第一に核保有国に大幅な軍縮を促す。米ロが思い切って削減し、英仏中など包括的な核軍縮に進む

2009-05-27 | 国際

asahi.com 提言 日本の新戦略
■核廃絶と温暖化防止の二兎を追うべきだ・NPTの堅持が原子力利用の大前提だ
・核廃絶をめざすことでこそ、核拡散防止に展望が開ける
・NPTに入らず核実験したインドへの原子力協力は問題が多い
 世界では今、日米欧の先進国で原発の増設計画が語られる一方で、アジアや中東などでも原発をつくりたいとの希望が増えている。暮らしや経済を支えるため、安定した電力がほしいのは理解できる。そして、もう一つの理由が地球温暖化対策としてである。
 やっかいなのは、原発には大事故の危険や廃棄物の問題がつきまとうと同時に、核兵器を持ちたいという政治指導者の野心とつながる場合があることだ。
 軍事転用は決して認めない。近隣国や国際社会が安心して見守れる平和利用に限定する。この原則を後回しにしては、温暖化防止どころの話ではない。
 適正な規模で原発を利用しつつ、同時に核軍縮・不拡散を進める。核廃絶と温暖化防止の二兎(にと)を追うべきである。
 冷戦終結で、米ソ核戦争の危険は遠のいた。だが、核が大きな脅威であることは変わらない。核のない世界を目指すという目標は追求していかねばならない。それには核不拡散条約(NPT)を軸にした拡散防止体制を強めることだ。
 NPTは米国、ロシア、英国、フランス、中国の核保有を認め、それ以上には核を持つ国を広げないことを旨とする。この不平等性にもかかわらず大多数の国がNPTを支持したのは(1)核保有国が増えれば世界が不安定になる(2)保有5カ国に核軍縮を誠実に交渉する義務を課した第6条に基づき、やがて核廃絶への道筋が描ける――と考えたからだ。
 そのNPTへの信頼が近年、大きく揺らいでいる。インド、パキスタンはNPTに加わらないまま98年に核実験した。同じく未加盟のイスラエルは事実上の核保有国と言われる。加盟国でも、北朝鮮はNPTを脱退して06年に核実験をしたし、イランは疑惑が膨らんでいる。
 こんな穴を早くふさがなければならない。同時に、NPTへの信頼を回復するには核軍縮、つまり核のない世界に向けて近づいていく実績と実感が必要だ。保有5カ国の核を放置せず、具体的な削減を迫っていくべきだ。
 そもそも、核兵器への依存には限界が見えてきている。米国の国務長官をつとめたヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ両氏らが今年1月、連名で「核兵器のない世界を」との提言を発表した。
 今後、核が拡散していけば、核の存在がかえって米国や世界の安全を脅かす恐れがある。核を廃絶した方が国益にかなう。そんな考えから、資料1のような提案を示した。
 核による抑止論の主唱者でもあったキッシンジャー氏らの方向転換は、時代の変化を象徴する。すぐに核兵器をなくせるわけではないが、提案の中身はすぐにでも着手すべきものばかりだ。
 日本の果たすべき役割は大きい。
 第一に、核保有国に大幅な軍縮を促すことだ。まず米ロが思い切って削減し、その後、英仏中などを加えて包括的な核軍縮に進む。
 米国の核の傘に入っている日本が、そんな働きかけをできるのかという疑問があるかもしれない。だが、被爆体験を持ち、非核を国是とする日本だからこそ、訴えが力を持つ。核への依存を減らせる地域的、国際的な安全保障制度を整えていくことも大事だ。
 第二は、濃縮ウランとプルトニウムをつくる施設の規制だ。ウランについては、国際的な核燃料バンクを創設して安定供給を保証し、濃縮施設を持つ国を増やさない。プルトニウムを使用済み核燃料から取り出す再処理施設は、国際管理下に置くことを検討すべきだ。
 非核国で大規模な再処理施設を持つのは日本だけだ。独自のプルトニウム利用にこだわるのではなく、多国間の枠組みで核不拡散体制を強化する先導役を担っていくべきだろう。
 第三は、インドとの協力のあり方だ。米国は、NPTに入らない国とは原子力協力をしないのが原則だが、インドを例外扱いする方針である。民主主義国インドの経済成長を助け、同時に温暖化対策にも役立てようとの戦略だ。中国を意識してインドとの関係を緊密化する狙いもある。
 だが、NPTに背を向けたインドの核保有を認め、原子力分野で協力していくというなら、NPTの下での義務を受け入れた加盟国の不平等感はいっそう高まるだろう。核軍縮、核実験禁止などでインドから明確な約束がない限り、日本はインドへの原子力協力に賛同すべきではない。
 核と気候の脅威に立ち向かう。二兎を追うために、外交の腕を磨いていこう。

資料1 キッシンジャー元米国務長官らが示した核廃絶への提案 
・核保有国の核戦力の規模を大幅に縮小させる。
・同盟国、友好国への配備を想定した米ロの戦術核兵器を廃絶する。
・米国での包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を達成するため、議会上院において超党派の議論を開始する。他の主要国の批准も促す。
・兵器用核分裂物質の生産を世界で全面的に停止する。
・新たな核保有国の誕生の要因となりかねない地域的対立や紛争の解決にもっと力を入れる。
・敵の核ミサイル発射の警報が鳴れば、数分のうちに報復発射できる冷戦時代の態勢が米ロで続いている。これを変更し、核兵器の偶発的な使用、政治指導者の指示によらない使用の危険性を減らす。


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