本書は2011年の直木賞作品である。横暴な大企業に振り回され、存亡の危機に陥った町工場を描いたビジネス小説である。本当に素晴らしい作品であった。働いている人、特に中小企業で働いている人に、勇気と希望を与える本だと思う。ここに出てくる町工場の人たちのように自分の会社が好きで自分の仕事に誇りを持てる人は本当に幸いだ。一般的な経営書よりも質の高い物語を通して会社経営に関して多くのことを教えられた。
主人公は宇宙ロケットの研究者だったが、打ち上げに失敗し責任を取らされ、お父さんから町工場を引き継ぎ経営者になった。小さい会社だが技術はとてもしっかりしている。しかし特許のことで、大企業に難癖をつけられ、裁判を起こされる。そのことで融資を受けていた銀行からも冷たくあしらわれ、契約先の仕事がなくなり、社内の人間関係も混乱していく。次々と問題が発生していく。その時の主人公たちの「会社と仕事」に対する情熱が素晴らしい。会社が一つにまとまって困難と危機に立ち向かっていく。でも理解できず最後まで協力しない社員もいる、、、、 社員と経営者の距離感。経営者のロケットに対する夢と現実のバランス。いろいろなテーマがある。
大企業からけなされたことによって、皆が卑屈になり、意気消沈し、希望を失いかけ、ボロボロになっている時に、一人の社員がこのように言う。「とにかく、ウチはいい会社なんです。私がいいたいのはそれだけです。」 この言葉が社員から発せられた第5章の「佃ブランド」が私は一番感動した。