昭和38年(1963)3月15日、 松下電器 女子新入社員導入教育(68齢)
現在では、科学的な面は非常に尊重されておりますが、
反面、精神的な面はあまり尊重されておりません。
そういう状態のまま物資が豊富になり、立派な建物ができ、
機械が進歩いたしまても、
その結果、人間的な不幸が生まれるということも起こってくるわけです。
これはやはり、心の面に貧困さがあって、
いわゆる心の豊かさが足りないということによるのだと思います。
人間とは妙なもので、
同じものを見ても喜ぶ人もあるし、喜ばない人もある。
いや、喜ばないどころか、かえってそれを不足に思う人もある。
たとえば、お母さんが朝起こしてくれる。
それを、お母さんが起こしてくれた。
やはりお母さんが気をつけていて、
起こしてくださったんだ、という喜びを感ずる人と、
うるさいお母さんやな、という人と、二つあると私は思うのであります。
どっちがいいでしょうか。
お母さんは、子どもが遅刻してはいけないからと、
早くから起きて、そして起こしてくださる。
そういうお母さんの慈愛に対して、 感謝と喜びを感じるか、
または、うるさいな、もっと寝させてくれたらいいのにな、思うか。
どちらかによって、 すっかり変わってくると思います。
どちらがいいかというと、
お母さんの立場から考えても、 喜んでもらいたいでありましょうし、
また子どものほうからいっても、喜びをもって起こされるほうがいい。
あっ、 お母さん、すみませんでした。
わざわざ起こしてもらって…。
私はもっと早く、自分で起きのがほんとうでしたのに、
こういうような、言葉には出さないけれどもそういう心持ち、
ここに私は、非常にお互いに温かい心がかよいあうと思うのです。