気まぐれ翻訳帖

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ロシアのスパイ行為には大騒ぎするがイスラエルのそれには沈黙する米国メディア

2017年05月17日 | メディア、ジャーナリズム

今回は、ミシガン大学の歴史学教授フアン・コール氏が主催する政治評論ブログ『インフォームド・コメント』から採りました。

タイトルは
US Media outraged by Russia, won’t Notice Israeli plot on UK Parliament
(米国メディアはロシアのふるまいには激昂するが、英国議会に対するイスラエルの工作には知らん顔)

ブログ主催者のフアン・コール氏自身が書いたもの。

原文サイトはこちら↓
https://www.juancole.com/2017/01/outraged-israeli-parliament.html


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US Media outraged by Russia, won’t Notice Israeli plot on UK Parliament
米国メディアはロシアのふるまいには激昂するが、英国議会に対するイスラエルの工作には知らん顔

By Juan Cole | Jan. 8, 2017 |
フアン・コール / 2017年1月8日 / 『インフォームド・コメント』


ワシントン界隈では、米諜報機関の申し立てによる話に誰もが夢中になっている。ロシアが米大統領選に干渉しようとしたというのだ。ところが、イスラエルの回し者が英国議員を失脚させるためにスキャンダルを画策しているという、現在報道中の大問題には、自己防衛本能から、石のような沈黙が返ってくるばかり。米国政界の公式の声の中には、米国と同盟関係にある欧州民主主義国家の選挙にプーチン氏がねらいを定め、右寄りの方向に導こうとしているという懸念があった。ところが、これこそまさしく、イスラエルの右派リクード政権が英国に対して行おうとしていたことなのである。

英『ガーディアン』紙(イアン・コバインおよびユエン・マカスキル記者による記事)の報道は、文章とともに、シャイ・マソト氏を極秘に撮影した動画映像をかかげている。
同氏はロンドンのイスラエル大使館に勤務する「上級政治担当官」で、これまではイスラエル陸軍の将校であり、現在もその地位を保持している。私の見るところ、同氏はおそらく同国の軍諜報部に属していて、大使館勤務は隠れみのである。

動画の中でマソト氏は英国議員を政治的に失脚させるもくろみについて語っている。標的の一人はアラン・ダンカン外務副大臣だ。パレスチナ国家の樹立に賛同する議員である。

(訳注: 原文サイトでは、ここに以下のタイトルの動画が貼りつけられています。
「イスラエルの外交官が英国議員を『失脚させる』方策を論じている動画」)

この動画に登場する人物の一人はマリヤ・ストリッツォロ女史である。公僕の身分で、保守党議員の側近を務めている。彼女は、動画の中で、自分のボスのロバート・ハーフォン議員が政界で頭角をあらわすのに貢献したと自慢げに語った。

マソト氏は、政治家の降格にも力を発揮できるかどうかたずねた。「引きずり下ろしてもらいたい議員が何人かいる」。

ストリッツォロ女史は答える。
「そうですね。調べてみればきっと彼らが隠したがるものがあるでしょう」。マソト氏が急所を捉えそこなうことをおそれて女史は言い足す。「ちょっとしたスキャンダルなどです」。
この会話に同席していた3人目の人物は「ロビン」と称し、「イスラエルの朋友」とされていた。が、実際には、カタールに本拠を置く『アル・ジャジーラ放送』で調査報道を担当する記者であった。彼がこの動画の撮影者である。

マソト氏は言う。「何人かの議員がいる」。

「話し合いましょう」とストリッツォロ女史。

マソト氏は躊躇する。(ロビン氏の方を向いて)「いや、引きずり下ろしたい議員は彼女はわかってるはずなんだよ」。

「もちろん。でも、確認しておきたいのです」と女史。

マソト氏は外務副大臣[アラン・ダンカン氏]の名をあげる。
(原注: 英国の外務副大臣は米国の国務次官に相当)

「まだお望みですか」とストリッツォロ女史はたずね返す。このセリフは、女史が以前にもダンカン氏をめぐるスキャンダルについてイスラエル側と話し合っていたことを示唆する。

上の問いに続いて、ダンカン氏が今では規律を守り、従順になったかどうかが焦点となった。マソト氏はためらった。「いや、彼はいまだにあれこれの厄介ごとを引き起こしている」。

次にダンカン氏のボス、外務大臣のボリス・ジョンソン氏が取り上げられた。彼がまちがいなく親イスラエル派であり、「意に介さない」(おそらくはパレスチナ人の人権について)ことについては意見が一致した。マソト氏はついでにジョンソン氏は「バカ」であると言い放った。

この動画は、イスラエル政府が英国大使館を通じ、秘密の資金と支援活動によって、英保守、労働両党を「ひそかに汚染している」実態を明らかにすると称する報道の一部である。

アル・ジャジーラのもう一つの、より長い報道記事の方では、マソト氏とジョーン・ライアン労働党副議長の会話が捉えられていた。自分は協力的な英国議員をイスラエルに招待すべく百万ポンド(約1億4000万円)余りを集めたとマソト氏は語っていた。

他の場面では、親イスラエル派の労働党議員がイスラエル政府の後押しがあることを認めている。

また、マソト氏が労働党党首のジェレミー・コービン氏を「気の狂った」と形容し、同氏の支持者を「変人たち」と切って捨てた場面もあった。

アメリカの政治家たちが概してなぜこれほど臆病で、なぜこれほどイスラエルのロビー団体をおそれているのか、私には以前からふしぎだった。米国議会はパレスチナ西岸地区におけるイスラエルの違法な入植に関し、世界中の国々と意見を異にしている。それはまるでSF映画の中での出来事のようだ。
(わが米国議会はまた、南アフリカにおけるアフリカーナの植民地主義的な人種差別を支持する票を決議で投じた。これも不可解なことである)

これはアメリカのユダヤ人社会とは関係がない。彼らは概して一般の米国人よりリベラルであるが、大体においてごく非力な存在にすぎない。イスラエルのロビー団体は、世論調査でうかがわれるユダヤ系アメリカ人の意見に反した動きをたびたび示す。そしてまた、一般のユダヤ人とはほとんどつながりがない。それは、エクソンモービル社のロビー組織が、ガソリンで走る車に乗るアメリカ人とかかわりがないのと同様である。ロビー団体なるものは「少数派の中の少数派」のために影響力を追い求めるのだ。

上記の疑問に対するありふれた説明は、イスラエルのロビー団体には金が潤沢にあるということであろう。彼らはその相当額を選挙運動にふり向ける(米国内の選挙資金の約30%に相当)。政治家の大半は、ライバル候補にその資金がわたる可能性に心穏やかではいられない。
しかし、イスラエルのロビー団体がつねに勝利をおさめているわけではない(イラン核協議では奏功しなかった-----少なくとも「第1段階」では)。諸事いっさいを支配しているわけではない。

とは言え、さまざまな政治家に対するイスラエルの諜報活動はやはり一つの脅威である。そして、かかる活動の細かい実態は今ようやく明らかになりつつある。英国のイスラエル大使館が逸脱したふるまい方をしているとはまず考えられない。今回のような会話はアメリカをふくむ主要な民主主義国家の首都において普通に行われていると断じてよいであろう。

けれども、この内政干渉は、ロシアの場合とちがって、国中がいきり立つ事態にはなるまい。それどころか、米テレビ局では深刻なニュースとしてあつかわれることもないだろう。だからといって、この沈黙を、題材が重要でないせいにするのは無理である。


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[補足と余談など]

■本文でふれられている米国のユダヤ人社会については、以下のサイトの文章が参考になります。

米国ユダヤ社会で強まるイスラエル批判――新時代のロビイング組織
http://synodos.jp/international/15235



また、イスラエルのロビー団体の影響力その他については、以下のサイトが参考になります。

[PDF]=米国の中東政策とユダヤ系アメリカ人
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/2/2667/198206_067a.pdf



今回取り上げられている、イスラエル政府による英国議員に対する引きずり下ろし作戦、あるいは自国に有利な展開を推進するための「秘密の資金と支援活動」のような動きは、もちろん、世界各国で行われているでしょう。
日本でも、米CIAその他がこの種の活動に日々従事しているはずです。

小沢一郎氏が現在政界の片隅に追いやられている趣きがあるのも、もともと同氏の中国寄りの姿勢が原因で米国側がいろいろ追い落としをねらったものと一部では推測されています。

そして、日本の大手メディアも、米国側(CIA)の政界工作(またはその可能性)については語りたがらないのです。

(もっとも、日本のこの種の事情については、すでにいくつかの書籍が刊行されていますし、ネットで検索しても情報が手に入ります。私のブログでは日本のメディアに関してはあつかいません)