「透析中止」九州でも葛藤「家族で納得して見送れた」「弱者切り捨ての懸念は」“患者意思”判断難しく

2019-03-17 | Life 死と隣合わせ

「透析中止」九州でも葛藤 「家族で納得して見送れた」「弱者切り捨ての懸念は」 “患者意思”判断難しく
 西日本新聞 2019年03月17日 06時00分
 東京の公立福生(ふっさ)病院での人工透析中止を巡る問題では、患者の意思確認の在り方や医師の判断の適正さなどが疑問視されている。透析中止に際し、多くの医療機関が学会の提言をよりどころにしているが、詳細に規定したものではなく、現場の判断に委ねられる部分も。患者の意思を尊重しようと中止の選択肢を示す病院があれば、「本当の意思なのか」「弱者切り捨てにつながる」と慎重な意見もあり、九州の現場も揺れている。
 「中止には納得しています。家族みんなで見送りました」と話すのは、1年半前に80代の父親をみとった長崎市の女性(55)。慢性腎不全の父は2年ほど透析し、がんの転移もあった。痛みに苦しみながら、週3日の透析に通うのは負担で「もうきついかな」と感じる一方、「少しでも長く生きてほしい」と、気持ちは揺れた。最終的に「(終末期は)痛みさえ取ってくれれば、透析はしなくていい」という父の考えを尊重し、透析中止を申し出た。
 父親が人工透析を受けていたのは長崎腎病院(同市)。同病院によると、2018年までの約10年間で本人や家族の意思に基づく透析中止が9例、そもそも透析をしない非導入が5例あった。大半が70代以上でがんや重度の認知症の患者。中止の場合は10日前後で亡くなった。
 日本透析医学会の提言は中止について「患者の全身状況が極めて不良で、意思が明示されている場合などに検討する」とする。同病院の船越哲理事長(65)は「最も重視するのが、本当に本人や家族の意思なのかという点。福生病院のケースは、この点がないがしろにされていたようで驚いている」と話す。
 患者が「透析をやめようかな」と訴えるのは珍しいことではない。「つらさを分かって」というSOSであることも多く、じっくり話を聞く。意思が固ければ、担当医や精神科医、僧侶などで構成する倫理委員会で検討。本人が抑うつ状態だったり、家族の精神状態が悪いと判断されたりすれば、中止は見送る。
 週3回透析を受ける男性(83)は、死期を延ばすためだけの透析は中止してほしいと医師や家族に伝えており、「どういう選択肢があるか知った上で選ぶのは患者の権利」と捉える。福岡県透析医会の金井英俊会長は「患者の気持ちは変わることもある。本人と家族、医療者が意思決定を共有する過程を大事にしないといけない」と強調する。
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 「『患者本人の意思』といっても、実際は家族や社会に迷惑を掛けたくないとの思いから、透析中止を選んでいるのではないか」。「尊厳死法いらない連絡会」(大阪市)代表の冠木克彦弁護士は懸念する。
 透析患者1人当たりの医療費は年間約500万円とされ、多くは公的医療保険から賄われる。終末期医療の見直しが医療費削減の文脈で語られる面もある。冠木弁護士は「(中止の提案は)弱者切り捨ての考えにつながり、透析だけでなく人工呼吸器、胃ろうなどの延命治療を受けている人たちの生存を脅かす恐れがある」と疑問視する。
 福岡県内の40代の腎臓内科医も「透析中止という選択もあると伝えはするが、継続と同列には示さない。命の限界を医療者が決めたくはないから」と明かす。勤める病院で透析中止はこの四十数年で2例だけだという。
 終末期に人工透析を含む延命治療を中止する際、判断基準となる厚生労働省や各医学会の指針や提言に法的拘束力はない。逸脱した事例が生じる恐れがある一方、終末期の定義などあいまいな点も多く、解釈を巡って医師が責任を追及される可能性も否定できない。
 終末期医療に携わる60代の臨床心理士は「より具体的な基準があれば重い決断を迫られる医療者の負担軽減につながる。(福生病院の問題を受けて)医療現場が萎縮し、透析中止などの延命治療に関する選択肢を示せなくなり、終末期医療を巡る議論が後退してしまうのが一番良くない」と指摘した。
 =2019/03/17付 西日本新聞朝刊=

 ◎上記事は[西日本新聞]からの転載・引用です
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◇ 透析中止、院長が容認 「どういう状況下でも命を永らえることが倫理的に正しいのかを考えるきっかけにしてほしい」2019/3/10
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透析患者の僕だから言える「透析中止事件」の罪 竹井善昭 2019/3/14
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