中・韓が黙るのも当然!安倍首相の戦後70年談話が評価できる理由
現代ビジネス 2015年08月17日(月)高橋洋一「ニュースの深層」
*安倍政権「3つの試練」
安倍政権にとって、「試練の3連発」であった。11日の川内原発再稼働、14日の戦後70年談話、17日の4-6月期GDP速報である。
このうち最大の懸念ともいわれていた戦後70年談話は、うまく乗り切ったようだ。共同通信社が14、15両日に実施した全国電話世論調査によると、戦後70年談話について、「評価する」との回答は44.2%、「評価しない」は37.0%だった。内閣支持率は43.2%で、前回7月の37.7%から5.5ポイント上昇した。
4-6月期GDP速報はよくないといわれているが、政権運営としての善後策はある。GDP統計がよくない原因は、1年前の消費増税の影響が長引いているためだ。であれば、本コラムで既に指摘したように、外為特会の“20兆円”を増税の悪影響解消に使えばいい。景気対策としては、減税・給付金中心の政策がいいだろう(2014年12月22日付け「「円安批判」は的外れ。財務省利権の「外為特会」を今こそ活用せよ! http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41498)。
さて、最大の懸念であった戦後70年談話について触れたい。3400字程度なので、是非全文を読むことをおすすめする(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html)。この談話は、外国語訳もされている。
中学・高校の歴史の授業で習った、日本が第二次世界大戦に突入していく経緯を復習するいい機会だ。西洋列強の植民地支配がアジアに及んで、それへの対抗で日本は道を間違ったということだ。この70年談話では、西欧列強も悪いことをした、日本も悪かった、そして今の中国も悪いことをしているという、ごく普通の歴史が書かれている。
*「カントの三角形」に従っている
この談話を起草した人は、国際政治・関係論の素養がある。
それを示す前に、7月20日付けの本コラム「集団的自衛権巡る愚論に終止符を打つ! 戦争を防ぐための「平和の五要件」を教えよう」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44269)において、過去の戦争データから、平和を達成するための理論を紹介したことを思い出して欲しい。
具体的には、①きちんとした同盟関係をむすぶことで40%、②相対的な軍事力が一定割合(標準偏差分、以下同じ)増すことで36%、③民主主義の程度が一定割合増すことで33%、④経済的依存関係が一定割合増加することで43%、⑤国際的組織加入が一定割合増加することで24%、それぞれ戦争のリスクを減少させる(Russet and Oneal "Triangulating Peace"171ページ)
これは、①同盟関係、②相対的な軍事力を中心に説明する「リアリズム」と③民主主義、④経済的依存関係、⑤国際的組織加入で説明する「リベラリズム」がともに正しいことをも示している。後者の3点は、哲学者カントにちなんで、「カントの三角形」ともいわれている。
今回の戦後70年談話は、「カントの三角形」にほぼ従った歴史の説明になっており、この意味で、国際政治・関係論の裏付けがあり、国際社会で理解されやすくなっている。この点、国内左派が依存する憲法論議は世界ではほとんど通じない「お花畑」であることと好対照だ。
「人々は『平和』を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれました。
当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。
満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました」
と書かれているが、
政治が軍部の独走を防げなかったことにより③民主主義、経済ブロックで④経済的依存関係、国際連盟脱退で⑤国際的組織加入、つまり、「カントの三角形」の3点がいずれも崩れていったというわけだ。
そして、日本が第二次世界大戦に進んでいったわけで、この過程は、「カントの三角形」という観点でみれば納得である。
*政治的に「無難」
こうした国際政治の常識がバックグランドにあるので、戦後70年談話は世界から受け入れられるだろう。「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「お詫び」というワードがあるかどうかは、かなり矮小な観点であるが、戦後70年談話では、その点にも配慮がされている。
そうした矮小な観点から見る人たちは、ワードが入っているかどうかだけを気にするので、逆にいえば、ワードを入れたら本格的な批判ができなくなるということだ。事実、中国も韓国もまともに、戦後70年談話を批判できていない。
その上で、安倍首相が言いたいことは「第二次世界大戦を忘れてはいけないが、謝罪しつづけることもない」ということだ。ここはしっかり書き込まれている。当事者の子供や子孫は、事実を忘れてはいけないが、当事者の子孫としての責任を引き継ぐのではないだろう。責任問題は講和条約などで既に清算済みである。
以上の意味で、戦後70年談話はよく書かれており、政治的に「無難」である。
ただ、残念なのは、冒頭の世論調査で、安保関連法案の今国会成立について、反対62.4%、賛成29.2%となっていることだ。
まだ、国民の多くは、安保関連法案の本質が理解できていない。安保関連法案について、その本質をいえば、①同盟関係の強化により戦争リスクを最大40%減らし、②自前防衛より防衛費が75%減り、③個別的自衛権の行使より抑制的(戦後の西ドイツの例)になるという点だ(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44375)
安保関連法案と戦後70年談話の両方をみると、安保関連法案は①同盟関係、②相対的な軍事力に対応し、戦後70年談話は③民主主義、④経済的依存関係、⑤国際的組織加入の「カントの三角形」に対応していることがわかる。つまり、安保関連法案と戦後70年談話は、見事に先の本コラムで掲げた「平和の五条件」に対応している。
こうしてみると、国際政治・関係論の立場から、安倍政権はきわめてまっとうかつ世界で通用する安全保障政策によって平和を追求している。にもかかわらず、安保関連法案に国民の理解が進んでいない点が気になる。
*元首相らが反対しているのは「いい兆候」
ただし、「いい兆候」もある。マーケットでいうリバース・インディケーター、俗に言う「逆指標」「逆神」である。物事の本質をなかなか理解できないときに、あの人がいうのなら間違いに違いないと確信するのだ。
11日、元首相5人が安保関連法案に反対を表明した。元首相とは、細川、羽田、村山、鳩山、菅各氏である。この方々は、これまでの歴史で決して名宰相とはいえない人たちであろう。その人たちが安保関連法案に反対するのであるから、おそらく安保関連法案はいいものだろうという連想だ。
そういえば、細川政権は7%の消費増税もどきの国民福祉税をいいだした。羽田政権は戦後最短の内閣だった。村山政権は、阪神淡路大震災でまったく機能しなかったし、5%への消費増税を内容とする税制改革法案を決定した。鳩山政権は、在日米軍の抑止力を理解できずに辺野古移転で迷走した。菅政権は、福島第一原発事故で初動を間違ったし、急に消費増税を言い出した。
勘のいい人ならば、安保関連法案についてはこうした「逆神」が反対するのであるから、賛成してもいい、となるのではないか。
もちろん、本コラムに書いたように、世界の常識は「賛成」である。これまでのデータから、安保関連法案によって戦争リスクを減らせることが明らかだからだ。戦後70年談話とあわせてみれば、戦争リスクを減らすのには、ベストな組み合わせなのだ。
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◇ 海外メディア絶賛の「安倍スピーチ」 陰で支える人物 谷口智彦氏 2013-09-16
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