特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

その3・μ粒子が動いているのか、地球が動いているのか?

2023-05-03 03:23:52 | 日記

6、「μ粒子が動いている」と言うのは錯覚か?

さて最初に参照した3つのネット上にある記事では、いずれも「静止しているのは地球である」という前提で話を進めています。

とはいえ、後半2つの記事は「一応、μ粒子の座標系から見ると・・・」として地球座標では6kmである距離がμ粒子の座標系から見ると600mに、10分の1になる事が示されています。

しかしながらそこで話が終わっていて、本当にμ粒子座標系から見た時にどのように見えるのか、という所までは示していません。

そうして『 海面が近づいて来る時、海面との距離が縮んで見えるということにより、海面衝突までの経過時間が短くなり、やはり、ミュー粒子の減り方が少なくなって、実験結果を再現する事が分かる。』 と結論付けられています。

あるいは『以上の結果より、同じ現象が二つの見方から整合的に記述されたことになる。』とまとめられていて、そこには何の問題もないかの様であります。



しかしながらここで最も注目しなくてはならない事は「μ粒子と地上に立つ我々では同時である、という認識がまるで違う」と言う事でしょう。

そうして地上に立つ我々はμ粒子の認識の仕方を決して理解する事はできず、またμ粒子も決して我々の認識に同意する事はない、と言う事になります。

その事はアインシュタインが特殊相対論の最初の論文で指摘した通りのものです。

しかしながら実感として我々はその事がよく分かってはいません。

その結果はμ粒子の主張「地球の時間が遅れている」という声を聴く事がないのです。(注1

もしその声が聞こえたならば『以上の結果より、同じ現象が二つの見方から整合的に記述されたことになる。』などと言う事は無いでありましょう。

そこには鋭く対立している2つの主張があるのですから。



しかしながら我々は「動いているのはμ粒子であって地球は止まっている」と暗黙の内に前提してしまっています。

それでその前提を裏付けるように測定データでは

TB@イベント②=2マイクロ秒

TA@イベント②=20マイクロ秒

という数値が得られており、それを解釈するに当たっては「本来のμ粒子の寿命は2マイクロ秒であるが、光速に近い速度で移動しているのでその寿命が20マイクロ秒まで伸びた」とするのです。



しかし特殊相対論に言わせれば「いや、μ粒子が止まっていて地球がμ粒子に向かって移動していても同じ観測結果が得られるぞ」と言う事になります。

さてそのような特殊相対論の反論、ローレンツ変換による反論に対して我々はどのようにして「いや、地球が止まっているのだよ」と主張できるのでしょうか?



我々が主張している「地球が止まっているのだ」という証拠は特殊相対論の中からは出てきません。

ローレンツ変換にとっては地球が止まっていようが、μ粒子が止まっていようが同じ結果を与えます。

さあその様な時に我々はどうやって「いや、地球が止まっているのだ」と主張できるのでしょうか?

μ粒子が動いていて、その為に寿命が延びている、と言うのは我々の単なる錯覚なのでしょうか?



7、「地球が静止系である」というのは特殊相対論からは出てこない

いままで取り上げてきた3つの時計を使った2つの慣性系同士での時間遅れの測定の話からは「どちらが静止系であるのか?」という事の情報は得られない様です。

従って特殊相対論に従うだけならばμ粒子の主張「地球が動いていて、従って地球の時間が遅れている」を否定できません。

しかしながらここで地球の反対側から地球に向かってくるμ粒子の存在を付け加えると、「地球が動いている」というμ粒子の主張に反論する事が可能になります。



μ粒子の主張はこうでした。

「当方が止まっていて、地球が左からこちら側に相対速度0.995Cで向かってきている。」

まずはそのμ粒子の主張を認めたとしましょう。

しかし実際に地球で起こっている事はその時に同時に地球の反対側にもμ粒子が飛んできており、その寿命を地球基準で測定すると20マイクロ秒になっているという事実です。

この時に前述のμ粒子の主張を認めるならば地球の左側から地球に飛んできているμ粒子の速度Vは0.995Cを大幅に上回っていなくてはなりません。

そうでなければ左側から地球に侵入してくるμ粒子は地球に対して0.995Cという相対速度をもつ事が出来ないからです。

そうして相対速度が0.995Cに達しないのであれば地球で観測する当該μ粒子の寿命は20マイクロ秒まで伸びる事はできないのです。



さてそうしますと「宇宙線によって生成されるμ粒子は地球の右側では静止状態で誕生し、地球の左側では0.995Cを上回る速度で地球に向かうように生成される」と言う事になります。

さてこのようなμ粒子の誕生の仕方は「絶対にありえない」とは言いませんが「ほぼありえない事である」とは言えます。

何故ならば宇宙の状況はほぼ一様であり、等方的であるからですね。

従って地球に飛来する宇宙線も地球の右側と左側とでその速度が極端に異なる、と言う事は事実上、ありえない事となります。

そうであればこの事実を持ってようやくにして「地球が静止系であり、運動しているのはμ粒子の方である」と確認する事が出来るのです。

そうしてこの認識は特殊相対論の枠組みの中にはなく、それ以外の現実の宇宙に対する物理的な認識の中からでてくるものです。



さて以上のような議論を見るならば「2つの慣性系同士の時間の遅れの比較・測定において単に一方の時計の経過時間が他方の時計の経過時間よりも短かった」ので「その時計が属している方の慣性系の時間が遅れている=その時計が属している方の慣性系が運動しているのだ」という事はできない、と言うことになります。

つまりは

表1

TB@イベント①=0秒

TC@イベント①=0秒

TB@イベント②=2マイクロ秒

TA@イベント②=20マイクロ秒

と言うような観測データが得られたからといってそれだけでは「μ粒子の時間が遅れている」とは言えないのであります。



注1:「時間の遅れはお互い様」と主張するのは相対論でした。

そうして通常我々はその主張を支持しながら宇宙線由来のミュー粒子の寿命の件では「ほら、μ粒子の時間が遅れている」としか主張しません。

相対論が言う「時間の遅れはお互い様」という主張にそって「ほら、今度は地球の時間が遅れているよ」という説明は聞いたことがないのです。

そうであれば現状行われている様な説明の仕方は相対論から言わせれば「不十分なもの」、あるいは「地球が止まっていてミュー粒子が動いている、という地球人類の主観判断に従った偏ったものである」と言えそうです。

そうしてそのように言えるのは我々は時計Bの主張を見てきたからであり、そうでなければやはり「遅れているのはμ粒子の時間だ」で終わっていた事でしょう。

 

但しここで注意が必要なのは「通説に於いて相対論が主張しているとされる『時間の遅れはお互い様』と言う内容と、時計Bの主張を認める事による『時間の遅れはお互い様』という内容は相当に違いがある」という所です。

その違いは驚くほどのものであり、またなかなか理解がしにくいものでもあります。

まあそうなのではありますが、その話の始まりはやはり「時計Bの話を聞く」という所から始まっているのです。


追伸:地球はどの程度の静止系なのか

さて宇宙から飛来するμ粒子に対しては地球は「ほぼ静止系としてふるまう」と言うのが妥当な表現でありましょう。

というのも明らかに地球も運動しているからであります。

ただその運動がμ粒子との相対速度0.995Cと比べるならばほぼ無視できる速度での運動である、と言う事でしかありません。

従って地球は厳密な意味での基準慣性系=静止座標系にはなってはいないのです。



所で地球は何に対して「相対速度0.995Cと比べるならばほぼ無視できる速度での運動をしている」のでしょうか?

その答えは「宇宙に対して」です。

 

追伸の2:2023/5/22:本文の例では「宇宙線の地球に到達する速度が右からくるものと左側から来るものとでほとんど同じ速度をもっていると観測されている」という事実を持って「静止しているのは地球である」としました。

しかしながらこの地球も宇宙の中で運動しています。

さてこの場合地球は一体何に対して動いていたのでしょうか?

地球にやってくる宇宙線の任意に決めた3軸方向からの速度の平均値をだしますと、平均速度Vx,Vy,Vzが求まります。

その平均速度が地球が宇宙に対して運動している事によってうまれた地球の運動速度を示しています。

宇宙線基準で地球の運動状況がわかる、という話です。

この話は思考実験としては成立している話です。しかしながら、これを実際に実験で出す、という事は至難の業でありましょう。

まあそうなのではありますが、その状況はまさに「CMBを観測することで宇宙に対する地球の運動状況を知る事ができる」と言う事と同じにみえます。


PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/MdnVW

https://archive.ph/8PlEy