検証・裁判員制度:判決100件を超えて/4 守秘義務どこまで?

2009-12-22 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴
検証・裁判員制度:判決100件を超えて/4 守秘義務どこまで?
 ◇「量刑の賛否」×「務めた感想」○ 基準不明確、不安やとまどい
 「妥当な量刑と思う」。裁判員の記者会見終了後、岡山地裁の職員は、この発言を問題視した。「守秘義務違反の恐れがある」。4日、強盗致傷罪などで被告に懲役5年(求刑・懲役7年)を言い渡した後の発言。しかし、報道陣の反論を受け最終的に地裁側は指摘を撤回した。
 「(結論は)思っていた結果。意見と思いが通じた」。横浜地裁では、記者会見で出た裁判員の発言に、地裁が反応し「守秘義務違反。報道しないで」と記者側に伝えた。従わなかった報道機関には「抗議」した。
 裁判員法は、判決の事実認定への賛否や量刑への賛否を述べた場合に守秘義務違反として罰則を科すと定める。一方で「裁判員を務めた感想を話すことは問題ない」というのが、法務省や最高裁の見解だ。
 「被告の手錠姿は量刑に影響したか」(10月22日、甲府地裁)、「保護観察を付けようと思った気持ちは」(9月9日、山口地裁)。地裁職員がこれらの質問に対する裁判員の回答について守秘義務違反の恐れを指摘したが、後に撤回した。
 記者側と裁判所の合意で、裁判員の記者会見には各地裁の総務課長らが立ち会い、守秘義務違反に当たると考えた発言を指摘する。その見解に統一性は見えない。だが、最高裁幹部は「各地裁の指摘は、いずれも間違っていない」と断言する。
    ◇
 裁判所関係者は守秘義務の判断について法務省刑事局が出した解説を参考にしている。それには「議題にされた事項や審議の順序」「自分が述べた意見を明らかにすることも含む」などとしか記されていない。国会は裁判員法成立時に「守秘義務の範囲を明確にすべきだ」と付帯決議したが実現されなかった。
 どこまで話すと違反になるのか。関東地方で裁判員を務めた女性は「裁判員から地裁に『これに答えると守秘義務違反ということがあったら止めてもらえませんか』と要請した」と明かす。最高裁関係者によると、地裁職員の立ち会いがあるため会見出席を了承する裁判員が多いという。
 東京地裁は「ケース・バイ・ケースで、個々の発言を判断していくしかない」との立場だ。各地裁の担当者による意見交換の場はある。「現段階で地裁ごとに差があるのは仕方ない。積み重ねが必要で将来的には基準ができていく」
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 「守秘義務を解除しなければ制度の検証などあり得ない」。11月、東京都内であった弁護士の集会では改善を求める声が相次いだ。評議内容が一定程度明らかにならなければ、市民感覚が判決にどう反映されているのか分からないという主張だ。制度の検討時からこうした意見は根強い。
 ベテラン裁判官はこう反論する。「評議では思いつきでいいからさまざまな意見を出すことが必要。死刑や無罪になるような事件で思いつきのような発言が公になったら、被告はどう思うだろうか」
 裁判員たちの不安やとまどいが解消されなければ、経験を語る意欲を失わせかねない。関東地方で裁判員を務めた女性は声をひそめた。「裁判員になったことを言うのはやめようと思っている。余計なことを言わないように」=つづく
 ◇法律では罰則も規定
 裁判員法は守秘義務について「裁判員は評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」とし、懲役6月以下か罰金50万円以下の罰則を定める。守秘義務は一生課される。評議の秘密について「経過」「裁判官及び裁判員の意見とその多少の数」と定義するほか、罰則規定で「認定すべきだと考える事実や量定すべきだと考える刑」「判決への当否」を述べることを禁止している。最高裁は守秘義務の対象として、評議の秘密以外に関係者のプライバシーや裁判員の名前を挙げている。毎日新聞2009年12月22日 東京朝刊

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