水瓶

ファンタジーや日々のこと

根津美術館・鏡の魔力/若き日の雪舟展

2016-06-16 08:22:04 | 雑記
苔の海に浮かぶ飛び石の島。じめじめしてなんとなく気持ちの晴れない梅雨を美しく彩ってくれるのは、緑つややかな苔の庭。

表参道にある根津美術館に行って来ました。
なんか行ったことがあるような気がしたら、行ってなかったようで、うわあここいいな!
個人的に室町ブームのため雪舟目当てで行ったんですが、同時開催の古鏡展にすっかりはまってしまいました。
展示されていた鏡のコレクションは、静岡で光学系の会社を経営されている方が寄贈して下さったものだそうで、これがすごい!
しかしよそにあげちゃったんだな、これだけのコレクションを。。。相続税対策とかもあるのかしら。
でもほんとは手放したくなかったろうなあ。


根津美術館は、wikiによりますと、東武鉄道の社長などを務めた実業家で茶人の、
初代・根津嘉一郎氏の収集品を展示するためにつくられた美術館だそうです。
この土地は、もとは河内藩主の下屋敷だったのが維新後に荒れ果てていたのを、根津氏が買い取って造園し、
個人のお邸としていたものだそうです。

・・・って、この庭、個人で造ったの???

いやあもうお金かける所が違うというかスケールが違うというか。。
鏡のコレクションといい、ここまでいくのって、公でやるのよりも、個人が好きでつくったり集めたりしたものなんですよね。
うんしかし、お金かけても成金趣味にならないのが茶の道的な趣味なのかも知れん。。。


園内はかなり広く、こんな道路がはしってるぐらい。あちらこちらにおもしろげな石像などが置かれています。



鏡のコレクションでは、中国の戦国時代(前3世紀)から宋の時代ぐらいまでのものが時系列に並んでいて、
装飾の変遷などがわかって大変面白いです。
古来鏡は、映すと病気が治るとか、化け物の正体があらわになるといったような、破邪や護身の力があるとされ、
呪術や道教の儀式に使われたり、贈り物にされたそうです。そういえばドラクエ2にそんなエピソードあったな。。
古い鏡は、まるで空白恐怖症のように、地紋から意味のわからない大きな記号のようなものからでびっしり埋め尽くされていて、
ちょっと怖いぐらい。
常設展には青銅器があって、根津美術館の青銅器コレクションは世界でも有数だそうで、
こちらは殷の時代からとさらに古いんですが、これもびっしり紋様で埋め尽くされていて、呪術的に感じました。
ていうか実際に神器として使われていたらしいです。
そういえば耳なし芳一の話に、芳一が平家の亡霊から見えないように体にびっしりお経を書くというのがあったけれど、
それと似たような感じなんでしょうかね?あの空白恐怖症みたいな何かは。。
でもその模様が、時代が新しくなるにつれ、玄武朱雀白虎青龍のような神獣になり、人の姿をした神仙になり、
イスラムの影響なのか植物文様が取り入れられ、やがては主要な絵の背景が空白のままの鏡もできたりして、
不気味な怖い感じは薄れてゆきます。呪術的だったものが、時代を経て、だんだん美術的になってゆくんですね。

古中国では、空は丸い形をしていて、大地は四角い形をしているという思想があったそうで、
円形の鏡の中に四角を配置するデザインが多かったです。
またラーメン丼といえばあれ!の、丼のふちに今も生きているあの模様も地紋に多用されていて、あれは雷文というそうです。
神獣は、四天王以外にもいっぱい描かれているんだけれど、いそうでいないあの不思議な獣たちは、
いったいどこから生まれて来たんだろう。
龍が、北斎の天井絵などでは蛇体に近く、小さな手(足?)がちょこんと出てるイメージだったけれど、
この鏡コレクションの一つに描かれていた龍は、ウロコの体に、鹿などの四足動物のような、
かなりしっかりした長い四本足をしていたのが、ちょっとふしぎでした。

唐時代の鏡に顕著なんですが、唐の初期には沢山の実をつけ豊穣繁栄の象徴とされたブドウの模様が好んで使われ、
盛唐の時期には、今度は鳳凰など二羽の鳥が夫婦和合の象徴として好まれ、そして社会情勢が不安定になって来た晩唐の頃には、
伝統的な儒教や道教が盛んになったことを受けて、そうした伝説や故事を題材とした文様が増えて来るそうです。
そういえば室町時代も、不安定になってくると源氏物語などの古典に人気が出たそうで、なんかそれはわかるようが気がしますね。








雪舟展の方ですが、かつては雪舟と拙宗はタッチの違いもあって別人だと思われていたのが、
雪舟等揚(せっしゅうとうよう)は若い時には、拙宗等揚(せっそうとうよう)と名乗っていたらしいことがわかり、
つまり二人は同一人物というのが今の定説なんだそうです。
で、拙宗等揚、若き日の雪舟の描いた芦葉達磨図ほか何点かの絵と、雪舟と名乗ってからの絵が展示されていました。
拙宗時代の絵は、すごく繊細で優しい。雪舟になってからの絵は、明に留学していた頃に描かれた、
四季山水図の夏の絵があったんですが、これが力強く迫力のある絵で、なるほど別人だと思われていたのもむりはない気がしました。
現代でも外国に行ったりすれば、人が変わったようになることも珍しくないだろうし、室町時代ならなおさらでしょうか。
いや、でもこの山水図は本当にすごかった。。。














禅宗の影響を受けたといわれる東山文化、「下克上の時代」の著者である永原慶二さんは、たしかにそうだけれど、
浄土真宗の影響を見過ごしてはいけないと書いていました。
禅宗の教義は難しくて、前知識がかなりないと、描かれた絵の意味する所もわからなかったりするんだそうですが、
雪舟も禅僧だけれど、雪舟の絵は当時から、上は公家から下は庶民に至るまで大変人気があったそうで、
それは禅その他の知識がなくても、いいと思えるからなんですね。
なむあみだぶつと唱えさえすれば極楽にいけると教える浄土真宗は、庶民に広まったわかりやすい仏教でしたが、
時衆の僧侶をそばに置いていたことからもわかるように(時宗は法然の浄土教から分かれたもので、
親鸞の浄土真宗と源を同じくする)、将軍義政もその影響とは無縁ではなく、パトロンであった東山文化全般に、
浄土希求的なものが見られるそうです。

そしてさらに、お茶、お花などの東山文化全般は、そうして一見敷居の高い、宗教性の強い文化のように見えて、
実は民衆性、土着性に基づいた生活文化で、それは同朋衆が身分の低い人たちであったこととけして無関係ではないと述べています。
今7,80代ぐらいの年配の女性って、お茶やお花、踊りとかやってたり、着物や器など、いい物を知ってる人がとても多いんですよね。
別に特に裕福じゃなくても、物を持っていなくても、知識としてよく知ってる。それは物を見分ける鑑定眼とは違うんだけれど。
戦後の経済成長期に、それまでは手の届かなかったような華やかな文化が自分たちにも手の届くものになって、
すごくどん欲にそういうのを求めていったような所があるんだと思います。
そういえばうちの母も、ミセスとか暮らしの手帖とか読んだりしてて、
暮らしにちょっと余裕ができるようになったらすぐお茶を始めたりしたし、
近代では、家庭にある女性を魅きつけやすかったのがお茶お花日本舞踊などだったと考えると、なるほど東山文化は生活文化で、
だから今まで残って来たんだなあと思います。

宗教行事だった祭りが、町民が主体的な役割を果たすほどに娯楽性の高いものになってゆく傾向は、
南北朝時代頃からあったそうです。
御伽草子などに始まって、庶民が娯楽を求めるようになったのが室町時代で、それは農作物などの生産力が上がったことや、
町衆と呼ばれる町人が力をつけ始めたことで、余裕ができてきたからだと。






こんな庭が、表参道駅から8分の所にあるんですねえ。。。

それまで人間扱いされていなかったような人たちが、人間として見られるようになって、暗かった所に光が当たるようになった時、
文化が生まれることがあるんじゃないかと、電車の中でスティービー・ワンダー聞きながら思いました。
室町の文化は、庶民が以前よりも人間らしく生きられるようになったことで花開いた。
黒人音楽もそんな感じだったんじゃないのかなと。中世から抜けた後に起こった、ヨーロッパのルネッサンスも。

少し前に「パードレ・パドローネ 父」というイタリアの映画を見たんですが、
主人公の男の子が小学生の時に、父親が学校に来て、これから羊飼いにすると言って学校から連れ出してしまう。
羊飼いはほとんど人と出会うことのない、ひとりぼっちの生活で、その子は言葉をほとんど知らないまま育ってしまう。
大人になって、家庭の事情から父親の命令で軍隊に入り、友だちができ、その友だちに言葉を教わって、
徐々に人間らしくなってゆき、やがて言語学者になって故郷に帰り父親と対決するという、自叙伝がもとになった映画だそうです。
自叙伝を書いた本人が最後に登場し、羊飼いだった頃のあの暗闇にもう戻りたくないと今も必死だ、と言っていました。
人間て、人間扱いされることで人間になってゆくような所があるんですよね。
文化的な生活って多分そういうことで、だから文化は大事なのだ。人間を人間にする。












梅に桜、藤などのみごとな古木もありましたが、今の時期に咲いていたのはクチナシのみ。よく香っていました。
そして何より、この梅雨のじめついた時期には、緑に輝く苔が本当にきれいでした。
花や紅葉の時期は多分すごく混むだろうから、けっこう今が穴なんじゃないでしょうか。
古鏡、雪舟展は7月10日までだそうです。



帰りにミュージアムショップで蚊取り線香型のお香を買いました。あー、お寺の香りだ。。。
このまま永眠安眠できそうな匂いです。ぐっすりぐー。