源の形で。それは、より自立可能な国という希望を垣間見させてくれる。これらの富が血に染まった大地からもし平和裡に採掘することさえできれば。
なるほど、世界でもっとも影響力があり、世論形成に大きな役割をはたす報道機関によれば、アフガニスタンの鉱物資源の豊かさは、米国とその同盟国が同国に駐留を続けたがる理由-----同時に、他国がそれを望まない理由-----とは一切関係がないのだ。いやいや、違うのですよとタイムズ紙は言う。それはただただ、アフガニスタン国民自身にとっての恩恵であり、同国の「自立」を可能にする思いがけない「発見」なのです、もし採掘することさえできたら……。
むろん、この主張の続きはこうだ。現在苦しんでいるアフガニスタンの国民は自立に向けて支援を受けられることになろう、もし相応の長期的な軍事力と技術力が同国に提供されるならば。
ニューヨーク・タイムズ紙の記事で、欧米企業が何を知っているのか、いつそれを知ったのかについてぜひともくわしく読みたいものだ。代わりに読者が目にするのは、アフガニスタンの事業をめぐってJPモルガン・チェースにふれたそっけない一文である。しかも、中国企業の同様のふるまいを報じた文に差し挟まれた形で。
すでにこの夏には、中国石油天然ガス有限公司が、カルザイ大統領の一族がからむ企業と提携し、同国北部のアムダリヤ川流域で油田開発を始めた。JPモルガン・チェースが設立を手がけた投資グループは金の採掘を進めている。別の中国企業は巨大な銅山の開発に取り組んでいる。銅と金の採掘権は4つ入札がおこなわれている。レアアースメタルの入札もまもなく開始される見込みだ。
実のところ、中国やロシアが事業に参加できるのならば、軍事行動-----どこの国であれ、これによって少数の資本家が利益を得ることになる-----に対する彼らの反対の声は弱まるだろう。
帝国の軍隊の主な存在理由は、帝国を維持するために不可欠な資源を確保することである。そして、故国にとどまっている彼らの雇い主たちがその果実をふところにする。われわれもまた、その一員である。われわれは、こうしたやり方がもたらす国家の安寧と快適な生活を、それが必然的にまねく死や破壊と天秤にかける必要がある。そして、倫理的判断を下す前に、われわれの名において世界で何がおこなわれているか、なにゆえそれがおこなわれているかを認識しなければならない。
-----------------------------------------------------------------
[訳注と補足など]
全体的に例によって訳が冗長です。
誤訳や不適切な表現等の指摘を歓迎します。
原文や訳文に関する疑問、質問などもコメント欄からどうぞ。
■ 訳文中の
「ウェズリー・クラーク元陸軍大将は、あの同時多発テロの頃に合衆国政府が7つの国(イラクとアフガニスタンを含む)に侵攻する計画を準備していたと聞かされた」
については、このブログの以前の回でも取り上げています。
・米国の進路を決定しているのはネオコンか?(2011年12月18日 (日))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/index.html
■ ここで注意しておきたいのは、筆者のラス・ベイカー氏はアフガン侵攻の真の動機が鉱物資源であるとは断定していないことです。あくまでその可能性を提示しているだけ。断定を注意深く避けています(根拠なしに断定すると、いわゆる「陰謀論」になってしまう)。
ただ、その可能性を考慮することはきわめて重要との主張であり、また、その可能性についてつっこもうとしない大手メディアやジャーナリズムの在り方を問題視しています。
■アメリカの大手メディア、ジャーナリズムの腐敗、劣化については、これまでも何度かこのブログで取り上げました(ココログの方に掲載)。前回のブログもそうでしたが。
まだお読みになっていない方はぜひ参照してください。
主なものは以下の通りです。
・ウィキリークスに関連して(2010年12月18日 (土))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/index.html
・メディアと政府の癒着(2011年1月 2日 (日))
・マスコミの偏向報道(2011年1月14日 (金))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/index.html
・米国ジャーナリストの腑抜けぶり(2011年3月 9日 (水))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/index.html
・ジャーナリズムについて(2011年4月 1日 (金))
・日本のジャーナリズム、アメリカのジャーナリズム(2011年4月 7日 (木))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/index.html
・米国メディアの現状(2011年6月13日 (月))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/index.html
・忘れられた労働者階級と現代ジャーナリズムの変質(2011年9月12日 (月))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/index.html
・対イラン戦をあおる米国メディア(2012年3月17日 (土))
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/index.html