気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

スノーデン氏、内部告発者賞を受賞

2013年11月13日 | メディア、ジャーナリズム

米国家安全保障局(NSA)の大規模な盗聴活動を暴露したエドワード・スノーデン氏が、廉潔な内部告発者に贈られるサム・アダムズ賞を受賞しました。
一月ほど前の話題ですが、ネットで検索すると、記事が短すぎたり、個人のブログは訳が納得いかなかったり。
それなら、自分が選んだ記事の訳文をここにかかげるのも無意味ではないかと思う次第。 ^^;)

例によって、オンライン・マガジンの『Znet(Zネット誌)』から選びました。
タイトルは
Snowden Accepts Whistleblower Award
(スノーデン氏、内部告発者賞を受賞)

書き手は Ray McGovern(レイ・マクガバン)氏。

原文の初出は『Consortium News(コンソーシャム・ニュース)』ですが、私が読んだ『Znet(Zネット誌)』のサイトはこちら↓
http://www.zcommunications.org/snowden-accepts-whistleblower-award-by-ray-mcgovern.html


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Snowden Accepts Whistleblower Award
スノーデン氏、内部告発者賞を受賞


By Ray McGovern
レイ・マクガバン


初出: コンソーシャム・ニュース

2013年10月14日(月)



米国家安全保障局(NSA)の内部告発者エドワード・スノーデン氏は水曜、亡命中のロシアにおいて、米諜報機関の元職員らからサム・アダムズ賞を受け取った。同氏は、NSAが米国民および世界の人々を対象に電子機器を用いて極秘に情報収集をおこなっていた事実を暴露した。この決断に対して、元職員らは支持を表明した。

この賞はCIAの元分析官である故サム・アダムズ氏にちなんで設けられたもので、サム・アダムズ協会が「諜報における誠実性」を評価基準として授与する。モスクワにおける授賞式でスノーデン氏に賞を手渡した側の人間は、過去の受賞者であるFBIの元職員コリーン・ロウリー、NSAの元職員トーマス・ドレイク、司法省の元職員で、現在『政府説明責任プロジェクト』にかかわるジェスリン・ラダックなどの面々であった(元CIA職員である筆者のレイ・マクガバンも臨席した)。

スノーデン氏はおなじみの「コーナー照明用キャンドルホルダー」を受け取った。暗い場所に光をあてたスノーデン氏の勇気を象徴的にたたえる格好である。賞の授与のほかに数時間が歓談に費やされた。その中では、目下の状況においてはロシアがスノーデン氏の居場所としてもっとも安全と考えられること、国際法を無視し同氏の引渡しを求める圧力をロシアがはねつけたことは僥倖であったことなどについて、大方の意見が一致した。

スノーデン氏は、健康上の問題がないだけでなく、気力も充実していることを示した。また、自分に対する個人攻撃をふくめ、世界の出来事を注視し続けていることもあきらかにした。信じがたいといった風に頭をふり、同氏は述べた。NSA長官、CIA長官を歴任したマイケル・ヘイデン氏が、最近、下院情報委員会委員長のマイク・ロジャーズ議員とともに、自分の名前を例の悪名高い「暗殺リスト」(訳注1)に載せることをほのめかしたのは承知している、と。

スノーデン氏は、自分の将来を危険にさらしてまで米国政府が国民の憲法上の権利をもてあそんでいる確たる証拠を白日の下にさらしたのだが、にもかかわらず、大きな動きが現れないことを懸念していた。それに対して、式の出席者は、短いスピーチの中で-----まず何をおいても-----そうした懸念にはおよばないと力強く伝えた。

政府機関の業務停止のさなかにおいてさえ、合衆国憲法修正第4条を愚弄するこの盗聴行為から注意をそらすことは、政権当局も、いつも通り従順な「主流メディア」にも、できなかった。議会でさえまどろみから覚醒する兆候を示している。

人の眠気を誘う上院では、国家情報長官ジェームズ・クラッパー氏とNSA長官キース・アレクサンダー氏が国民に嘘をつき続けていたことに対し、少数の気骨の持ち主が強い遺憾の意を表明した。クラッパー氏は、上院情報委員会で証言し、盗聴関連の行為が「あきらかにあやまち」であると認め、公式に謝罪している。また、アレクサンダー氏は、テロとの戦いにおいて人権侵害的な、憲法に抵触するおそれのあるNSAのやり方の有効性を強く主張していたが、今ではこれは過大評価として信用をうしなっている。

2002年に最初にサム・アダムズ賞を受賞したコリーン・ロウリー女史は、あまり人に知られていない米国史上の1エピソードにふれ、スノーデン氏に心強い仲間がいることを伝えた。それは、サム・アダムズ賞の受賞者たちに限られるわけではなかった。ロウリー女史が言及したのは、1773年に、ベンジャミン・フランクリンが、当時マサチューセッツ湾植民地総督のトマス・ハッチンソンから英国の首相側近トマス・ワトリーに宛てられた書簡を公開したという情報漏洩事件であった。

書簡では、植民地の人間が英国在住の人間と同じ権利を享受するのは不可能であること、「いわゆる英国の自由なるものの剥奪」が必要とされる可能性があること、などが示唆されていた。当時の英国政府にとっては書簡の内容はひどく都合が悪いものだったので、フランクリンは郵便総局長の職を解かれ、また、法務次官のアレクサンダー・ウェダーバーンから長時間責められ、痛罵された。


裏切り者とは誰か

ベンジャミン・フランクリンもエドワード・スノーデン氏と同様に、自国政府のおこないにかかわる真実に警告を鳴らしたことで「裏切り者」と呼ばれた。フランクリンの伝記の著者H・W・ブランズ氏はこう書いている。
「1時間半にわたって、[ウェダーバーンは]フランクリンに痛罵を浴びせ、彼を嘘つき、盗っ人、すべての誠実な人々とは無縁なはみ出し者、恩知らず、等々と呼んだ。 …… ウェダーバーンの罵りはあまりにすさまじかったので、ロンドンの新聞社はそれらを活字にしようとはしなかった」。

以上の興味深い米国史のひとコマは、トム・ミューレン氏および同氏の書いたワシントン・タイムズ紙の8月9日付けの記事『スノーデンは愛国者ではないとオバマ。ならば、ベンジャミン・フランクリンの情報漏洩は今日どうあつかわれるか』に負っている。
ロウリー女史はまた、ミューレン氏の次のコメントも引用した。

「専制君主が愛国者を悪く言うのはめずらしいことではない。歴史は、フランクリンが愛国者であると決をくだした。ハッチンソンやウェダーバーンのごとき人物にはやさしい顔を示さなかった。21世紀においても、国を愛する者は誰であったかは歴史が決してくれるであろう。それは医療保険制度や失業率とは関係が薄いであろう。より重要なことはおそらく自由という基本理念をおびやかしたのは誰であり、これを守るためにすべてを賭けたのは誰であったかという点である」

また、授与の際には、スノーデン氏は以下のような言葉で顕彰された。

「サム・アダムズ協会は、スノーデン氏がみずからの良心に照らし、自分個人の将来のみをおもんばかることよりも『社会全体の利益』を重視した点を誇りを持ってたたえます。スノーデン氏と同じ倫理観念の持ち主が今後も同氏の例にならい、暗闇に光をあて、自由な市民としてのわれわれの権利をおびやかす犯罪行為をあきらかにするであろうことをわれわれは確信しています。 …… 」

「スノーデン氏は、良心と愛国心の声に耳を澄まし、おのれの経歴を犠牲にし、自身の生命をも危険にさらしました。同氏の言葉を借りれば『完全一括・即時稼動可能な専制』(訳注2)を白日の下にさらすためです。同氏の告発によって、NSAの上層部が最新テクノロジーの提供する侵害的な能力に魅了され、一般の法や合衆国憲法の足かせにはほとんど気をとめなかったことがあきらかになりました。公表された文書によると、NSAのふるまいは、合衆国政府の3つの機関(行政、立法、司法)すべての幹部職員が-----いさめるどころか-----協力することによって可能になったことがわかります」

「マニング上等兵やジュリアン・アサンジ氏は記録に基づいた証拠を示し、犯罪行為を白日の下にさらしました。同様に、スノーデン氏のかかげる標識灯の光も、欺瞞のぶ厚い雲をつらぬいて輝いています。しかし、やはりマニング、アサンジ両氏と同様、スノーデン氏もまた、内部告発者が正当な権利を有するはずの自由のいくばくかを拒まれています」

「スノーデン氏は、他の勇気ある職員がこうむることになった残酷で侮蔑的な対応についても承知しています。サム・アダムズ賞の過去の受賞者であるトーマス・ドレイク氏やジェスリン・ラダック女史(2人は2011年に同時受賞)のような内部告発者は、権力の濫用を告発する際、政府機関を介してそれをおこなおうとして、今言ったような仕打ちに会いました。これまでの経過であきらかなように、スノーデン氏は、同氏の自由を制限し、暴露された情報の信憑性を疑わせることにばかげた精力をふり向けようとする者たちを出し抜くことができました。国際法で認められているスノーデン氏の権利が尊重される、安全な場所に同氏が落ち着くことができて、われわれは安堵しています」

「サム・アダムズ賞の名誉受賞者で、やはり内部告発者のダニエル・エルズバーグ氏はこう述べています。スノーデン氏の内部告発によって、米国市民は『合衆国憲法に対する行政府のクーデター』を押しとどめる希望をあたえられた、と。これは、スノーデン氏のとった行動の深刻さと重大性をよく表しています」

「スノーデン氏より以前に真実を暴露した人間と同じく、スノーデン氏もまた、『海外、国内を問わず、あらゆる敵に対し合衆国憲法を支持し、擁護する』という自身のおごそかな誓い(訳注3)をかりそめならぬものと考えています。だからこそ、スノーデン氏にとって、憲法修正第4条の権利が踏みにじられつつある事態を国民に知らせることが、法的かつ倫理的に選ばざるを得ない道となったのです」

「この数年間、勇気は伝染性のあることが示されました。ですから、われわれは、自分の良心にしたがう勇気を喚起され、われわれの自由にかかわる権利の濫用に警告を鳴らす人間が今後も登場し、かくして、『完全一括・即時稼動可能な専制』を食い止めることができると信じています」

「CIAの分析官、故サム・アダムズの示した範を尊ぶ者により、2013年10月9日、ここに賞を授与します」

サム・アダムズ協会は、この異例の集まりを実現した人々に対してもまた、感謝の意を表明した。すなわち、スノーデン氏の弁護士で、モスクワの『民主主義・協力機構』の創設者・代表者であるアナトリー・クチェレナ氏。ウィキリークスのジュリアン・アサンジ氏(2010年のサム・アダムズ賞受賞者)。ウィキリークスの法律問題の担当者で、スノーデン氏の香港からの移動に手を貸し、以来、常に同氏とならんで姿を見せるサラ・ハリスン女史。その他、支援とはげましの言葉を提供してくれた、透明性の推進やプライバシーの擁護をかかげるネット活動家の方々。そして、もちろん、スノーデン氏本人。同氏の同意が得られたからこそ、ロシアで連帯を表明するために来訪した方々をこのように歓迎することが可能となったのである。

CIAの分析官であった故サム・アダムズ氏にちなんで設立されたサム・アダムズ賞は、過去、真実をあきらかにした以下の人々に対して贈られた。
・FBIの元職員コリーン・ロウリー
・英諜報機関の元職員キャサリン・ガン
・FBIの元職員シーベル・エドモンズ
・元駐ウズベキスタン英国大使クレイグ・マレー
・元アブグレイブ刑務所勤務の陸軍軍曹サミュエル・プロヴァンス
・デンマーク軍情報局の分析官フランク・グレビル
・元陸軍大佐、パウエル国務長官の元主席補佐官ラリー・ウィルカーソン
・ウィキリークスの代表ジュリアン・アサンジ
・元NSAの上級職員トーマス・ドレイク
・『政府説明責任プロジェクト』の「国家安全保障・人権」部門の責任者ジェスリン・ラダック
・元国務次官補、国家情報会議議長トーマス・フィンガー

『諜報における誠実性を追求するサム・アダムズ協会』は、元CIAの情報分析官である故サム・アダムズ氏の同僚および支持者により2002年に設立された。その趣旨は、権力側に対して真実を告げる勇気を持ちたいとねがう諜報関係の人々のために、サム・アダムズ氏の範にならった人物を顕彰することである。サム・アダムズ協会は、アダムズ氏の功績をしのび、諜報またはそれに関連する営為に従事しており、アダムズ氏の勇気、忍耐、真実への献身-----それがいかなる結果をもたらすかは問わず-----を体現する人物に毎年賞を授与している。

アダムズ氏は1967年にベトナム共産主義勢力の兵力規模が50万超にのぼることをつき止めた人物である。この数字は、サイゴンの米当局が認めるであろう規模のほぼ2倍にあたる。当局は、軍事活動の「進捗」がインチキであると国民に知られると困るのだ。


筆者のレイ・マクガバン氏は、ワシントン中心部に拠点を置く、世界教会主義の Church of the Saviour の出版部門「Tell the Word」とともに活動している。CIAの分析官サム・アダムズ氏とは同僚であったため、マクガバン氏は、1967年から68年にかけてのアダムズ氏の辛抱強い試みが実を結ばなかった顛末をじかに目撃することになった。アダムズ氏は、ベトナムにおけるアメリカの介入の無益さを隠蔽すべく情報を操作しようとするサイゴンの米陸軍上層部のペテンを暴こうとした。しかし、早すぎる死を迎えた上に、国民に嘘を知らしめる道を選ばず、政府機関内部で問題の収拾を図ろうとしてごまかしに会ったという深い後悔の念をふり払うことができなかった。アダムズ氏はおそらくスノーデン氏のことを非常に誇らしく思うだろう。

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[訳注と補足など]

■文章中に登場するコリーン・ロウリー、トーマス・ドレイク、ジェスリン・ラダックからトーマス・フィンガーに至る錚々たる内部告発者が実際にどのような内部告発をおこない、そしてその後、政府当局からどのような仕打ちに会ったのかは、煩雑になりすぎるので今回は注を省略させていただきます。すみません。^^;)
ネットで検索すれば大半は判明します。
それにしても、米国政府の内部告発者に対する対応のむごさにはあきれるばかり。


■訳注1
「暗殺リスト」については、以下のサイトなどが参考になります。

http://nakano-kenji.blogspot.jp/2012/12/2_30.html
対テロ戦争を永続化させるオバマ政権と「テロリスト暗殺リスト」
日本の主要メディアが、その分析はもとより事実さえまともに報じていない「オバマ政権の暗闇」の一つに、今年の5月下旬にニューヨーク・タイムズ紙が詳細に報じた「極秘のテロリスト暗殺リスト」、通称"Kill List”と呼ばれているものがある。~


■訳注2
ここの原語は turnkey tyranny です。
ネットで検索すると、英語圏ではけっこう引用されており、今後キーワードあるいは流行語になるかもしれません。しかし、日本語の記事やブログでは取り上げられていないようです。
非常に訳がむずかしく、今回は一応「完全一括・即時稼動可能な専制」としました。
冗長ですが、ほかに適当な訳が思いつきません。^^;)


■訳注3
「『海外、国内を問わず、あらゆる敵に対し合衆国憲法を支持し、擁護する』という自身のおごそかな誓い」
とは、アメリカでは軍や諜報関係その他の職に就く際に、上のように合衆国憲法に対する忠誠を誓わされることを指しています。