日本に現存する日本最古の和歌集「万葉集」を身近に!
巻2・103番歌 詠人:天武天皇
わが里に 大雪(おおゆき)降れり 大原の 古(ふ)りにし里に 降(ふ)らまくは後(のち)
(訳:わが飛鳥の里に大雪が降っている。おまえの済む大原の古びた里に降るのは、まだ後だろう。)
解 説
今年の冬は各地で大雪を降らせました。雪の被害もあちこちで聞かれましたが、今回はその雪に関係した歌をご紹介します。
奈良盆地ではそれほど雪が降りません。それゆえに積もれば写真でも撮りたくなるくらいです。
今回は雪をテーマにした天武天皇の歌です。
勇ましいイメージがある天武天皇ですが、歌が「万葉集」に5首納められています。
まだ兄の天智天皇が天皇だった時、別れた妻である額田王に「人妻ゆゑに我恋ひめやも」と歌う歌(巻1・21番歌)。
物思いにふけりながら吉野の山道を歩いたものだと、感慨深く思い出す長歌(巻1・25~26番歌)。
そして、天武八年の「吉野の盟約」(持統と皇子たちを吉野に連れて行き、争いを起こさないと誓いを立てさせた)の折に詠まれた「よき人のよしとよく見てよし言ひし吉野よく見よよき人よく見」(巻1・27番歌)。
以上四首は巻1「雑歌(ぞうか)」という部分に収められています。
今回の歌は、天武天皇の歌で唯一、巻2「相聞(そうもん)」(恋の歌)に入っています。
50歳弱の天武天皇が20歳弱の藤原夫人(ふじわらのぶにん)(鎌足の娘・五百重(いおえ)だといわれています)に賜った歌です。
まだ新しい飛鳥浄御原宮周辺に大雪が降ったが、五百重の住む大原という古びた里にはまだ降らないだろう、という自慢の歌です。
ただここで重要なのは、天武天皇の宮と大原(現・明日香村小原)はその距離およそ700mの近さ、いわば隣町で、宮から北東に見えるのです。
続いて藤原夫人は、「我が岡の龗(おかみ)に言ひて降らしめし雪の砕けしそこに散りけむ(巻2・104番歌)」(訳:わたしがこの岡の龍神に言いつけて降らせた雪の砕けたのが、そこにちらついたのでしょう)と負けずにこたえています。
しかし、言い合いながらも和やかな二人と、美しい雪の飛鳥を想像することができる歌です。