気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

圧政者を好む米国とそれを擁護する大手メディア(続き)

2017年08月18日 | メディア、ジャーナリズム

(前回からの続き)

以上の歴史は、米国のメディアや政府高官たちによって、いっさい消去され、あるいは粉飾され、愛国主義的な神話に置き換えられつつある。あからさまに独裁者支持の政策を何十年と肯定しながら、彼らはトランプ政権が成立して以来ずっと広報戦略上の神話を築き上げ、それを広めてきた。つまり、トランプ大統領の独裁者支持はいわば斬新な、「米国の高貴な伝統からの逸脱」という見方である。

トランプ以前の米国は世界中で民主主義を支援し、広めることに心をくだき、これを敵視する独裁者を非難してきた-----こう、彼らはくり返し説く。これは、もっともたちの悪い種類の歴史修正主義である。この見方を擁護する人間は誰であれ慙愧の念を感じて当然の、偏狭な愛国主義的プロパガンダである。

独裁者支持の例と同様に、米国のこの種のプロパガンダの例も枚挙にいとまがない。それは、最近急速に数を増してきた。すべてを紹介するには紙幅が足りない。特に影響力を有する例をいくつかかかげるだけでお許しねがおう。

今年2月にニューヨーク・タイムズ紙は論説欄で「何はさておき母国批判」というジーン・カークパトリック女史の言葉-----1984年に民主党議員を非愛国的となじる際に使った-----を冒頭にかかげつつ、トランプ大統領を非難した。
そのプロパガンダ的なたわごとはこうである。
「トランプ氏は、大統領に就任して以降、言論の自由や寛容等の普遍的価値観の擁護者たるアメリカという伝統的な役割にあまり肩入れしていない」。
サウジアラビアやエジプト、チリ、バーレーン、イラン、アルゼンチン、ブラジル、その他米国の支援する独裁者の下で暮らしてきた数多くの国々の一般市民にとっては、なんたる驚きであろう-----まさか「言論の自由や寛容等の普遍的価値観の擁護者たるアメリカという伝統的な役割」-----こんな台詞を聞かされるとは!

そして、おそらくもっとも言語道断な例は、昨日のワシントン・ポスト紙の記事に見出される。ホワイトハウス局長のフィリップ・ラッカー氏が書いたものである。同氏によると、
「少なくとも1970年代以降の米大統領はみな、みずからの行政権限を使って世界各地で人権と民主的価値を擁護してきた」。
さらに、
「トランプ大統領は米国の従来の外交政策から決定的に離反し、独裁的指導者との関係を深めようとしている」。

独裁的指導者との関係を深めることは「米国の従来の外交政策から離反」することなどではさらさらない。にもかかわらず、このプロパガンダ的な嘘は今や、とびきり愛国的なジャーナリストの間で共通認識となっている。彼らは、トランプ政権以前の米国が世界中の抑圧された人々を暴君から解放するのに懸命であったと熱っぽく世界にふれ回るのだ。
ニューヨーク・タイムズ紙の政治担当記者マギー・ハーバーマン女史も、ラッカー氏のこの愛国的な嘘を支持する言葉をツイッターに書きつけている(そして、これは広く共有された)。

(注: 原文サイトには、ここで次のような内容のツイッター画像が貼られています)

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マギー・ハーバーマン
@maggieNYT

トランプ氏は、これまでの大統領ときっぱり袂を分かって、いわゆる民主主義を広めることには基本的にあまり興味がない。@
PhilipRucker
ワシントン・ポスト・コム/政治/トランプ

午前8時8分 - 2017年5月2日

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(トランプ大統領の画像)

トランプ大統領が世界の独裁的指導者を次々と称賛-----人権運動家が懸念

プーチンその他の専制君主に対するトランプ大統領の好意表明は米外交政策における大きな転換

ワシントン・ポスト・コム
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リプライ149 リツイート504 いいね750
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いったいどうすればジャーナリストでありながら信じられるだろう-----トランプ氏の「いわゆる民主主義を広めることにはあまり興味がない」ことが、これまでの大統領と「きっぱり袂を分かって」いる点-----「劇的な転換」-----である、などと。
ところが、これこそ、目下の米国メディアで定番の言い回しなのである。
それは今朝のCNNニュースでもはっきりとうかがわれた。ある番組の一コマで、独裁的な政治指導者をトランプ氏が称えたことは「アメリカの政策の急激な転換」と伝えたのだ。

(注: 原文サイトでは、ここで、CNNニュースの動画が貼られています。表示されている画像の内容は以下の通り。

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[独裁者に対峙する米国の伝統とのトランプ氏の訣別]

暴君に関するトランプ大統領のコメント

金正恩 「頭のいいやつ」
エルドアン 「大いに評価する」
シシ 「卓越した人物」
プーチン 「オバマより優秀」
ドゥテルテ 「打ち解けた会話ができた」

(現在進展中のニュース)

トランプ氏、米国政府のこれまでの政策を急激に転換し、独裁的指導者を称賛

ライブCNN 午前9時6分 東部標準時
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CNNは何十年もの間米国の定番路線であった政策を取り上げ、視聴者にそれを「アメリカの政策の急激な転換」として語る。

このようなあからさまに虚偽のプロパガンダと言えば、民主党屈指の人気議員であるアダム・シフ氏の発言を除くわけにはいかない。同氏は昨日、ツイッターで-----案の定またたく間に拡散した-----大勢の人間を殺害したフィリピンのドゥテルテ大統領をホワイトハウスに招き、米国の高貴な伝統を汚したとしてトランプ大統領を指弾した。

(注: 原文サイトには、ここで次のような内容のツイッター画像が貼られています)

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アダム・シフ
@RepAdamSchiff

往時は、アメリカは、超法規的な殺人を非難し、その実行者をホワイトハウスに招くなどということはなかった。往時というのは103日前のことである。
ツイッター・コム/ポリティコ/~

午後11時24分 - 2017年5月1日

リプライ1480 リツイート11055 いいね19395
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米国は「超法規的な殺人」を好む暴君や専制君主を長年にわたり支援してきたが-----ホワイトハウスで歓待を受けた者さえ大勢いる-----、それだけではない。それどころか、オバマ政権の対テロ戦争の中核的手段が「超法規的な殺人」そのものであった。
同政権は数年にわたって複数のイスラム国でドローン攻撃を実施し、米国籍を有する人間をふくめ、多数の人間を死に至らしめた。彼らはテロ活動との関係を疑われたが、決してその事実が証明されたわけではなかった。つまり、オバマ政権は何千という人間を超法規的に殺害したのである。
超法規的な殺人を好むのがトランプ政権の新機軸だなどと主張できるのは、よっぽど風変わりなジャーナリストだけであろう。

目下の現象は明らかすぎるほど明らかだ。少しでも理性があれば-----米国の歴史についていささかでも知識があれば-----、米国の独裁者支持と礼賛が、トランプ氏の大統領就任をもって始まったなどと信じたりはしないであろう。
ワシントン・ポスト紙は昨日、上記の記事に対する批判に応えて、ラッカー氏の愛国的な文章を修正した。すなわち、「少なくとも1970年代以降の米大統領はみな、少なくとも折にふれ、みずからの行政権限を使って世界各地で人権と民主的価値を擁護してきた」と。「少なくとも折にふれ」という文言を加えたのである。

しかし、この主張は依然としてマヤカシである。米大統領が人権をめぐる状況改善を褒めたたえた場合でさえ、誰がそれを本気で言っていると信じるだろう。人権侵害を非難することは米国が敵対国をたたくために使用する手前勝手な方策にすぎない。それは政府高官でさえ、ときに率直に認めていることである。
たとえば、2013年のワシントン・ポスト紙の記事には、まことに稀有なことに、次のような文章がある。

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人権擁護団体はまた、エチオピアの政治的弾圧について米国政府が口をつぐんでいるとも非難する。同国は東アフリカにおける米国の重要な戦略的パートナーである。

「米国に協力する国はまずあれこれ言われません」。こう、アフリカを専門とする政府高官は認めた(ただし、報復をおそれて匿名を条件に発言)。「一方、そうでない国はあらん限りいたぶられます」。
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ポスト紙は続けて述べる。ブッシュ政権も「同じ路線を採用した」。また、「アフリカについては、オバマ大統領が国家安全保障より民主制に重点を置くことを多くの外交関係者や人権擁護団体がのぞんだけれども、…… それは結局かなわなかった」。実際には「まったく変化がなかったと言ってよろしい」とこの高官は語る。「要するに、ブッシュ政権からオバマ政権へは、ほぼ何の障害もなくスムーズに移行した」。

これが米国の人権擁護の使用法である。つまり、米国の意向におとなしく従わない、非協力的な国を罰するための「いたぶり」の道具として、である。逆に、米国に「協力する」ならば「まずあれこれ言われません」、のぞむならどれほど人権を侵害してもおとがめなしである-----たとえ露骨な支援や資金供与はないとしても。

米国政府が何十年とやり続けてきたこと-----凶悪極まる暴君を支援し褒めたたえること-----を、今、トランプ大統領がやっているからと言って非難する人々は、実際には何が気にくわないのだろうか。
それは、彼らが母国アメリカについて自分自身に必死に言い聞かせている神話をトランプ大統領が切り崩しているからである。
米国が世界中で自由と民主主義の普及につくしていると宣言できることは、彼らの内面的な独白において礎石を成している。ワシントン・ポスト紙のニュース編集室から米国務省の通廊に至るまで、これは、他の国々のふるまいを審判する存在という世界における米国の地位を正当化するために、彼らが日々みずからに言い聞かせているおとぎ話である。

うわっ面をはぎ取ってしまえば-----このおとぎ話を斥けてしまえば-----、きびしい現実がまざまざと姿を現す。彼らが擁護しているのは帝国主義の不法で恣意的な力の行使にほかならない。おとぎ話を排してしまえば、彼らの倫理的な枠組み全体がゆらいでしまう。
彼らが怒っているのは、トランプ大統領が独裁者を愛するからではない。彼らの鑽仰する大統領たちも全員そうしたのである。言うまでもないことながら、キッシンジャー氏をあがめる政治風土では、独裁者を抱擁するのに何の躊躇もない。

彼らが怒っているのはトランプ大統領が独裁者を嫌うふりをするのが下手、もしくは進んでそうしないからである。その結果、彼らが毎度毎度黙認している暴力行為や戦争、圧政、内政干渉、独裁者支援、等には道義的目的があるという建て前が崩れてしまう。

実際のところは、米国が多少なりとも人権や民主主義の擁護者であるという虚構、装いでさえ過剰に言い広められている。上で述べた例(および他の数多くの例)が示すように、大統領をふくむ米国の行政当局者は、これまでドゥテルテ大統領程度の暴君でもおおっぴらに歓待し、褒めたたえてきた。

トランプ大統領が米国本来の土壌から生まれたと思うよりは外国の悪玉の手先であると信じる方が心おだやかでいられる。それと同様に、トランプ氏の圧政者好みがこと新しい現象と信じる方が精神衛生によろしい。しかし、神話を信じれば心平穏であるという事実は、その神話を広めることを正当化しはしない-----とりわけジャーナリストについては。

トランプ以前の大統領は民主主義の普及に努めていた、暴君を支援することは米国の伝統からの「劇的な転換」である、こう、米国メディアは誰彼となく告げる。しかし、これは事実からのあまりに明白な乖離であって、人を仰天させる体のものだ。それは、政府の活動について愛国的なプロパガンダを広めることが米国メディアの主任務であるとすでに考えている人間にとってさえ、なお驚異なのである。


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[補足など]

■文章中でふれられている、ドローン攻撃による「超法規的な殺人」については、その性質や問題が本ブログの以前の回でも言及されています↓

・第三世界はアメリカの兵器テスト場
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/00fb123d3eb2bba49f10b71c853504c1


・チョムスキー氏の著作に対する奇妙な書評(続き)
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/9a7349a62d98ba0c24b805d56ea62735