片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

連載「チャイナビジネス」15

2010-04-13 17:43:34 | 連載「チャイナビジネス」

資生堂の中国進出 9

 日本的サービスをいかに定着させるか


「北京のホテル『友誼賓館』でお土産を買ったら、

品物と釣り銭をぽーんと放り投げるようにして渡されたので、
『これはどういうことだ』と聞いたんですね。
そしたら、
『私たちは
国家公務員だ。
だから、サービスをする必要はないんだ』
というんですよ。
それから、こんな経験もありました。
シンガポールの
中国系のビューティコンサルタント(BC)
の指導をしたときのことです。

おつりをお客様にわたすときは、
ニッコリと微笑まなくてはいけないと
指導しようと思ったのですが、労働組合に止められた
んです。
儒教に、
顧客に笑顔で振る舞わなければいけないという教えはない

知らない女性に笑顔をみせるのですら問題なのに、
男性に笑顔をみせるなんて儒教の教えに反するじゃないか』と、
抵抗されました。冗談じゃないですよね。
お客様に笑顔で対応するのは、商売の本質ですから」
と、資生堂名誉会長の福原氏は振り返る。

私も1980年代末に、

北京市の王府井にある国営百貨店に行ったことがある。

商品が棚に雑然と置かれている。
店員は、無表情かつ無愛想で、顧客に応対する。
商品を買うと、店員は、品物を袋にいれ、
おつりと一緒に放り投げるようにして渡す・・・・・・。
当時の中国には、さすが社会主義国というべきか、

お客様にサービスをするという観念がなかったのだ。
百貨店内に漂う空気は、何か、
昭和30年代の日本のそれのようであった記憶がある
。 

政治体制や文化的な背景を考えれば、
当時の中国にサービスの精神がないのは、
当たり前だったのだろう。

しかし、
78年の改革開放以来
グローバル経済の波は、中国にも徐々に押し寄せた。
グローバル化が進めば、当然、ビジネスの常識も変わる。
単に売るだけではなく、
きめ細やかなサービスや、
顧客満足の追求が求められるようになってきたのである。

93年11月、資生堂と北京麗源公司との合弁会社
「資生堂麗源化粧品有限公司」は、

中国専用ブランド「AUPRES(オプレ)」の生産を開始したが、
いくら
中国専用の高級ブランドといっても、
販売サービスのレベルが低ければ、ブランドは育たない

そこで、94年の「オプレ」販売に先だって、
顧客へのあいさつの仕方や、応対の仕方、商品の渡し方など、

販売サービスを初歩から教えることになった。

そういえば、資生堂は、最近、
おもてなしの文化」を強調しているではないか。

「『おもてなし』という言葉を打ち出したのは、
現在社長を務めている前田新造さんですね。

お客様の気持ちをおもんばかったり、
きめ細やかなサービスを提供するという精神は、
ずっと変わらずに資生堂に一貫して流れています
ね」
と、福原氏は語る。

資生堂は、どのようにして、
中国人BCにサービス観念を定着させたのか。
資生堂が採ったのは、二つの方法である。

一つは、
BC教育の徹底だ。
93年、資生堂は、
本社から教育係を派遣し、
中国人BCのサービス教育にあたらせた。
教育係は、販売の仕方や接客マナーだけでなく、
顧客の気持ちを汲み取りながら応対することなど、

サービスの基本的な姿勢を教えた

日本から教育係を派遣したのと同時に、

中国人BCの海外研修も行った。
中国人BCを日本に派遣し、
銀座のデパートの売り場に立たせるなど、

日本の現場で資生堂のサービスを学習させたのだ。

中国では、従業員の海外研修など考えられなかった時代である。
中国人BCのやる気に火がついたのはもちろん、
海外研修の話が口コミで拡がり、
BCを志望する人材が増えたことで、
その後の人材確保に役だったという。

もう一つは、
台湾資生堂の活用である。
台湾資生堂のBCがトレーニングスタッフとして赴き、
北京の販売員にサービスの基本を教えたのだ。

台湾資生堂のBCは、中国語を使い、
中国人BCと直接コミュニケーションをとることができる。

言葉の壁がない分、
サービス教育を速やかに進めることが可能
だ。

「合弁会社をつくるとき、
台湾資生堂の社員たちが、
資生堂本社のために是非手伝わせてほしいといってくれたんです。
正直、日本人の力だけでは、
中国人の販売員を教育するのは難しかったでしょうね。
それに、1957年の設立以来、
台湾資生堂には、
日本の資生堂に学び、
日本の資生堂よりも資生堂らしくするという理念
があります。
台湾資生堂が中国にBCを派遣してくれたことで、

日本と同じビジネスモデルを、
中国でもいち早く展開することができたんですね」
と、福原氏は語る。

このように、資生堂は、中国進出にあたり、

日本流のきめ細かいサービス、
「おもてなし」の実現を目指した
のである。


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