気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

第三世界はアメリカの兵器テスト場

2017年06月19日 | メディア、ジャーナリズム

今回もそれほど長くない文章です。
アメリカが第三世界を兵器テスト場とし、その一般市民を大手メディアと手をたずさえて「不可視化」している点が浮き彫りにされています。


例によって、非営利のオンライン・メディア・サイト『Truthout』(トゥルースアウト)から採りました。

タイトルは
From Drone Strikes to MOAB: The Strategically Silenced
(ドローン攻撃からモアブ(大規模爆風爆弾)まで: 戦略的「不可視化」)

書き手は Hoda Katebi。正確な表記はわかりませんが、取りあえず「ホダ・カテビ」氏としておきます。


原文サイトはこちら↓
http://www.truth-out.org/opinion/item/40261-from-drone-strikes-to-moab-the-strategically-silenced


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From Drone Strikes to MOAB: The Strategically Silenced
ドローン攻撃からモアブ(大規模爆風爆弾)まで: 戦略的「不可視化」


2017年 4月19日 水曜
By Hoda Katebi, Truthout | Op-Ed
ホダ・カテビ / 『トゥルースアウト』 / 論説



米国の外交政策は死傷者数を支持率に、有罪を無罪に、非存在を存在に変換すること、戦略的に「不可視化」すること、そしてもっぱら、でっち上げであれ自ら招いたものであれ、脅威の念をあおること、等々から成り立っている。

さる4月13日、トランプ政権はアフガニスタン、ナンガルハル州アチン地区に大規模爆風爆弾「GBU-43」を投下した。この爆弾は「Mother of all Bombs(すべての爆弾の母)」と呼ばれ、MOAB(モアブ)という略称で知られている兵器である。
同国カブールに本拠を置く駐留米軍の公式声明では、軍は「民間人の犠牲者を出さぬよう、あらゆる予防措置を講じた」。また、米大統領報道官ショーン・スパイサー氏の木曜、朝の発言によると、攻撃地点は僻遠の山岳地帯である。
しかし、実際は、アチン地区は15万の人口を擁し、州都のジャラーラーバードから20マイルほど離れているにすぎない。ナンガルハル州自体は同国の東部に位置し、150万近い人々が暮らしている。
これらの人々は、今やごく控えめに言っても、自分たちの背後地から立ちのぼる巨大なキノコ雲を目撃した心理的影響に長くつきまとわれざるを得ない。自分たちの身の安全に関する懸念は言うまでもなく。

アフガニスタン在住のジャーナリスト、ビラル・サワリ氏は今回の攻撃後、現地の人々に接触し、金曜の朝、英BBCにその状況を伝えた。
「家のドアは破壊されるか損傷をこうむり、窓や窓ガラスはすべて粉砕されました。…… [彼らには]世界の滅亡の日が来たかのようでした。…… 空が落ちてくるような …… 」。
現地の人々によると、アチン地区では今朝もなお攻撃が続いている。
ナンガルハル州は、春のような天候がずっと続くために、多くの国民からその風光を称えられてきた。

(注: 原文サイトには、ここで次のような内容のツイッター画像が貼られています)
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ビラル・サワリ フォロー
@bsarwary

#アフガニスタン アチン地区の部族の長老によると「4km四方の窓とドアが破損」

5:31 AM - 2017年4月14日 - アフガニスタン

リプライ リツイート84 いいね41

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アリ・ラティフィ フォロー
@alibomaye

あらためて言っておきたい――アチンは「ダーイシュ(訳注1)に属する者が
多数いる」地域ではない。何千人もの一般市民が居住している土地だ。
人々の多くはダーイシュの強い影響力の下で苦しんでいる。

4: 07 AM - 2017年4月14日 - アフガニスタン

リプライ リツイート506 いいね616

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(訳注1: 現在主に用いられている「イスラム国(IS、ISIS、ISIL)」の別称。ダーイッシュ、ダーシュとも)


米政府当局と大手メディアは、否定しようがない大勢のこれら一般市民の存在について語らない。また、彼らがさらされる肉体面および精神面への直接的な脅威についても言及しない。が、これは別段、特異な現象というわけではない。
北アメリカの先住民を物理的、文献的、観念的、学術的に消し去ってきたこれまでの米国の歴史をふり返ってみればよい。彼らと同様に、中東やアフリカの人々もずっと「消去」され続けている。暴力や大規模な破壊行為の免罪符となる言説をこしらえたがっている人間たちによって、これらの人々はしばしば不可視化され、取るに足りない存在と見なされる。

アフガニスタンは欧米とロシアの軍事兵器のためのテスト場と見なされてきた長い歴史を有する(インドやガーナなどのアジア、アフリカ諸国が欧米の医薬品試験場と見なされてきたのと同様である)。
カリフォルニア州バークレーを大幅に上まわる人口を擁しながら、アチン地区は人口の閑散とした、さびれた土地と描写される。そして、そこに落とされた爆弾-----今回初めて使用された、全長約9.1メートル、総重量約9.8トン、策薬量約8.2トンの爆弾-----は、民間の犠牲者を出すリスクがないと伝えられるのだ。

米国政府が随意に民間人、一般市民を無視し続けている点を認識することは重要であるが、ほかにも問うべき問題がある。
米国政府にとって誰が「民間人」とされるのかという問題、また、誰がそうではないのか-----言い換えれば、「敵戦闘員」という、うつろいやすく、安易に用いられやすいレッテルは誰に貼られるのか-----という問題である。

これに答えるためには、外交政策に関するオバマ政権のトレードマークであり、かつ政治遺産となったもの、すなわち、ドローン攻撃について語らねばならない。

調査報道メディアの『インターセプト』はオバマ政権時代にCIA・軍の機密文書『ドローン・ペーパーズ』を入手した。
それによると、空爆の際、標的地点にいる人間はほぼ誰であれ、戦闘員でないと証明されないかぎり、戦闘員と見なされることになっている。しかし、証明することはほとんど不可能な業である。都合のいいことに、当該の人物は殺害されており、証言することはできない。裁判にうったえることはできない。提供される証言は、唯一、当の攻撃をおこなった米軍兵士のものだけである。
ドローン攻撃機が想定する殺害対象は「米国市民に対し、持続的で切迫した脅威」をおよぼす人間だけとされている。しかし、この脅威を評価する根拠となっているのは、イエメンやソマリアなど、公式宣言なしの軍事行動地域における電話(頻繁に所有者が変わる)や電子メールから収集された、ごく限られた情報である。あるいは、政府当局による信頼性の不確かな「監視対象リスト」である。また、機器が自動的に採取し、あやまりを犯しやすい人間の解釈を経た情報である。

ドローン攻撃の対象となった地域(たとえそれがあいまい、あるいは無作為的なものであろうと)をたまたま往来していた不運な人間は、米軍によって guilty by association(関連性のゆえに同罪)(訳注2)と見なされ、 enemy killed in action(略称EKIA。「軍事作戦中に殺害された敵」)と称される。そういう次第で、つまり「民間人」ではないとされる。
結果的に、ドローン攻撃の犠牲者は、しばしば不完全な証拠に基づき標的となった想定外の人間であり、戦闘員かそうでないかの判断は、大抵の場合、恣意的で、状況に左右される性質のものだ。

(訳注2: オンライン辞書の『英辞郎』では
「関係者なので同罪である。 ◆A国の人が犯罪を行った。よってA国の人は全員犯罪者であるというような、非論理的・感情的な主張を指す」
と説明されています)

究極的に敵戦闘員と民間人の区別は無意味なものになってしまう-----司法審理がなく、証拠がとぼしく、犠牲者が出た後の追跡調査が実質的におこなわれなければ。公的な呼称があいまいまたは不合理であるにもかかわらず、畢竟、ドローン攻撃機の照準器に映った対象はいかなるものであれ、まったく考慮に値しない存在と見なされる。

2017年3月17日、米国が主導する有志連合軍がイラクのモスルを空爆した。その際、多数の民間人が亡くなった。1回の攻撃での民間人犠牲者数としては、2003年のイラク侵攻以降で最多であった。

それと同日、米国はシリアのモスク施設(宗教学校を併設)を標的として空爆をおこなった(写真の証拠があるにもかかわらず米当局は当初、攻撃の事実を否定していた)。施設内では民間人300名が祈りをささげている最中であった。42名が死亡し、多数の負傷者が出た。

昨今急速に増加したとはいえ、目下の「テロに対する戦い」における民間人の殺害例は目新しいことではない。
たとえば、イエメンへの攻撃における米国のかかわりを考えてもらいたい。昨年の国連ニュースセンターの報告書によれば「もっとも大きな代価を支払っているのは子供たちである」。また、『サロン』誌の報道は、米国の支援を受けたサウジアラビアの現在の爆撃が「意図的に食料生産を標的としている」ことを伝えている。『トゥルースアウト』の別記事では、イエメンの目下の飢饉が空爆のおかげで悪化の一途をたどっている点が論じられていた。

匿名を希望するある諜報機関関係者の一人は、『インターセプト』に寄せたコメントにおいて、以下のように述べている。
民間人犠牲者に関する米国政府の公式発表は「あからさまな嘘ではないにしても(犠牲者の少なさを)実態よりも誇張している」。

むろん、これらすべては、物心両面の「テロに対する戦い」という、より大きな枠組みに明らかすぎるほどしっくりとなじむ。
この枠組みにおいて、反イスラムという人種差別主義は財政的な下支えを受ける-----国内外における反イスラム感情に起因する暴力行為から利を得ることを期待する兵器メーカーによって。イスラエルの自民族優越主義的アパルトヘイト体制を維持しようと図るシオニストたちによって。あるいは、自らの政治的、社会的、経済的な影響力や特権の維持・拡張を追求するその他の個人や団体によって。

人々を「不可視化」すること、彼らを「被験者」・「テスト対象」に指定すること、自らのあやまちを隠蔽するために事後的に「敵戦闘員」の呼称をたてまつること-----これらはまちがいなく米外交政策の標準的な戦略となっている。
これらの戦略は、利益と特権の構造はもちろん、政治家の評価とも密接に結びついている。トマス・ジェファーソンからバーバリ戦争、トランプ大統領の今に至るまで、アフリカ、中東、イスラム圏、南アジアなどの地域に対する空襲、爆撃、クーデター、戦争、暴力行為等々は、低い大統領支持率の手っとり早い改善策と考えられてきた。

(注: 原文サイトには、ここで次のような内容のツイッター画像が貼られています)
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ドナルド・J・トランプ フォロー
@realDonaldTrump

世論調査でオバマの支持率が急降下している今、リビアやイランへの空爆の
可能性に注意せよ。やつは必死だ。

6:39 AM - 10月10日 2012年

リプライ リツイート25,458 いいね15,705

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この2012年のツイートにおいて、トランプ氏は、当時のオバマ大統領が自分の支持率を上げる一方策としてイスラム圏の国に空爆をしかけるだろうと予見した。そして、事実、オバマ大統領はこの手を使ったし、同様に今、大統領となったトランプ氏もその例にならったのである。

ドローン攻撃や空爆を個々の事象として捉えてはならない。社会、政治、軍事、経済の分野にまたがる、より大きな枠組みの反イスラム的な構造を念頭に置かなければならない。
イスラム圏や有色人種の人々の「不可視化」と破壊から利益を得る人間と組織が存在する。
この利益を原動力とする殺人行為は、アフガニスタン、イラク、ソマリア、イエメンその他の国の人々の声や話を、欧米の空間と会話から意図的、持続的に排除することで、実行がかぎりなく容易になるのである。

個人個人の声や話こそがもっとも重要である。
自分の母親がドローン攻撃によって殺されたとき、どんな気持ちかという話、ドローン攻撃機は晴れた日しか飛ばないので、青空が広がる日よりも曇天の日を好ましく思う気持ち、米国のドローン機用「暗殺リスト」に自分の名前が載り、自分の代わりに家族や友人あるいは他人がまちがって殺されるのに居合わせるかもしれないというおぞましい危惧、自分たちの村落の上空を頻繁に飛ぶドローン攻撃機の不吉なうなり、将来の金曜の礼拝のいつが自分の最後の日となるかわからないという不安、等々等々。
米国政府の承認を経た「不可視化」の言説の下に埋められているのは、絶えず苦しめられ、さいなまれ、不吉な予感につきまとわれる人々である。これらの人々こそ、米国政府が国民に忘れてもらいたがっている人々なのだ。


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[その他の訳注、補足、余談など]

■原文中に埋め込まれている別サイトへのリンクは割愛しています。
気になる方は原文サイトで確認してください。


■訳文中の「敵戦闘員」は原文では enemy combatant です。これは専門用語としては「敵性戦闘員」らしいのですが、一般にはなじみがないので、ここではわかりやすい「敵戦闘員」にしておきました。


■訳文中の
「北アメリカの先住民を物理的、文献的、観念的、学術的に消し去ってきたこれまでの米国の歴史をふり返ってみればよい。彼らと同様に、中東やアフリカの人々もずっと「消去」され続けている。暴力や大規模な破壊行為の免罪符となる言説をこしらえたがっている人間たちによって、これらの人々はしばしば不可視化され、取るに足りない存在と見なされる」
などにうかがえるのは人種的偏見の問題です。
アメリカが日本に2発の原爆を投下するに至った誘因の一つはまちがいなくこれでした。