10年前に訪れた時のブログを読み返してみると、雪が積もってマイナス7度Cの大変寒い時期だったにも関わらずいたく満足した滞在だったようで、〈次回は暖かい季節に来てみよう。〉と書いてあります。それで今回、ハインリヒ・ハイネの言う〈im wunderschönen Monat Mai (麗しの5月に) 〉来てみました。
川幅5mほどのタンガー川がエルベ河に流れ込む位置に建つタンガーミュンデ城の歴史は、以前のブログの記述をそのまま引用します。
〔古文書によると、当時の国境としてのエルベ河の警備のために10から11世紀にかけて城は建造されたらしく、ぐるりと市壁に囲まれた旧市街をもつ同じ名前の地方自治体は13世紀にできたそうである。14世紀にカール皇帝IV世が城塞に入り城館風に拡充したが、今残っているオリジナルは „カンツライ“ とよばれる儀式や式典のためのホールがある建物だけである。他の建造物は17世紀の中頃、スウェーデン軍に大部分破壊された。今は北欧でおとなしくしているスウェーデンも、かつては中部ヨーロッパで悪いことをしていたようである。そして同世紀の末にフリードリッヒ選帝侯III 世(神聖ローマ皇帝の選挙権を持っていた領主)が再建し、今日ホテルとして使われている建物を建造させた。1900年代になってから少しずつ改築や改装が進み、2000年に大々的に近代化されて開業したそうである。その後2009年に会議場、そして2010年にスパセンターが増設されて充実したホテルになった。城門、城塔、丸い天守閣、掘割などが当時の姿をしのばせる。〕
タンガーミュンデ市街 ・ 市街にある建造物 1
市街にある建造物 2 & 3
2xコウノトリの巣
市街にある建造物 4 & 5
自宅のあるハノーファーから真東に約200㎞離れたタンガーミュンデに割と早く着いたので、チェックイン可能な時間まで約1000 年の歴史を誇るハンザ同盟都市の旧市街を散策しました。10年前は雪と氷のせいでほとんど見学しなかったのです。12から17世紀にかけて建てられた古い建造物が立ち並ぶ旧市街は見事なものです。少なからぬ観光客がウロウロしています。
お城の全貌(展示写真より) ・ タンガー川岸から見たお城
城門 ・ 駐車場からお城へ
カンツライ
お城 1 & 2
さてタンガーミュンデ城ホテルですが、城内の駐車スペースを予約していたので城門をくぐって進んで行くと、それが決められていて私の名前を書いたプレートが貼ってあります。レセプションには明るい中年おばさんがいます。レストランのテーブルの事や朝食時間のことなどを確認して部屋へ向かいました。
ホテルの本館 ・ その別棟
ホテルのテラス ・ 廊下
お城の庭 と エルベ河
シングルルームですが天井が高くて割と広く、窓からはエルベ河とタンガー川の合流点が目の前に見えます。
タンガー川(下)とエルベ河(上)の合流点 ・ 私の部屋
二重扉でコンセントが大変に少ない古い建物の部屋ですが、家具は比較的新しい。壁にかかる二つの大きな鏡の額を最近塗り直したのでしょうか。塗料の匂が少し残っています。
ところで、部屋に関して10年前に感激したことがあります。〈バスルームに大きな窓がある〉、〈スパ用のタオル数枚とバスローヴとスリッパをバッグに入れておいてある〉、〈枕の上に、「昔々あるところに・・・・」で始まる寝る前のお話を書いたカードが置いてある〉、、、、、、、、
今回はこれらが全部無くなっているのです。10年前はダブルルームのシングルユースで今回はシングルルームだからなのでしょうか。もちろん、お客さんをお迎えするという姿勢や日本で言う〈おもてなしの心〉を感じる小さな点は多々あるのですが、以前ほどの感激はありません。バスルームには肌触りの硬い使い古しのような手ぬぐいとバスタオルがかかり、アメニティーグッズはほとんど液体石鹸だけなのです。この〈液体石鹸だけ〉というのは最近増えてはいますが、このホテルの価格帯ではほぼありません。
さて、前回食事をしてかなりの満足感を得られた城内のレストランで夕食です。ホテルのホームページのレストランの項には次のように書いています。
“私たちのシェフは地域のサプライヤーからの地元の食材を使用することを好みます。そして人工添加物を使わずに、季節に合わせて新鮮かつ季節限定で調理します。私たちの料理は家庭的なスタイルのみならず、上質なドイツ食文化に基づいているのです。“
レストラン
レストランの位置と内装は変わっていないのですが、10年前静かに流れていたクラシック音楽が今回は無く、外がまだ明るいからか、幾つかかかる小さなシャンデリアは点いていません。でもまあ、結構良い雰囲気です。見回すと、宿泊客ではなくて食事だけする外からのグループ客が多いようです。数人のサーヴィススタッフの中に2人のアジア系女性が居てテキパキと対応してくれます。お茶を頼もうと思ってそのアジア人スタッフの一人にどんな種類のお茶があるか聞くと、立て板に水のごとく10種程並べ立てました。良く訓練されたスタッフのようです。私は結局ジャスミンティーにしました。
ジャスミン茶 ・ ノンアルコールのワイン
さらに、レストランにしては飲み物の種類がたいへんに多くて、アルコール飲料はバーのようにウイスキーからジンまであります。ノンアルコールのワインも白、ロゼ、赤とそろえているので赤のグラスワインを注文しました。あまり甘くなくて、今まで飲んだノンアルコールワインの中で一番本物のワインに近いと思いました。テーブルセッティングもきちんとしていて高級感のある雰囲気です。ただ、グループ客が少々うるさいのが残念です。
さて、前菜は透明なトマトスープです。高級レストランのようにトマトの切片とモツァレラ入りのスープ皿を持って来てテーブルでスープを注いでくれました。熟れたトマトの旨味が口に広がり、モツァレラはかすかにチーズの香りと味がして食感が餅のようで面白いのです。
トマトスープ ・ ローストビーフなど
パン ・ 炒めポテト
メインディッシュはメディウムに焼いた冷たいローストビーフ。レムラードソースで食べます。美味しい肉です。ローストビーフの横には、この地方産アスパラガスの少し酸っぱいサラダがパイ生地を焼いて作った籠に入っています。炭水化物としてバゲットと胡麻付き黒パン、さらに別の容器にベーコンとタマネギが入った温かい炒めポテトが付き、このポテトがめっぽう旨いのでした。
エスプレッソ
そしてデザートを取らずにエスプレッソで締めくくりました。後で口をすすぐ為でしょうか、コップ水も出て来ました。エスプレッソの本場であるイタリアではエスプレッソの風味を長く口の中に留めるために、飲んだ後で水を飲むことはないそうです。
朝食
翌朝の朝食も同じレストラン、同じ席で取りました。ビュッフェに並ぶ食品は種類が豊富で質も良いようです。いろいろ工夫した自家製もあり、それぞれそれが何であるかを記しています。その中に〈金のミルク〉という名前の飲み物があります。何らかの黄色い香辛料を水に溶かしたのでしょうか、興味をそそられて飲んでみましたが不味い。でも全体的に大変結構な朝食でした。
ところでこのタンガーミュンデ城ですが、10年ぶりに宿泊するにあたり、当時に比べてだいぶ勝手が違っているのに気づきました。〈2日前からオンラインでチェックインが可能。同時にレストランのテーブルを予約すると次の日に確認のメール。チェックインの直後にウェルカムのメール。チェックアウトの前の晩、朝の混雑を避けるために早めのチェックアウトの案内。チェックアウトの直後にお礼のメール。〉少々やり過ぎの感があります。
さて、残念ながら前回に比べて私の満足度は低いのです。コロナの時期を挟んでいるのでいろいろな事情が変わったのでしょうし、物価も上がったことでしょう。そのことが原因なのか、それとも私が歳を重ねて満足する基準が上がったのでしょうか。宿泊客による評価の平均は5点満点中4,7でたいへん良いのですが、少なくとも私が再再訪することはありません。
〔2023年6月〕