開けろ！

銭湯でホモっぽいじじいとおっさんがケンカしていた。
大浴場の窓を閉めたら、上がるとき開けて出ろ
と注意したホモじじいに、注意されたおっさんがキレた。
暑い日の換気にと、大浴場の窓は開けてある。
おっさんは多分、閉めて入りたいのだろう。
開いてた窓を閉めて湯を楽しみ、そのまま上がった。
それを見ていたホモじじいが怒った。
開けたら閉める！じゃないがまさにそんな感じで
閉めたら開けろ！まったく逆を注意したのだ。
ややこしい。僕はふたりがなに言ってんだかはじめの方理解に苦しんだもの。

おっさんは比較的若い。
40歳の僕と同じくらい。
通い慣れたるこの銭湯ではじめてみる顔である。
が、慣れたそぶりから
多分よく来ているがいつもは時間帯が違うんだろうなと想像できる。
ホモじじいは常連。よく見る。ふんどしをはいている。
脱衣室の滞在時間が長い。他人の裸体をジロジロみているのだ。
風呂上がりに大量のスプレーを全身に噴射し、香水をふりまく。
香りがちょー苦手な僕にとって敵でしかないじじいだ。

ホモじじい、窓閉められて暑いのやだったんだろうね。
いや、そうじゃない。自分の理屈外のことをするやつが気に入らないのだ。
注意するならするでいいと思う。
いろんな常識をすりあわせる場ってなも公衆浴場のよいところだ。
ただホモじじい、いかんせん言い方がいけない。
「お兄さん、風呂場の窓閉めた？
ほら、最近暑いじゃん？
多分風呂屋が配慮して開けてくれてたんだと思うんだ。
開いてた窓、閉めたらさ
ほら、一応さ、また開けて出てあげようぜ」
みたいに笑顔で言えばいいとこを
「おい！おめぇ窓閉めたろう！
閉めたら開けろよ！分かったか？おい！」ときた。
言い方が悪い。けんか売ってる。
そりゃ言われた側はムッともするわな。
おっさん完全にスイッチ入ってしまう。

「は？なに？」
「閉めたら開けろっつってんだ！ツンボか？ボケ！」
「は？」
「教えてやってんだよ！
窓、開いてたろ？お前閉めたろ？
ここはお前んちの風呂じゃないだろ！みんなの風呂だろ！
だから勝手に閉めた窓は、お前が出るとき開けるのが常識だろ！」

開ける、閉める、益々ややこしくなりつつ
ふたりの大人はただならぬ雰囲気。
ここでおっさんがたまらずキレた。
「おい！あんたはここの店主か!?」
ひるまずホモじじい
「客だ！」
なにこのやり取り、コントか！
「おめぇ、言う事聞かずにイキガってたらヤっちまうぞ」
ホモじじい！なんと物騒なこと言うの!?
言われたおっさんぶちギレした。
ふたりは隙間10cm程まで接近し、“ガンたれあっている”。
殴りあいがはじまるんじゃないか!?てくらい一触即発な状況だ。

僕は思う。
これはホモじじいのチャンス到来じゃないか！と。
こんな近くに“男がいるよ”。
しかも先程から言い争いがクローズアップされてるけどほれ、
一連これ、ふたりのおやじは全裸だからね。
怒りにうちふるえるおっさんのおちんちんが怒れば怒るだけふるえているよ。
ホモじじいの目の前には今まさに御馳走がぶらさがっている。
どさくさにまぎれて触りたい放題じゃないか！
今にでもキスしそうなくらい接近した顔面。
キス、しちゃえばいいのに。
そしたらこのくだらない争いが一気に平和に解決するかもしれない。
おちんちんも、もんじゃえばいい。
ホモじじいのパラダイスじゃないか！

しかし、結局ふたりは吠えあい、罵りあうのみ。
やれいいがかりだ、やれ外へ出ろだ、やれぶっとばしてやるだ
殺すだのなんだの、言った、言わない
そんなんが延々と続いた。
途中銭湯のおじさんが仲裁に入るも
ふたりの争いはただただ大人げなく平行線をもって続くだけ。

ホントくだらない。ホントつまらない。
ホモじじい、おっさんをおそっちゃえばいいのに。
脱衣室でやっちゃえばいいのに。
怒り狂うおっさんも、そのうちなんか気持ちよくなっちゃって
もめてたことなんてどーでもよくなる！

そして、ホモじじいは
おっさんのお尻にむかって叫ぶのだ。
「閉めたら開ける！」
「は、はいぃ～！」
おっさん、いいお返事で仲直り。

めけめけ～。

写真。銭湯傘立て。