気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

スノーデン氏のブラジル国民に対する公開書簡

2014年01月11日 | メディア、ジャーナリズム

米国家安全保障局(NSA)がブラジルでも大規模な盗聴活動をおこなっていたことが明らかになりました。
これにからんで、エドワード・スノーデン氏がブラジルの人々に向けて公開書簡の形で呼びかけています。

この文章は実はすでに日本語訳が存在するのですが、自分の手で訳しておきたかったので、いわゆる「屋上屋を架す」ことになるのを承知で、今回ここにアップします。


原文はこちら↓
http://www1.folha.uol.com.br/internacional/en/world/2013/12/1386296-an-open-letter-to-the-people-of-brazil.shtml

(なお、原文の掲載期日は昨年の12月16日でした)


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An Open Letter to the People of Brazil
ブラジルの人々への公開書簡


2013年12月16日

エドワード・スノーデン



私は、6ヶ月前、米国政府の機関である国家安全保障局(NSA)の影から歩み出て、記者のカメラの前に姿をさらしました。

私は世界の人々に証拠を提示しました。複数の政府が世界を覆う監視体制を整備しつつあり、私たちがどのように暮らし、誰と話をし、どんな発言をしているかをひそかに調べていることを証明するものです。

私は覚悟の上でカメラの前に立ちました。自分の決意によって自分の家庭と住む場所を失うであろうこと、自分の命が危険にさらされるであろうことは承知していました。私がこのような挙に出たのは、世界中の市民は自分がこのような体制の下で生きていることについて認識するのが望ましいと信じているからです。

私の最大の懸念は、私の警告に誰も注意を払わないのではないかということでした。この点がひどく誤っていたことはどれほど喜んでも十分ではありません。とりわけいくつかの国々の反応は私の心に新たな活力を与えてくれました。ブラジルはもちろんそれらの国々のひとつです。

NSAで働いていた時、私は、その行為の不当さになんら疑問を抱かずに人々全員を監視対象にしているありさまを目の当たりにし、懸念をつのらせていました。そして、それは、現代におけるもっとも大きな人権に対する脅威になろうとしています。

NSAその他の諜報機関は私たちにこう説明します。プライバシーに関する私たちの権利を棚上げし、私たちの生活をひそかに探るのは、ほかならぬ私たち自身の「安全」-----ジルマ大統領の「安全」、ペトロブラス社(ブラジル石油公社)の「安全」-----を慮ってのことである、と。それを、彼らはいかなる国においても人々の了解を得ることなしに行いました。米国民にさえ説明していません。

今では、もしあなたがサン・パウロで携帯電話を携行しているとすれば、NSAはあなたの居場所をつきとめることができるし、実際にそうしています。NSAは世界の人々を対象範囲とし、1日に50億件、これを実行しています。

フロリアノポリスに住んでいる誰かがあるウェブ・サイトを閲覧したとしましょう。NSAはそれがいつのことであるか、その人間が次にそのサイトでどんなふるまいをしたかを記録します。あるいは、ポルト・アレグレ在住の母親が自分の息子に電話して、大学入試でうまくやれるよう祈っていると伝えたとします。NSAはこの通話内容を数年にわたり記録にとどめておくかもしれません。

さらには、不倫を働いている人間やポルノ画像を見ている人間も継続的に記録を残しています。当該人物の評判をおとしめる必要が生じた場合に備えてです。

ブラジルの人々は心配するにはおよばない、そう米国の上院議員らは言います。これは「監視」ではなく「情報収集」にすぎないから、と。目的は人々に安全を保証することである、と。しかし、これはまちがっています。

法に沿った取り組み、合法的な諜報活動、正当な法の執行などと今問題となっている大規模な監視プログラムとの間には、きわめて大きな違いがあります。前者の場合には、道理を備えた、個々の容疑に基づいて個人が追及されます。ところが、後者の場合は、一般市民全員があらゆる活動を監視され、永久的に記録を残されるのです。

これらの監視プログラムのねらいは決してテロ対策ではありません。ねらいは経済的スパイ活動であり、国民の統制であり、外交上の一手管です。それは「力」にかかわるものです。

ブラジルの多くの上院議員が私の見方に同調しています。そして、私の協力を求めています。ブラジル市民に対する犯罪行為と見なしうる活動を捜査するためです。

私は、妥当性と適法性を備えていさえすればいつでもよろこんで協力すると言ってきました。けれども、不幸なことに、米国政府は私のそうした行為を押しとどめようときわめて精力的に働きました。私が南米に渡るのを阻止するためにボリビアのモラレス大統領の専用機に緊急着陸を余儀なくさせるほどでした。

ある国が私に永続的な政治亡命を許可するまでは、米国政府は私の発言を邪魔立てすることをやめないでしょう。

6ヶ月前に私はNSAが世界中の人々の声を聞き取りたいと願っていることを暴露しました。現在では、世界中の人々の方がNSAの主張に耳を澄ませています。そして、抗議の声をあげています。しかし、NSAは自分に寄せられる声を好んでいません。

あらゆる地域で一般市民の話題となり、現実の捜査の対象となったおかげで、この無差別の世界的監視を成立させた組織の風土は潰えつつあります。

ほんの3週間前、ブラジルが軸となって国連の人権委員会にある考え方を史上初めて認めさせようとしました。プライバシーの権利はインターネットの世界までおよぶ、また、善良な市民を対象とした大規模な監視は人権侵害にあたるという考え方です。

潮流は向きを変えました。私たちはようやく未来-----自分のプライバシーを犠牲にすることなく安寧を享受することのできる未来-----をかいま見ることができます。私たちの権利は秘密の組織によって制限されてはなりません。そして、ブラジル国民の自由は、米国の政府当局者によって左右されるべきでは決してありません。

この大規模な監視を擁護する人々もいます。現代の監視技術は国民の管理能力のおよばない危険なレベルに達している、こう言われても納得しないような人々です。しかし、今では彼らでさえ、民主主義においては一般市民の監視は一般市民自身によって論議されるべきであるという点に同意しています。

良心に基づく今回の私の行動は以下の言葉とともに始まりました。
「私は自分の人生を送りたくないのです、自分の発言のすべて、自分のふるまいのすべて、自分が話しかけた人々のすべて、創造、愛、友情等にかかわる表現のすべてが記録される世界では。

そのような世界は、自分が進んで支えたいとも、築き上げたいとも、また、そこで暮らしたいとも思いません」

ほどなくして私は知らされました。わが米国政府が私の国籍を剥奪したことを。そして、私を刑務所に収容したがっていることを。私の発言の代価は国籍の剥奪でした。しかし、その代価を私はくり返し払うでしょう。政治的安息とひきかえに犯罪行為を見て見ぬふりをするような人間になるつもりはありません。声を失うよりはむしろ国を失う方を私は選びます。

ブラジルの人々が仮に私からひとつのことしか聞けないとしたら、それはこういうことにしましょう。もし私たち全員が不正な行為に立ち向かうために、また、プライバシーや基本的人権を守るために団結するならば、もっとも強大な体制にさえ抗することができる、と。


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[補足と余談など]

最初に「この文章は実はすでに日本語訳が存在する」と書きました。
その訳文が掲げられているサイトはこちらです↓

ピース・フィロソフィー・センター
http://peacephilosophy.blogspot.jp/2013/12/edward-snowden-i-would-rather-be.html

すでに皆さんご承知でしょうが、翻訳というものは翻訳者によってかなり印象が変わるものです。話題になっている文章や重要度の高い文章、あるいは文学作品などは複数の翻訳があることが望ましい。
ですから、私の訳文も決して無駄というわけではないでしょう。

(ちなみに上の既訳は、ちらっと見ただけで、自分の訳出の参考にはしていません。翻訳には先入観は禁物ですから。訳し終えたので、これから参考にさせてもらいます。^^;)
また、皆様の誤訳や不適切な表現等の指摘を歓迎いたします)


■本ブログの以前の回でもスノーデン氏の話題を取り上げました。
こちらもぜひご一読を。

・スノーデン氏の人権団体に向けた声明
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/2beef95cf7ab19fba45215a696b09a9c

・スノーデン氏、内部告発者賞を受賞
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/c15f55a3b9bf25fe3b3001a351eb3bb9

・アサンジ氏、スノーデン支持を呼びかける
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/d62440883872ac31ba4d0587c039056d


■訳文中の
「さらには、不倫を働いている人間やポルノ画像を見ている人間も継続的に記録を残しています。当該人物の評判をおとしめる必要が生じた場合に備えてです」

「これらの監視プログラムのねらいは~経済的スパイ活動であり、国民の統制であり、外交上の一手管です」
について。

この監視・盗聴プログラムはさまざまな状況で活用されそうです。
外交交渉の場において、鍵を握る人物をなんらかの口実で別室に招き、不倫を働いている事実やポルノ画像の閲覧の事実をほのめかして脅迫できるわけです。これが外交の「切り札」となる可能性もあります。
その他、米国政府、米国の現政権にとって目障りな人物をこうやって口封じができます。

例として、以下のようなニュースもありました。

米NSA、イスラム過激派のポルノ閲覧を監視
http://www.afpbb.com/articles/-/3004194

過去にも、CIAやFBIが反戦運動家や平和運動家を対象に盗聴をしかけていたことは周知の事実です。