作者 舎人娘子(とねりのおとめ) 巻八 一六三六番歌
大口(ほおくち)の 真神(まがみ)が原に 降る雪は いたくな降りそ 家もあらなくに
訳:大口の真神の原に降る雪はひどく降るな。家もないことだのに。
解説
日本で最後にニホンオオカミが捕獲されたのは、奈良県の東吉野村です。現在の日本では野生のオオカミは姿を消してしまいましたが、古代の人々はオオカミを神として畏(おそ)れていたようです。今回の歌は、このオオカミにまつわる一首です。
この歌には、「真神が原」という地名が詠まれています。「真神の原」は、「明日香の 真神の原」(巻二・一九九)とも詠まれており、現在の明日香村にある飛鳥寺や万葉文化館付近の一帯を指す呼称と推定されています。そもそも、古代では恐ろしい動物を神と呼ぶことがあり、この「真神」という言葉はオオカミを指すと考えられています。その「真神」の枕詞である「大口の」は、オオカミの大きな口をイメージさせます。この「真神が原」という呼称は、神であるオオカミが住むような、畏れと神聖さの入り混じった特別な原であったことを意味しているのでしょう。
今回の歌の作者の舎人娘子は伝未詳の女性です。雪を瑞祥とする万葉歌もある中で、彼女は雪が降らないでほしいとうたっています。「家もあらなくに」という言葉から推測すれば、彼女はどこかへ出かけて行く途中で雪に降られたか、もしくは旅に出た大切な人のために、雪よひどく降るなと詠んだのでしょう。宿る家もない心細さと、オオカミが住まうという「真神が原」を通過する不安が募るように、雪がしんしんと降り積もっていく光景が想像されます。
古代の人々の動物や自然に対する思いは、枕詞や地名と深く結びついているのです。
万葉集の動物たち~ニホンオオカミ~
解説で述べた日本最古のニホンオオカミが発見された場所は、吉野郡の東吉野村で、高見山の麓のむらです。青々とした山並み、流れる雲や霧、青空を映し出す水面。
満天の星空、新月の暗闇、自然に抱かれた人々がくらしている東吉野村。こんな静かな山里東吉野村には、今も静かな時間がゆったりと流れています。街の雑踏を忘れてゆったりとした一日を過ごしてみてください。
突然消えたニホンオオカミ!
ニホンオオカミとは?
日本には、2種類のオオカミがいました。1種は北海道のエゾオオカミもう1種は本州、四国などに生息していたニホンオオカミです。ニホンオオカミは、学名Canis hodophilaxといい、現在実物標本3体が日本に保存されています。また、オオカミの中で一番小さい種で、4肢と耳が短いですが、それでもイヌにくらべればはるかに大きく、体毛は長く、前足前面に黒褐色の斑紋があります。頭骨は短小で口先は短く広いのが特徴です。明治のはじめまではかなりの数が生息していたようですが、エゾオオカミと相前後して姿を消してしまったのです。その後各地でニホンオオカミの生存を伝える情報がありましたが、生存を裏付ける証拠もなく、本村が最後の捕獲地となってしまいました。ニホンオオカミは古来から人畜に害を与えず、シカなどを獲物にして生きてきました。なぜ姿を消してしまったかは、今なお解明されておりません。
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