愚民党は、お客様、第一。塚原勝美の妄想もすごすぎ過激

われは在野の古代道教探究。山に草を踏み道つくる。

小説  新昆類  (13) 【第1回日経小説大賞第1次予選落選】

2006年11月01日 | 小説 新昆類
 他者が発見できぬ文明は自壊する。アステカ王国・インカ帝国が滅んだのはイタリア・
ルネサンス以後である。なぜか? システムが自己完結した神話にあった。やがて海の向
こうからまれびとはくるスペイン人の白い人。世界史とは西ヨーロッパが戦争によって形
成した円環である。

「スペインから始めよう・情熱のボレロ」

「やっぱり私と同じ気持ちの人がいるんだとうれしくなった」

 虐殺の堕天使たちの表層皮膚にウィルスは確実に自己遺伝子戦争として陣地を拡張して
いる。十六世紀のヨーロッパによる新大陸十字軍遠征。

 アステカ王国、インカ帝国文明を壊滅し、北アメリカ大陸の先住民を壊滅状態に追いや
ったのは、ヨーロッパから持ち込まれたウィルスであった。ヨーロッパはアメリカ大陸か
ら種をもちこんだジャガイモ、さまざまな穀物の遺伝子によって食糧事情は革命的に発展
した。ヨーロッパ農業革命は南北アメリカ大陸の農業遺伝子に依存している。他者の自己
遺伝子を奪還し己の自己遺伝子に移植する、これがヨーロッパの動物的学習能力である。
なぜか? 対象を主体化できる・おそるべきイデオロギー戦闘力が内在しているからだ。
ルネサンスによってギリシア哲学を復興させたエルルギーこそ、ペストとの死闘が生成さ
せた。ホワイトハウスによる各国の国力ランキングにおいては、イデオロギーが軍事力と
同じレベルで評価されている。イデオロギー・思想なるものを蔑視し、思考する者を排除
してきた日本。

 黒死病たるペストウィルスとの死闘は、六・七・八世紀の三百年間続く。そして世界
の終末を予感する一〇〇〇年、古代、植民地解放をなしとげたヨーロッパは、暗黒の森の
なかでひっそりと生き延びてきた。暗黒と孤独と絶望のなかで、ヨーロッパは神と対話し
てきた。内面の対話こそイデオロギー力である。こうしてヨーロッパは暗黒の森のなかで
強靭な内面と思考を形成する。戦闘的個人の誕生。

 一〇〇一年、世界を継続させてくれた神への感謝として、ヨーロッパは教会を建設する。
広場の誕生とコミュニティが誕生する。そして深い森の中に街が。中世は明るい希望に満
ち溢れたかにみえたが、十四世紀、再度、ペストウィルスがヨーロッパを襲う。またして
も中世は暗黒となった。「世界は暗黒だった、はじめに光が誕生した。光こそ言葉だった」
ヨーロッパは古代から中世、九百年間をかけて、言葉を主体化したのである。言葉はペ
ストウィルスに打ち勝つ強靭な自己遺伝子となった。ペストウィルスとの死闘こそヨーロ
ッパを周辺から中心に浮上させ大航海時代を生成させるのである。モンゴル帝国への旅を
記録した書物こそバイブルとなった。記録する力としてのイデオロギ-、ある世界観をも
った言葉こそ、ヨーロッパが暗黒の九百年間を生き延びてきた自己遺伝子である。それ
は他者システムを評価する力でもある。ヨーロッパは大航海時代を他者を発見するイデオ
ロギー戦争としてかまえた。その前衛こそ宣教師である。ヨーロッパが黄金を求めて航海
したというのはうそである。ヨーロッパは食料の品種を求めて航海したのだ。

 事実、アフリカ・アメリカ・アジア大陸から持ち帰った新食料の種は、ヨーロッパを飢
餓から解放した。いまだ氷河期の残像を残すヨーロッパの土地は貧しかった。

 一九九一年湾岸戦争とソビエト連邦解体をもって、五十年代からの冷世界大戦、強烈度
各個撃破戦争にUSA・イギリスは中途半端のまま勝利した。新世界秩序とはアナクロニ
ズムと反動的要素の反復としてあり、USAに国際政治で追随する日本語は天皇制結婚フ
ィーバーの入管言語となる。「戦争が終わったなら天皇制である故郷の丘に帰ろう」これ
が日本語の琴線であり、美しい和音の調べである。幕末内戦後明治維新における明治天皇、
三千万人の中国人・朝鮮人・台湾人・香港人・マレーシア人・ベトナム人・カンボジ
ア人・フイリピン人・シンガポール人・インドネシア人をぶち殺した大日本帝国の敗戦に
おける昭和天皇、朝鮮戦争休戦後における平成天皇結婚式、ベトナム戦争終戦後における
昭和天皇、そして昭和史と敗戦後四五年間を気分としてふりかえる天皇代替わり、冷戦終
結・湾岸戦争の国際政治と日本国内の動揺をひとつの感情に統合する皇太子弟結婚・皇太
子結婚祝祭。

 この自己遺伝子は七世紀からの古代律令体制による血液主義に原点がある。
 
 自然生成する虐殺の堕天使たちの不均衡衝動と政治支配統合を推進するシステム成員たち
の日本語は、あますことなく現在の日本精神である極限的な四角の心を表出する。他者と
しての世界を理解するのでなく、己の感受性を四角の監房に閉じ込め、外部との回路を封
鎖する。日本の国是はいまなお天皇制自己遺伝子にあり、日本語の故郷はこの人間不在の
中心なき権威ある場所である。堕天使たちは人間不在のウィルスに犯される。そのウィル
スは日本語として無防備な耳から浸入する周波数だった。

 大日本帝国による大東亜共栄圏を自己実現させ、アジアによって敗北をとげた日本語は、
一九四五年八月十五日、再度、己を人種差別主義者として自然生成させるべく天皇制自己
遺伝子に組織された。その日、虐殺の堕天使たちは全員、ラジオの前に座らせられ昭和天
皇の声をはじめて聞かされたのである。メディア神学の誕生だった。

 敗戦という事実の前に虚脱化された日本語の存在と無は、耳から浸入した天皇自己遺伝
子によって再組織・再システム設計の書き込みを印刷された。周波数によって書き込みさ
れるのは、堕天使たちの脳天内部にあるハードディスク。ラジオこそがWINDOWS。
どのソフトが堕天使たちの脳天に印刷機をオフセットするのか。これがイデオロギーの本
性たる自己遺伝子の記録装置の容量をめぐる、見えない闘争であろう。そして堕天使のハ
ードディスクはスキャンディスクできない。すぐさま天皇自己遺伝子である日本語によっ
て書き込まれるそのプログラム言語とは周波数である。

 目は批判能力を持つが耳はあまりにも無防備である。耳の内部にあるバランス装置は起
動し、人は立ち歩行をする。耳はシステムディスクである。耳は空間で人が生き延びるた
めのセンサーであるから、マザー基盤にあるCPU。日本語のウィルスは耳を制度化し、
次に目を制度化する。堕天使たちのバランス感覚と中枢神経は日本語によってシステム設
計されてきた。

 一九四五年八月以降、すぐさま労働運動の先頭をきって闘ったのは、強制連行され収容
され労働を強いられていた中国人・朝鮮人・台湾人の人々だった。治安維持法を撤廃せよ
と刑務所におしかけ、日本政治犯を出迎えたのも、その人々だった。日本人は虚脱にあっ
た。朝鮮と台湾は日本の植民地であり、中国の満州と呼ばれた東北部は日本が生成させた
擬似国家である。中国人・朝鮮人・台湾人は大日本帝国の臣民とされた。しかし、恐怖し
た天皇自己遺伝子は、すぐさま植民地から連行してきた日本臣民を外国人登録法の天皇命
令による成立によって、植民地臣民を外国人と法律として制度化したのである。この大日
本帝国最後のそして敗戦後最初の法律施行は、敗戦後日本国是として、今日まで規定して
いる。ゆえにいまでも在日外国人は税金を納めているが市民権も選挙権もない。

 外国人登録法の成立と天皇戦争犯罪責任皆無は、敗戦後日本の人種差別政策を、システ
ム化し、敗戦後日本の主体として自然生成する。犯してはならない神聖な価値観は軍国主
義から経済主義へとみごとに転回された。すでに、耳の制度化によって天皇自己遺伝子に
よって再組織されていた日本語は、外国人登録法に反対する運動を表出できなかったばか
りか、みずからが戦争の被害者であったとする生活人へと転回する。日本市民主義の誕生
である。豊臣秀吉以来の侵略戦争として展開した大東亜共栄圏という世界イメージの奪還
に失敗した日本語は、憎悪したUSA・イギリス・鬼畜米英にひれふした。自己遺伝子を
笑ってかくしながら経済戦争へ一億総決起していった。模倣子が再起動する。倫理と論理
なき動物的本能たる自己遺伝子の方向がシステム設計される。

 自己遺伝子は己の都合の悪い事実を消却し、現在の自己解釈物語を模倣子によってコピ
ーする。模倣子とは学習能力であり、ハードディスクという世界を認知、自己遺伝子を送
り込むための前線である。ヨーロッパの自己遺伝子と模倣子は「植民地」である。ローマ
帝国からの植民地解放こそヨーロッパの自己遺伝子であり、大航海時代以後、ヨーロッパ
は植民地を形成する、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸、太平洋・オーストラリア・オセ
アニア、東南アジア、そしてヨーロッパからの入植者自身が母国に対し、植民地解放・自
主独立国家建設を、ヨーロッパの原点であるローマ帝国からの植民地解放を反復するので
ある。太平洋・太平洋に囲まれた新大陸にふたたびヨーロッパ諸国が誕生する。スペイン
・ポルトガルからローマ教皇の指導のもとで、南アメリカ大陸に植民者による独立国が誕
生する。スペインとの戦争に勝利したイギリスからUSAがカナダが、太平洋のオースト
ラリアが、ニュージランドが植民者によって自主独立国家が誕生する。イギリス教会の王
に指導されたアングロ・サクソン族の世界連邦である。ヨーロッパの自己遺伝子と模倣子
はまず植民地を形成し自主独立する、この再起動である。反復こそが動物的本能としての
自己遺伝子と模倣子、これが民族と文明の衝突だ。

 洗練された西ヨーロッパが倫理と論理において隠しているのは、おのれ自身が動物的本
能として内臓しているシステム設計としての遺伝子と模倣子。イギリス王族が教皇である
イングランドと、いまなおイギリス島を支配したアングロサクソン族に屈服していないロ
ーマ帝国時代からのアイルランドの死闘こそは、スペイン・フランスに類似する。世界は
古代部族なのだ。

 人類解放の理想が葬り去られた社会主義以後の資本主義を世界モデルとして絶望として
表出したのが、ユーゴスラビア解体と民族主義による戦争であろう。第二次世界大戦、ド
イツ軍を敗北させ、バルカン民族の恒久平和の理想として誕生したのが、チトーと共産主
義者同盟に指導されたユーゴスラビア連邦だった。ユーゴスラビア共産主義者同盟は、自
主解放したインド、中国とともに、第三世界の希望の星だった。

 一九七三年の春、わたしは三田にあるNECの工場に高卒としてつとめていた。その頃
の三田工場は外見は古びた工場だったが内部はやがて来るコンピュータ社会に向けた技術
開発の活気に満ちていた。朝はいつも駅から工場へいく路地にある店の立ち食いうどんだ
った。五月になると、仕事が終わる五時は、まだ明るかった。地下鉄の三田駅へ工場の門
から、細い路地を通っていくのだが、路地にはいつもいく喫茶店があった。ある日、遅刻
したのでNECの工場にはいかず、そのまま喫茶店に入った。日本共産党が発行している
「世界政治」は月二回の発行だが、よくそれを読んでいた。わたしは二十歳だった。

 その頃の「世界政治」必ず掲載されていたのが、ユーゴスラビア共産主義者同盟とチリ
共産党の政策文章であった。ソ連共産党と中国共産党の全体主義とは違う、自主独立の路
線と第三世界運動に希望があった。しかし七三年の晩夏だったかもしれない、チリ民主連
合政府はクーデターによって転覆されてしまうのである。わたしは落胆する。そしてまた、
冬季オリンピックの街、ユーゴスラビア連邦の理想を体現した都市は、内戦によりズタズ
タに切り裂かれてしまう。世界イメージと文明の全的滅亡は、理想を捨て、民族主義の自
己遺伝子と模倣子という動物的本能を全体主義として表出したとき、九十年代現実として
自然生成したのだ。





【第1回日本経済新聞小説大賞(2006年度)第1次予選落選】


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