中国の「経済ミサイル」に要注意 尖閣を巡る次の圧力は「威圧経済外交」か

2012-08-22 | 国際/中国/アジア

中国の「経済ミサイル」に要注意 尖閣を巡る次の圧力は「威圧経済外交」か
JBpress2012.08.22(水) 古森 義久
 尖閣諸島への中国の圧力が日本国内をまたまた揺さぶるようになった。中国政府がどのような作戦に出てくるか、監視の要は言をまたない。
 そもそも中国政府の領有権拡大への動きは野心的であり、露骨である。無法でもある。自国の領土を拡張するためには国家の持てるすべての手段を相手や環境に応じて、投入する。外交や軍事、政治だけでなく、経済的な手段までも領有権拡張に動員するのだ。
 そのうちの経済手段には特に注意する必要がある。領土紛争での経済手段というのは、日ごろ目立ちにくい。その一方、中国との経済のきずなを深める日本のような国にとっては、中国側の経済武器が領有権紛争で威力を発揮しうる土壌が急速に広まっているのである。
 この点でいま米国側から指摘された中国の「威圧経済外交」というのは、有益な警告となりそうだ。
 「威圧経済外交」とは簡単に言えば、経済パワーを他国に対し安全保障や政治、そして領有権拡大という非経済の目的のために威嚇的に使うことである。日本に対してもこの威圧経済外交は最近の尖閣紛争で極めて露骨な形で実施された。中国のそうした戦略は今後の国際関係でも新たな震源となりそうである。
■ASEAN外相会議での共同声明つぶし
 米国側の識者がこの「中国の威圧経済外交」の最近の最大例として指摘するのは、つい先月の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議での事態である。議長国カンボジアが中国からの激しい圧力で同会議の共同声明を葬ってしまったのだ。
 この会議が声明を出さないというのはASEAN創設以来、初めてである。この声明には南シナ海での領有権紛争での中国の強硬な行動を非難する内容が盛られるはずになっていたのだ。
 ワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員で中国の戦略や外交の専門家、ボニー・グレーサー氏が「中国の威圧的な経済外交=懸念すべき新傾向」と題する最新論文で警告を発した。グレーサー氏は1990年代以来、米国歴代政権の国防総省や国務省の対中政策の顧問を務めたベテランの女性研究者である。
 グレーサー氏はこの論文で中国威圧経済外交の第1の例として前述のASEANの共同声明つぶしを挙げていた。
 同論文は、中国がこの10年間、総額100億ドル以上の経済援助をカンボジアに与えてきたことを強調していた。2011年度だけでも米国からのカンボジア援助の10倍を超える額が中国から供された。今回のASEAN外相会議の舞台となったプノンペンの「平和宮殿」の建設資金も中国からの援助だったというのだ。
 そして同論文は述べていた。「中国はカンボジアのこの対中経済依存を利用して、ASEAN外相会議では共同声明に南シナ海に触れる記述を一切含めないようにすることを強く要請し、カンボジアはそれを実行した。その結果、同会議は発足以来45年間、初の共同声明なしとなった」
 カンボジアと言えば、かつてあの自国民大虐殺のポル・ポト政権時代には中国からの支援を特に大規模に受けていた。だがその後、同政権が倒れ、ベトナム寄りの新政権となったため、中国とのきずなはそれほどは太くないように見られていた。しかし10年間で100億ドルという巨額の経済援助は、カンボジアを少なくとも外交面で中国のコントロール下に置いてしまったということである。
 中国はつまり領有権紛争に関して、経済手段を使って自国の立場を守り、紛争相手の諸国への痛撃を加えたというわけだった。
■フィリピン、日本、ノルウェーへの経済圧力
 グレーサー論文は中国の威圧経済外交の第2の実例としてフィリピンへの圧力を挙げていた。
 フィリピンは2012年4月、南シナ海の中沙諸島スカボロー礁の領有権を巡り中国と激しく対立した。フィリピン、中国ともに同礁海域に艦艇を送りこんだ。両国間の対決が米国をも巻き込む国際的な折衝を背景に展開された。やがて6月にはフィリピン政府はスカボロー礁近くから自国の艦艇をすべて引き揚げた。だが対照的に、中国は数隻を残し、領有権紛争は中国が有利のままに一段落を迎えたのだった。
 同論文によると、こうした中国有利の展開の背景には、中国政府がフィリピンからのバナナの輸入の検疫措置を異常に厳しくするという措置が取られていた。中国は「ペストに汚染されている疑いが強い」と主張した。その結果、フィリピンバナナの中国輸出が大幅に減ってしまった。フィリピンはこれまで外貨稼ぎ主要産品のバナナの全輸出のうち30%をも中国一国に出してきたから、その大幅減少は国内経済にも痛打となった。
 中国政府はフィリピン産のマンゴ、パパイヤ、ココナツ、パイナップルなど他の果物の輸入手続きをも意図的に遅らせるようになったという。中国当局はそのうえに中国人観光客のフィリピン訪問を禁止してしまった。その結果、フィリピン経済全体が大きな打撃を受け、フィリピン経済界は自国政府に領有権問題での中国への譲歩を訴える経緯があったのだという。
 グレーサー氏の論文は同様の事例の第3として2010年9月の中国政府の対日レアアース(希土類)輸出停止をも指摘した。
 日本側でも当時、広く報道されたように、中国政府は日本へのレアアース輸出の停止を即時、発表した。日本側が領海侵犯の中国漁船の船長を拘束したことへの報復であることが明白だった。中国当局は自国の船舶に日本にレアアースを運ぶことを禁じたのだった。その一方、他の諸国へのレアアース輸出はそのまま放置した。明らかに標的は日本だったのだ。
 同論文は中国側のこの措置が「日本側を警戒させ、日本政府に中国漁船の船長の釈放を決定させる際の主要な要因となった」と述べている。レアアース禁輸が日本政府の政策を変えさせる効果を発揮したというのである。
 さらに同論文は「レアアース禁輸は中国が国際紛争の自国に有利な解決を求める際に経済的手段を使うことをためらわない証拠だ」とも強調していた。中国は尖閣問題でもこうした威圧経済外交をすでに実行したというのである。
 グレーサー論文は「中国の威圧経済外交の標的はアジア諸国に限らない」と述べて、第4の実例としてノルウェーを挙げていた。中国政府がノーベル平和賞を巡ってノルウェーに露骨な経済圧力を威圧的にかけたというのだった。
 2010年10月、ノルウェーのノーベル賞委員会はノーベル平和賞を中国の民主活動家の劉暁波氏に与えることを発表した。中国政府はこれに対しノーベル賞委員会がノルウェー政府とは別個であるにもかかわらず、ノルウェー政府に同平和賞を劉氏に与えないことを求め続けた。
 同論文によると、その要求が容れられないとみた中国はノルウェー産サケの自国への輸入を新規制の発動で大幅に削減した。その結果、2011年のノルウェーの対中サケ輸出は前年分の60%も減ってしまった。しかも中国政府はノルウェー政府からの輸入手続きについての協議の要請をも拒み続けたというのである。明らかな報復であり、威圧だった。
■中国との経済取引はいつも慎重に
 グレーサー論文が挙げた以上の4事例のうち3例はいずれも領有権紛争での経済手段の利用だった。中国政府は、政治や安保面、特に領有権問題で他国の政策や態度を自国の主張を利する方向へ変えさせるために経済手段を威嚇的に使うことを恒常的に実行しているのである。つまり「威圧経済外交」なのだ。
 中国は貿易でも援助でも投資でも、経済面でのグローバルな活動を急速に広めている。その種の活動を本来、経済とはまったく無関係の領有権や政治的な紛争での相手国攻撃の手段として平然と使うというわけだ。となると、中国との経済取引はいつも慎重に、ということとなる。尖閣諸島の領有権を中国側から不当にされた日本は、特にその中国側の経済ミサイルに注意しなければならないのである。
<筆者プロフィール>
古森 義久 Yoshihisa Komori
 産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・論説委員。1963年慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞入社。72年から南ベトナムのサイゴン特派員。75年サイゴン支局長。76年ワシントン特派員。81年米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。83年毎日新聞東京本社政治部編集委員。87年毎日新聞を退社して産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長などを経て、2001年から現職。2010年より国際教養大学客員教授を兼務。『日中再考』『オバマ大統領と日本沈没』『アメリカはなぜ日本を助けるのか』『「中国の正体」を暴く』など著書多数。
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中国 増長する威圧経済外交~南シナ海紛争/「永遠の摩擦」覚悟を~東シナ海の尖閣諸島 古森義久 2012-08-11 | 国際/中国 
  ワシントン・古森義久 中国、増長する威圧経済外交
 産経ニュース2012.8.11 07:47[緯度経度]
 中国が経済パワーを他国に対し安全保障や政治の目的に威嚇的に使う「威圧経済外交」への警告が、米国側から発せられるようになった。今後の国際関係でも新たな震源となりそうな中国のこの戦略はすでに日本をも経済のムチの標的にしたという。
 米側の識者がこの中国の「威圧経済外交」の最新かつ最大の実例として指摘するのは、先月の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で議長国カンボジアが中国からの圧力で同会議の共同声明を葬ってしまったケースである。
 ワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員で中国の戦略や外交の専門家ボニー・グレーサー氏が「中国の威圧的な経済外交=懸念すべき新傾向」と題する最新論文で警告を発した。同氏は1990年代以来、歴代政権で国防総省や国務省の対中政策の顧問を務めたベテランの女性研究者である。
 同論文は中国がこの10年、総額100億ドル以上、昨年度だけでも米国の援助の10倍を超える額の経済援助をカンボジアに与え、今回のASEAN外相会議の舞台となったプノンペンの「平和宮殿」の建設資金をも提供したことを記し、「中国はカンボジアのこの対中経済依存を利用して、ASEAN外相会議では共同声明に南シナ海に触れる記述を一切、含めないようにすることを強く要請し、カンボジアはそれを実行した。その結果、同会議は発足以来45年間、初の共同声明なしとなった」と総括していた。
 同論文は中国の威圧経済外交の対象としてさらにフィリピンを挙げる。フィリピンは今年4月、南シナ海の中沙諸島スカボロー礁の領有権をめぐり中国と対立。両国が同礁海域に艦艇を送りこんだが、フィリピン政府が6月にすべての艦艇を同海域から引き揚げたのと対照的に、中国は数隻を残した。その背景には中国政府がフィリピンからのバナナ、マンゴーなどの果物の輸入の検疫措置を異常に厳しくし、中国人観光客のフィリピン訪問を禁止したことでフィリピン側の経済が大きな打撃を受け、財界が自国政府に領有権問題での中国への譲歩を訴える経緯があったという。
 グレーサー氏の論文は同様の事例として2010年9月の中国政府の対日レアアース(希土類)輸出停止をも指摘した。尖閣諸島海域への中国船侵入に端を発した日中衝突で中国側は経済手段を使って、日本側の政策を変えさせるという政治目的を図ったというのだ。
 同論文がさらに強調したのは、中国がノーベル平和賞をめぐってノルウェーに露骨な経済圧力をかけたことだった。同年10月、中国はノーベル賞委員会がノルウェー政府とは別個であるにもかかわらず、同政府に同平和賞を中国の民主活動家の劉暁波氏に与えないことを求め続けた。その要求がいれられないとみた中国はノルウェー産サケの自国への輸入を新規制の発動で大幅に削減した。その結果、翌年のノルウェーの対中サケ輸出は60%も減ってしまったという。
 こういう事例はみな中国政府が政治や安保面で他国の政策を自国の主張に沿って変えることを求めるために、経済手段を威嚇的に使うという威圧経済外交を明確にしている。中国は貿易でも援助でも投資でも、経済面でのグローバルな活動を急速に広めている。その種の活動を本来、経済とはまったく無関係の領有権や政治的な紛争での相手国攻撃の手段として平然と使うというわけだ。となると、中国との経済取引はいつも慎重に、ということとなる。
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ワシントン・古森義久 「永遠の摩擦」覚悟を
産経ニュース2012.7.14 15:14[緯度経度]
 「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの。南シナ海での領有権問題を扱うのに、公正な態度だといえますか」
 こんな発言がフィリピン外務省の海洋問題担当代表のヘンリー・ベンスルト氏から出た。6月末のワシントンでの「南シナ海での海洋安全保障」と題する国際会議だった。主催は米側の大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」である。この会議の特色は南シナ海で中国の領有権拡大の標的となった諸国の代表の発言だった。中国の海洋戦略攻勢が国際的懸念を高める表れである。
 同じ会議でベトナム外交学院のダン・ディン・クイ院長も発言した。
 「中国は結局は南シナ海全体を自国の湖にしようというのです。南シナ海紛争はその産物なのです」
 フィリピンが主権を宣言する南シナ海の中沙諸島スカボロー礁の領有権を主張する中国は最近、艦艇を送ってフィリピン側を撃退した。この環礁はフィリピンの主島ルソンから250キロだが、中国本土からは1350キロの海上にある。ベンスルト氏の言もこの落差を踏まえての中国批判だった。
 ベトナムは実効統治してきた西沙諸島から1974年1月に中国海軍の奇襲で撃退された。当時の南ベトナムの政権が米軍の離脱で最も弱くなった時期だった。クイ氏もそんな歴史を踏まえると中国の南シナ海制覇は自国の海よりも湖に、と評したくなるのだろう。
 中国の海洋攻勢はプノンペンでの東南アジア諸国連合(ASEAN)主体の一連の国際会議でも主題となった。日本にとっても尖閣諸島の日本領海への中国漁業監視船の侵入は大きな挑戦となった。この監視船は米側では中国当局が準軍事任務の先兵とする「5匹のドラゴン」のひとつとされる。
 こうした膨張を続ける中国に対し日本側では尖閣の実効支配を明確にする措置に反対する声も聞かれる。朝日新聞は東京都の購入に反対し、なにもせず、もっぱら「中国との緊張を和らげる」ことを求める。外務省元国際情報局長の「尖閣は日本固有の領土という主張を撤回せよ」という意見までを喧伝(けんでん)する。
 しかし「中国を刺激するな」的なこの種の主張は中国側の尖閣奪取への意欲を増長するだけである。この種の融和は尖閣が日本領であることを曖昧にするのが主眼だから、それだけ中国の主張に火をつける。そもそも緊張の緩和や融和を求めても、中国側の専横な領有権拡大を招くだけとなる現実は南シナ海の実例で証明ずみなのだ。
 米国海軍大学校の「中国海洋研究所」のピーター・ダットン所長は中国の海洋戦略の特徴として「領有権主張では国際的な秩序や合意に背を向け、勝つか負けるかの姿勢を保ち、他国との協調や妥協を認めません」と指摘した。「中国は自国の歴史と国内法をまず主権主張の基盤とし、後から対外的にも根拠があるかのような一方的宣言にしていく」のだともいう。だから相手国は中国に完全に屈するか、「永遠の摩擦」を覚悟するか、しかないとも明言する。
 ダットン氏はそのうえで次のように述べた。
 「中国が東シナ海の尖閣諸島に対してはまだ南シナ海でのような攻勢的、攻撃的な態度をとっていないのは、紛争相手の日本が東南アジア諸国よりも強い立場にあるからです。同盟国の米国に支援された軍事能力の高さや尖閣領有権の主張の論拠の強さには南シナ海でのような軍事行動や威嚇行動に出ても有利な立場には立てないと判断しているといえます」
 だが中国は現在の力関係が自国に有利になれば、果敢な攻勢を辞さないということだろう。となると、日本側のあるべき対応も自然と明白になってくる。
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“理不尽”中国とどう向き合うべきか 南シナ海・中沙諸島スカボロー礁/フィリピン特命大使を直撃 2012-08-02 | 国際/中国
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南沙諸島:中国の基地化進む/ミスチーフ環礁に建造した「軍事拠点」 2012-08-02 | 国際/中国 

       

 南沙諸島:中国の基地化進む…フィリピンが写真公開
 毎日新聞 2012年08月02日 09時53分(最終更新 08月02日 10時14分)
【バンコク岩佐淳士】海上に浮かぶコンクリート製の構造物。上には3階建ての建物などが見える。7月中旬にフィリピン海軍が撮影したこの写真は、中国が95年、南シナ海・南沙諸島(英語名スプラトリー諸島)のミスチーフ環礁に建造した「軍事拠点」だ。最近新設されたとみられる風力発電装置やヘリポートらしき施設も確認され、中国が実効支配を進めている様子が分かるという。
 ミスチーフ環礁は、中国やフィリピンなどが領有権を争う南沙諸島のほぼ中央に位置。フィリピン側は自国の排他的経済水域(EEZ)内だと主張するが、中国はこの「拠点」を建設以降、周辺に艦船を常駐させている。
 フィリピン海軍関係者によると、中国は南沙諸島にこのほか数カ所の「軍事拠点」を建設。ミスチーフ環礁のこの建造物は最大で「中国側は基地をどんどん建て増している」という。
 南沙諸島では今年に入り、中国のレーダー施設とみられるドーム型の構造物も確認されている。
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尖閣のみならず沖縄までも 領有権を主張する中国の領土観念 2012-08-07 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉 
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