南オーストリアからドイツの自宅に帰る途中、その国境で一泊しました。泊まったのはオーストリア側の小さな村にある 〈城塞の展望〉 というホテルです。この一風変わった名前は、国境であるザルツァハ川のドイツ側の高台にあるお城をホテルの客室から見渡せることによるのです。
ホテル到着直前 ・ ホテル
ホテルの駐車場から 1 ・ ホテルの駐車場から 2
このツー・ブルクハウゼン城塞があるブルクハウゼンの町は11世紀前半の文献に初めて王室の領地として言及されていて、同時にお城に関しては町の伯爵の所有であることが記されています。城塞の最も古い部分が11世紀の前半に建造されてから数世紀にわたって何度も増築による拡張が行われました。
城塞の最古の部分 1 ・ 城塞の最古の部分 2
城塞の最古の部分 3 ・ 城塞の最古の部分 4
城塞の最古の部分 5 ・ 城壁と湖
特に、トルコ民族の接近に対する恐怖は、15世紀の末頃から16世紀初めにかけての大規模な城塞拡張につながったのです。その際に、お城は要塞としての機能に加えて、機能するコミュニティのためのスペースを提供しなければなりませんでした。その結果、自己完結型の広々とした要塞と住宅城の形をとった複合施設になったのです。これは1.051メートルもの大変長いお城の施設で、ギネスブックに入ってから 「世界最長の城」 と考えられています。
入り口にかかる見取り図
もちろん16世紀以降も城塞は軍事的意義を持ち続け、中でも17世紀の30年戦争中に、迫りくるスウェーデン軍を前にして防御機能が特に強化されました。この長い尾根の位置は、防衛に際して非常に有利でした。それはお城が征服されたことがない理由の一つです。19世紀になってナポレオン占領中の過程で、古くなった城塞の北側はフランス軍によって取り壊されました。同時に、城塞の老朽化が指摘されて解体の話も出ましたが、ブルクハウゼン市民によってそれは回避することができたのです。19世紀末頃お城の中核部分の最初の改装が始まり、そのうちのいくつかは複合施設の外観に強く影響を与えたのですが、20世紀後半になってから今日まで、お城の複合体全体がさらに改装されました。
城内の礼拝堂 ・ 中庭の様子 1
中庭の様子 2 ・ 城門のうちのひとつ 1
城門のうちのひとつ 2 ・ そこにかかるワッペン
こんにち城塞の大部分はバイエルン州に属し、その管理下にあります。中庭には拷問博物館、市立博物館、バイエルン州立絵画館、写真博物館など、いくつかの博物館があります。その他、プライベートな住宅街、イベントルームとビジターセンター、そしてキオスクと公衆トイレ、及び城カフェもあります。冬には、この世界最長のお城で長いクリスマスマーケットが開店するそうです。見どころ満載の広大な城塞ですが、訪問者にはガイド付きツアーも用意されています。
お城から町を見る
町からお城を見上げる 1 ・ 町からお城を見上げる 2
さて、オンラインで調べた通り、私たちのホテルの部屋から城塞の全貌を見渡せます。が、低い位置からなので背の高い建造物しか見えません。部屋もテラスも広くて居心地の良い客室です。
部屋からの景色 ・ 夜景
部屋からの展望を楽しんだ後、宿泊しているホテルには夕食を供するレストランがないので、国境であるザルツァハ川の橋を徒歩で渡ってブルクハウゼンの町へ行きました。ところで、お城はもともとは国境にある城塞ではありませんでした。18世紀の末頃、ザルツァハ川に国境が引かれたようです。
国境の橋
食事をしたのは、町で一番古いホテル・ポストのレストランです。歩道に張り出したテーブルに座りました。いわゆる高級レストランではなく、主に観光客の胃袋を満たす田舎の飲食店の風情です。
ホテル・ポスト
飲み物はいつものようにノンアルコールビールで、私の前菜はハーブ・バゲット付きのトマトスープ、妻のそれは夏野菜のサラダです。スープは少し酸っぱめで、サラダはごく普通。
トマトスープ ・ サラダ
そして妻は 〈皮殻付きローストポーク、天然ソース、バイエルン産キャベツ、ゼンメル(小型で皮の堅い白パン)入り団子〉 を頼みました。〈天然ソース〉 とは何のことか分かりませんが、穏やかな味でキャベツによく合います。肉が、特に皮殻が硬いのですが、味は悪くありません。団子は重すぎてほとんど残しました。
ローストポーク ・ シュニッツェル
私の主菜は 〈シュニッツェル(薄切りカツレツ)、コケモモのジャム、フライドポテト〉 です。この肉も硬い。少し揚げ過ぎのようで、衣が焦げる寸前なのです。ジャムが瓶詰の既製品で別の果物なのは何とも残念です。唯一満足したのはフライドポテトです。
何だか周りがガチャガチャしていて居心地が悪いので、デザートもコーヒーも取らずに町の散歩に行きました。
古い町並への入り口
古い建物もなかなか興味深いのですが、この町でコンサートをしたジャズ・ミュージシャンの名前とコンサートの日付を刻んだ石板が石畳の道路に数多くはめ込まれているのに気が付きました。マイルス・デイヴィス、オスカー・ピーターソン、カウント・ベイシー、デイヴ・ブルーベックなどなど。世界的に大変有名なジャズ・ミュージシャン、その数数十人です。こんな小さな町をジャズの巨匠たちが訪れたことに驚きました。現在でもジャズ・フェスティバルは行われているようですが、私が好んで聴いたミュージシャンはもう過去の人になっているので、それ程興味はありません。
朝食室からの景色
ジャズと城塞が好きな人はこの地を覚えておくといいでしょう。
[2020年9月]