気まぐれ翻訳帖

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新しい形の植民地主義-----ギリシアとウクライナの事例

2015年09月22日 | 国際政治

今回は、今、姿を明確にしつつある新しい形の植民地支配について。

書き手は、例によって、現代資本主義のさまざまな側面についてわかりやすい見取り図を提示してくれるジャック・ラスマス氏。

原題は
The New Colonialism: Greece & Ukraine
(新たな植民地主義: ギリシアとウクライナの事例)

原文のサイトはこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/the-new-colonialism-greece-ukraine/

(なお、原文の掲載期日は8月31日でした)


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The New Colonialism: Greece & Ukraine
新たな植民地主義: ギリシアとウクライナの事例


By Jack Rasmus
ジャック・ラスマス

初出: teleSUR English
2015年8月31日


新しい形の植民地主義が欧州で台頭しつつある。
それは19世紀のような、軍事的征服と占領によって強制する植民地主義ではない。
それはまた、1945年以降、米国が先駆者となった、より効率的な「経済植民地主義」でもない。
(経済植民地主義とは、直接的な統治と軍事占領の手間をかけず、収奪する富を現地の従順なエリートたちに分けあたえ、自分たちの代理人として統治を許すものである)

21世紀の植民地主義は「金融資産の移転による植民地主義」である。それは、当該国の支配層を支配することを通じて、その国の富を略取することである。当該国の支配層は金融資産を移転するプロセスを直接的に実行・管理する任務をあてがわれるのだ。
この直接的な運営管理と金融資産の移転という新たな形の植民地主義が目下ギリシアとウクライナで明確な姿を取りつつある。

最近のギリシア債務協議の看板の背後には、欧州の銀行家とその関係機関-----欧州委員会、欧州中央銀行、IMF、欧州安定化機構(ESM)-----が立ち働いている現実がある。彼らはまもなくギリシア経済の運営を直接引き受けることになる。それは、2015年の8月14日にギリシアとトロイカ(欧州連合、欧州中央銀行、IMFの3者から構成される債権団)が署名した「覚書(MoU)」での既定事項であった。その「覚書」には、直接的な運営のやり方が詳細に記されている。
ウクライナの場合には、やり方がはるかに直接的であった。昨年の12月に、米国と欧州は金融や経済を管轄するウクライナの大臣に自分たち懇意の「影の金融」マン(下の訳注を参照)を据えた。以来、彼らがウクライナの経済を日々、直接に差配している。

(訳注: 「『影の金融』マン」の原語は shadow bankers。元になる表現の shadow bank は通常「影の金融」または「影の銀行」などと訳出されます。
「影の金融・銀行」は、伝統的で厳密な意味での銀行業務とは違いますが、似たような機能を発揮するシステムまたは存在で、投資銀行(証券会社)、ヘッジファンド、証券化のための特殊な運用会社、年金基金などの業態の総称です。金融当局の規制が適用されず、実態が正確に把握されていないためにこう呼ばれます)

金融資産の移転という新たな植民地主義は、現実的な形態としては、いくつかの手法に分類できる。
ひとつは、拡大する債務に対する利子の支払いという形の富の移転。またひとつは、植民地を支配する側の投資家や銀行家に直接売却されることになる、植民地国の政府資産の叩き売りという形の富の移転。さらにまた、植民地国の銀行システムや銀行資産の実質的な乗っ取りという形による富の移転(これは、植民地支配する側の国の銀行や投資会社の株主に富を移転することが眼目である)、等々。


[ギリシアの場合]

ギリシアと上記トロイカの間で2015年8月14日に署名された、3度目となる直近の債務協定は、ギリシアに新たに980億ドルの債務をつけ加えることになる。債務総額はこれによって4000億ドル超に達する。980億ドルのほとんどすべては債務返済か、ギリシアの銀行の資本増強のために用いられる。
ギリシアから富を略取するやり方は、国民が総生産額を高めること、政府が歳出を削減すること、税収を増やすことなどを通じてである。これらは利子や元本の支払いに充てられるべき、いわゆる「基礎収支の黒字」を生み出すためにおこなわれる。

ギリシアがモノを生産して安い価格でドイツに売り、ドイツはそれをより高い価格で再輸出し、より高い収益をふところにするという展開-----19世紀の植民地支配-----にはならない。多国籍企業がギリシアに拠点を移してモノをより安い賃金、より低いコストを利用して生産し、それを世界中に輸出して収益を得るという展開-----20世紀後半の米国の植民地支配-----にもならない。
これからのギリシアはより少ない報酬で、より仕事に精を出して基礎収支の黒字を達成しなければならず、そして、その黒字分は、自分たちの膨れ上がる債務の利子を支払う形でトロイカに差し出さなければならない。
トロイカは仲介者であり、借金取り立て業者であり、銀行家や投資家のために利子を取り立てる国家当局の代表者である。彼らは国を超えた組織であり、金融資産の奪取と移転を実行する代理人なのである。

ギリシア・トロイカ間の「覚書」には、直接的な運営・管理のやり方とともに、いかなる富をいかなるプロセスで奪取し、移転するかについても詳細に規定されている。「覚書」の冒頭では、はっきりとこう記されている。ギリシアの政治機関による立法その他の行為は、たとえささやかなものであっても、トロイカの事前の承認を必要とする、と。かくして、トロイカは、実質的にギリシアのあらゆる政策措置、立法機関と行政機関のあらゆる意思決定について、ギリシア政府のあらゆるレベルで拒否権を有することになる。

その上、ギリシアは今後、財政政策を実施することが困難であろう。予算を決定するのはトロイカの役目になりそうだからだ。予算策定をトロイカがチェックするのである。「覚書」によれば、次回の予算策定において税体系と歳出に関する抜本的な改変が求められている。ギリシア政府は予算を策定することはできる。しかし、その予算はトロイカの望む予算でなければならない。また、トロイカの係官が遵守状況を監視し、トロイカの承認した予算に沿ってギリシア政府が確実に行動するよう注意する。ギリシアのあらゆる政府機関、立法府のあらゆる委員会は、かくして、ほとんど毎日「トロイカの人民委員」から肩越しに覗かれるような塩梅となる。

「覚書」によれば、トロイカはまた、ギリシアの銀行の取締役会につらなる「独立コンサルタント」を任命する権限を有する。取締役会の古参メンバーはかなりが排除されることになろう。つまり、トロイカから任命された人間が日常的にギリシアの銀行を運営・管理することになる。銀行の国外の子会社や支店は「民営化」される-----すなわち、欧州の他の銀行に売却される-----ことになろう。ギリシアの銀行はかくして名前だけの存在と成り果てる。トロイカという看板の背後で活動する欧州北部の銀行の付属物であり、その実質的な子会社であり、彼らに支えられる身となるのである。ギリシアの銀行の資本強化のために配分される数百億ドルはギリシアではなくルクセンブルクの銀行に鎮座することになろう。ギリシアはもはや金融政策を遂行できない。それはトロイカの役目である。

一方、ギリシアの福祉制度および新規の社会保障制度は、世界銀行により手が加えられることになろう。新しく労働省を管轄することになる人間はトロイカの承認を得なければならず、しかる後、教育制度の合理化に取り組むことになろう(つまり、教員の解雇と賃金カットである)。同じくトロイカの承認を受けた新任の労働大臣は、トロイカの「独立コンサルタント」の提案を受け入れ、「抗議行動」(すなわち、ストライキ)と団体交渉を制限する施策を推し進めるであろう。また、同様に、コンサルタントの助言にしたがって、集団解雇(すなわち、大量クビ切り)を可能にする新しい規則の策定に取りかかるであろう。年金額はカットされ、退職年齢は引き上げられ、労働者の医療負担額は増やされるであろう。地方政府はより高い効率性(つまり、解雇や賃金カット)を求められ、法制度全体が刷新されるであろう。

500億ドル規模の『ギリシア政府資産民営化基金』は一応ギリシア国内に創設される見込みである。しかしながら、「覚書」によれば、それは「関係する欧州機関の監督の下で」運営されることになっている。民営化される対象は何か、それがいかなる価格で売却されるか(いずれにしろ叩き売り価格であるが)、どの好ましい投資家に売却されるか-----これらはいずれもトロイカが決定するとされている。一方、すでに民営化による売却の過程にあるか、民営化が決定済みの資産については、その作業スピードが速められるであろう。


[ウクライナの場合]

ウクライナの場合、新たな融資が約束されたのは、2014年12月、同国の財務、経済を管轄する大臣のポストに米国と欧州出身の銀行マンが据えられた直後のことであった。米国と欧州は1月にさらに40億ドルを用意した。2月にはIMFが新たに400億ドルの支援策を発表した。この400億ドルを加えると、ウクライナの債務は、2007年度には120億ドルであったものが、2015年度では1000億ドルに達する。

この総計1000億ドルの債務は、結局、金融資産の略取の大幅な拡大を意味する。それは、その1000億ドルの利子を支払うという形で遂行される。

金融資産の移転のもうひとつの形態は、民営化の促進という形で表れるであろう。342にのぼる国営事業体が2015年度に売却される予定である。たとえば、複数の発電所や鉱山、13の港湾などであり、農場さえ勘定に入っている。売却は叩き売りと言ってよい価格でおこなわれる見込みだ。米国や欧州出身の新任の大臣たちの「友人連」-----やはり米国や欧州の人間-----がその恩恵に浴するであろう。
同様の事情は、これら新任の大臣たちが認可する、民間の企業の売却の場合にも当てはまる。ウクライナの企業の5社に1社は実質的に破綻しており、ジャンク債に属する社債でも100億ドルの融資を更新することは困難だ。多くは債務不履行に陥り、めぼしい会社は米国やEUの「影の金融」マンと多国籍企業がさらっていくことになろう。


ギリシアとウクライナの事例が示すものは富の奪取をより直接的に運営・管理する手法、および、その富を金融資産の形で移転する手法の登場である。これまでの政府債務の救済においては、IMFその他の組織が、必要な政策措置に関する数値目標等を被救済国に助言していた。その助言にしたがって行動するかどうかは当該国の意思にまかされていた。しかし、今は状況が変わった。直接的な管理手法が登場し、膨れ上がる債務から派生する金融資産を移転するにあたって、植民地国が躊躇したり、履行を遅らせたりしないよう万全の態勢がとられるのである。


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