2004年のクリスマスを含む3泊4日を、城館ホテル・ミュンヒハウゼンで過ごしたのだが、その時の印象が良かったし、レストランでのクリスマスディナーも朝食も美味しかったので、この週末に1泊した。
城館 1 & 2
このホテルは、当地ハノーファーから1時間余りで着くヴェーザー山地に位置する、笛吹き男の話で有名なハメルンの近郊の村にある。起伏に富んで小川が流れる公園とバロック庭園を持つこの城は、16世紀の後半に建設が始まり、今はゴルフ場に挟まれる形で在る。1715年にはロシアの Zar Peter der Große(ペーター大皇帝)が、当時ヨーロッパ最大の植物コレクションとパイナップルの温室栽培に興味を持って訪れた、とのことである。その後城内礼拝堂が建てられたりしてこの地方の文化の中心となっていたが、1985年に最後の住人が城を離れ、1992年には火災で破壊されてしまった。そして2004年に5つ星ホテルとして開業するまで、廃墟のままであったそうである。そういえば、1990年代に偶然通りかかったときには中庭にゴルフのカートが止めてあったりゴルフをする人が行きかっていたが、庭園は荒れたままであった。
庭園 1 & 2
開業して4年間ずっとミシュラン1つ星を保持しているこのホテルのグルメレストランで食事をするのだが、今週末はシーズンということで、トリュフ(セイヨウシュウロ)づくめのメニューである。
まず暖炉がある騎士の間でアペリティフを飲み、フィンガーフッド(カナッペ)を食しながら、今夜の „ワイン旅行“ のワインを供するイタリアはアルバ地方の醸造業者を紹介される。それから皆レストランに案内されるのだが、いかにも城館らしい装飾と家具で設えた空間は比較的小さく、中くらいの大きさのテーブルが2つと小テーブルが6つしかない。もちろん、トリュフを堪能しようという客で満席である。
騎士の間
我々のテーブルは2背面が壁に面している少し奥まった位置にあり、居心地が良い。隣のテーブルには、醸造業者のイタリア人とドイツ人のワイン輸入業者とハノーファーの隣町でワインの小売業を営むドイツ人が座っている。
最初に厨房からの挨拶として、子牛のタルタルステーキにウズラの卵黄をのせてその上にトリュフの極薄切りをパラパラとふりかけ、それをトリュフマヨネーズで食べさせる一品が出た。
そして5品コースはイセエビカルパッチョのペリゴルド・トリュフと葱クリーム添え、で始まった。
2品目は白トリュフのラビオリにほうれん草と温泉卵黄を合わせてバターソースで食べさせる料理だ。
次はアンティチョークのフランとトリュフの組み合わせで、シナモンと焼いた一口大の鶏肉が加わる。フランの量が多くて、この辺から少し満腹感が出て来てしまった。
主菜は、トリュフの入ったカボチャのタルトとバラ色に焼いたノロジカのメダイヨン(円形のステーキ)に野草のつけ合わせだ。
最後のデザートは黒トリュフをはさんだカマンベールチーズ、そして上に白トリュフを散らした茹でポテト、さらにイチゴ系のフルーツを煮込んだソースであったが、デザートとしては重すぎて不満が残った。
その後、スプレッソといろいろな種類のトリュフ(この場合は、球形のチョコレート)で締めくくった。
ワインは食前酒から始まってデザートのマスカットワインまで6種類を味わったが、コクのあるワインが多く、それがトリュフを使った料理によく合って、トリュフというのは料理の味を濃厚にすることを初めて知った。イタリアのワイン醸造会社の人は我々のテーブルにも挨拶に来て話をする機会があったが、彼の会社は日本とも取引があり、すでに10回程訪日したそうで、行ったことのある都市を嬉しそうに数え上げた。
このコースで特に美味しいと思ったのは、パンである。直径5cmくらいの数種類のパンが供されたのであるが、変わったところでは、白トリュフ入り、黒トリュフ入り、そしてフォアグラを中に包んだパンがあった。パンは通常のバター、トリュフ入りバター、トリュフ入りマスカポーネ・チーズ、または海塩をつけて食するのだが、妻と私には黒トリュフ入りパンをトリュフ入りバターで食べるのが一番美味しく、このようなコースの食事では殆どパンを食べない私もつい5個も食べてしまった。
我々の部屋の一角
この城館ホテルには後日談がある。
家に帰ってすぐに、妻が真珠のネックレスがケースごと無くなっているのに気がついた。持って帰った荷物の中にないとすればホテルの部屋に置き忘れたに違いない、、、、。
そうしているうちにホテルから連絡があり、忘れ物があるという。こちらに送ってくれるよう頼んだけれども、ホテルの別館がハノーファーに在るので、安全のために、そちらに行くことがあるときに持って行く、と言っていたが、2日後にその別館の従業員が自宅まで届けてくれた。妻は感激してこのホテルのファンになるそうである。
今までの経験から、ミシュラン1つ星を持つレストランは2つ星や3つ星との差が大きく、『何か物足りない。』と感じるレベルが多いけれども、ホテル・ミュンヒハウゼンのグルメレストランは大変に満足できた1つ星レストランのうちのひとつである。我々の „常連になりたいホテルリスト“ に加えることにする。
〔2008年12月〕〔2021年5月 加筆・修正〕