奈良の昔はなし~きつねの井戸~
奈良県の北西、香芝市にある狐井(きつい)というところ。今回はその地名の由来についてのお話しです。
昔、この村には水に恵まれず、村人は鎮守のお宮さんに「どうぞよい水をお与えください」と祈っていました。この鎮守の森には狐の家族が住んでいて、人なつっこい姿をよく見せていました。村人は「ひょっとしたら、神様のお使いかもしれん」と、暑い日には、大切な水を少し子狐に与え、貴重な油揚げをそっと置いたりしていました。
さて、その年はとりわけ、水不足が深刻だったのです。ある日、村人が「お宮さんの奥で、何やら水の音がする」と言ったのです。大急ぎで皆が駆け付けてみると、なんと井戸からきれいな水がこんこんと湧き出しているではありませんか。村人は喜び、水を両手ですくい、押し頂いて飲んだのです。
見ると、井戸のそばに狐の親子がいて、母狐の前足は泥にまみれ、爪の間からはうっすらと血がにじんでいました。村人たちは口々にお礼を言い、狐の足をきれいな水で洗ってあげたのです。
狐が掘り当てたこの井戸は、どんな日照り続きにも、水が涸れるということはありませんでした。近くの村人にも快く井戸の水を汲ませてあげました。それで、この村を「狐井」と呼ぶようになったそうな。
~昔はなしゆかりの地「杵築(きつき)神社」~
狐井に大樹が繁る杵築神社があります。境内には「きつねの井戸」といわれる古井戸が今も残っています。
ところで、杵築神社の東隣に、恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)の創建と伝える福應寺があります。ご本尊は恵心僧都真筆とされる板絵(いたえ)の「阿弥陀三尊来迎図」です。このご本尊が毎年7月9日に開扉されます。
その福應寺から南へ約400mに、阿日寺があります。寺蔵の梵鐘(ぼんしょう)に、恵心僧都誕生地との縁起が刻まれています。僧都は二上山麓の當麻の生まれとの説もありますが、いずれにせよ、二上山に沈む夕日の美しい光景の中に阿弥陀如来の来迎を見、浄土信仰への思いを深めたのです。
福應寺から西を望むと、正面に二上山雄岳がどっしりとした姿を見せています。田畑の向こうには民家があり、周囲は、きつねの井戸といい、恵心僧都の説話といい、とても興味深い静かな佇まいの集落です。
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