(この記事の最下段に、<1.>と<2.>の内容の関連サイトのアドレスなどを載せます)
「そこでまず。日本を取り巻く環境も変わって、日本も備えないといけないんです。例えばこれ、何かわかります(パネル写真を掲げて)? これが、まさに東シナ海の中間線と言われる九州から200キロの所に、こんな馬鹿でかいヘリポート付きの物がですね、これは、実は前は4つだったんです。ところが、今、もう、十何個できてるんです。この1年間に倍増しているんです。日本の目の前ですよ。尖閣には、中国の大陸にも近い所に、ヘリポートがいっぱいできてる。加えて」
・・・と、佐藤正久議員が先週の「モーニングバード」で強調した続きだろうか。昨日(22日)、政府は「十何個できてる」ものを公表した(写真などは外務省のサイトで見ることができます)。
で、公表はあれでいいんでしょうか?
<1.「日米同盟の抑止力 vs. 中国」?>
佐藤「まさにそこ、抑止力なんです。今ね、作った物をすぐ簡単に止める、なくすってことはわかりませんよ。新たな建設を止めるっていう効果は、間違いなくある」・・・というのも、同じく「モーニングバード」から。
元自衛官・防衛省・外務省・官房長官という顔ぶれに対し、一般人である私が、身の回りのジャンルではないのに、「そういう問題かなあ」と疑問を持つのは、勘違いも甚だしいのかもしれない。
でもなあ。「トリミングのやり方で絵の印象が変わる」という意味では、素人だって自分なりの考えを持ってしまうのだ。
中国は、防衛力で日本よりも優位にあるせいでおごっている。集団的自衛権行使を(部分的に)解禁して日米同盟という抑止力を高める。そうすれば、中国は東シナ海でのガス田開発を中止する。・・・というのが、佐藤議員そして政府の考えなんだよね?
その前に、日本政府がイギリス政府に、「イギリスのシェルが上海で仕事するのをやめさせてください。日本とイギリスは親しいはず。湯川氏と後藤氏が人質にされていた時には、毎日のように、首相同士が電話で話した間柄じゃありませんか」と頼んでみたら?
いや、「頼んでみたら?」と本気で書いたわけではない。
そうではなくて。
佐藤議員・安倍首相など日本人の何割かは、こんなふうに思ってない?
i) 中国は強大なならず者。日本だけでなく、ベトナムなどアジア諸国・「日本と密接な関係にある」アメリカ・「日本と価値観を同じくする」欧州諸国も、警戒している。
ii) 日本が武力行使の可能性を広げるのは、中国・北朝鮮以外の国々に歓迎される。「世界の中央で輝く日本」にまた一歩近づける!
ここで、視界から日本を消すと。
東アジアに大市場でありそして資源豊富な新興国がある。莫大なエネルギーの需要があるのだから、イギリス(のシェル石油)は参入したい。中国と共同事業を開始。もちろん、イギリスだけでない。アメリカ(のユノカル)も。だが、契約の翌年になんらかの理由(私は知らない。採算がとれなかったとか?)で英米の企業は撤退した。その後、2011年、シェルは上海にプラントを設置(ここで注意。上海のプラントが東シナ海からの転々ガスを処理しているかどうかは私にはわからない。内陸部で発掘したものをパイプラインで上海まで運ぶ → 上海で液化 → 船に積んで上海の港から輸出・・・とかかもしれない)。
ところで、東シナ海をはさんだ向こうに日本があるじゃないですか。
中国にはこれ以上東シナ海でガス田開発させない、と日本が頑張ったら。不満を持つのは中国だけ? イギリスはどうするんだろう。少なくとも、日中の対立に際して、イギリスが日本に味方するとは限らないのでは? せいぜい仲裁してくれるとか?
そして、日本がどんなに尽くしても、アメリカはイギリスとの絆を優先するような気がする。「血は水より濃い」だ。いや、逆に「イギリスの石油会社 vs. アメリカの石油会社」だったりする? その場合、日本はまさにアメリカ手先状態になるのでは?
こういった状況で、日本国内では、「アメリカとの集団的自衛権で抑止力を高めて中国を止める!」と政府が言っている。
この政府の安倍首相は、中国とほとんど対話していない。それどころか、戦後70年談話のことでぴりぴりしている。就任早々靖国神社に参拝したことに始まるのだ。AIIB非加盟の良し悪しは、私にはわからない。だが、この件で中国に距離を置いたのは確かだ。そもそも、「民主党と違って、安倍自民党は、中国に対して毅然とした態度で臨むぞ!」という雰囲気で政権を握り、さっさと靖国神社に参拝した。東シナ海で中国と張り合うはめになるのは、当たり前ではないか。
・・・で。いきなり、軍事的な抑止力を外交カードにして中国に主張する(佐藤議員)、と宣言しちゃうんだ。不器用にもほどがある、と私は思います。もうちょっとグローバル企業や経済の動きに目を配ってもらいたい。
要するに、外交が苦手。戦後70年にして、日本の軍事力行使の範囲を広げることになるなら、外交ができる首相の下でなければならない(なお。もちろん、憲法違反しない道で、ですよ)。
(問題は、誰がそんな首相になれるのか、ということ。とりあえず、来年の参院選で国会をねじれ状態にする。衆院選は遅くても2018年12月だ。首相が出るのはどこの政党からが良いのかを、じっくり見極める時間が欲しい)
<2. 外務省? 官邸?>
写真を公開している外務省サイトのページ、あれ、防衛省サイトかと思った。外務省なら、外務省らしい分析も載せるもんじゃないか? いや、私が勝手に「日本の外務省ならこうあるべき」というイメージを作っているのは確かではある。
なんか、もう。「中国ひどい! 中国ひどい!」なのだ。省庁のサイトなんてあまり見たことがなかった(第2次安倍政権発足以降、いきなり見るようになった)私。見慣れた企業のサイト達と比べて、空気(?)があまりに違う。安倍首相や高村副総裁がブログを書いたらこんな感じ?みたいな文章。
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(・・・)
ガス田は地下でつながっており、政府は、日本の資源まで奪われかねないとして、中国側に開発の中止を求めました。しかし中国側は、日中の境界線は日本が主張する中間線ではなく、沖縄付近にあるとして応じず、両国の対立関係は次第に先鋭化していきました。
(・・・)
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「いわゆるガス田は、まさに、まさにですね、地下で明白につながっております」とか。安倍首相ぽくない?
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日本は中国が新たなガス田開発行為をするたびに抗議してきたが、大々的なアピールは控えてきた。写真公開は「日本の情報収集能力が露呈しかねない」と防衛省が慎重だったことに加え、「尖閣問題で手いっぱいだった」(外務省幹部)というのが実情だ。
ただ、首相官邸には「どんどんつくられるわけにはいかない」(幹部)と危機感が広がっていた。
(・・・)
安倍首相が今国会での成立をめざす安全保障法関連法案の参院審議を控える中、各種世論調査では国民の理解は進んでいない。自民党の国防関係議員らからも「安保法制に関わる話なので国民に知らせるべきだ」と公表を求める意見が出た。議員らは2015年版の防衛白書にも、中国のガス田開発の記述を増やすよう注文をつけた。東シナ海で中国の活動が活発化していると明らかにすることで、日本の安全保障環境が厳しさを増していることを示し、法案の必要性を国民に訴える狙いだ。
(2015年7月23日 朝日新聞)
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私は、やっぱり安保法制をいじる前に、中国と語り合ったり、アジアや欧米諸国と意見交換すべきだと思うけどな。いきなり軍事力を高めるのは雑。
安倍首相(佐藤議員も)は説明や会話をテレビで見る限り、話し相手がちょっと困ってしまうタイプのようだ。「結局、尋ねたことに答えてくれないじゃないか・・・」、とか。企業なら社内向けの仕事に人事移動させるんじゃないか?
<3. 東シナ海での境界線の引き方問題>
ガス田は、「中間線」の中国側の際に作られている。
私なんかは、中国の律儀さを感じてしまったのだが。天然ガスについては、位置の問題ではない。境界線の日本側に充満しているガスが中国側に吸い取られてしまうから。
そのため、2008年の福田政権時代には日中共同開発が合意された。外務省のサイトによれば、「2010年9月。沖縄県の尖閣諸島沖で起きた中国漁船による衝突事件を受けて、中国側は条約交渉を一方的に中断しました。日本側は交渉を再開するよう繰り返し要請しましたが、中国側は日中関係の悪化などを理由に、これを拒否。この間も、中国側が日中の中間線付近で、一方的に、新たなガス田の開発を進めていると指摘されてきました。」とのこと。尖閣諸島を国有化したことは略してあるんだ・・・。
2国間の境界線は「中間線」ということで決まっているわけではない。・・・というようなことを、昨夜の「報道ステーション」で中島岳志准教授が説明していた。
i) 経済的排他水域(だったかな?)。これは日中双方が互いの領土近くまでに線を引いている。なので、領域は2国間でだぶっている。
ii) 中国は、大陸棚が境界線だと主張。これだと日本の領土すれすれまで中国の領海になる(逆に、日本には自国領土すれすれまでしかない)。が、これは国際的に少数説であり、通用しない。
iii) 大陸線の比率で決める説。これでも、日本の領海はとても狭くなる(島国だから)。
iv) 中間線。両国の領土からの中間点を結ぶ線。
ちなみに、外務省のこの件のページには、「(日中)中間線」のことしか書かれていない。中国はiii)を主張しているわけではなかったのか。そう思うと、交渉の余地はありそうだけどなあ。なんやかんや言っても、アフリカや中東の紛争地帯と比べると、日中関係なんて穏やかなものなんじゃないのかな。
ここで、尖閣諸島の帰属国が気になってくる。台湾も主張し始めていたような・・・?
日本のものだと主張するためには、どうしても集団的自衛権は必要なのか? アヘン戦争で戦った中国とイギリスが仲良くやっているのだから、なんんとかできるんじゃないかなあ。日本には中国人がだいぶ投資している。第2次大戦前のアメリカとドイツの例もあるし。
ここは、元自衛官佐藤議員ではなく、経済や外交の人が活躍する場なんじゃないかなあ。
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<http://jp.reuters.com/article/2012/03/22/tk8104998-shell-cnpc-shale-idJPTYE82L05O20120322>
ロイター 2012年 03月 22日 18:36 JST
英シェル、中国でCNPCと共同でシェールガス生産へ
3月22日、石油メジャーの英ロイヤル・ダッチ・シェルは、中国でのシェールガス資源開発に向け、中国石油天然ガス集団と生産分担契約を結んだと発表した。写真は2010年撮影(2012年 ロイター/Morteza Nikoubazl)
3月22日、石油メジャーの英ロイヤル・ダッチ・シェルは、中国でのシェールガス資源開発に向け、中国石油天然ガス集団と生産分担契約を結んだと発表した。写真は2010年撮影(2012年 ロイター/Morteza Nikoubazl)
[北京 22日 ロイター] 石油メジャーの英ロイヤル・ダッチ・シェル(RDSa.L)は22日、中国でのシェールガス資源開発に向け、中国石油天然ガス集団(CNPC)と生産分担契約を結んだと発表した。中国でそうした契約が結ばれたのは初めて。
シェルのピーター・ヴォーサー最高経営責任者(CEO)は「中国にはシェールガスに関して巨大な潜在力があり、我が社はその潜在力を引き出すために貢献していく」との声明を発表した。
中国はシェルガスの開発では初期段階にあり、中国政府は今後数年のうちに資源開発に向けた適切な技術を獲得したい考え。2020年までにシェールガス生産の飛躍的な拡大を目指している。
中国国家エネルギー局(NEA)は16日、2015年までにシェールガス生産を65億立方メートルに引き上げたいとの考えを示している。これは現在の中国のガス生産量の約6%に相当する。
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上の記事でわからないのは、シェルの契約相手が「中国石油天然ガス集団(CNPC)」であること。CNPCは陸上を担当しているような資料があった。海洋担当は、中国海洋石油有限公司(CNOOC)。
CNOOCの地域別生産(2013年)では、東シナ海の稼働はまだまだ。
渤海 2.1 万boe/d
東シナ海 0.4 万boe/d
南シナ海東部 2.5 万boe/d
南シナ海西武 5.7 万boe/d
(「万boe/d」って単位は初めて見たぞ。規模の指標になるとは思うが。何なんでしょう)
ちなみに、他の2公司も合わせて数が最も多かったのは長慶で、52.5万boe/d。
上の統計は、竹原美佳「中国の石油・天然ガス探鉱開発における注目地域-タイトサンドガスの長慶、シェールガスの四川、深シナ海ー」(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=201409_029a.pdf&id=5350)のもの。
CNPCのCNOOCどちらか。気になるので。シェルのサイトも。
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http://www.shell.com.cn/en/aboutshell/our-business-tpkg/china.html
Project and Technology
(・・・)
Since 2011, Shell and Shanghai-based Wison Engineering Ltd have been developing a new, low cost ‘hybrid’ gasifier demonstration plant, which features Shell’s gasification technologies in a more compact arrangement. It will allow us to offer more diversified technology options to future large-scale coal-to-chemical projects in China.
(・・・)
Overseas Cooperation
On the international stage, we are working together with Chinese partners to bring energy supplies back to China.
For instance, together with CNPC, we acquired Arrow Energy in Australia to develop coal bed methane and turn it into liquefied natural gas for shipment to customers in China.
We are also jointly exploring for gas in Qatar.
And CNPC has taken a 20% interest in our Groundbirth tight gas project in Canada, where we are looking at the potential for producing liquefied natural gas for export.
In Gabon, CNOOC will acquire a 25% participating interest in offshore exploration blocks.
In Oct 2013, a consortium of companies, including CNPC, CNOOC and Shell, won a 35-uear production sharing contract to develop the giant Libra pre-salt oil discovery located offshore Brazil.
Last but not least, Shell is one of the leading international energy companies to import LNG from abroad to China, all in partnership with Chinese energy companies.
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上海での操業(?)開始は2011年。
ガボンでは、CNOOCとも組んでいる。第三国のガス田では、CNPCだけじゃなかったんだ。ブラジルでは、シェル・CNOOC・CNPCの三者が組んで仕事をしている。