2016年の秋に一時帰国したときに、今まで行ったことがない山形県を旅しました。
まず行ったのは、6世紀の終わりごろから山伏の修験の山として知られている羽黒山です。樹齢300 – 600年の老杉が生い茂るなかに、2445の石段から成る参道が続いています。
参道と途中の祠 ・ 社殿の前の鐘つき堂
山頂には立派な神社があり、その前に重厚なかやぶきの鐘つき堂(仏教)が建っているのには驚きました。現在は神社として機能していますが、明治に入って神仏分離がなされるまで神仏習合だった名残だそうです。なるほど、参道にはたくさんの神社や祠がありますが、国宝の五重の塔(仏教)が見事です。参道途中の茶屋で飲食すると石段を踏破した認定証が授与されるのは御愛嬌ですね。
次に行ったのは立石寺(通称: 山寺)。山の斜面にへばりついている、松尾芭蕉があの有名な句を読んだ寺です。
「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」
立石寺の境内の一角
1926年、歌人の斉藤茂吉がこの句に出てくる蝉についてアブラゼミであると断定したことによって、蝉の種類についての文学論争が起こったそうです。茂吉はその後実地調査などの結果をもとに誤りを認めて、ニイニイゼミであったと結論付けました。ちなみに芭蕉が山寺を訪れた7月上旬という時期、山形に出る可能性のある蝉としては、エゾハルゼミ、ニイニイゼミ、ヒグラシ、アブラゼミがいるとのことです。
芭蕉の句に関して、ウソかホントか分からない話があります。
山寺でガイドからこの句のことを聞いた観光客、
「蝉の声はどの岩にしみ入ったんですか?」
ガイドさん、少しも動揺せず、右手にある大きな岩を指差して、
「この岩です。この岩にしみ入りました。」
天童温泉にも行きました。この町は温泉よりも将棋の駒の製造で有名です。日本で使われる駒の90パーセント以上を作っているそうです。天童駅舎の中にある将棋資料館は必見です。桜の時期に行われる人間将棋を見てみたいと思いました。
山頂の公園にある将棋の駒の碑 ・ 人間将棋の模型
温泉がある地域は狭くて静かで、普通の温泉街の賑わいはまったくありません。食事は、まぁ、普通の温泉宿の食事らしく作り置きの料理がほとんどで、暖かいものは少しだけ。まずくはないけれど、特に感激もしませんでした。
夕食 ・ 朝食
私は旅館に泊まることに慣れていないからか、いつ女中さん(死語かな? 差別語かな?)が部屋に入ってくるかわからない状態では落ち着かずに、くつろげませんでした。しかしながら、旅館での宿泊を日本旅行のアトラクションとして楽しむ外国人には良いかもしれません。
羽黒山と山寺には外国人の観光客が少なからず来ているようです。深い日本の心を感じてくれればいいですね。
〔2016年11月〕〔2023年4月 加筆・修正〕