共産党の志位委員長との党首討論で安倍首相が「ポツダム宣言をつまびらかには読んでいない」というような答えをしたことが、話題になっていた。
首相の外交や歴史に関する言動に借り物的というか空虚な印象がある原因はこれか、と私は思った。それをあぶり出した志位委員長は鋭い。
この件についても首相についていろいろ思うことはあるが、この記事では「だからどうした」を書こうと思う。
<安倍首相にそういう批判をする人は、自己満足の世界にいる>
首相が、ポツダム宣言をちゃんと読んでいなかったこと・なのに外交とか戦後レジームとかやってきたことについて、驚いたり呆れたりする発言をする人はたぶん多い。そういう気持ちは当然である。
・・・だが、安倍首相を熱く支持する人達は、そういう発言を聞いて「そうか、安倍首相はいい加減な人だったんだな」と支持をやめるだろうか?
この件で安倍首相を無防備に批判する人達は、ある意味怖いもの知らずなんだろうな。「生意気な奴」として、集団から攻撃された経験はないのだろうか。
私にはあるもんね。これも前職場での経験だが、男の嫉妬は怖い、と知った。男尊女卑の激しい職場だったからだと思うが、仕事で男よりも女が高評価を受けたり男が知らないことを女が知っていたりすると、態度が急変する。男同士だと問題ないのよ。・・・なので、仕事の進展のためには、そういうトラブルは呼び込まないように振る舞うべし、と学んだ(その前の職場は、ありのままに伸び伸びと働けたので、とにかく社風の違いなんだよなあ)。
性格的には、裏表があるのは嫌だったが。集団の中での弱者とはそうするしかない、と思う(いろいろ工夫して脱・弱者できるような人もいるんだろうけど、私には無理だった。仕方ない。全方位で自分の最高点を得るのではなく、支障のない項目で高得点をとれば捨てた項目の分を取り戻せる・・・よね?)。
そういう経験から考えると、「ポツダム宣言を読んでもいないくせに」という批判は、首相と同じように忘れてしまっている人達から反感を買う可能性を、全く意識していないように見える。もちろん、安倍支持者達に対して私達は弱者だ。なぜなら、人数が劣勢。
私は、ポツダム宣言を最近まで忘れていた。「ポツダム宣言」と言われれば、小・中・高で習ったことだとは思い出せるし、高校の歴史の資料集のそのページがぼんやり浮かぶが、内容については100字分くらいの薄い説明しかできなかったろう。たまたま、「日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか」を今年読んだので、記憶が新たになっているだけだ。
で、人生や生活に支障があったかというと、全くなかった。多くの人にとって、忘れていても支障がない事柄だと思う。
そういう経験から考えると、「ポツダム宣言を当然わきまえているべき安倍首相なのに、ろくにわかっていなかった」という驚愕や失望感よりも、「安倍首相がろくにわかっていなかったポツダム宣言を自分も知らないが、それが何か?」という反発の方が強力なのではないか?
<志位委員長が投げたボール>
最初の方に書いたように、志位委員長の意図は安倍首相の無知を暴露することではなかった、と思う。安倍首相の政策の頼りなさを、その原因の提示付きで明らかにして見せたのだ。ポツダム宣言(文章の量は全くたいしたことがない)の「つまびらか」な理解なしに組み立てられた外交を中心とした政策も政治家も、国際的・論理的に低性能である。それを首相も国民も理解しなければならない。必要なのは、その結論を一人でも多くの人に納得してもらうこと。
首相のファンには、首相が無知だったり無能だったりすること(言い過ぎですが)を伝えても、効果はないのだから。志位委員長が投げたボールを地面に落とすことなく、首相を熱烈に支持する人達に伝わるようにパスするのが大事なんだと思う。どうやるんだと聞かれると、私にもわからないのだが。とにかく、首相の、首相などという地位でなければ珍しくない程度の欠格を強調することは、つまり、「首相には地位相応の優秀さがない」と主張するのは、逆効果ではないか。
首相の外交や軍事政策に批判的な人は、相互理解を信じる度合いが強いはずだ。それなら、国内の意見が違う相手で最善を尽くす必要がある。まあ、相手には「敵国」との相互理解を無駄と考える人が多いので、困難ではありますが。
<選挙で「負けた」のは事実>
安倍首相の自信の根拠は、選挙で自民党が与党になったこと。
たぶん、安倍首相を熱く支持する人達も、同じことを重視している。
「自民党の得票数:自民党以外の党の得票数(公明党含む):棄権者数=1:1:2」であることも、有権者の1/4の得票しかないのに議席数の3/4を与えられてしまう選挙制度であることも、気にならないらしい。
だが。
そういうのは私にとっては不条理であっても、安倍首相・与党・安倍首相の熱烈な支持者には立派な根拠になっている。
衆院選後の半年間、政権が倒れてもおかしくないほどのもろもろがあったのに。「では選挙で安倍晋三を負かしてみろ」と言う相手に、効果的な反論ができない。だって、安倍内閣が悪事や失敗を重ねても野党が国会でまっとうな批判をしても、選挙の結果も世論さえもあまり動かない。
どう動かすか? 安倍首相ではなく、安倍首相の支持者の理解を得るための方法をまじめに考えなければ、効果がないと思う。