■■【経営コンサルタントのお勧め図書】504 ランチェスター戦略誕生秘話
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『ランチェスター法則のすごさ』 (著者:竹田 陽一 中経出版)
■ ランチェスター戦略の起源を知っておこう(はじめに)
ランチェスター戦略は、現在も多くのビジネスマン、経営者が活用しています。 しかし、ランチェスター戦略のプロと称する人に、『「ランチェスター戦略」の基になっている「ランチェスター法則」とは何か』『「ランチェスター法則」はどの様にしてイギリスから日本に伝わったか』『「ランチェスター法則」から「ランチェスター戦略」を創出した日本の研究者は誰か』といった質問をすると、詳しく知っている人は一人もいなかったと著者は言う。
私もその中の一人です。ランチェスター戦略を深く研究してみようと、幾つかの本を手にしましたが、ランチェスターの法則から説き起こし、そこからランチェスター戦略の戦略としての卓越性を説いている本はありませんでした。そんな時に、初版発行日は古いものの、私の求めている事にピッタリのこの本を見つけました。
この紹介本を読むことで、ランチェスター戦略の理解が深まる知見を発見することができます。
■ 「ランチェスター戦略」のポイントはこれだ
【「ランチェスターの法則」から「ランチェスター戦略」への創出プロセス】
著者は言います。「ランチェスターの法則」は、ランチェスターが、イギリスの機械技術雑誌に、1914年9月から4ヶ月をかけて連載した19回の記事の、5回目の「集中の法則。N二乗の法則。」、6回目の「N二乗の法則の応用」の二つが「ランチェスターの法則」と呼ばれるようになったものである。日本では『ランチェスターは第一次世界大戦における空中戦のデータを集め、これを分析しているうちに法則を発見した』と言われているが、これは間違いである。なぜならランチェスターが記事を書いた開戦後5ヶ月の間に、空中戦は一度もなかったとされている。
「ランチェスターの法則」を実用化したのは、第二次世界大戦に於いて、アメリカが対日作戦の一環として、国防総省が「オペレーションズ・リサーチ(OR)」チームを発足させ、対日戦略を統計的・科学的・経験的手法で策定した。これが「OR」と言う新しい学問を誕生させるきっかけとなった。数学者のクープマンやブラウン等の学者からなるORチームは、ランチェスター法則に着眼すると共に確率論・ゲーム理論などを組み合わせ、対日戦・戦略プランモデルを導き出した。その一つとして、国防予算を「戦略攻撃(兵站などの破壊)」と「戦術攻撃(兵力、武器などの増強)」の割り振りを決めるときに、ランチェスター法則(「N二乗の法則」)に着目し、3分の2は「戦略攻撃」に、3分の1は「戦術攻撃」に予算を振り分けた。(このモデル算出の計算式〈微分・確率などでやや難解〉は紹介本をお読みください。)この結果、日本は兵器、食糧の補給を断たれ、敗戦を迎えたのです。
続けて著者は言います。アメリカのORチームが創出した「科学的・数学的」対日戦・戦略・戦術モデルは、実戦でその的確性が証明されたが、それが経営戦略・戦術に応用されることはなかった。戦後アメリカではOR学会が誕生し、ORを使いユニークな問題解決をした人に「ランチェスター賞」が贈られ、あるいは、ORチームのメンバーが一般企業において戦略・戦術的経営に寄与しアメリカ企業の強化に貢献したが、経営学としては成立しなかった。
更に続けて著者は言います。経営戦略・戦術としての「ランチェスター戦略」として創出されたのは日本に於いてであった。ORチームのリーダー格のモース及びキムポールの二人は、クープマンやブラウン等のORチームの研究成果を、「オペレーションズ・リサーチの方法」と言う題名の本にして、1950年(昭和25年)に出版した。この本がデミング博士により日本に紹介され、昭和30年に翻訳本が日本科学技術連盟から出され、ベストセラーとなった。この翻訳本をスタートに、日本の経営学者が「ランチェスター戦略」を創出した。「ランチェスター戦略」を確立したのは、田岡信夫、釜田太公望と言われている。有名な市場占有率の三大目標値(強者の最低条件=26.12%、絶対優位の条件=41.71%、絶対的独占条件=73,88%)を開発したのは、この二人である。
【「ランチェスター戦略」のポイント①は「戦略」と「戦術」の区分】
「ランチェスター戦略」の創出のプロセスから見えてくる重要なポイントは、直接競争する最前線のあり方である「戦術」と、最前線を支える支え方の「戦略」の区分を明確にしておくことです。経営に関して言い換えるならば、経営資源を、「戦略」に2/3、「戦術」に1/3を割くということです。
【「ランチェスター戦略」のポイント②は「顧客占有率NO1」】
経営資源の2/3を投入する「戦略」とは何か。ORチームが作ったランチェスター法則モデルで、「戦略力」は食糧と兵器の補給でした。『これを経営に当て嵌めると食糧は粗利益、兵器は商品になる。粗利益がなければ生きていけない。粗利益はどうして確保できるのか。顧客に商品が渡りお金が入って来ることによる。それは競争市場で確保される。すなわち一定の「市場占有率」の確保が必要である。「市場占有率」は「顧客占有率」である』『ここでこれを「経営目的は何か」と言い換えれば、「ある特定の商品で顧客を創り出し、顧客占有率一位の地域又は業界を創り出すこと」になる』と著者は主張します。
【「ランチェスター戦略」のポイント③:”ランチェスター戦略”のオリジナリティー】
「ランチェスター戦略」の「ランチェスター法則」「ORの研究成果」に依るところのオリジナリティーは何かと言えば、「集中の法則」と「N二乗の法則」です。
「集中の法則」を経営に当てはめると、トータルで競争力が強いa社に、弱いb社が勝つ条件は、a社の競争力を一定に分断し、b社の総合力を「a社の一定に分断された部分」に集中攻撃する戦略・戦術を取るべしとの結論に到達します。つまり『「地域戦略・戦術」(「セグメント戦略・戦術」と言い換えても良い)』と『一点集中戦略・戦術』になるのではないでしょうか。
「N二乗の法則」からのオリジナリティーは、『接近戦(一騎打戦)では第一法則(攻撃力=兵力数×武器性能〈質〉)が、間隔戦(近代兵器戦・確率戦)では第二法則(攻撃力=兵力数の二乗×武器性能〈質〉)が適用される』と言うランチェスターの法則から帰結されます。つまり「強者の経営戦略」は第二法則を応用すべきであり、「弱者の経営戦略」は、第一法則を応用すべきと言う事です。更に著者は加えて、「強者の経営戦略」を実行できる企業は0,5%位で、殆どの企業は「弱者の経営戦略」を実行して、「ある特定の商品で顧客を創り出し、顧客占有率一位の地域又は業界を創り出すこと」を実現すべきとしています。それはつまり「差別化戦略・戦術」と言う事になるのではないでしょうか。(著者の強者、弱者の定義は、紹介本をお読みください。)
■ 「ランチェスター戦略」の原点を理解して読み直す(むすび)
紹介本から、「ランチェスター戦略」の原点を理解できたと思います。紹介本の更に貴重な点は、「ランチェスター法則」「オペレーションズ・リサーチの方法」等の日本発の「ランチェスター戦略」の基となる、原典が掲載されている点です。やや難解ですが原典に触れることで、「ランチェスター戦略」のオリジナリティーを明確化することが可能になります。
このような原点を踏まえ、「ランチェスター戦略」に関する諸説を読み直し、ポイントは何かを理解し、経営に役立てたいと思います。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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