愚民党は、お客様、第一。塚原勝美の妄想もすごすぎ過激

われは在野の古代道教探究。山に草を踏み道つくる。

小説  新昆類   (1) 【日経小説大賞応募投稿 第1次予選落選】

2006年11月02日 | 小説 新昆類

第1回日本経済新聞小説大賞応募 2005年12月31日

                      2006年10月18日発表

        【第1次予選落選】

 

 第1次予選落選となりましたので、校正と推敲のうえ、ブログに掲載させていただきます。
458枚の長編ですので、41回連載というかたちにさせていだだきました。

この小説を、2006年3月21日、朝方、最後の「日々雑感」を更新して、買い物に出かけ、
スーパーマーケットの駐車場で亡くなった
【新じねん】おーるさんに捧げます。

【新じねん】
http://csx.jp/~gabana/index.html

【新じねん保存サイト】
http://oriharu.net/gabana_n/

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■2006/03/23 (木) 追悼、おーるさん

きっこの日記
http://www3.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=338790&log=20060323

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【おーるさんの最終図解】 安晋会を核とするライブドア浸透相関図 【新じねん・日々雑感】

http://www.asyura2.com/0601/livedoor1/msg/659.html

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           新昆類     


       序

 追われていた。大人の女に追われていた。女は少年の名前を連呼している。少年は山道
を逃げている。山道は丘の野原に出たが行き止まりだった。下は崖だった。向こうから大
人の女が走ってくる。女は少年を育ててくれた母の姉だった。その叔母を少年は、ばあち
ゃんと呼んでいた。叔母の長い髪は怒髪天のように風に乱舞していた。少年は叔母に追わ
れる理由がわからなかった。優しい叔母が突然、恐ろしい鬼になって、少年を追ってくる
理由がわかならかった。叔母の名前はミツ子と村から呼ばれていた。夢だった。

 増録村にある日、巨大な壁ができた。村の少年たちは里に出ようとよじ登っている。誰
かがボウジボッタッレの仕業だと言った。村は暗黒につつまれていた。いやオカンジメの
仕業だと誰かが言った。村を閉じこめる壁ができたのは、山頂のデイアラ神社、裏外壁と
横の木枠の中に一列の並んで納まっていた神社の刀を盗んだからだと少年は思った。それ
はブリキでつくられた刀だった。山頂は村のこどもたちの遊び場だった。おらたちが村に
呪いを呼びこんだんだべか? 神さまの罰だっぺか? 高くでかい壁ができたのは、おら
たちのせいなんだべか? くりかえし、何度も夢をみた。

 そこからは暗い山道だった。幼児は後ろ髪を引かれるように里をふりかえる。なだらか
な三月の田園、大地が遠くの山並みまで広がっていた。さあ、とミツ子が幼児をうながし
た。急な山道を登る。道の幅は狭かった。樹木の根っこが階段になっていた。だいじょう
か、ミツ子が幼児に声をかける。幼児がうなずく。登りきったところからは、なだらかな
山道が暗い奥へと続いている。陽光は高い樹木の群れ、枝と葉の繁みによって閉ざされて
いる。山は静寂が広がり独特の音を発していた。木と木が話している音だと幼児は思った。
幼児はまだ四歳であったが考えていた。ばあちゃん、おらを連れて何処へ行くんだべか?

 このあいだ里にきて、母ちゃんだよとおらの前に笑顔で立った人のところだんべ、そう
幼児は予測していた。突然、上空で不気味な音がした。枝と枝の間を黒いものが飛んでい
く。猿か、むささびだんべ、そうミツ子が幼児に声をかけた。山に呑まれていく……

 恐怖の信号が幼児のからだに走った。幼児は叔母の手をにぎった。
 
「さあ、行くべ」

 ミツ子は幼児の手を引き、高い杉林、枝と枝の間にある洞窟のような小道を歩き、山を
抜けていった。幼児の名前は泥荒。東から西へと山道は続き、やがて二人の前の向こうに
あふれる光が見えた。まぶしかった。青い空が見えてきた。二人を迎えたのは増録村の情
景だった。



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