産経ニュース 2015.8.15 08:14更新
【歴史戦 第12部 戦後70年談話(上)】(1)子や孫のため「謝罪外交に終止符」 安倍首相が肉筆に込めた思い
「戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」
戦後70年の安倍晋三首相談話はこう強調する。安倍は常々、周囲に「謝罪外交に終止符を打ちたい」と語っており、文言にはその思いが表れている。戦後50年の村山富市首相談話などにはなかった新しい視点だ。
日本は戦後処理をめぐって、同じ敗戦国であるドイツとよく比較されてきた。ドイツは誠意をもって謝罪したため周辺国との和解を成し遂げたが、日本は十分に謝罪しなかったため失敗したとの文脈でだ。そうした場合に度々引用されてきたのが、西ドイツ大統領、ワイツゼッカーが1985年に行った有名な演説「荒れ野の40年」だ。だが実際にはワイツゼッカーは演説で謝罪はしていない。逆に次のように指摘している。
「自らが手を下してはいない行為について自らの罪を告白することはできません」「ドイツ人であるというだけの理由で、粗布の質素な服を身にまとって悔い改めるのを期待することは、感情をもった人間にできることではありません」
安倍は謝罪の繰り返しにけりをつけることに関して、14日の記者会見でこう語った。
「これは今を生きる私たちの世代の責任だ。そういう思いを盛り込んだ」
談話のもう一つ新しい点は、村山談話などに全く見られなかった過去の日本が置かれた国際情勢の分析・言及だ。70年談話に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」が6日に提出した報告書を基にしたもので、例えばこう説いている。
「欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。日本は、孤立感を深め、(中略)行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました」
日本が「進むべき針路」を誤り、それが敗戦につながったことは直視しつつも、ある日突然、軍国主義の怪物国家となったかのような説明不足の過去の首相談話とは一線を画した。
中国や韓国が注目した「侵略」「植民地支配」「お詫び」「反省」のいわゆるキーワードは入れたが、対象を直接的に書かずに一般論として引用した。
安倍は当初、談話に「侵略」を書き込むことに消極的だったが、21世紀懇の報告書に「侵略」が明記されたことから盛り込むことにした。政府高官は「侵略の定義は専門家でも意見が分かれるが、過去の日本の行為が国際社会で侵略と評価されたことがあるのは事実だ」と説明する。
「侵略」などの文言使用に反対してきた保守層からも、「今の日本が置かれた状況を考えると許容範囲だ」との声が出ている。
談話は官僚が下書きしたものではなく「首相の肉筆だ」(別の政府高官)とされる。作成に当たり安倍は21世紀懇の報告書や何冊もの歴史書を丹念に読んだ。
同時に自ら調整にあたり、7日には公明党代表、山口那津男から歴代談話の継承を求める同党の要望を直接聞いた。山口は14日、数日前に安倍から連絡があったことを明らかにし「結果を尊重したい」と述べた。会見で安倍は「談話では、より多くの国民に賛同してもらえるものを作成したいと考えた」と語った。
先の政府高官は安倍の思いを代弁する。
「一度に満点はとれない。歴史認識で日本は一方的に押し込まれていたが、この談話を押し戻すきっかけにする」(敬称略)
2015.8.15 10:10更新
【歴史戦 第12部 戦後70年談話(上)】(2)首相「中国には、わが国の率直な思いを受け止めてほしい」 各国の思惑渦巻く
14日夕、駐日中国大使、程永華が外務省を訪れ、外務次官、斎木昭隆と会談し、戦後70年安倍晋三首相談話について説明を受けた。程は「一読して本国に伝える」と述べたという。中国が談話に強い関心を持っていることをうかがわせる。
国営新華社通信(英語版)は談話について速報し、「過去のお詫びに言及したが、未来の世代は謝り続ける必要はないと述べた」と批判的に報道した。
韓国外務省当局者によると外相、尹炳世は14日午後7時すぎに電話をかけてきた日本の外相、岸田文雄に「説明と談話の内容を綿密に検討し、われわれの立場をすぐに明らかにする」とした上で、「日本政府の誠意ある行動が何よりも重要だ」と強調した。聯合ニュースが伝えた。
談話では、韓国が「解決」を強く求めている慰安婦問題について、「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも忘れてはなりません」などと2回にわたって、間接的に触れるなど一定の配慮を示した。
談話をめぐって、海外でも高い関心が集まり、早くからその内容を牽制する発言や報道が相次ぐ異例の展開を見せたことも意識した結果といえる。
談話に関してとりわけ韓国と中国は、過去の日本の植民地支配と侵略について「お詫びの気持ち」を表明した平成7年の村山富市首相談話や、村山談話を踏襲した17年の小泉純一郎首相談話の継承を露骨に要求してきた。
「韓国政府は歴代内閣の談話に盛り込まれた歴史認識を明確な言葉で表明するよう何度も求めてきた」
尹は12日、ソウルでの会合でこう述べた上で「談話は今後の両国関係改善の試金石になる」と指摘した。
7月下旬には米ワシントンを訪問した韓国与党・セヌリ党代表、金武星らが米要人に「日本の歴史認識が韓日協力進展の障害となっている。日本は率直に『謝罪』を表明すべきだ」と述べ、安倍への働きかけを要請した。
これには安倍談話が、15日の光復(日本支配からの解放)70周年記念式典で行う大統領、朴槿恵の演説内容に直接関わってくるという韓国側の事情がある。対日関係のくだりは安倍談話発表後に最終調整しなければならない。演説のハイライトが最後まで決まらない状態となっていたのだ。
× × ×
中国も注文をつけた。外相、王毅は「戦争の性質」を明確にすることを求め、「侵略」や「植民地支配」を盛り込むことを要求。明確にしなければ「深く反省するとしても一体何に反省するのかはっきりしない」と牽制した。
共産党筋によれば、中国当局が警戒していたのは、談話に「お詫び」の文言があるかどうかだ。もしなければ、村山談話と比べて大きく後退したとも解釈できるため、習近平指導部のここ数年の対日外交が「失敗した」と多くの中国国民は受け取るだろう。そうなると求心力は低下し、党内の習に批判的な勢力にも利用されかねないからだった。
この点について安倍は14日の記者会見で「『お詫びの気持ち』は歴代内閣が引き継いできた」と改めて述べ、さらにこう訴えた。
「中国には、戦後70年に当たってのわが国の率直な思いをありのまま受け止めてもらいたい」
× × ×
米国は中韓のような要求はしなかったが、安倍が歴代首相談話を継承するか注視した。7月27日、ワシントンを訪れた自民党衆院議員、河井克行は、オバマ政権高官から「今回の談話と(戦後60年の)小泉首相談話の関連性はどうなるのか」と探りを入れられた。
ただ、米側の反応を受けて日本政府側が「小泉談話を読んだことがあるのか」と問い返すと、米政府関係者は実は読んでいなかった。結局、米政府が日本側に伝えていたのは「談話をアジアの平和と安定に寄与するものにしてほしい」という一点に集約される。
談話の内容と表現をどうするかは、安倍に任せるという基本的な立場を取ったのも、安倍が4月に米連邦議会で行った歴代内閣の立場継承を含む演説を高く評価しているためだ。
談話に対する中韓や米国など各国の公式な反応が出てくるのはこれからだ。
「70年前の歴史から学べる教訓を発信していくことは、日本一国のみならず、世界に対しても、大きな現代的な意味を持つ」
安倍は14日の記者会見で談話の意義について力を込めてこう語った。(敬称略)
2015.8.16 05:07更新
【歴史戦 第12部 戦後70年談話(下)】「おわび」は原案から盛り込まれていたが…迷走した朝日報道
戦後70年の安倍晋三首相談話発表から一夜明けた15日、新聞各紙は社説で論評した。
「この談話は出す必要がなかった。いや、出すべきではなかった。改めて強くそう思う」
こう断じたのは朝日新聞だった。社説では「談話発表に至る過程で見せつけられたのは、目を疑うような政権の二転三転ぶりだった」と強調した。
だが、迷走したのは朝日の談話報道だ。朝日は9日付1面トップで、「安倍談話『おわび』盛らず」と報じ、7日夜に安倍が自民、公明両党幹部に示した原案には「『おわび』に類する言葉は入っていなかった」とした。ところが、一転して11日付で「『おわび』の文言を入れる方向で調整している」と伝えた。
産経新聞は10日付で「侵略」に言及するも謝罪に関する文言は「直接盛り込まない」とし、12日付で村山富市首相談話を引用する形で「お詫びに言及へ」と伝えた。
政府高官によると、7月20日ごろに作成された談話の原案には「おわび」は盛り込まれていた。
「わが国は痛切な反省とお詫びの気持ちを表明してきた。こうした歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」
「次世代に謝罪を続ける宿命を背負わせるわけにはいかない」
安倍はこの2つの決意を盛り込むことで「お詫び論争」に区切りをつけようとした。安倍が与党との調整に入った8月5日以降も「この部分は何ら変わらなかった」(同高官)。
談話の閣議決定についても、朝日は6月23日付で「安倍談話、閣議決定しない方針」と書いた。それが8月7日付で「首相一転 周辺に配慮」「安倍談話 閣議決定の方向」と、政府が軌道修正したかのように報じた。もっとも、6月下旬の段階で、政府中枢は「閣議決定する可能性は十分ある」と述べていた。
■悩んだ韓国「高度に設計された談話だ」
朝日と「おわび」などで同様の主張を繰り返してきた韓国の反応はどうか。
「物足りない部分が少なくないのは事実だ」
韓国大統領の朴槿恵(パク・クネ)は15日午前、日本による朝鮮半島統治の解放から70年を記念する「光復節」の式典で演説し、70年談話について語り始めた。
朴は、日本の歴代内閣が侵略と植民地支配、元慰安婦への「お詫び」「反省」を歴史認識の根幹としてきたと指摘した上で、談話についてこう続けた。
「歴代内閣の立場が今後も揺るぎないものであると、国際社会に明確にした点に注目する」
対日批判を抑制していることは明らかだった。
慰安婦問題についても「速やかに適切に解決することを望む」と言及したにとどまった。「問題解決が関係改善の前提になる」とした昨年の演説に比べると、その差は歴然である。
戦後70年の安倍晋三首相談話に関し、14日夜に出された韓国与党セヌリ党報道官の反応が注目された。
「反省とお詫びなどに言及した点では意味のある談話だ」と一部評価したからだった。
日本専門家からも、韓国側が求めてきた4つのキーワード(植民地支配、侵略、お詫び、反省)が曲がりなりにも全て含まれていた点は評価すべきだとの見解が相次いだ。
大統領、朴槿恵の演説の調整を続けていた大統領府の関係者は頭を抱えた。
「高度に設計された談話だ。分析が必要で世論も見極めなければならない」
結局、15日の演説まで公式見解は出なかった。
韓国メディアは談話を批判的に報じつつも、日韓関係は談話を超えて進んでいかなければならないとする主張を展開した。
東亜日報は社説で「安倍の恥知らずな歴史認識に失望と憤怒を感じる」と激しく批判しながらも、朴に注文をつけた。
「談話に失望したが韓日関係をさらに悪化させることが国益になるのか朴政権は熟考する必要がある」
■控えめだった中国の反応
15日付の中国各紙も、談話について「直接的なおわびを避けた」「誠意なき曖昧表現に終始」と批判した。各紙とも日本専門家のコメントを引用して分析したが、14日夜に配信された国営新華社通信の記事と変わりなく、独自の視点は皆無だった。共産党宣伝部による指導が事前にあったことは明らかだ。
中国政府の公式反応は控えめだった。
談話発表直後、筆頭外務次官、張業遂は駐中国大使、木寺昌人を同省に呼んだ。張は「被害国の人民に誠実におわびすべきだ」との中国の「厳正な立場」を表明したものの、談話の評価には踏み込まなかった。
中国の外交事情に詳しい学者は「中国政府にとって談話の内容に不満はあるが、『お詫び』などの文言が入ったことで最低限の条件をクリアした。談話は、今後の日中関係にプラスにもマイナスにもならない」との見方を示した。
今後の日中関係について、共産党関係者は「党内では、日本との関係修復について、指導者によって大きな温度差がある。これからの中国の経済、社会の安定、外交がうまくいくかどうかによって変化するだろう」との見通しを示した。
■米は高く評価「表現、力強かった」
談話発表が14日早朝だった米ワシントンの日本大使館では大使、佐々江賢一郎らが手分けして国務省やホワイトハウスの高官に談話の中身を説明した。米側は極めて高く評価した。
米戦略国際問題研究所(CSIS)の日本部長、マイケル・グリーンも「侵略や植民地化への言及や反省に関する表現は多くの人が予想した以上に力強かった」と語った。米国内には安倍について「国家主義者」か「現実的な戦略家」かの論争があったが、グリーンは今回の談話は安倍が後者であることを示すものだと強調した。(敬称略)
*この企画は青木伸行、阿比留瑠比、加納宏幸、藤本欣也、矢板明夫が担当しました。
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安倍晋三首相の「戦後70年談話」米国や豪州など海外から高い評価得た理由
70年談話反応 中韓の批判は抑制気味だが
2015年8月16日 3時12分 読売新聞
安倍首相が発表した戦後70年談話について、韓国と中国は表立った批判を控えている。日本との本格的な関係改善には、両国が歴史問題の政治利用を自制することが肝要だ。
韓国の朴槿恵大統領は、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」式典で演説した。安倍談話について、「残念な部分が少なくない」と不満を表明したが、露骨な非難は避けた。
朴氏は、安倍談話発表に先立ち、「植民地支配と侵略」をお詫わびした村山談話など「歴代内閣の歴史認識の再確認」を求めていた。安倍談話がこうした要求を満たしたと受け止めたのだろうか。
ただ、日韓関係の修復は、楽観を許さない。最大の障害は、慰安婦問題で朴氏が日本に一方的な譲歩を求め、安倍首相との会談を拒んでいることである。
演説でも、「特に慰安婦問題を早期に適切に解決することを願っている」と述べただけで、具体策には言及しなかった。
朴氏は「困難が多く残っているが、新しい未来に共に進むべき時だ」と語った。そうならば、頑かたくなな姿勢から改めるべきだろう。
中国外務省の報道官も安倍談話に関して、「日本は当然、被害国の国民に真摯しんしに謝罪し、軍国主義の侵略の歴史を断ち切るべきだ。いかなるごまかしもしてはならない」と注文を付けた。
安倍談話には、内外の犠牲者の前に、「深く頭こうべを垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫えいごうの、哀悼の誠を捧ささげる」とある。これでもさらに謝罪を求めるのだろうか。
談話は、中国の人々が寛容な心で日本との和解に力を尽くしたとして、「心からの感謝の気持ち」を表明した。習近平政権は、安倍首相が発したメッセージをきちんと受け止めなければならない。
一方、米国家安全保障会議(NSC)の報道官は「日本がもたらした被害への深い反省と、歴史に関する過去の政権の談話を継承するとの約束を表明した」との声明を出し、安倍談話を歓迎した。
声明は「国際社会の平和と繁栄に向けた貢献を拡大するとの日本の決意を首相が保証したことも評価する」とも強調した。日本は米国と緊密に連携し、「積極的平和主義」を具体化したい。
安倍談話が米国や豪州など海外から高い評価を得たのは、歴代内閣の歴史認識を継承したことが大きい。日本は、これを踏まえ、今秋のアジア太平洋経済協力会議(APEC)などで、積極的な首脳外交を展開すべきだ。
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中韓、正面から批判せず…戦後70年の首相談話
讀賣新聞 2015年08月16日 07時25分
【ソウル=豊浦潤一、北京=五十嵐文】戦後70年の安倍首相談話に対し、韓国と中国の両政府は、正面からの批判は避けた。
現時点で日本との関係を悪化させたくないという意図が垣間見えるが、歴史認識などを巡る厳しい姿勢は緩めていない。
韓国の朴槿恵パククネ大統領は15日、ソウルで開かれた日本の植民地支配解放を記念する「光復節」の式典で演説した。談話について「残念な部分が少なくない」としつつも、安倍首相が歴代内閣の立場は揺るぎないと明言したことに「注目する」と一定の評価を与えた。さらに、「困難が多く残っているが、正しい歴史認識をもとに新しい未来に共に進むべき時だ」と強調した。
朴政権は、冷え切った日韓関係の改善を図ろうとしている。談話を阻害要因とはとらえない姿勢を示し、ソウルで早期開催を目指す日中韓首脳会談に合わせ、日韓首脳会談の実現を模索していくとみられる。
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◇ 【戦後70年談話】 安倍晋三首相談話全文 / 会見詳報 2015(平成27).8.14.
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◇ 海外メディア絶賛の「安倍スピーチ」 陰で支える人物 谷口智彦氏 2013-09-16
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◇ 習政権「NSC谷内正太郎局長厚遇」の理由…まさに抑止力あっての外交 [石平のChina Watch]
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