【毒物カレー事件】 弁護人の話=最高裁判決は不当で著しく正義に反する。

2009-04-22 | 死刑/重刑/生命犯

毒カレー事件―死刑判決と残された宿題
 朝日新聞 社説 2009/04/22
 11年前、和歌山市内の自治会の夏祭りでカレーを食べた住民4人が死亡し、63人が急性中毒になった。この事件で、カレーにヒ素を混入したとして殺人の罪などで起訴された林真須美被告の死刑が、最高裁で確定する。
 「被告が犯人であることは、合理的な疑いを差し挟む余地のないほどに証明されている。被告は犯行を全面的に否認して反省しておらず、その刑事責任は極めて重い」
 最高裁の判決は明解だった。しかし、事件が起きて以来ここに至るまでの道のりは長かった。
 林被告は当初は黙秘し、のちに無罪を主張した。ところが、犯行を直接証明する証拠はない。検察側は、犯行に使われたヒ素の鑑定書や住民らの目撃証言など約1700点の状況証拠を積み上げた。
 最高裁は、混入されたものと同じ特徴のヒ素が被告の自宅から見つかったことや、被告の頭髪からも高濃度のヒ素が検出されたこと、被告が鍋のふたをあけるところを目撃されたことなどを総合して結論を導いた。
 同じ第三小法廷は先週、検察の立証に合理的な疑いがあるときは無罪を言い渡すという原則を適用し、痴漢事件で逆転無罪を言い渡したばかりだ。
 痴漢事件は3人の判事の多数意見だったが、今回は全員一致だ。弁護側は再審請求を申し立てる方針だが、一、二審に続いて最高裁までもが、同じ証拠で同じ結論に至ったことは重い。
 未解明に終わった犯行の動機は、有罪の認定を左右しないと最高裁は判断した。だが遺族や被害者には、何のために被害にあったのか、今にしてもわからない。もどかしさが残る。
 来月から始まる裁判員制度へ向けても宿題が残った。
 被告が否認し、直接証拠もない事件では、法廷で証拠を徹底的に吟味する必要があり、長期化は避けられない。今回の一審では90回以上の公判が開かれ、判決までに3年を超えた。
 私生活を後回しにして参加する裁判員は、そんな長期の審理に耐えられるだろうか。
 審理が拙速に走って被告・弁護側が十分準備できないような事態は論外だが、裁判官、検察官、弁護士には、公判前整理手続きで、公判の極端な長期化を避ける道をさぐってほしい。
 この裁判の下級審では、逮捕前の林被告をインタビューしたテレビ映像のビデオが証拠として採用された。
 取材結果は報道目的以外には使わないのがジャーナリズムの鉄則だ。取材を受けた結果が、自らの訴追に利用されるのなら、取材に応じる人はいなくなる恐れがある。
 それは報道の自由への大きな障害になり、結果的に国民の知る権利が損なわれる。これもまた事件の宿題だ。

 ◎上記事は[朝日新聞]からの転載・引用です
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【毒物カレー事件】真須美被告弁護士「不当で正義に反する」
産経ニュース2009.4.21 17:17
 林真須美被告弁護人の話 「最高裁判決は不当で著しく正義に反する。被告には動機がなく、ヒ素混入場面の目撃者もいない。混入できる可能性は被告だけではない。犯人とするには多くの疑問があり、この程度の証拠で有罪を認定し、死刑にするのは無罪推定の原則と証拠裁判主義の原則に反し、あまりにひどい。ほかのくず湯事件をはじめとする毒物混入事件についても同じだ。事件は異常なマスコミ報道に突き動かされて、捜査機関が無理やり被告を犯人に結び付けたもの。再審に取り組み、無実を証明したいと願っている。弁護人もその任を果たす決意だ」
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【毒物カレー事件】明らかにならなかった動機 「裁判員」に重い課題
産経ニュース2009.4.21/21:40
 和歌山の毒物カレー事件で殺人などの罪に問われた林真須美被告(47)に対する21日の上告審判決は、1、2審に続き状況証拠の総合評価によって被告の犯行と認定した。だが、1、2審が「解明できなかった」とした犯行動機は、明らかにならないまま。5月21日にスタートする裁判員制度では、裁判員の負担を軽減するさまざまな措置がとられており、判決が必ずしも事件の全容解明にはつながらないことも予想されそうだ。
 「本件ではカレー事件のみならず、それ以外の事案においても直接証拠はなく、まさに複雑に重なり合い相互に影響しあう多数の状況証拠からの認定のあり方が問われた事案であった」
 平成14年12月の1審判決。600ページに迫る分量となった判決要旨の序章に、和歌山地裁はこう記した。
 状況証拠による有罪立証をめぐっては、法曹界には「直接証拠がある場合よりも高いレベルの立証が必要」との見解もあった。しかし最高裁は平成19年10月、殺人未遂などの罪に問われた被告に対する決定で、「必要な立証レベルに差はなく、合理的な疑いを差し挟む余地がない程度の立証で十分」との初判断を示し、こうした見解を明快に否定した。
 今回の上告審判決も「(状況証拠を総合することによって)合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されている」として1、2審の事実認定に誤りはないと判断した。
 しかし、そうした立証のために1審で取り調べられた証人は100人、物証は1200点。審理の迅速化を図るため、月1回の「五月雨式」が標準だった当時としては異例の月平均3回の公判開廷や終日審理が行われたが、それでも初公判から判決までに3年7カ月を要した。
 こうした事態を避けるため、裁判員裁判では公判前整理手続きで事前に争点や証拠を整理し、公判では犯罪事実に関係する重要な争点のみに絞って審理。また、19年5月には「部分判決制度」を加えた改正裁判員法が成立し、真須美被告のように被告が複数の事件で起訴された場合、事件ごとに選ばれた裁判員が分割して審理にあたることが可能になった。
 それでも真須美被告の弁護人は「カレー事件は、裁判員裁判ではおよそ無理なほど大規模な事件。いくら整理しても整理しきれない論点が残る」と指摘。「まもなくスタートする裁判員裁判にとって、それがいかにたいへんかということを考える材料になるのではないか」としている。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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3 コメント

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Unknown (世論)
2009-04-22 17:28:55
動機がわからぬままの死刑判決…裁判員は一審だけですが、自分ならどうするか考えさせられました。
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素朴すぎる疑問ですが (小百合)
2009-05-09 02:00:46
裁判員制度導入にあたり、疑問ですが、判決が下される間の全公判に参加できるのでしょうか?
例えば、判決を下すのに裁判員が疑問に感じる点を調査して頂く事もできるのでしょうか?
カレー毒物混入事件のように、最高裁でも死刑判決が下されましたが、無罪を主張している被告人をみると、判断に迷います。判決に関わるなら、納得いくまで真相が知りたいですね。その辺のところを教えていただければ幸いです。
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Re:素朴すぎる疑問ですが (ゆうこ)
2009-05-10 16:48:52
小百合さん。コメントありがとうございました。

>判決が下される間の全公判に参加できるのでしょうか?
 ・拙HPに部分的ですが、裁判員制度関連のファイルを収録しています。その1ファイルに、次のようなコンテクストがあります。
“ 裁判員または補充裁判員(裁判員欠席の場合に代わって裁判員となる)に選任されると、これまた自分の仕事や予定を犠牲にして公判期日(一回ですむものは少なく、数回、時には数十回に及び、期間も数日から数ヵ月にもなるだろう)に出頭しなければならない。しかも公判の全審理に立ち会い(一日も一刻も欠席はできない)、審理が終われば、裁判員は評議の席で自分の意見を述べ、判決宣告期日にも出頭しなければならない。もっとも裁判員法は若干の辞退事由を定めているが、事由はごく限定的で、しかも事由のあることを裁判官に認めてもらわなければならないから、電話で済まない場合は、半日か1日をつぶして裁判所に出かける必要がある。”
“ 憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定め、同18条後段は「犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と定め、同19条は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定め”ているのに、です。

>納得いくまで真相が知りたいですね
 ・ちょっと難しいのではと思います。拙速を余儀なくされるのではないですか。若しよろしければ、ご覧下さい。http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/saiban-in-menu.htm
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