牧師の読書日記 

読んだ本の感想を中心に書いています。

3月13日(水) 「モダンタイムス」 伊坂幸太郎著  講談社

2013-03-13 08:20:38 | 日記

 本書は、「魔王」の続編である。魔王から50年後の世界すなわち21世紀半ばに設定され書かれている。「モダンタイムス」も興味深く読めたのだが、「魔王」が短い割に切れ味があっただけに、少し物足りなさを感じた。ただ伊坂幸太郎氏は才能があると思う。監視社会の怖さが描かれているし、それは実現していくであろう。情報社会の怖さ、すなわち情報操作はすでになされているであろう。


 主人公たちはこのように話す。「 チャップリンの映画『モダン・タイムス』で、産業革命により、工場が機械化され人間が翻弄されていた姿が描かれていた。ドイツナチスのユダヤ人虐殺でも、自分の仕事をこなすことに一生懸命で、工場で働くようにシステムの一部として、「良心」が消えて人間を殺してしまった。インターネットもそのようなシステムの一つである。様々な情報が合わさって、現実社会を動かしていく。」と。

 またこのようなことも言っている。「国ってのは必要最低限のことしか、国民には教えようとしない。、、、事実は、情報操作で、報道で、いくらでも変わってしまう。、、、、事件は、見方によって違うものになる。今、世間に公表されている真実はおそらく、見せかけの真実で、その真実を知っている人間には口封じがされている。、、、、国の目的は、国民の暮らしを守ることではない。、、、、、いったい何が真実で、その情報が正しいのかはっきりしない。どんなシステムが自分たちを取り囲んでいるのかも分からない。」 

 敵が大きすぎて実体がなくて、どのように戦っていたら良いかさえ分からないという設定は同著者による『ゴールデンスランバー』と似ているところがあった。目をそらして情報を遮断して自分たちの世界で生きる生き方と、見て見ぬふりしないで、大きなことはできないかもしれないが目の前の小さいことをすることによって、立ち向かう生き方がある。「魔王」では主人公が立ち向かっていのちを落とした。今回の主人公は途中果敢に立ち向かったが、最終的には立ち向かい続けないで自分たちの世界で生きる決意をしたのだろう。システム社会という大きな流れには逆らえないということだろうか? まあ確かにそうかもしれない、、、、だからこそ自分の手が届く範囲のことを一生懸命やろうということになるのだろう。