欧米のシンクタンクの多くは公正・客観的な研究を発表している体を
よそおっていますが、アメリカ政府や軍需企業から資金提供を受け、その
意向に沿う形で活動しているのが実態のようです。すでにご存じの方も多い
でしょうが。
文章としてはあまり面白味はありませんが、事実関係の資料として、自分の
心覚えとして、一応きちんと訳出しておくことにしました。
初出は、アメリカの調査報道サイト『THE GRAYZONE』(『ザ・グレイ
ゾーン』)。
原文タイトルは
Meet the DC think tanks impoverishing masses of Latin Americans
(中南米の人々を困窮させるアメリカのシンクタンクをご紹介しましょう)
書き手は John Perry(ジョン・ペリー)氏。
原文サイトは
https://thegrayzone.com/2025/04/06/dc-think-tanks-make-people-poorer/
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『THE GRAYZONE』(『ザ・グレイゾーン』)
Meet the DC think tanks impoverishing masses of Latin Americans
(中南米の人々を困窮させるアメリカのシンクタンクをご紹介しましょう)
John Perry(ジョン・ペリー)
2025年4月6日
[ワシントンに拠点を置く、以下の大手シンクタンクは、中南米のもっとも
貧しい国々のいくつかに無慈悲な制裁措置を課するよう議員らに働きかける
一方で、さまざまな企業や兵器メーカーから莫大な金を受け取っている]
制裁措置はハイブリッド戦争の一形態であり、しかけ手の国にとってはわずかの
コスト負担でありながら、標的とされた国の人々には損害をあたえ、命を奪い
さえする。中南米だけにかぎっても、アメリカの制裁措置(公式には「一方的
強制措置」として知られている)は少なくとも10万人のベネズエラ人の死を
まねいている。また、同じくアメリカの、キューバに対する封鎖措置はきわめて
破壊的な影響をもたらし、10人に1人のキューバ国民が祖国を離れるに至った。
同様に、ニカラグアでは、2018年以降、推定30億ドル相当の開発援助金が制裁
措置によって停止され、地方の新規の水道整備事業などに支障が出ている。
これらの破壊的な制裁措置を策定し、その実際の影響を伏せ、政治家と組んで
それらを実施させ、企業メディアを使って推進しているのは誰であるのか。
これらの政策で打撃をこうむる貧しい地域社会とおぞましくも対照的に、
その政策の標的策定者たちは、たいていの場合、財政的に裕福なシンクタンク
に所属する高給取りの雇われ人たちであり、当該のシンクタンクは、アメリカ
政府や親欧米派の政府、そして多くの場合、兵器メーカーから、相当額の
資金拠出を受けている。
[腐敗の研究: 大手シンクタンクのロビイストとその資金拠出者たち]
これらのシンクタンクのうちで代表的なものの一つは『ウィルソン・センター』
である。同組織によれば、自分たちはたんに政策策定者たちに「世界の事象に
ついて、党派的な偏りのない知見」を提供しているだけ、ということだ。
その組織予算は4000万ドルを誇るが、その3分の1はアメリカ政府が拠出して
おり、組織のトップは前USAID(米国際開発庁)長官で、元米国大使のマーク・
グリーン氏である。
同センターは2024年に中南米にいっそう深く介入すべく、『繁栄と自由の
ためのイバン・ドゥケ・センター』を設立した。名前の一部の「イバン・
ドゥケ」は、ひどく不人気な、前コロンビア大統領のイバン・デゥケ氏を
指している。コロンビア国民の同氏に関する思い出は多分に、学生の抗議
運動に対する暴力的な弾圧、ベネズエラの「レジーム・チェンジ」(政権
打倒・体制転覆)に異常に執着する姿勢、何十年にもわたる内戦の収束を
めざした2016年の「和平合意」を意図的に骨抜きにする動き、等々と結び
ついている。
『ウィルソン・センター』に参画して以来、ドゥケ氏は学問方面に関しては
特段の貢献はしていないが、マイアミのナイトクラブでは夢のような時間を
すごしている。同氏は、そこで、たびたび招かれてゲストDJ(ディスク・
ジョッキー)を務めたり、スペイン語のロックのヒット曲を歌ってパーティー
参加者を楽しませたりしているのを目撃されている。
マーク・グリーン氏はこう説明する。『繁栄と自由のためのイバン・ドゥケ・
センター』は、「アメリカの外交政策における西半球の重要性、および、
同地域の未来において民主主義と市場中心主義経済がはたさなければならない
約束、これら2つをわれわれがあらためて確認するための方法の一つです」、
と。一方、同地域でアメリカの外交政策に異をとなえる国々については、
その国内のもっとも声高な政権批判者に対して資金を提供する手段の一つ
でもある。これらの人間たちは、『ウィルソン・センター』の特別研究員の
地位を獲得するやいなや、毎月1万ドルを支給されることになる。
この特別研究員の中には、ベネズエラのクーデターに参加した右派の
レオポルド・ロペス氏も入っている。ちなみに、同氏はケニオン大学と
ハーバード・ケネディ・スクールを卒業しているが、この2校はいずれも
CIAと密接なつながりを有していることが知られている。同氏は卒業後の
2002年、2014年、2019年のそれぞれで、ベネズエラ政府に対するクーデター
を組織するために活動した。
同じく、『ウィルソン・センター』から給金を得ている人物は、以前に駐
ベネズエラ米国大使であったウィリアム・ブラウンフィールド氏である。
同氏もまた、「レジーム・チェンジ」の熱烈な支持者だ。6年前、ベネズエラ
はアメリカ政府のもっとも過酷な制裁措置の下であえいでいたが、その当時、
同氏は、さらにいっそう厳しい手段にうったえることをアメリカ政府に勧めた。
というのも、ベネズエラ国民は「すでに大変な苦境にある。 …… であるから、
この時点でおそらく最良の方策は同国の崩壊を加速させることであろう」と
いうことであった。その一方で、同氏は、自分の望む結果がベネズエラ国民に
「何ヶ月あるいは多分何年もの辛苦の時をもたらす」であろうことはあっさり
認めている。
ベネズエラの現行政権の打倒をもくろんでいるのは『ウィルソン・センター』
だけにとどまらない。『アトランティック・カウンシル』(大西洋評議会)
もそのようなシンクタンクの一つである。毎年、アメリカ政府からおよそ
200万ドル、米国防総省の請負業者からやはりほぼ同額を受け取っているこの
シンクタンクは、24名から構成される「ベネズエラ作業部会」を立ち上げた。
この24名の中には、元米国務省職員、石油関連企業のシットゴー社の元取締役、
いわゆる「ベネズエラ暫定政府」に属する複数の関係者、等々が含まれて
いる。ちなみに、この「ベネズエラ暫定政府」は、USAID(米国際開発庁)
が拠出した資金のうち、1億ドル超を横領したとしてうったえられている。
『アトランティック・カウンシル』は、公式には「米国、欧州、中南米の
政策策定者に向けて、ベネズエラの民主的な安定をはぐくみ、長期的ビジョン
と行動指向的政策を後押しする措置について、知見を提供する」こと、および、
「ベネズエラの民主的な制度の再興をうながす」ことを謳っている。が、
これが実質上意味するのは、この組織の根本的な取り組みの対象がマドゥロ
政権の打倒であるということである。
同組織は、事実上、みずからの影響力を濫用するタイプの、米国政界における
NATOの非公式のシンクタンクと言ってよい。彼らはニカラグアに関して、
ベネズエラと同様の結果を望んでいる。2024年には、「ニカラグア、独裁的
王朝へ: 米国の経済的圧力によるその対抗策」というタイトルの文章を発表
した。その書き手である研究員のブレナン・ローズ氏は、サンディニスタ政府
に対する「あらたな懲罰的経済措置」を呼びかけている。それは、同国の
主要な輸出相手国であるアメリカとの貿易に大きな打撃をおよぼすことが
予想される。しかし、この貿易に依存しているニカラグアの数十万の人々
への避けがたい影響については、何の顧慮も払われていない。これらの人々の
稼ぎは、おそらく『アトランティック・カウンシル』の並みのメンバーのそれ
と比べれば、けし粒のようなものであろうが。
アメリカの世界覇権に貢献してきた、ごく古くからのシンクタンクには、
『外交問題評議会』(CFR)がある。他国に口出ししてきた100年の「独立的、
無党派的」な歴史を誇るシンクタンクである。キューバに関し、定期的に
更新されるその報告書を検証すると、以下のことが明らかになる。すなわち、
キューバの経済状態が、アメリカの60年におよぶ経済封鎖の打撃にくわえて、
バイデン政権が前トランプ政権時代に強化されていた制裁措置を緩和するとの
約束を反故にして以降、あらたな危機に直面していることを、同シンクタンク
が十分に認識していることである。しかし、2021年に開催された、キューバ
政府打倒の方策をめぐる同シンクタンクのフォーラムにおいて、米国在住の
法律家、ジェイソン・イアン・ポブレテ氏は、ネジをさらにいっそう強く
締めつけるべし、と説いた。「われわれは、制裁措置だけにとどまらず、
国家の所有するすべての道具、ありとあらゆる道具をこのために用いるべき
だ」、と。
『アトランティック・カウンシル』や『外交問題評議会』とともに、アメリカ
の南の隣人たちの問題に口出しするシンクタンクは、ほかに『戦略・国際
問題研究所』(CSIS)があげられる。「世界のもっとも重大な課題に取り組む
べく、実践的なアイデアを追求することに献身してきた」と同シンクタンク
は誇らしげに言う。これら3つのシンクタンクはいずれも、『クインシー
研究所』がそのサイトに掲示した「米国防総省の請負業者から資金提供を
受けているシンクタンク上位10」のリストの中に入っている。『戦略・国際
問題研究所』は、米州担当責任者のライアン・バーグ氏が中心となって、
ベネズエラ、キューバ、ニカラグアへの制裁措置を求める積極的な取り組みに
ずっと従事している。また、これらの国の、アメリカ政府が支持する野党側の
人物 ----- ベネズエラのマリア・コリーナ・マチャド氏、ニカラグアの
フェリックス・マラディアガ氏とフアン・セバスチャン・チャモロ氏など
----- の名を看板にしたイベントを定期的に開催している。
これらのシンクタンクは、まとめて見た場合、アメリカの情報空間を牛耳って
いると言えよう。彼らは、大手のテレビ局やラジオ局の放送において、「独裁
的」で社会主義寄りの外国政府に対する非難とそれら外国政府の打倒を求める
声で、他を圧倒している。万が一、これら大手シンクタンクのメンバーが
番組に出席できない場合でも、その空席を即座に埋められる、規模のたいして
大きくないシンクタンクがゴマンと存在するのである。
[貧困化への執拗な要求]
ワシントンに拠点を置き、中南米の問題に口出しするシンクタンクのうちで
大きな存在感を示すのは、『インター・アメリカン・ダイアローグ』(また
は『アメリカ大陸のためのリーダーシップ』)である。『戦略・国際問題
研究所』と協調して活動し、同じく、軍需企業や政府から巨額の資金拠出を
受けている。本『ザ・グレイゾーン』で以前に報じたことであるが、『戦略・
国際問題研究所』のバーグ氏は先頃、この『インター・アメリカン・ダイア
ローグ』のマニュエル・オロスコ氏 ----- 米国務省『外務職員局』の中米・
カリブ諸国担当責任者でもある ----- と手を携えて、ニカラグアにわずかに
残された開発融資の提供機会の一つを封殺すべく、動いた。
この動きに関し、『インター・アメリカン・ダイアローグ』は、さらに別の
2つのシンクタンクから協力を得ていた。一つは、『組織犯罪・汚職報道
プロジェクト』(OCCRP)である。「世界屈指の大規模調査報道組織」と
みずから謳うこのシンクタンクは、その予算のたっぷり半分をアメリカ政府
から得ている。また、同じようにアメリカ政府から資金提供を受けている
『トランスペアレンシー・インターナショナル』と連携して活動している。
そのもくろむところは、アメリカ政府が標的とした外国政府に関し、スキャンダル
を掘り起こして「レジーム・チェンジ」工作を推進することである。
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自分は2021年に『組織犯罪・汚職報道ブロジェクト』(OCCRP)の創設・
資金調達・運営がアメリカの諜報機関によるものであることを明らかにした。
と言っても、そういう次第であることをバイデン政権の「上級」職員が記者
会見で認めていたのであるから、それほど困難な仕事というわけではなかった。
ともあれ、『ジ・インターセプト』のサイト ----- 私が意味するのは『ドロップ
サイト・ニュース』の最新情報 ----- をご覧いただきたい。
https://t.co/I1v5go3rgU https://t.co/JOK4KGA0RW
pic.twitter.com/ye7ecNPWT8
----- キット・クラレンバーグ ----- (@KitKlarenberg)
2024年12月3日
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この、いわば「制裁措置産業」に深くかかわっている組織は、ほかに『センター・
フォー・グローバル・デベロップメント』がある。この「デベロップメント」
なる言葉はあたかも反語であるかのように感じられるかもしれない。同組織は、
経済上「破壊的な」強制措置を推し進める人間たちに足場を提供しているので
あるから。その年間予算2500万ドルは主に『ゲイツ財団』や複数の欧州政府に
よってまかなわれている。その幹部メンバーの一人であるダニー・バハール氏
は最近、ベネズエラが目下享受している「一時的な経済回復」をつぶすために、
より過酷な制裁措置を課すよううったえた。
覇権のために中南米の人々を貧困に追いやろうとしているうさん臭い組織は、
しかしながら、アメリカを本拠とするものだけではない。イギリスの『王立
国際問題研究所』(別称『チャタム・ハウス』) ----- その年間予算2000万
ポンド(2440万ドル)の相当部分を英米両政府と兵器メーカーに依存している
----- は、これまた同様に、ベネズエラの「民主制の回復」を呼びかけている
のと並行して、ベネズエラとニカラグアの野党側勢力に属する人間に頻繁に
発言の機会をあたえている。同組織は、ベネズエラに対する制裁措置の効果
については懐疑的であるが、それでも2025年の1月には以下のように結論づけて
いる。すなわち、「石油と天然ガスに関する制裁措置の再開」は「筋が通って
いる」 ----- それが「具体的に定められた目標を持つ、より広範な、外交的、
協調的な多国間政策」の一部を構成するかぎり、と。また、アメリカ政府の
キューバに対する通商停止にも多少の批判的意見をかかげたが、その理由は
おおむね「レジーム・チェンジ」上の効果があまり見込めないということで
あった。
ワシントンに拠点を置く古株のシンクタンクのうちで、制裁措置に多少懐疑
的な見方を進んで提供する場となっているのは、唯一『ブルッキングズ研究所』
だけである。2018年には、ベネズエラの、ある経済評論家の論説を紹介したが、
その中で、同評論家は、「ベネズエラの罪のない一般市民に影響がないよう、
制裁措置は厳密に的をしぼったものでなければならない」とはっきり忠告
している。また、その前年、同シンクタンクは、以下のようにも論じていた。
トランプ政権のキューバに対する制裁措置は、「当面、キューバ経済にそれほど
大きな打撃をあたえること」はないであろう …… また、「軍事力の脅威を
低減すること」にはならないであろう、そして、「同国の成長中の民間部門に、
また、民間部門と結びついた非軍事的分野の雇用に、不相応な悪影響」を
もたらすであろう、「もちろん、アメリカ人の旅行する権利を制限すること
になるであろうことは言うまでもない」、等々。とは言え、全般的には、
『ブルッキングズ研究所』はやはり欧米の共通認識にほぼ沿っていると言えよう。
つまり、第1期のトランプ政権の国家安全保障問題担当補佐官ジョン・ボルトン
氏がかつて「圧政のトロイカ(3人組)」と非難した国々の政府を打倒する
ことが、やはりその目標なのである。
[実態はロビイスト]
シンクタンクは特権的な空間で活動し、学術的な世界との結びつきによって
信頼性を手に入れ、一方では、その政策決定に関し、帝国主義の要請を強く
念頭に置くことを心がけている。このようなシンクタンクはアメリカだけ
でも2200以上にのぼり、そのうちおよそ400が外交問題を専門に取り扱って
いる。そのメンバーは近年、石を投げれば当たるような存在になっており、
米下院外交委員会に参考人として出席した人間の約3分の1が彼らによって
占められるほどに至っている。彼らの80パーセントは「ダーク・マネー」
(と『レスポンシブル・ステイトクラフト』誌が呼ぶもの)を防衛関連企業
から受け取っている。
制裁措置 ----- とりわけベネズエラに対するそれ ----- をめぐるこれら
シンクタンクの業界内「同調思考」は、彼らがそろって皆自称する「(研究
の)独立性」を裏切るものだ。政治学者のグレン・ディーセン氏は、最近の
著作『シンクタンク商売』の冒頭で次のように述べている。これらの組織の
「仕事は、自分の雇用主の目標のために合意を形成することである」、と。
そして、「これらの政策策定エリートたちは …… 真の意味での議論をする
よりむしろ自分たち自身の偏見をいっそう強固なものにしてしまう」。彼らは
一日の仕事を済ますと、「高級レストランに出かけ、そこでお互いの背中を
ポンポンとたたき合う」のだ。
めったにお目にかかれない自己批判的な論考である「なぜ誰もがシンクタンク
をきらうのか」の中で、『ウィルソン・センター』のマシュー・ロジャンスキー
氏と『欧米外交問題評議会』のジェレミー・シャピロ氏は、こう説明する。
これらのシンクタンクはロビイストの別称となってしまっている。その資金
提供者たちは、「政策という名の弾丸を放ち、みごとに的に当て、期待通りの
成果を上げるベテラン射撃手」を求めているにすぎないのだ、と。また、
すでに2006年の時点で、ジャーナリストのトーマス・フランク氏は以下の
ように述べていた。シンクタンクは7桁台の予算を持ち、多数の「上席研究員」
と「著名な大学教授」を擁する、強力な疑似学術団体へと成長した」。
この事業形態は「うまみのある詐欺的な商売」の一種である。上のディーセン氏
が指摘したように、また、同じく上の『繁栄と自由のためのイバン・ドゥケ・
センター』が証明しているように、シンクタンクは「天下り」の場を提供
する。そこで、公職を辞した人間あるいは成功しなかった政治家やその
アドバイザーたちは、社会政策に影響力をふるい続けることができ、同時に
また、お金もたんまりとフトコロにすることができるのだ。
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[訳注・補足・余談など]
■[補足・1]
文中に登場する『組織犯罪・汚職報道ブロジェクト』(OCCRP)については、
ネットで検索すると、以下のようなややくわしい文章が見つかります。
興味深いので、全文をここに引用しておきます。
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世界最大の調査報道ネットワークと米政府との隠れた関係とは
By Mashup Reporter 編集部 -2024-12-06
https://www.mashupreporter.com/usg-and-occrp/
国家をまたぐ組織犯罪や汚職を暴くことに特化した世界最大の調査報道組織、
OCCRP(組織犯罪・汚職報道ブロジェクト)の最大の資金提供元が米国政府
であることがわかった。ドロップサイトニュースが、イタリアやフランス、
ギリシャの報道機関との共同調査により明らかにした。
NGOである同組織は本部をアムステルダムに置く世界最大の調査ジャーナリスト
ネットワークとされる。60カ国に総勢200人のスタッフを配し、現地の記者ら
のハブとして機能している。これまでにパナマ文書やパンドラ文書といった
政治家やエリート、起業幹部の不正追求につながる膨大な機密文書の入手や
暴露に成功している。ルディ・ジュリアーニ氏のウクライナにおける政治的な
活動を暴露した記事は、トランプ氏の一回目の弾劾訴追へとつながった内部
告発文書に複数回引用されていた。
ドロップサイトの調査では、2014年から2023年の間、米政府はOCCRPに実際が
支出した資金の52%を提供していたことが判明した。2008年以降に提供した
総額は4,700万ドル(約700億円)に上っていた。なお、米政府内で最大の資金
提供者は国際開発庁だった。
なお、OCCRPのウェブサイトにある寄付者リストには、国務省と並んで
ジョージ・ソロス氏のオープンソサイエティ財団やロックフェラー兄弟財団
といった名も並んでいる。
ドロップサイトはさらに、OCCRPは、国連民主主義基金からの助成金により
スタートしたと説明しているにもかかわらず、実際のところOCCRPの創設を
可能にした数百万ドルのスタート資金は国務省の国際麻薬・法執行局(INL)
から提供されたものだったと報じている。
この報道に対して、OCCRP の理事会は声明で、米国が主要な資金提供者である
ことを認める一方、米国以外では政府によるジャーナリズムの支援は珍しく
なく、設立前に徹底的に議論された問題であると説明。共同創設者で代表の
ドリュー・サリバン氏は、OCCRPのジャーナリズムを米政府がコントロール
してきたという発想には根拠がなく、「当てこすりと誤解、非難」でしかない
と反論した。また、OCCRP側は「編集上のファイアウォール」があるとして
報道活動への影響を否定した。
ただし、米政府との関係は単なる資金提供者と独立した報道機関とは言い切れ
ない可能性がある。
米政府は資金を提供する代わりに、OCCRPの上級編集スタッフを含む上級
職員や「年次作業計画」を拒否する権限を有しているという。
また、「OCCRPの記事に基づいて組織的に刑事捜査や制裁手続きを誘発しよう
とするプログラム」である世界反汚職コンソーシアム(GACC)は、2016年に
米国務省の提案募集をOCCRPが勝ち取った結果として生まれたものだった。
米国はGACCの最大の寄付者であり、同プログラム絡みでこれまでにOCCRPに
1,080万ドルを提供している。
GACCの活動は大きく二つに分類され、1つ目は「OCCRPの記事に基づいて、
司法捜査と制裁手続き、市民社会の動員を誘発すること」であり、2つ目は
「各国に反汚職およびマネーロンダリング防止に関する法の強化を働きかける
こと」とされる。
OCCRPが2021年に米政府の要求により作成したGACCの評価報告書によると、
「現実世界への影響」として特定された228事例のうち、中南米を含む南北
アメリカに関するものはわずか11件だった。
人的交流の側面では、国務省で汚職防止顧問を務めていた高官が、OCCRPに
「グローバルパートナーシップおよび政策担当責任者」として採用され、
その後再び国務省に戻って制裁手続きの担当部門で働いているという例も
あった。
OCCRPの有用性は政府高官も言明しているところであり、国務省のマイケル・
ヘニング氏は、ドイツの公共放送NDRの取材に対して、単に法執行機関を
使って犯罪を暴くのではなく、ジャーナリストに資金を提供する理由について、
政府関係者よりも情報源から協力を引き出せる可能性が高くなるとの考えを
語った。
ジャーナリストや報道機関の反応は様々で、独立したジャーナリズム活動に
影響はないと擁護する声もある。一方、NDRは独自調査を通じて米政府の
資金提供の規模を知り、OCCRPとの協力を一時停止することを決定した。
ニューヨークタイムズの広報担当者は、資金提供の性質を同社に明らかに
していないと答えている。
OCCRPの元理事で、1999年公開の映画『ザ・インサイダー』でアル・パチーノ
が演じた著名なジャーナリスト、ローウェル・バーグマン氏は、政府との
繋がりを知って2014年に理事職を退任したいた。当時、バーグマン氏はサリバン氏
らに対して懸念を伝えていたという。
匿名を条件にドロップサイトの取材に応じたあるジャーナリストは、OCCRPは
米政府に有用な情報提供する必要はなく、米国外で活動する「クリーンハンド」
の集団であるとする一方、「しかし、それは常に他の人々の汚職についてだ。
反汚職関連の仕事で米政府から支払いを受けていれば、飼い主の手を噛めば
資金が止められることはわかっている」と限界を語った。また同人物は、
批判者はアメリカの「ソフトパワーの本質」を理解していないとも主張。
「米政府から直接資金を受け取りたくなくても、周囲を見渡せば、ほぼすべて
の主要な慈善資金提供者が何らかの取り組みで彼らと提携している」と述べ、
「実のところ、一部の報道機関への影響がどれほど深いのかは分からない」
と語った。
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■[補足・2]
本文に関連して。
大手テレビ局の報道番組などで発言するコメンテーターが軍需企業から報酬を
得ていること、ここにはいわゆる「利益相反」の問題が発生し、その事実を
テレビ局は視聴者に伝えるべきであるにもかかわらず、それを伏せている
ことについては、本ブログでずっと前に取り上げています。
主戦派のコメンテーターを財政的に支える軍需産業
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/d7293b6e6bf27ba4df795a95684f01e7
■
なお、ケアレス・ミスやこちらの知識不足などによる誤訳等がありましたら、
遠慮なくご指摘ください。
(今回の訳出にあたっては、機械翻訳やAIなどはいっさい使用しておりません)