相対論的な縦ドップラーシフトの式を導出してみましょう。
相対論的な縦ドップラーシフトですが、それは古典的なドップラーシフトの項と相対論が予測する時間遅れ因子sqrt(1-V^2)の積で表されます。(注1)
まずは古典的なドップラーシフトの式を: https://archive.md/MNLxG :で確認します。
『観測者も音源も同一直線上を動き、音源S (Source) から観測者O (Observer) に向かう向きを正とすると、観測者に聞こえる音波の振動数は、
f'=f* (V-vo)/( V-vs)
となる。ここで、
f : 音源の出す音波の振動数、
V : 音速、
vo : 観測者の動く速度、
vs : 音源の動く速度』となっています。
光の場合も相対論を考慮しない場合は上の「音源」を「光源」にすればそれでOKです。(注2)
従って光の場合は
『観測者も光源も同一直線上を動き、光源S (Source) から観測者O (Observer) に向かう向きを正とすると、観測者が観測する光の振動数f1は、
f1=f0* (C-vo)/(C-vs) ・・・(1)式
となる。ここで、
f0 : 光源の出す光の振動数、
C :光速、
vo : 観測者の動く速度、
vs : 光源の動く速度』となります。
それで上の注釈にある様に速度の符号については光源を左において観測者を右におけば通常のX軸の符号になります。
つまりは光源と観測者の相対距離が近づく方向に動く場合(vs>vo)は周波数は上昇し(=青方偏移を示す)、離れる方向の場合(vs<vo)は周波数はさがる(=赤方偏移を示す)のです。
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さてそれでまずは観測者を静止系に置きます。
そうして光源を観測者の方向に動かします。
そうすると(1)式は
f1=f0* (C-vo)/(C-vs)
=f0* (C)/(C-vs)
=f0* 1/(1-vs/C)
このシリーズのいつのもやり方、「速度はCで規格化する」のですからvs/Cを改めてvsとします。
従って
f1=f0*1/(1-vs)
さて光源が速度vsで動いていますので時間がsqrt(1-vs^2)で遅れます。
つまりは「その分観測される周波数がおちる」のです。
さてそうであれば「相対論的なドップラーシフトの式」は
f1=f0*1/(1-vs) *sqrt(1-vs^2)
=f0*sqrt(1-vs^2)/(1-vs)
で、いつもの簡約をしますと
f1=f0*sqrt(1+vs)/sqrt(1-vs)
となります。
さてこの式が正しいかどうか、確認しましょう。
上記で参照したういき「ドップラーシフト」: https://archive.md/MNLxG :の「光のドップラーシフト」を見ます。
『ν’=ν*sqrt(1-V^2)/(1-V*Cos(Θ))
ここで、ν’:観測者が観測する振動数、ν : 光源の出す光の振動数、V: 観測者から見た光源の速さ、但しここでは 光速を1とする単位系を採用、Θ : 観測者から見た光源の動く方向(Θ =0 :観測者に向かってくる場合)』
この式は「観測者が静止していて光源が動いている場合」を示しています。
それで縦ドップラーシフトですので、しかも「光源が観測者に向かってくる場合」ですからΘ =0です。
従ってCos(Θ)=1ですから
ν’=ν*sqrt(1-V^2)/(1-V*Cos(Θ))
=ν*sqrt(1-V^2)/(1-V)
=ν*sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
はい、上記で導出した式と同じになりました。
さてそれで今度は光源を静止系に置いて、観測者をそれに向かって近づける場合ですね。
そうすると(1)式は
f1=f0* (C-vo)/(C-vs)
=f0* (C-vo)/(C)
ここで注意が必要なのはvo<0となっている事です。
そうして通常はvo>0の扱いで式を立てますので式の形はvoの前の符号が変わります。したがって
f1=f0* (C+vo)/(C)
=f0* (1+vo/C)
速度を上記同様にC=1の単位系に変換して
f1=f0* (1+vo)
そうして今度は観測者が動いていますから、観測者の時間がsqrt(1-vo^2)で遅れます。
そうであれば観測される周波数は上昇しますので「相対論的なドップラーシフトの式」は
f1=f0* (1+vo)/sqrt(1-vo^2)
=f0*sqrt (1+vo)/sqrt(1-vo)
となります。
そうしてこの式の形は上記で導出した2つの式と同じ形をしています。
さらには光源と観測者との間の相対速度Vで最初の式と3番目の式を書くならば全く同じになります。
ちなみに「光源を静止系に置いて、観測者をそれに向かって近づける場合」はアインシュタインの式で計算可能です。
ν’=ν*(1-V*Cos(Θ))/sqrt(1-V^2) でΘをπにすればOKです。
Θ=πではCos(Θ)=-1
従って
ν’=ν*(1+V)/sqrt(1-V^2)
=ν*sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
となります。
以上、こうして上記4つの式はいずれも同じ結果を返すことが確認できました。
さてそれで「何を言いたいのか」といいますれば「観測者を静止させて光源を相対速度Vで観測者に近づけた場合」と、それとは真逆の「光源を静止させて観測者を相対速度Vで光源に近づけた場合」のいずれの場合でも「観測者の観測する周波数は同じになる」ということです。
つまりは「縦ドップラーの観測値からは静止系がどちらにあったのか」という情報は消えているのです。(注3)
しかしながら「動くものは時間が遅れる」という情報は保存されています。
そうして「Ives と Stilwellが行った実験」ではその「動くものは時間が遅れるという部分の情報を抜き出す事に成功した」のです。
注1:「古典的なドップラーと時間遅れの項で構成できる」という内容は、形式的には成立している模様です。
そうして何故それが成立するのか、についてはもう少し検討してみる余地があります。
しかしながらここでは「ある程度知られている知見=古典的なドップラーシフトの項と時間遅れの項の積で構成できる」を前提として話を進めます。
そうして申し訳ないのですが、ここではそれ以上のこの関係についての疑問には立ち入らない事にします。
注2:『相対論的な縦ドップラーシフトですが、それは古典的なドップラーシフトの項と相対論が予測する時間遅れ因子sqrt(1-V^2)の積で表されます。』という主張を認めるならば、「相対論を考慮しなくてもよい状況=光源と観測者の相対速度が光速Cに対して無視可能なほどに小さい場合」は光の縦ドップラーの式は音の縦ドップラーの式と同じになります。
注3:非相対論的なドップラーの計算式では「光源を観測者に近づける場合」も「観測者を光源に近づける場合」も両方ともに「観測される周波数は上昇」します。
しかしながら「その上昇する程度が両者では違う」のです。
そうであれば「非相対論的なドップラーの場合=音の場合」は「音源と観測者の相対速度、および観測された周波数」から「音源と観測者の音を伝える媒体に対するそれぞれの相対速度を逆算する事が可能」なのです。
しかしながら光の場合は「縦ドップラーの観測」では「静止系に対する光源と観測者のそれぞれの相対速度を検出する事は不可能」です。
それに対して「横ドップラー状態」であれば「静止系に対する光源と観測者のそれぞれの相対速度を検出する事は可能」となります。
追記:上記例では光源と観測者が近づく場合の縦ドップラーについて論じました。
それでは離れる場合はどうなのか、という事については「検討する手順は示しました」ので、これ以上の事は読者にお任せする事に致します。
ちなみに「通説でのドップラーシフトの式とアインシュタインが提示したドップラーシフトの式」についてはすでに「その2-5」においてグラフ表示をしています。
「通説でのドップラーシフトの式」は観測者が静止していて光源が動く場合で
「アインシュタインが提示したドップラーシフトの式」は光源が静止していて観測者が動く場合をそれぞれ表しています。
そうしてそのグラフにおいてX=0とX=πの位置がそれぞれ「縦ドップラーシフトで近づく場合と離れる場合の状況を示している」事になります。
それを見ると分かるのですが、「縦ドップラーでは通説の式とアインシュタインの式は同じ結果を与える事」が目視確認できます。
以下グラフを再掲示しておきます。
V=0.5Cで計算します。
y=sqrt(1-0.5^2)/(1-0.5*cos(x)),y=(1+0.5*cos(x))/sqrt(1-0.5^2),y=1 プロット 0<x
実行アドレス
表示はΘが0からπまで、上のカーブがアインシュタインの式、下のカーブが通説の式になっています。
横線はいわゆるドップラー係数が1、つまり周波数が変化しない位置をしめしており、それより上は青方偏移を下は赤方偏移する事を示しています。
(注意):ブログの表示機能の不具合の為、ウルフラムへの入力文に一部、欠落が生じています。そうであれば入力文については実行アドレスでウルフラムを参照されそちらで確認するようにお願いします。